6-5 一番隊隊長
ランから聞いた事実に開いた口が塞がらない幸助と南。自分達が出会い、ここまで連れてきた青年の正体への驚きで次々問いかけてしまう。
「この人がユリちゃんのお兄さん!?」
「次警隊一番隊の隊長!?」
「てかじゃあなんでランと戦い出しちゃったの!!?」
「次警隊の隊長同士なのに!!?」
飛び交い続ける質問にスフェーはランに対しての時とは打って変わって紳士的な態度で応対した。
「すまない。西野幸助君。夕空南さん」
「俺達の名前!」
「知ってたんですか!?」
名乗っていないはずの自分達の名前を呼ばれたことに今度は小さいながらもまた驚くコウスケと南。スフェーは一度頭を下げてから続ける。
「君たちの事については次警隊の隊員訳の会議の際に上がっていた。三番隊に入隊希望の隊員は珍しいから。
君達を巻き込んだ上今の今まで正体を隠していた事については謝罪させてくれ。少々、周りに聞かれたくない事情があってね」
「事情?」
ようやく顎が閉じた二人がスフェーの言い分に首を傾げていると、ユリを間に挟むことで制止させられていたランが口を挟んできた。
「そりゃあそうだよな。鉱石の世界を最前線で守っているはずの一番隊隊長様がこんな所にいるんだからな」
「鉱石の世界って、ユリちゃんの出身地の! そうか、一番隊って鉱石の世界を守っているって前に聞いたことがある!」
幸助は次警隊の入隊試験を受けた際に戦った『フルー ウッド』に彼の主観での言い分で聞いたことを思い出す。
『次警隊一番隊』。ユリの故郷であり次警隊の本部が存在する『鉱石の世界』を守る部隊だ。その隊長が今目の前にいるということは、軽く考えてもただ事ではない。
「待って!? そんな人がどうしてこのゾンビの世界にいるの!? それも一人で!!」
南が真っ先に口にした質問。他の三番隊面々は口を閉じたが、全員気になる事は同じだ。
当然スフェー自身もこのことを理解しており、ランには一切視線を向けないものの一呼吸おいてまず一言頼んだ。
「順を追って説明させてくれ」
「手早くしろ」
「ラン」
ようやく事情を話してくれそうなところにまた喧嘩になりかねない台詞を吐いたランに釘をさすように睨みを利かせるユリ。彼女の態度にランが一歩引いたことで事態は沈静化され、スフェーは説明をし始めた。
「事のきっかけは、二人も参加した入隊試験のとき。赤服、星間帝国の刺客が忍者の世界に侵入した際に二番隊の隊員の一人が情報を流していた内通者の存在が発覚し逮捕された。
その情報が隊長間にて詳細に話された直後、一番隊に所属する隊員が一人、突然消息を絶った」
スフェーの説明の最後の台詞に三番隊の全員が顔を動かして反応し、ランが率直なコメントを口にした。
「偶然にしてはどうにも不自然なタイミングだな」
ランの意見に無言で頷くスフェーはランに対しての返事はせずに本題を進める。
「脱走者の名前は『ラウス ゾーム』。すぐに奴の部屋を調べさせたところ、組織内のデバイスを使った通信の痕跡が残っていた。
発信先はすでにもぬけの殻になっていたが、赤服の前線基地の一つとして間違いなかった」
経緯を話している最中のスフェーにランがまたしても割って入ってくる。それも彼の表情は幸助や南がこれまで見てきた中ではかなり険悪なものになっていた。
「一番隊にも内通者がいたって事か。だとするとかなりマズいな」
「マズい?」
幸助の返しに今度はランが一番隊について説明した。
「一番隊は次警隊の要である鉱石の世界を守る部隊。その役職上次警隊上層部の裏事情についてもある程度知らされている。その中で一番マズいのは……」
「もしかして! ユリさんの正体を知っている!?」
自分でいうよりも先に口に出した南にランもスフェーも頷いた。
「全員じゃない。ある程度年数が経過し信用を得て役職を得た隊員のみだが……わざわざお前が動いているあたり、それに当たってしまったって事だろう」
すると続いて幸助がここまで判明したことに関する引っ掛かりを問いかける。
「ちょっと待ってくれ! その情報が本当なら、俺達の入隊試験の時にはユリちゃんの事が敵にバレていたって事でしょ?
