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6-32 ビルの中の怪物

 南と零名がノバァとの戦いに決着を付けようとしたときに現れた大きなシルエット。破壊された壁の煙が晴れて見たその正体に、三人は揃って驚いた。


 人間の背丈に合わない、あと少しで頭が天井に届いてしまいそうな縦寸に、肥満を超えた横や前方に腐った色の肉がはみ出た異形な体系の怪物。

 だが何よりも三人が驚かされたのは、その大きすぎる身体に何人もの人間の腕や足、頭が生々しく肉から飛び出している事に遭った。


「何、あれ……」

「ゾンビ? いや、ウイルスに感染したスタッフ?」

「ッン!」


 零名は飛び出しているいくつもの肉片の中に、自分の相棒である大吾の頭があったからだ。


「大吾!」

「え、嘘! 大吾君!」

「お、おお……二人共こんな所におったんか。どうかしたか?」

「いや、どうかしているの明らかにそっち! ていうかそんな状況なのに結構余裕そう!」


 南が思わずツッコミを入れてしまう中、隣にいる零名はかなり焦っているように見えた。


「大吾! 何が!」


 零名の心配そうな様子で話しかけると、大吾はこれに鼻に付くような返事をした。


「お? なんや零名。まさか俺がこんな事になって心配しとるんか? 普段あんだけボコスカやっとるくせに、随分不安そうな顔しとるやんけ」


 零名はせっかく心配したというのに、それに煽るような返答をする大吾の態度に腹を立てた零名がクナイを取り出し、大吾に向かって投げつけようとしたところを南が止めた。


「待って待って零名ちゃん! 落ち着いて」


 大吾は冗談はここまでと表情を煽り顔から戻しつつ、二人に現状を説明した。


「資料館で赤服と激突して勝ったと思ったら、いきなり現れたこの怪物に襲われてこの様や。強敵直後に追加で出て来るってほんま厄介やで」

「襲って来た。って、ことは!」


 南に嫌な予感がよぎって直後、巨体の怪物は南たちに目線を向けて足を動かした。察した女性陣三人は左右に分かれて動くと、一種の内に立っていた位置に怪物の張り手が激突した。


「予想より速い! あんなに巨体なのに」

「大吾、捕まった……少し納得……」


 零名が大吾の現状の理由に納得がいきかけたとき、南は次に気になる事を質問した。


「そうだ、幸助君! 一緒にいた幸助君は!?」

「幸助なら、俺のすぐ隣におるで。俺より存在感薄なっとるけど」


 第五が目線で示した先には、彼のものと勘違いされない位置で飛び出ている左腕の存在があった。即ちこれが幸助ということだ。


「ギャアアアアアアアアアァァァァァァァァ! 幸助君!!」

「安心せえ……って訳ではないけど、今んとこ五体満足で無事や。

 何というか、全身を肉の壁で囲まれているような感覚やわ。俺と幸助は自身の技で少し空間を作って耐え取るけど、他はどうか……」


 大吾はそういうが、頭が埋もれている幸助の方はいつ酸欠になってもおかしくない。南と零名はこの瞬間、ノバァよりも優先すべき相手が出来た。


「助けるには、どうすれば」

「赤ずきん方式……腹、掻っ捌く!」

「めっちゃ乱暴!」


 南がまたしてもツッコミを入れる中、ノバァの方もこの怪物の存在には表情に変化はないながら驚いていた。


(この怪物は……ゾンビ? それとも私のウイルスを感染して突然変異した? いや、あるにしても短時間でここまで変貌が大きくなる可能性は低い。何者かが介入して来た? とすると……)


 ノバァが目の前の怪物について頭を回し続けている最中、目に入った物体に頭の回転は停止してしまった。


「あれは」


 ノバァの目に入って来たのは、幸助達と同じように肉塊の中から飛び出した右腕。手には握られた巨大な針が同じく肉塊に突き刺さっている。

 南や零名にはこれが何なのか分からなくて当然だが、ノバァは理解した途端に目を丸くした。


「リサート……取り込まれいた!」


 ノバァは仲間が捕らわれていると知った途端に鎌を構え、真正面から突撃した。


「おいおいおいチョイ待てチョイ待てチョイ待て!」


 リサートのすぐそばに捕らわれている大吾は抵抗も出来ず声を挙げるも、ノバァの足取りは止まらない。大振りな刃物の振りは確実に大吾ごと切り裂く勢いだ。

 当然南と零名はこれをよしとはせず、零名が予備のクナイを出してノバァの鎌を防いだ。力の差でそのまま押し込まれるかに見えたが、零名の背中を南が抑えることで踏ん張った。


「邪魔をするな」

「邪魔する……大吾、切らせない!」


 だがクナイはまたしても溶けていく。このままでは零名にまで伝染しかねなかったが、後方の南が拳圧を飛ばしてノバァを下がらせた。


「おお、南ちゃん、助かったわ」

「間に合ってよかった」


 南が息をつくも、ノバァはリサートを助けるために目つきを変えて再び飛び掛かって来る。

 仲間以外はどうなってもいいと言いたげな威勢。それも毒物付きの刃とあっては、二次被害がどうなるか分かったものではない。


「この人のこと、防がないと」

「同時に、後ろの大吾達も……でも、どうすれば……」


 零名の不安。ノバァの存在はもちろんのことだが。それ以上に幸助達の救出方法についてが大きかった。

 今の彼等は肉塊の中に身体が押し込まれている状態。飛び出している部分以外の身体が今どのようなポーズを取っているのかが分からないのでは、闇雲に怪物の腹を切り裂いても誰かの一部を巻き込みかねない。


