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6-34 三体の怪物

 場所は変わり、暴走しているスタッフの対処をしている南。向かって来るスタッフ達を次々と気絶させ行く手を阻んでいるが、気の抜けない連戦に彼女の顔に疲労が見えた。


(感染者達の動きが止まらない。まるで引き寄せられるかのように次々こっちに向かって来る。本当に単なる暴走なの?

 いや、そんなことより彼等を止めないと! これ以上、戦いに巻き込ませるわけにはいかない!)


 同時刻、別の廊下で番をしている零名。こちらでも南と同じく、スタッフ達が一方向に向かっているかのように暴れ、これを止めるのに奮闘していた。


「キリがない……暴走にしては、変……」


 同じく別通路の大吾。圧気で一気に押さえつけるも、こちらでも向かって来る人の波は同様だった。


「何人来んねや一体。いつになったら終わんねや?」


 そして騒動の中心になっている広間。怪物に取り込まれていたジネスを救出し、あと一歩というタイミングに現れた二体の怪物。

 幸助は背中を焼けただらせて倒れ、ランも目の前の怪物にさっそく驚かされた。


 先程ランは目の前の肥満気味な怪物に対して竜喰波を放とうとしたのだが、背後に現れた敵に対し咄嗟に振り返って斬撃を飛ばしたはずだった。

 結果的に新手に怪物は斬撃を至近距離から直撃したはずなのだ。にもかかわらず、怪物には一切負傷している様子が見受けられなかったのだ。


(至近距離で結晶の力を受けて耐えただと! 以前会ったエルフ並みの防御力、厄介だな)


 脳裏にココラが浮かびつつ冷や汗が流れるラン。次に彼は前後に警戒は残しつつ、幸助に奇襲したもう一体の怪物に目を向けて観察した。


(三体目。背中から飛び出しているであろう大量の筒型の物体。勇者の世界で戦った兵器獣と同じものか? そう思うと、目の前のコイツの防御もあれを参考にしたのだとすれば……クーラだったかあの赤服。無関係とは考えにくいな。

 だが怪物はユウホウの連中すらもお構いなしに襲っていた。連中とは指揮系統の違う兵器獣なのか?)


 何がともあれ怪物三体。特に後に現れた二体は明らかにラン達を狙っていた。その上幸助は負傷中だ。何とか立ち上がる幸助だが、やはり息は上がっている。


(幸助だからこそ気絶せずに済んだってとこか。前の時といい、コイツ本当に毎度手傷多いな)


 背中に痛みを感じていながら、尚も戦おうとする姿勢の幸助。ランは見かねて彼に声をかけた。


「下がれ幸助! 負傷して剣もないんだ、これ以上は無理がある!」


 ランのこの言葉は方便もある。幸助の底力があれば、この状況も打開できる可能性はあった。ただし、ビルごと破壊するならばだ。

 人口密度の高い狭い空間で幸助がやけくその技を行使すれば、最悪味方全員も巻き込みかねなかったのだ。


 幸助自身もランの懸念については何となくながら察していた。だが今彼がが引けば、広間で戦えるのがラン一人になってしまう。仲間を自ら危機に陥れるような真似は、幸助にはとても出来なかった。


「俺は、大丈夫だ! まだまだやれる!」


 叫んで自分自身に喝を入れる幸助だが、身体の痛みはそれを受け入れる訳ではない。

 ランは言う事を聞かない幸助に一瞬苦い顔を浮かべたが、正面から向かって来たサボテンの怪物の対処に追われ、幸助から距離が離されてしまう。


 幸助も再生途中で動いていない怪物を撃退しようにも、先程彼を奇襲した大砲の怪物が行方を阻み、幸助にピンポイントで砲弾を発射した。


(前のサイクロプスと同じ攻撃。なら捌いてカウンターを畳み込めば!)


 この幸助の算段は甘かった。前回は巨大なサイクロプスを改造した個体だったがため、攻撃も大きくなりその分速度が下がっていた。

 人間サイズの攻撃は速度は比較にならず、眼で捉えるよりも先に腹で爆発していた。


「ガッ!」


 驚く一瞬の間、続けざまに攻撃を受けた幸助。威力は以前より低いものの、連撃で同じ個所を爆発された事で、幸助は防御も回避も出来ずに直撃した。

 それでも立っている幸助だが、意識はほとんど飛んでいる。


「幸助!」


 次に一撃受ければ確実に意識を失いかねない。怪人はそんな幸助にトドメをと追撃を放とうとした。ランは向かおうとするも間に合わない。

 このまま幸助に激突するかに思われた砲弾だったが、突然空中で爆発した。


 攻撃を阻止した現象にランは驚きはせず、何処か悔しそうな表情を浮かべていた。


「ったく、ここでアイツを助けに行ってどうすんだよ」


 爆炎が晴れて見えたのは、ユリが元の姿に戻り、幸助を抱えて後ろに下がっている様子だった。彼女は幸助の身体を引っ張りつつ手を肌に触れ、彼の傷を治癒していく。


「しっかりして幸助君。すぐに傷は治るから!」


 幸助が気絶寸前のところ、声をかけることで何とか意識を保たさせようとするユリ。するとそんな彼女の姿を目にした三体の怪物は、何故か数秒間だけ動きが固まった。


(動きが止まった? ユリが姿を見せたからか? 正体云々はともかく、結晶の件で狙っているのなら、奴らは……)


 ランは次に怒ることを予感し、足を踏み込み飛び出したの。同じタイミング、サボテンの怪物も同じ方向に走り出す。

 距離としては怪物の方がユリに近い。だが怪物の方は直後に足がもつれ、前方に転倒した。下に下げられた怪物の視線には、ランがいつの間にかブレスレットを変形させたトラップが置かれていた。


