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6-30 感染源

 時は少し巻き戻り、幸助達と別れた南と零名。彼女達は次第に強力になっていく感染者達を何とか撃退しつつ先へを進んでいた。


「どんどん対峙する人たちが強くなってる。これって」

「感染源……かなり近い……」


 二人が緊張感を強めて走っていくと、いくつかの廊下に繋がる広間が見えてきた。顔だけ出して見た空間の中には、壁際に軽く持たれてブレスレットから表示した立体映像を操作している女性の姿があった。


 女性は建物内の他の人達が揃って理性を失ったように暴れている中、マスクもせずに落ち着いた様子で作業をしている。明らかに異常だ。

 女性が素顔を晒した状態で感染していない理由の候補は二つ。感染しているものの対処法を知っているのか、感染の発生源そのものかだ。


 南と零名が女性に見つからないように近くの物陰に隠れつつ様子を伺うと、広間の女性は突然誰かに話し始めた。


「ええ、それではリサートと合流して帰ります。コクもふらふら歩くのはそのくらいにして、早く帰ってきてくださいね」

(コク!?)


 南は声こそ漏らさなかったが目は大きく丸くした。『コク』、以前吸血鬼の世界や忍者の世界にてラン達三番隊と遭遇し、激戦を繰り広げた人物だ。

 その名を口にし報告するような台詞を吐いていた女性。すなわち彼女はコクの仲間、赤服の特殊部隊『ユウホウ』の一員という事だ。


(あの人、ユウホウの)


 以前遭遇したユウホウの構成員は、コクを除いて全員が人間ベースの兵器獣だった。とすれば目の前にいる彼女も、兵器獣である可能性が高い。

 こうなるとがぜん彼女がこのビル内の騒動を起こした犯人だと予想する。


 以前に遭遇したユウホウのメンバーが全員強敵だったこともあり、二人は出方に迷って物陰で止まったままでいた。

 二人が近づいている様子に気が付いてないであろう相手にどう不意打ちをかけるか。零名はすづに頭を回転させたが、近くにいる南は彼女が考え込んでいるところに水を差すように声をかけてきた。


「零名ちゃん、危ない!」


 零名が声をかけられて我に返ると、直後に南が彼女に飛び掛かって来た。零名がこれに押し倒されて姿勢が下がると、彼女の頭上の位置が何かに切り裂かれた。


「何?」


 驚く零名に南の者とは違う声が耳に入って来た。


「勘がいい事で。避けられなければもう終わっていたのですが」


 声の正体は広間にいた女性だ。彼女は今しがたまで零名の頭が付いていた壁に刃物を突き刺していた。そして刃物の刺さった壁はその切込みを中心に周辺が溶けていき、煙を噴出していた。


「壁が! これも毒物?」


 南はもちろん、零名は当事者になりかけた事でよりこの刃物が当たっていたらどうなっていたのかを想像して恐怖を感じた。

 女性は刃物を引っ込む動作の最中、ふと南の顔が目に入った事で瞼を少し動かした。


「貴方は……将星ランの連れていた」

「僕の事を、知っている?」

「ええ、コクからある程度の概要は。ゴンドラの身柄を手に入れる際に軽く吹っ飛ばしたと」


 南は女性から語られた自分の印象に少し苦い顔を向ける。

 考えてみれば、ランと幸助は以前コクと戦闘した事があるが、南はブルーメと対面した際、直前に出来た迷いのせいでまともに戦う事すら出来なかったのだ。結果この印象、向こうの視点からは仕方ない。


 南は一瞬文句が出かけた顔を真剣なものに戻しつつ、単純な質問を相手に問いかけた。


「貴方は?」

「私は『ノバァ』。ユウホウで副隊長……というなのフォロー担当をしています」


 南の問いかけに何処か愚痴を吐くように答える女性こと『ノバァ』。零名は彼女の態度にほんの少しの苛立ちを感じた。


「お互い……フォローする立場……気が合いそう」


 零名が立ち上がりつつノバァに同情ともとれるような台詞を吐いた。ノバァはこれに乗ったのか続ける。


「ほう、貴方も相棒に振り回されていると?」

「女を見ると、すぐにナンパする……止めるの、面倒」

「フッ、甘いですね。コクは方向音痴で、基本集合場所を言っても到着しません。何なら行った先でトラブルを起こすくらいですので」


 零名とノバァがそれそれの脳裏に悩みの種の姿が浮かび上がる。


「すぐに仕事、さぼる……そのくせ、生意気……」

「自分勝手なんて当然の事。問題はそのせいでこちらの仕事が増える事。今回も本当に……厄介事だからって押し付けてって……」


 一人だけで第三者に取り残されていた南は二人の反論のし合いに緊張とは別の冷や汗を流してしまった。


(不幸自慢のマウント合戦が始まった……二人共不満溜まっているのかな?)


