6-3 ジネスとリコル
噴水から離れた所にある広い道。その端にあるベンチに腰掛けている若い女性に詰め寄る二人の大柄な男。彼等は困惑している少女に一方的にナンパの誘いをしていた。
「なあ、こんな所で退屈してるんなら俺達と一緒に遊びに行こうぜぇ」
「い、いや私……待ち合わせをしていて……」
「なんだよ釣れねえなぁ! それにこんな可愛い子待たせる奴なんて放っておいていいだろうが」
周りには何人か人通りがあったものの、皆自分が被害に遭うことを恐れて見なかったことにして去っていく。
そんな中で遠目でたまたま様子を見かけたユリは、他の人達とは真反対に真っ先に向かっていき堂々正面切って叫び渦中に割り込んだ。
「ちょっと待ちなさい! 貴方達!!」
「「あぁ?」」
ナンパの水を差されたことに分かりやすくムカついた顔を向けてくる男二人。ユリは負けじと強気な態度で近付いた。
「その子困ってるでしょ!? ナンパするならほかの子にしなさい!!」
男達は最初勝手な説教を鬱陶しく感じたがユリの容姿を見た途端にすぐに鼻の下を伸ばしたような顔になった。
「へへ! おいおい何だよ、美少女が自分から来やがったぜ」
「自分をほっとらかしにしてほしくなかったのかなぁ? 何なら二人纏めて遊んでやってもいいぜ」
自身の色欲に任せるまま近づいて来たユリの腕を掴もうとした男達。ユリは反撃覚悟でわざと触らせようと構えたが、男が彼女の肌に触れる前に別の腕に掴まれた。
「なんだ!?」
「ったく、早速トラブル起こしやがって」
「ラン!」
ユリが想定以上に素早く追いついたランに驚いていると、男の片割れが彼にイラついてさっそく殴りにかかった。ランはこれをノールックで回避し掴んでいた腕を回して抑えこんだ。
「イタタタタ!! てめえ!!」
「めんどくさいからさっさとどっかいけ。余計なトラブルは勘弁なんだ」
ランの投げやり気味な態度に余計に腹を立てたようで、もう一方の男も怒りのままに殴り掛かって来た。
「てめぇ! 調子乗ってんじゃ!」
「忠告したってのに……」
ランはこの攻撃も紙一重で回避し、がら空きになった男の腹に膝蹴りを入れつつ掴んでいた男を放り投げてぶつけた。
「な、何なんだよこいつ!?」
「クソッ! あっちの女だけ連れて逃げるぞ!!」
「マズい!!」
男二人はユリをさらうのは無理と判断して最初にナンパしていた女性だけを連れて行こうとするが、そんな折に脇から現れた青年が無言で行く手を塞いだ。
「な、何だよお前!?」
「そこ退け! 邪魔だ!!」
「知るか」
どうでもいいとばかりの台詞に逆上した男達が襲い掛かる。だが青年はこれを両手で受け止めると、そのまま腕を振るって男達の肩同士をぶつけ、怯んだところに片割れに回し蹴りを喰らわせてもう片割れを店頭に巻き込ませた。
「アガッ!!」
「な、何なんだよさっきから」
ナンパをしたところで二人続けて攻撃されたことに混乱しかける男二人に青年は口にした。
「何って待ち合わせに来てたら恋人がナンパに遭っているんだ。止めるのが悪いのか?」
青年の冷たい視線を見た男二人は蛇に睨まれたような感覚になり、慌ててこの場から逃げ出していった。
「へ~……無駄のない動きだな」
「良かった。彼氏さん来たんだ」
感心するランとホッとするユリを余所に青年は自身の後ろにいる女性に話しかける。
「怪我はないか?」
「う、うん……ありがとう。ジネス君」
「ならいい。さっきみたいなやつらがまた来るかもだし、移動するか」
「あ、待って!」
ジネスと呼ばれた青年の行動を止める女性。青年が言われるままに足を止めると、女性はランとユリの方に走り、感謝の思いを顔に出しながらユリの手を握り締めて頭を下げた。
「さっきは、ありがとうございます! 私一人じゃ断り切れなかった」
「い、いえ! そんな大したことは」
まさか面と向かってお礼を言われるとは思っていなかったのか少し戸惑ってキョトンとしてしまうユリ。するとユリのすぐ後ろにいるランが何食わぬ顔で告げ口を吐く。
「追っ払ったのは俺なんだがな」
「ナッ! あんなの私一人でも出来たわよ!!」
「それはすまなかったな」
声色からすぐに分かる形だけの謝罪をするランにユリがムスッとすると、手を握っている女性は微苦笑を浮かべてしまう。
立ち往生で待機していた女性の連れの男はそんな彼女に声をかけた。
「もういいか? 行くぞ」
「ちょっと待って! そう急がなくても大丈夫だから」
女性と違い男の方はどうにも移動したがっている。まるで知り合い意外と関わりたくないような様子だ。
だが女性はそんな彼の事はおいておき再びランとユリに顔を向けた。
「もしよかったら、何かお礼をさせてください!」
「ハァ!?」
女性の発言に今まで表情が変わらなかった男の口と目が大きく開いた。
「何言い出しているんだお前!?」
「だってこの人達は関わらなくていいはずの事に進んで入って私を助けてくれたんだよ! せめて何かしてあげないと、私の気が済まないの!!」
初見の大人しいイメージとは打って変わって強気な姿勢に驚いてしまうランとユリ。女性はそのままの勢いて二人に視線を向けて声掛けを続けた。
「何か欲しいものはありますか!? せめてでもお茶くらいおごらせてください!!」