(数瞬固まっていたら何もしない訳ないだろ。足元注意だ)


 ランはブレスレットを手元に戻しつつ、幸助が戦っていた大砲の怪物がユリに向かって走り出す。


(この二体は、最初の一体が危機になったタイミングに現れた。そしてユリの姿を見た途端にアイツに一目散に狙った。

 明らかにリアルタイムで俺らを見ている司令塔がいる。どこから見ているのか……この混乱の中、監視システムの利用ってのは難しいはずだが……)


 考えこそするランだが、まずは何よりユリを守らなければならないと走る。だがそんな彼の背後から空を切るような音大きなが聞こえて来た。


(接近? 何だこの速度。よければユリに当たりかねない。受けるしかない!)


 ランは身体を反転させてバック走をしつつ、飛んでくる何かに構える。だが物体の正体は見るからに分かったがランの想定外だった。全体が棘だらけの人間の腰回りドほの高さの球体。ボール状に変身したサボテンの怪物そのものだった。


 回転しながらの突進にランはブレスレットを大盾にして受け止めるも、巨体から来る衝撃に体はかなり応えていた。


(クッソ! 思ってよりも重いな)


 突進を受けたままに大砲の怪物の対処にも追われるラン。正直盾から片手を放すのもリスクだったが、ランは迷わず左手を放し銃を召還、大砲の怪物の目に向けて光線を発射した。


(身体は頑丈でも目は別だよな? これで少しはマシになればいいが)


 だがここでも怪物は、すんでに左腕を上げ、向かって来る光線を天井に弾いてしまった。


(意図的に弾いた! やっぱり誰かが見て操作してやがる)


 ならばカプセルの異世界獣を出すかも考えたランだったが、それでは幸助を止めている理由の二の舞になってしまう。

 ランは何か自分の持っているもので使えるものはないかと考え込む中、大砲の怪物はもうユリから見てすぐ近くにまで迫っていた。


「ユリ!」

「全く、アンタは私を心配し過ぎよ」


 ユリはランに少し呆れて声をかけると、抱えている幸助をその場に置いて自分から前に走り出した。大砲の怪物はもちろんこれを迎え撃とうとする。

 怪物は両手の爪を内部から飛び出させてかぎ爪上に変形させ、距離を詰めるユリに腕を伸ばした。


(心臓や頭は狙っていない動き。やっぱり私を仕留める気はないのね。ならその躊躇、存分に利用させてもらうわ)


 ユリは怪人の仕留める気のない攻撃を明確に見極めて回避すると、相手のすぐ傍をすれ違って後方に回った。怪物が身体を反転させようとすると、ユリは相手の行動よりも素早く身を翻し、怪物の攻撃を回避しながら走り続ける。


 最初の怪物の再生が終わり切らない中、サボテンの怪物は大砲の怪物が苦戦しているのを見て加勢しようと変形を解くが、ここでランが立ちはだかる。


「行かせるかよ」


 そして一分も経たない間にユリは大砲の怪物を翻弄して離れてみせた。


「こんなモノかしら」


 大砲の怪物は走るのを止めたユリに再び足を運ぼうとするが、怪物の足はおろか、突然身体が全く動かなくなってしまったのだ。

 怪物は顔色一つ変えないものの、その目にはユリの手元付近から何かが光を反射する物体が見えた。よく見ると、その物体は自分の身体にも巻き付いている事が確認できた。


「透明なワイヤー。引っ張ってもいいけどもう間に合わないわよ」


 怪物はもちろんこれを引きちぎろうとするも、ユリは先に自身のエネルギーを流し込み、技を発動させた。


「幸助君への痛み以上にたっぷり喰らいなさい。<ビート エメラルルド>!」


 流された過剰なエネルギーは、怪物にとって防御出来る方法などなく体に蓄積されていく。ものの数瞬で怪物の身体は内部から膨張していき、背中の砲口の内部から光がこぼれ出した。


「ユリ! お前そんなに力使ったら!」

「私だって戦えるわよ! みんなが頑張っているのに、一人だけ何もしないなんて出来ない!」


 遺跡のいいことを言うユリだが、既に彼女は幸助の回復と怪物への攻撃を連続して行っている。彼女の能力は文字通り身体のエネルギーを消耗している。下手をすればこのまま怪物を倒す前に倒れかねない。


「ユリ、それ以上はいい! 後は俺に任せて下がれ!」

「そう言ってまた輝身(グリッター)を使うんでしょ! そんなことさせない!」


 お互いがお互いの事を思っているが故に起こるすれ違い。それがこの時悪い方向に舵を切った。

 会話の途中、ランは目を疑った。音も聞こえない程の一瞬、ユリの背後に一瞬の間に別の怪物が姿を現したのだ。肥満だった体格が痩せているとはいえ、最初に戦ったあの怪物だ。


「ユリ!」


 ランが叫びユリは反応するも回避行動は間に合わない。ユリは取り込みは避けるも、左腕を爪で切られてしまった。


「クッ!」


 大砲の怪物への攻撃は中断され、ユリを襲った個体はそのまま怪物は詰め寄ろうとするが、怒れるままに飛んで来たランの蹴りに吹き飛ばされた。

 ランは怪物など放置でユリに駆け寄り声をかける。


「ユリ! ユリ大丈夫か!?」

「私は平気よ……でもごめん。結局一体も……」


 ユリが言及する通り、四人は怪物三体に取り囲まれる構図になってしまった。

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