「ピンポイント……身体を傷付けずに切る……器用な事……」


 見えもしない人たちの身体を傷付けずに救助する。考えただけでも至難の業だ。

 かといって怪物がわざわざ腹に一体化させているという事は、あのままで置かれているはずがない。しばらくかあるいはすぐにか、吸収されると考えるのが自然だ。


 あまり時間に猶予はない。女性三人がそれぞれで仲間を救出する手立てを考えている最中、聞こえてきた複数人の足音に考えは遮られた。


「足音? まさか」


 南が警戒を強めると、彼女の予想通りに暴徒化したスタッフが複数人、複数の方向から近づいてきていた。怪物の立てる大きな音に誘われてきたのだろう。

 スタッフ達はここでも見境なく暴れて戦い、そして当然南達にも目を付ける。


「アハハハハハ! アハハハ!」


 狂ったように笑い、出血し骨が折れた身体をそのまま走らせる。


(マズい、あの人たちまで来たら!)

(本当に……対処、追いつかない)


 リサート以外に助ける気のないノバァはまだしも、次警隊として一般人も助けたい南と零名にはよりピンチに陥れられた。

 容赦なく近づいて来る足音。判断に迷う間に打つ手がなくなったかに見えた二人。


 だが危機に瀕した二人の耳に、スタッフ達のものとは明らかに違う、混乱せずに真っ直ぐは知る足音が一つ耳に入って来た。


「この足音」

「もしかして!」


 二人の顔色が明るくなる。直後、スタッフ達の後ろから現れた人物は、すれ違いざまに彼等に一撃を当てて気絶させていった。

 白いローブを纏い左肩にぬいぐるみを乗せた青年。遅れていた将星ランだ。手にはバットを持ち、大吾からの情報は伝わっているようで、ユリともども南達のと同じガスマスクを装着している。


「ラン君!」

「ようやく来た」


 広間に到着したランは、巨大な怪物はもちろんの事、複数個所から迫ってきているスタッフ達の存在にも目を配り、来て早々に指示を飛ばした。


「南、お前から見て左の方行け。零名はその反対に。終わり次第後ろの奴を何とかしろ」

「え? ええ?」

「はやく行け。このデカ物とあの女の対処はどうにかしといてやる」


 手早く指示を飛ばすランに南は意見をする。


「でも、あの中には幸助君達が!」

「大吾の頭が飛び出してるので何となく察した。いいから行ってこい!」

「は、はい!」


 気合を引き締められたかのように南は持ち場に向かっていき、零名もランに従った。

 場に残ったランは背後の怪物に一瞬目を向けるも、すぐにノバァに注意を向けた。


「お前は……コクの部隊の奴だったな。ノバァだったか?」

「覚えているようで光栄です。ですが、今私は貴方とおしゃべりをしている時間はないのです。一刻も早く仲間を助けなければ」

「仲間? 背後のデカ物に取り込まれてんのか?」


 ランとノバァが会話をしている最中、怪物は背後から隙だらけに見えるランに素早く襲い掛かって来た。


「ラン! こいつお前を狙っとるぞ!」


 大吾からの注意。しかし怪物の素早い動きには注意を聞いていても間に合わない。しかしランは冷静な様子のまま、身を捻って後方に飛び上がった。

 バットを剣に変形させ、躊躇なく怪物に刃物を入刀するラン。その手つきは直線ではなく、独特な太刀筋で怪物にすれ違っていった。


 怪物はランを吸収できずに回避されたことに腹を立てたのか、振り返ってもう一度ランに襲い掛かった。


「ラン、またコイツ!」

「分かってる。だが時間は稼げるだろ」


 ランが大吾に声をかけた瞬間、怪物はその身からいくつも肉塊のかけらが落ちていき、腹に捕らわれていた幸助達は解放された。

 怪物が痛みを感じるのか叫ぶ中、大吾は無事着地、リサートはノバァが受け止め、幸助は一人地面にぶつかった。


「痛ぁ!」

「受け身くらいとれ.。それに痛がってるほど余裕はねえぞ」


 ランが指摘しつつ目を配るのは、彼から見て後方。人数が足りず対処しきれていないスタッフ達だ。


「とっとと抑えて来い大吾。あと幸助、お前は手でもなんでもいいから口を塞いどけ」

「口?」


 幸助はランに指摘されて、自分の口元のガスマスクが消えている事に気が付いた。すぐに幸助は手で塞ごうとすると、大吾から予備を手渡される。


「道具くらい、複数個持っとかんとあかんで」

「あ、ありがとう」


 ガスマスクを渡してすぐに大吾はスタッフ陣を抑えるために走っていった。残された幸助は戸惑いながらランに問いかける。


「俺は、お前と一緒にその怪物と戦う感じってことでいいのかな? それとも、アイツ等の相手か?」


 幸助は真剣な表情に戻しつつ、リサートを抱えるノバァに目を向ける。お互いに捕らわれている味方が救出された事で、再び対決となる流れと予想したからだ。

 しかしノバァは彼等よりも奥の怪物に目線を向けた。怪物はランに切り裂かれた身体を再生させており、これもまたノバァのウイルスには考えにくい効果だ。


(これは……これ以上この場にいない方がよさそうですね)


 ノバァはリサートの身体を抱えたままブレスレットを操作。自身の背後の空間をヒビ割り、転移していった。


「あれ? 移動した?」

(あの怪物が、連中にとっても想定外の存在だったって事か。結晶は大吾が回収済み。裏切り者の件は聞きたいが……)

「これはこれで、放置するのはマズいな」


 ランは近くにいる怪物が、剣劇の傷を再生しきっている姿を見て警戒を強めた。

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