6-14 血と怪物
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『ジネス オルド』は少年時代、父と母と妹『ファンス オルド』の三人と共にマンション住まい。決して裕福とは言えなかったが平和で幸せな生活を送っていた。
母は少々天然なところがあったが、誰にでも分け隔てなく接する明るい性格をしており、その社交性から仕事でも活躍していた。
父は、母と違いどちらかというとあまり人と関わろうとはしてこなかったが、自身の子供たるジネスとファンスに対して常に優しく接し、彼等が何か辛いときにあったときはいつも慰めてくれていた。
そんな二人の事を兄妹はとても慕い、ジネスは両親のような大人に憧れて日々を過ごしていた。
ジネスが十歳になるときまでは……
その日は雷が鳴り響く程の大雨が酷く降り注ぐ日の事。始まりはちょっと特別な幸せな日となるはずだった。
「ママ! お誕生日おめでとう!!」
「皆でプレゼント買ったんだ! これ見てくれ!!」
母が子供二人から渡されたのは、真っ白な美しいワンピース。母は喜んで二人に感動の涙を見せた。
「ありがとう……ジネスもファンスも、こんなに綺麗な服買ってくれて……でも、ほとんどのお金はお父さんが出してくれていたりして」
「それ、言っちゃう……」
「でも気持ちは負けてないから!!」
思わず頬を膨らませて母に抱き着くファンス。そんな娘の行動を愛らしいと感じる母はファンスの頭を撫でてお礼を言った。
「ありがとう……私は幸せよ」
「ママ……」
このまま暖かい談笑が続いていた親子だったが、ふとインターホンが鳴り響いて来た事で母は対応しようと抱き着いて来たファンスを渋々放してモニターを見た。
「は~い!」
モニターの人間はここで宅配便を届けに来た配達員を語り、母はこれに明るい態度で応対して玄関に移動し扉を開けた。
子供たち二人はもちろん母を待っている。ところが次の瞬間遊んでいた二人の耳に雨音をも軽々とかき消す聞き慣れない大きな音が響き、二人の近くに何かが飛び込み壁にぶつかった。
「な、何……」
嵐の前の静けさの様に異様に静まり返る空気。まるで事前に正体を察しているかのように二人は顔に滝のような汗を溢れさせ、飛んで来たものを見ようとする動きがゆっくりになってしまった。
だが雷の音と共に非常な現実は突き付けられてしまう。どうにか目線を向けて二人が見たのは、つい先ほどまで共に遊んでいたはずの母が身体から大量の血を流して虚ろな目をしたまま動かなくなっていた。
「ま……ママ?……ママ!?」
何が起こったのかの理解が追い付かず母に駆け寄るファンス。手が汚れることなど気にも留めずに母の腕に触れ何度も身体をゆする。
「ママ! ママァ!! ママアアァァ!!!」
何度呼びかけても相手からの返答も反応も全くない。受け入れがたい事態に二人が酷く混乱する中で、部屋に飛び込んできたのは二人の父だった。
「ジネス! ファンス! 一体何が!? ッン!!」
彼は子供の次に目に入った自身の家内の姿に絶句してしまう。だが落ち込み絶望するよりも前に玄関先にいた人達に気付いた。機動隊に似た服装の集団。
その人達はすかさず子供たちに銃口を向け、一切の躊躇もなく発砲した。
明確な殺意を持って飛んでくる銃弾。ジネスもファンスも母の事で頭がいっぱいとなりこれに気付いていなかった。動くこともなく銃弾は命中するかに思われたが、次の瞬間に二人は誰かに突き飛ばされた事で事なきを得た。
「何だ!?」
二人が何が起こったのかと後ろを振り返ると、自分達を押して代わりに銃弾を受けたがために大量出血をしていた父親が倒れていた。
「父さん?……」
「パパ?…… パパッ!! パパアァ!!! イヤアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァ!!!!」
母親に続き父親も撃たれた衝撃は凄まじい。まともな思考などもうできるはずもなく叫び出すファンス。ジネスも瞳孔は開いたまま動かなくなり、自分の心音がハッキリと聞こえる程動いているのが分かる。
現れた人達が何者なのか、何故自分達がこんな目に遭わなければならないのか。ただ配達員に扮していた人の隣にいるスーツ姿の人物はそのヒントとなりえるような独り言を呟いていた。
「チッ、大人の男の方は生け捕りにしろと命令したのに……こうなればもういい。残りも始末して片付けろ」
冷たく突き付けられる台詞に従い、機動隊のような人たちは再び銃口を突き付ける。その躊躇のない攻撃が再び飛び出そうとしたその時、ジネスの身体は考えるよりも先に動いていた。
「ファンス!!」
父がそうしたように、ジネスも大切な妹を守ろうと彼女を押し倒した。小さい身体が幸いして飛んで来た銃弾がすべて命中することはなかったが、それでも何発かは背中や腕、足に命中しジネスに人生で味わった事のない苦痛を与えてきた。
「グッ!!……グアアアアアアアアアァァァァァァァァァ!!!!!」
体中が痛い。涙が止まらない。だがそれでもまだ体は動ける。入り口を防がれている中どうにかしてファンスを逃がしたい。その一心で激痛を我慢して身体を動かす。
「ファンス! 大丈夫だ……俺が逃がしてやるから……俺が!!」