「押しが強いな。その意志の強さをナンパ撃退に使えばよかったのに」
小さくツッコミの台詞を吐くラン。ユリは手を握られ続けて困惑していると、女性の方から自己紹介をして来た。
「私は『リコル マリファ』。彼は『ジネス オルド』。先程は本当にありがとうございました!」
リコルの申し出に対し一瞬戸惑ったランとユリだったが、上手い事問いかけ方を考えてこの世界の情報を得られるのではないかと判断し誘いに乗ることにした。
早速近くのレストランに入った四人。ランとユリはこの国、町に始めてきたため事情を知らない旅人という事で今いる場所がどんな場所なのかを問いかけた。
「それで、あのゾンビっていうのは何なんだ? たまたま見かけたそのゾンビを討伐している奴らは?」
ランからの質問にジネスは少し目を細める中、リコルは素直に説明してくれた。
「『ゾンビ』は、ある時から人が突然に変貌た存在。その誕生した明確な年月や経緯については知らないんだけど、それまで普通の人間として暮らしていた人が、突然体を歪ませて周りを見境なく暴れ出す。
異常な身体能力を持っていて、なにより本能的に人を襲って人間の身体を食べる……だから発見次第駆除することが決まっているんです」
リコルの言い分にユリは少し悲しそうな顔を浮かべた。
「そうなんだ……なんだか少し悲しいものね。危険とはいえ、人間だった相手を倒さなくちゃいけないだなんて」
「あれはもう人間ではない!」
ユリの台詞の直後に重ねて消し去る勢いで反論するジネスの睨みつける目付きに口を止められ冷や汗を流してしまうユリ。
それでもやはり思うところがあると再び口を動かそうとしたユリだったが、その前にランが片目だけ開けて返答した。
「まあたとえ元人間だろうと、それで自分が食われて死ぬのは嫌って事だろ。そりゃそうだ。人間同情は出来ても、いざ助けろと言われて助けに行くやつはそういないからな」
ランの言い分は冷たいものの、現実的には的を得ている。ユリは眉を下げて思うところがありつつも言葉を諫めると、次にゾンビを討伐している人たちについての説明を始めた。
「そして人を襲い暴れるゾンビから人々を守るために、政府直属の討伐部隊『RAIDER』が組織された。
おそらく、お二人がたまたま見たというのはその部隊じゃないかしら?」
「対ゾンビ専門の討伐部隊……しかも政府直下と来たか」
予想以上の規模の組織の小隊にランも顔や声には出さないながら驚いていた。同時にランは自分達がこの世界に来て最初に来た場所に留まっていなかったことを正解だと思っていた。
(てっきりどっかの起業かと思っていたんだが、そこまで巨大な組織とはな。そんな奴らに下手に捕まればこっちの事情こぼしちゃったら次警隊全体に迷惑をかけちまう)
「そんなものが組織されるほど、あのゾンビってのの被害は大きいのね……さっきあんなことを言ってなんだけど、確かにこれだと救うことは難しいわね」
ユリは立場上次警隊の事情、つまりは宇宙の人々を守るということがきれいごとだけでは済まない事も知っている。
故にゾンビの被害状況を鑑みれば、救う明確な手段が見つからない以上討伐するのは致し方ない判断だとも理解した。
そこから四人は食事を済ませると、約束通りリコルが奢る形で会計を済ませ、女性二人がお互いに頭を下げ合いながらお礼を言い合った。
「奢っていただきありがとうございます!」
「いえいえこちらこそ助けていただいたので! そんな、頭を下げないでください」
「いやいや、助けたのはランであって私じゃないので」
「いえいえ」
「いやいや」
「「オイ!」」
男性陣二人の声が重なった。このまま女性人二人に任せているとずっと頭を下げ合って終わりそうにないと判断がしてもツッコミだったが、本人達も声が重なったことに少し目を細めて嫌な顔をした。
「ありがとうございました! また何処かで会えたら嬉しいです!!」
「こちらこそ! ご飯美味しかったで~す!!」
手を振り合い仲良さそうにお別れを言うユリをすぐ後ろで見ているラン。お別れを終えて移動しようとした二人だったが、そんなときにランのブレスレットに着信音が鳴り始めた。
「なんだ?」
ブレスレットの装飾に触れると、立体モニターに映し出されたのは困り顔を浮かべた幸助だった。
「お前か。どうしたそんな変顔浮かべて?」
「あ、いや……お前に遭いたいって人に出会ったんだけど」
「あ? そんな訳も分からないやつの相手なんて」
「でも、ユリちゃんの事も知っているみたいなんだ」
画面に映る範囲からギリギリ逸れる位置にいたユリと共に目つきを変えたラン。
「分かった。場所を送るからここに来い」
「ああ、分かったよ」
通信を切ったランはユリと共にその人物がやって来ることを待った。
一方のジネスとリコル。満足そうなリコルは真剣な顔をするシローに問いかけた。
「どうかした? ジネス君」
「あぁ……さっきの男、何処かで見た覚えがある気がしてな……」
改めて、彼は『ジネス オルド』。対ゾンビ討伐部隊『RAIDER』の隊長であった。
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