裏切り者の隊員がいつからいたのか分からないけど、情報が漏れていたのならなんでコクは吸血鬼の世界でユリちゃんを攫おうとしなかったんだ?」
幸助の問いかけは最もだった。過去にラン達と出会い、敵対したコク達『ユウホウ』の存在。彼等は赤服の特別部隊のはずだが、あの時の様子は明らかにユリの正体には気付いていないように見えた。
「確かにな……入隊試験での侵入沙汰でも、真っ先に罠の場所に飛び込もうとした上にすぐに退却していった。アイツ等は知らされていないのか?」
幸助の言い分に仮説を浮かべようと頭を回転させるランだが、スフェーは現時点で分かっていることに関しての危機感から結論を急ぐように強引に結論を口にした。
「とにかく! 今は知られていないにしろいつ漏らされるかも分からない。もしかすればこれから直接口にする形で漏らすかもしれないからな」
「直接漏らす……これから?」
スフェーの台詞の含みに気付いた南が気になった部分をそのまま口に出すと、スフェーは彼女の問いかけに返事をするようには何故自分がこの場にいるのかの答えを説明した。
「ラウスは今、この世界にいる。そう情報が入った」
スフェーの台詞を受けて幸助と南が目を丸くするが、ランは予想がついていたのかそこまで驚いている様子はなかった。
「それで、お前がそいつをひっとらえに来たって事か」
「……ああ、それも事が事だ。隊内に裏切り者がいた事実が知られれば士気に大きく関わる。だから一時的に隊を副隊長に預け、私は一人でここに来た。
何故奴がここに来たのかは分からないが、捕える大きなチャンスであることに変わりはない」
「まあな」
こんな話を聞いてしまってはランとしても黙ってはいられない。一方で当の狙われている本人であるユリは、視線を俯かせて黙り込んでいた。
一番ユリの近くにいるランは彼女に手を差し伸べようとするも、ランよりも先に動いたスフェーが先に彼女のそばに寄り、優しい声をかけた。
「不安な気持ちなのかマリーナ? 心配することはない。この問題はすぐに私が解決してみせる」
「自分の隊に裏切り者がいた事に気付きもしなかった奴がか?」
スフェーがユリに慰めの言葉をかけている最中に水を差して来たランに睨みつけると、ランの方もスフェーを睨みつけてもう一度近付き、ユリの肩に触れていたスフェーの手を弾いて退かせた。
「だがどうにしろ、そいつを始末しなければならないことには同意だな。お前らどう思う?」
ランが会話をしつつ視線を送ると幸助と南はアイコンタクトを受けて気を引き締め、驚くばかりでほとんど間抜けなようになっていた顔を引き締めた。
「ああ! もちろんやるさ! ユリちゃんのためだ!!」
「僕なんて一度本当に助けられた身だから! ユリさんを助けるのは当然だよ!!」
口にすることでより気合を入れる幸助と南。ランはこれを受けて視線を戻し、スフェーに話を続けた。
「だそうだ……お前一人じゃどうにも不安だからな。俺達もその捜索、手伝わせてもらう」
「何を言い出す! マリーナを危険な目に遭わせるつもりか!!」
「ここから俺達が逃げてそいつを取り逃がす違いになれば、それこそ敵の数が格段に増える。だったらここで見つけて即座に叩いた方が得策だろう」
「だからといってその戦いの場にマリーナを巻き込むなど!!」
「当然ユリは俺が見ている。問題はない」
ハッキリ言ってのけるランの姿勢にスフェーは権幕な顔を向ける。だがしかしスフェーとしてもこの世界でたまたま出会った追加人員がいるならばその助けを受けた方が良い事は分かっていた。
スフェーは視線を一度別方向に向けて悩んだようなそぶりを見せたが、すぐに頭の中での決断を完了させて視線を前に向けた。
「分かった。三番隊にラウス捜索の協力をしてもらいたい」
「あい分かった。引き受ける」
とりあえず協力関係が出来たという事で悶着を止めたランとスフェー。スフェーが足を動かして移動していくとき、ユリは顔を俯かせたままそばにいるランに小声で話しかけた。
「ごめん……私のせいで厄介な事件に巻き込んでしまって……」
正体を隠している自分のせいでラン達がより危険な目に遭おうとしていることにユリは申し訳なく思っていた。しかしランの反応はそこまで深刻ではなかった。
「気にすんな、厄介事なら慣れっこだ」
ユリの何処か悲しそうな暗い台詞に軽く返すラン。ユリが彼の態度に思うところがあって顔を上げると、上げ切る前にランの方がユリの頭に右手を置いて優しく撫でてきた。
「それを言ったら、俺の方がガキの頃からお前に厄介事を押し付けまくってんだ。そのツケの一つを返す当てが出来たってだけの事だ」
「ラン……」
「心配するな。いつも通り、事件を解決してまた旅に出るだけだ」
幸助と南が自分達の元に寄って来たのを確認したランは、二人にユリの近くの位置を入れ替わる形で任せつつスフェーに近付いて話しかけた。
「それでどこを調査するんだ?」
「ん?」
「まさか高々この世界にいるってだけの情報で隊長殿は動かない。ある程度目星はついているんだろ? それは何処だ?」
ランの勘の鋭さに少し顎を上げて反応するスフェー。ここはいがみ合わずにするべきを意識したようで彼は視線は顔を移さないように外しつつも答えてくれた。
「確かに目星はある。もう少し準備を整えて足を踏み入れるところだった」
「ほう。それで肝心の場所は?」
「この年の中でも一際目立つ高層ビルの中。と言えばもう分かるだろうか」
「おい、それって……」
ランに何か悪い予感がよぎる。するとスフェーは少し前に出て周りにいくつもの建造物が見える場所にまで移動すると、右腕を上げてある一つの建物に指を差した。
「あそこだ! あの一際目立つ巨大なビルの中に、奴はいる!!」
「おいおいおいおい……こんな偶然あるか!?」
スフェーが指を差して示したその建造物は、なんとラン達がこのゾンビの世界に転移してきてすぐに入ってしまっていたあのビル。政府直属のゾンビ討伐部隊『RAIDER』の拠点だったのだ。
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