6-33 取り込む、吸収する
警戒対象が一つ減った事で少し負担が減ったものの、ノバァが残していった混乱はそのままだ。
南たちが暴走しているスタッフ達を食い止めている中、自然残っているランと幸助が怪物の対処をする流れになっていた。
「この怪物、俺達がどうにかしないいけないよな」
「まあな。さっきの攻撃で削り取れなかった部分もあるみたいだしな」
先のランの攻撃によって幸助達は解放されたが、まだ複数人の人物が巨体の中に捕らわれている。当然外に見えている分だけではなく、中にもまだいるのだろう。
「俺の耳で何処にどう捕まっているのかは探知出来る。切り崩すから隙を作れ」
「囮って事か? それなら協力して救出した方がはやいだろ? 場所は分からなくとも教えてくれたら」
「その剣で何が切れるんだ?」
「剣?」
ランからの妙な指摘に幸助が手に持っている剣を確認し、彼は衝撃を受けた。彼の愛用する剣はガスマスクと同じく溶かされ、柄から上が消滅していたのだ。
「そんな……」
「お前、自分の格好といいなんも気づいてなかったんだな」
「格好?」
ランの追加の指摘に幸助が続けて自身の服装を見ると、短時間で済んだためか全部ではなかったものの、肩回りや背中、膝下などの衣服が全て溶かされてしまっていた。
「マジか、これ……」
「格好はともかくとしても、剣の使えない今のお前にこいつは相性が悪い。上手いこと動いてチャンスを作ってくれ!」
幸助が剣が壊された事にショックを受けかけていたが、ランからの呼びかけがその気分を吹き飛ばした。
「おい、あれ……」
ランが指摘したのは、目の前の怪物の件だ。つい先ほどランに複数個所切られていたにもかかわらず、その傷が跡も残さず塞がっていく。
「再生能力持ちかよ。救助を考えると厄介だな」
ランが文句を溢すと、再生を終えた怪物が再び二人に襲い掛かって来た。だが動きこそ素早いものの攻撃が単純なパンチしかないため、警戒さえしていれば回避するのはそう難しくなかった。
「回避は出来る。問題は、再生する相手からどうやって吸収されている人を助け出すかだな」
「しかしコイツ、まぜこうまでして人を取り込もうとするんだ? 吸収するにも時間がかかり過ぎている。素早い動きが武器なら重荷になるだけだし、邪魔だろう?」
ランが疑問を浮かべていると、幸助は剣が使えないなら使えないなり戦えると両手を構えた。
(素早いのが厄介なら、拘束して止めてしまえばいい)
幸助はランに注目している怪物に対し『雷輪』を放った。大柄な怪物の身体技は簡単に命中し、拘束に成功する。
「拘束完了。後は切り裂くだけだ!」
幸助の掛け声に距離を詰めるラン。だがここで異変が生じた。怪物は自身の拘束している雷輪を吸収し、身体に取り込んでしまったのだ。
(吸収した。取り込めるのは人間だけじゃないのか?)
相手が取り込めるものが人間だけでない事が分かり、下手な飛び道具が使えなくなった二人。更に厄介な事に次に怪物は瞳を発光させ、文字通り目からビームを発射して来た。
「飛び道具!?」
「このタイミングでかよ!」
咄嗟に二人は反対方向に離れて攻撃を回避するも、ビームが命中した個所は大きく抉れていた。
(さっきまではなかった攻撃。雷輪を吸収して発言したのか?)
(だったらこいつが人を取り込んでた理由は、吸収した人間の異能力を奪うためだったのか)
皮肉にも、目の前で幸助の技が吸収された事で怪物の謎が一つ紐解かれた。続いてランはこの件に、一つ悪い予感が浮かんで来た。
「オイ待て幸助。お前が取り込まれている間、何か技を出してたりしてないか?」
「え? あぁ……息が出来るように、風の魔術で空間を……」
幸助は自分で言っていて顔色が青くなる。するとタイミングよく怪物は二人に向けて両手を伸ばし、触れることもなく二人を吹き飛ばした。
「風圧か!」
「やばい。こいつ時間を置く程強くなるぞ」
ランは武器を変形させ、幸助は技を使って壁にぶつかる衝撃を和らげると、新たに増えた技に警戒しつつ再び攻めた。
「飛び道具は吸収される。直接切る以外に方法はねぇぞ」
「分かってる! でも当てないのなら!」
幸助は怪物のすぐそばの足元に『雷矢』を放ち、大きな声をかけた。
「こっちだ! たっぷり色んな技持ってるぞ!」
視線を向けて来た怪物に幸助は手の上で炎や水を発生させる。力を取り込もうとしている怪物は途端にランから幸助に興味を移し、足早に距離を詰めた。
「やっぱ来た」
怪物は幸助を捕らえようと腕を伸ばし、幸助はこれを回避する。相手を吸収するには直接触れる必要があるようだ。
「こいつにとって俺はご馳走か。上等!」
幸助が一瞬ランに視線を向けると、ランは指でサインを送って指示を出した。以前なら理解できなかった幸助だが、ここでも入間から教えてもらった修行が生きた。
(狭い所に誘導しろ。背中を広げさせてしゃがませろ……了解、隊長!)
幸助は軽く頷いて指示を受け付ける。直後、怪物はふと再びランに目を向けかけたのを発見した幸助は、再び誘導用に雷矢を発射して意識を戻させた。
「お前の相手はこっちだ!」
(さっきは身体を操られて迷惑をかけてしまった。今度はその分、こっちが操る番だ!)