「お兄ちゃん……」
恐怖で震えるファンス。ジネスは攻めて彼女の気を少しだけでも良くしようと微笑みかけた。
だがそんなジネスの優しさにも連中は何も感じていなかった。次の瞬間にジネスはもう一発発砲された銃弾に撃たれてその勢いに押される方向に体が倒れた。
「えっ?」
当の本人にも自分の身に何が起こったのか床に広がっていく自分の出血を見るまで気付かなかった。
(あ、俺……)
ジネスが意識したのは出血ではない。親に続いて兄が攻撃され、一人取り残されようとしてる彼の妹の絶望しきった顔の方だった。
「お兄……ちゃん?」
もはや溢れる涙も止まってしまい、受け入れがたい現実に思考が止まっているかのようなファンス。だが思考が否が応でも理解させられていくことに再び涙は溢れていき、彼女の心の奥底からの叫びが噴火のごとく響き渡った。
「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」
ジネスの意識はそこで一瞬か数分か途切れた。不幸中の幸い、まさに幸運な事に彼はそこから割とすぐに意識を回復させたのだが、次に見た光景は機動隊の攻撃以上により信じられないものがあった。
声すら出せない狂気。目の前に広がるのはいくつもの死体。体のいたるところがちぎられ、バラバラにされた機動隊に似た服装の男達。その中心には身体を返り血で赤く染めたダークグリーンの怪人が息を吐きながら立っていた。
「な! 何だよ……何がどうなって!?……」
突然に現れた怪物の存在に騒然となるジネス。恐怖と混乱でどうにかなってしまいそうな壊れかけの精神状態になっていた彼だったが、次に彼の耳に入ってきた声にふと我に返った。
「お兄……ちゃん?」
「……ファンス?」
怪物から聞こえてきた聞き慣れた震えながらも可愛い声。間違いなくジネスの妹、ファンスの声だった。
「お前……なのか?」
「お兄ちゃん……お兄ちゃん!!」
恐怖からか興奮からか同じセリフを声を大きくして繰り返すファンス。浴びた血を垂らしながら一歩一歩ゆっくりと歩く怪物は、ジネスのすぐそばにまで迫っていた。
「ファンス……お前どうして?」
だが二人がどうにか会話が出来る流れになりかけたその時、怪物の背中に命中した銃撃が二人の戻りかけた空気を壊した。ジネスが視線の向きを変えて見たのは、血を流し息を荒くしながら銃を構えていた機動隊員だった。
「この……化け物が!!」
これを始めとして更に倒れていた襲撃犯複数人が立ち上がり、怒りと殺意のままに攻撃を再開しようとする。これを受けた怪物はもはや何も話さなくなり、回れ右をして自分を攻撃する相手の方に足を進めようとした。
「ファンス!!」
ジネスの声も全く届かない。力づくでも妹のために止めなければと動こうとするジネスだったが、彼の意志に反して身体は倒れるばかりで足が少しも動こうとしなかった。
「何で!? なんでだよ!! クソッ……」
大切な妹が怪物となってしまい、自分達を殺そうとした相手に対し一人立ち向かっていく。兄として家族として今すぐ助けに行かなければならないはずなのに動けない。
ジネスは深い悔しさを感じながら意識が薄れていき、妹の背を見る事しか出来ないまま再び意識を失ってしまった。
そしてどのくらい時間が経過したのか。ジネスが次に目を覚ました時には、身体をバラバラにされて惨殺された襲撃犯達の遺体が部屋中に散らばって血の池が出来ていた。だがそんなことはジネスにとってどうでもよかった。
「ファンス……ファンスは!?」
ようやく起き上がることが出来たジネスは、怪我の痛みを忘れてファンスを探そうと駆け出した。
そして玄関を出たジネス。空模様は雷も鳴りやみ雨も上がり切った普通ならば清々しい快晴となっていた。その光に照らされるかのようにジネスは探していた妹、ファンスが重傷を負い意識を失って倒れているのを発見した。
「ファン……ス?……ファンス! ファンス!!」
彼女もジネス以上に自分へのダメージを顧みず動いたのか。ジネスはファンスの身体に触れて何度も声をかけるも、彼女からの返答は一言もなかった。
そこからしばらく時間が経過して警察がやって来た。生き残ったジネスとファンスは病院に運ばれて治療を受ける流れとなり、謎の集団による襲撃事件は幕を閉じた。
不幸中の幸いというべきなのか、ファンスの身体は病院で調べられた結果でも普通の人間のそれと変わりはなく、彼女があの凄惨な現場を生み出された事実は闇に葬られた。
だが病院に入院して数日が経過しても、ファンスは目を覚ますことはなかった。
「ファンス……」
ジネスの心配はもちろんファンスへの事が一番だったが、その彼女を支えるために絶対に必要なものを子供ながら理解していた。
二人は今回の事件によって両親を失い、更に他に親戚もいなかったのだ。頼れる大人がいない。それは今後入院しているファンスを支えるものがいないという事だ。
「……」
ジネスは決意を固めたように顔つきを鋭く変えて立ち上がると、眠るファンスの手を優しく握って声をかけた。
「ファンス……お前が俺が守るよ。例えお前が何者だったとしても……絶対に」
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