 南の見る中で徐々に言葉と共に額に血管が浮き上がる二人、怒りを強めて目つきが鋭くなる。


「本当……零名、世話をかけている!」

「本当に……毎度こんな面倒事の処理を押し付けて……」

「「腹が立つ!」


 言葉が途切れた直後、零名とノバァは互いに腕を引き、クナイと鎌を力強くぶつけた。閉鎖空間に一瞬金属音が響き渡るも、すぐに零名のクナイは先程の壁同様に溶けていく。


「ナッ!」


 零名は即座にクナイから手を放し後ろに下がると、今しがた持っていたクナイは原型も残らず溶けてしまった。


「以前二番隊の隊長とぶつけ合った際は向こうの異能力の影響か溶かせませんでしたが、貴方は違うようですね」


 零名の目つきが少しバツの悪い様子になる。おそらく忍者の世界にてノバァと入間が激突した際は、入間が忍術で風を纏わせ毒の侵入を防いでいたのだろう。

 だが零名には疾風流の忍術は使えない。彼女にあるのは『二次元化』の異能力だけだ。だがその異能力では、正直なところノバァの相手をするのは厳しいだろう。


 零名が攻め手に欠けていると、ノバァの方が先に口を開いた。


「迂闊に攻めない、良い事です。まあどうにしろ、私には通じませんが」


 ノバァは鎌に息を吹きかけると、鎌の刃に赤紫色の靄がかかる。何か来ると南と零名が身構えると、早速ノバァは零名の方に鎌を振るった。


「<ヴァイラス エッジ>」


 鎌から飛ばされた斬撃に零名は素早く反応し、狭い通路の中で身を捻って回避した。

 次にノバァが攻撃を仕掛けて出来た隙に常時踏み込みをかける二人。だが相手は調子を崩さずに鎌を構えて接近戦を挑もうとしている。


(追撃がない。技一発に消耗が激しいのかな? ならばこの合間に!)

「夕空流格闘術 十式」


 南が攻撃の構えを取り、腕を伸ばそうとする。だが寸前、零名はノバァが回避行動すら取りもしない状態であることを不審に感じ、南の攻撃が当たる前に素早くクナイを飛ばした。

 南はクナイが割り込んできたことに驚いて型を途中で崩し、足を止めてしまう。


「零名ちゃん、何を!」

「南、下がって」


 零名の真剣な目付きでの注意に南が改めてノバァの方を見た。そこで見たのは、ノバァの胸に当たったクナイが彼女に刺さりもせずに溶かされていく様子だった。


「これって」

「そちらの少女は勘が良いようで。上手くいけば即死だったのですが」


 ノバァが少し息を吐くと、彼女の身体に付いている赤い靄が埃のように舞った。


「<ヴァイラス ドレス>。単的に言えば、貴方達が私に打撃を仕掛ければそのまま終わりです」


 南は戦慄した。この瞬間、彼女は目の前にいる相手に自分が最も得意とする格闘術がほとんど通じないことを思い知らされたからだ。

 混乱からなのか、南は再び零名の方に顔を向ける。だが不幸中の幸いなのか、おかげで彼女はある事に気が付いた。


「零名ちゃん、後ろ!」


 南の叫びに零名が振り返ると、先程彼女だ避けたはずの斬撃が方向を反転させて零名に向かって来たのだ。

 南に宣告されたおかげで一足早く気が付いた零名は再び身を捻ってこれを回避しようとする。だがノバァはこれに一言付け加えた。


「回避しても無駄ですよ」


 斬撃は零名の傍を通り過ぎかけたが、彼女から一番近い位置で不自然に勢いが止まり空中で停止した。

 嫌な予感を感じた零名。斬撃はその場で形を変形させ、針状となり零名に突き刺さろうとした。


「ほぼゼロ距離からの変形。これを回避するのは」

「舐め、るな!」


 零名は紙一重のタイミングで自身の身体を平面に変形、常人には不可能な角度に身体を曲げて針を回避した。


「ほお、面白い異能力を持っていますね」


 零名の変形に感心するノバァ。そんな折、戦闘中の三人は揃って同じ奇声が耳に入り込んできた。


「この声!」

「派手に暴れ過ぎましたかね」


 南とノバァが声の方向に目を向けると、暴れている中で倒し切れていなかったスタッフ達が音を聞きつけてやって来てしまったのだ。


「アハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

「敵ッ! てきぃ!! ハハハハ!!」


 零名も一つタイミングが遅れつつもハッキリ聞こえてきた声で何となくの距離を感知した。


「面倒……厄介」

「本当に……仕方ないですね」


 ノバァは零名を襲わせていた斬撃を手足のように動かし、向かって来るスタッフ達に標的を変えて飛ばした。


「何を!」


 回避する思考を持たない今のスタッフ達にこの斬撃を回避することなど出来ず、南の救助も間に合わない間に全員が傷つけられてしまった。

 とはいえかすっただけの傷。普通の斬撃ならばそこまで気にすることもなかった。だが今までのノバァの攻撃から、南はこれから起こる事に悔しさを覚えた。


 その南の予感は当たり、スタッフ達は全員傷口から何かが広がるように肌が紫に変色していき、酷く苦しみ始めて膝から崩れ落ちた。


「アアアァァァァァァァ!! ガアァ!!」


 悲鳴、狂ったように自身の肌を爪でかきむしり、酷い吐血をして見る見る内に全身がグロテスクに犯されていく。

 最早ここまでで見たこの世界のゾンビよりもよっぽど洋画で見るようなゾンビに近い風貌になったスタッフ達は、次々と力を失って倒れてしまった。


「そんな、これって……」

「即死性のウイルス。種を見せた所で変わらないので」


 淡々と言ってのけるノバァ。南は彼女の態度に対して胸の内から強く湧き上がる熱のようなものを感じた。


「ふざけないで……」

「はい?」

「こんなに簡単に人の命を奪って、平然と……」


 南は力いっぱいに拳を握り締め、ノバァに振り返って怒りの形相で彼女に告げた。


「許さない! 貴方は、僕が倒します!」

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