リサート戦で大吾の足を引っ張ってばかりだったこともあり、気合が入る幸助。
怪物は挑発を受けて彼を取り込むため怯ませようとしたのか、もう一度目からビームを発射した。
「飛び道具で牽制して来たか」
幸助は一度前に飛び出してビームを回避すると、怪物は両手を前に出して構えていた。
「次来るか!」
幸助は怪物の次の攻撃を予測し、彼も怪人と同じ構えを取った。予想は的中し、怪物の両腕から風圧が撃ち出され、幸助も同じ技を繰り出して相殺した。
攻撃をさばけて安心しかけたタイミング。怪物は気が緩みかけた幸助に腕を伸ばすも、幸助は寸前に気付いて身を捻った。
(大柄な身体なのに本当に素早い。……って、あれ?)
幸助は近くで改めて見る怪物の姿に違和感を感じた。
「こいつ、さっきより少し痩せてないか?」
幸助の観察眼は当たっていた。怪物の体格はこの広間に現れた時よりも全体的に一回り細くなっていたのだ。先程の幸助の回避が紙一重になったのは、これが原因でもあるのだろう。
(痩せたって事は、体の中に取り込んでいる人が吸収されているってことだよな。急がないと、間に合わなくなる!)
幸助が冷や汗を流した直後、次に怪物が飛ばした拳は見るからに速度が上がっており、気づいてからの回避は既に間に合わない程になっていた。
「やばい!」
幸助は急いで右手を前に出し、先程と同じ風を発生させてどうにか拳を受ける。だが怪物のパンチは速度だけでなくパワーも上がっており、このままでは押し切られそうになっていた。
(力負けしかけてる? まさかこの怪物、吸収した分だけ基礎スペックも上がるっていうのかよ)
このまま受け続けていれば防御を越えられると懸念した幸助は、どうにか姿勢を変えて拳を受け流し、怪物の拳は床に激突。小さい範囲ながら床を陥没させてしまった。
一度下がった幸助は、怪物の人間を取り込む能力への危機感が強まった。もちろん、後方で攻撃の機会を伺っていたランも同様だ。
(速度が上がっているのなら、最悪切りにかかっても反撃される恐れも出来たか。
どうするか……これ以上スペックが上がる前に攻撃するか?)
思考し剣を構えかけるランだったが、幸助は彼を見て一瞬首を横に振った。自分が機会を作るのを待てという事だろう。
ランは幸助のアイコンタクトを受け止めた。
(分かった。だが余裕はないぞ)
(分かってるよ)
幸助は次の攻撃がいつ来るか分からない刹那に考えた。そして彼だからこその方法が一つ思いつく。
幸助の次の行動が決まってすぐ、怪物は再び速度の上がった拳を幸助の胸に振るった。距離も近く、幸助に既に回避できる余裕はない。だが今の彼にはこれがよかった。
「来たな!」
幸助は自分に向かって来た拳を風を発生させずに両手だけで挟む形で力づくで受け止めてようとした。体の力を目いっぱいに使い、でどうにか勢いを和らげている。
(これで動きは止まった。後は!)
幸助はここでわざと自分から仰向けに倒れることで、怪物の態勢を崩し膝を付かせた。
「今だ!」
攻撃と吸収に耐えつつ幸助は大きな声を挙げた。怪物はこの声に表情を変形させて反応するも、気づいた時には既にランが背後に近付いていた。
怪物が反撃に出るにはもう遅く、ランは怪物の背中の肉塊をくり抜くように切り裂いた。
かなり深い位置まで切り裂かれたためか、怪物は苦痛を感じるているようで幸助から手を放す。解放された事に一息つきかけた幸助だが、ここに来てランから指示が来た。
「休んでないで立て。方法は何でもいいからこいつの腹に打撃を入れろ!」
「打撃!? わ、分かった!」
幸助は防御に使っていた風の技を右掌に発生させ、張り手の要領で怪物の腹を攻撃した。
衝撃に体を折り曲げる怪物。すると肉体の欠けた背中側に誰かの左手らしき物体が飛び出して来た。
「ビンゴ。ようやく見つけたぞ」
ランは怪物の肉体が再生するより先に左手を掴み取り、力いっぱい後ろに引いた。すると、怪物の身体に取り込まれていたもう一体の怪物、ヘレティックが飛び出して来たのだ。
解放された途端にヘレティックは姿を元の人間、ジネスのものに戻り、床に倒れた。
「五体満足か、幸助並に頑丈だな」
ヘレティックを引き抜かれた怪物はかなり応えたようで、ここまでの素早さが嘘のように足を止めてしまう。
ランはこれを見逃さず、ヘレティックを放して空いた手に恐竜の世界の結晶を持ち、剣にかざしつつ幸助に声をかけた。
「幸助、こっち来い! 今取り出した奴任せた」
「ええ?」
「いいから来い!」
幸助は振り回される言葉に困惑しかけるも、再度指示を受けて聞き入れ、怪物から離れた。
ランは幸助が範囲外に移動したのを確認し、刃が光る剣を振り上げて構えた。
(真っ二つに切ったところで再生される可能性がある。だったら文字通り、根こそぎ抉り切る!)
ランは算段を決め、怪物が再生しきる前に竜喰波を放とうとした。
だがランは技を放つ直前、突然何かに気が付いて後ろを振り返って剣を振るった。
ランの勘は正しく、彼の背後にはいつのまにか空間がヒビ割れ、全身に棘の生えたサボテンのような怪物が現れていたのだ。
(敵の増援? このタイミングに!)
「ラン!」
ランが突然の主劇を受けた事態に幸助が急ぐと、そんな彼の背中が突然爆発。身体を吹き飛ばされ床に激突した。
「幸助!」
倒れる幸助。その後ろには、背面にいくつもの砲口を生やした別の怪物が現れていた。
「三体目」
突如出現した二体の怪物。形成が完全に向こうに傾いた瞬間だった。




