6-2 怪しい青年
一時間程の時間が経過した。後片付けも含めたゾンビ討伐の仕事を終えた遊撃車が元来た道を戻り、出動した高層ビルの地下入り口に戻っていく。
広い地下駐車場の中の専用スペースに停車した遊撃車から戦闘を終えて緊張感の抜けた機動隊員達が降りていき、最後に全員に指示を出していた人物が降りた。
ヘルメットを脱いだその人物の人物は隊全体の中ではかなり若く、現代日本でいうところの大学生くらいの顔つき、赤い色の髪に緑色の瞳をした容姿がとても整った青年だ。
機動隊の他の隊員達が愚痴や世間話で盛り上がっていく中で、青年は一人足早に一団から離れると、ロッカー内に預けていたスマートフォンに入って来た通知を確認し、着ていたメールに表情を一切変えることなく返信していた。
一方で彼は隊員達のに対して仲間を見ているものとは思えない冷たい目線を向けながら何かを考えているようだった。
(出動時より隊員の数が少ない。三人……)
青年の頭に浮かんで来たのは、現場にて銃撃に参加せず遊撃車付近で困惑しながら待機していた三人だった。
(あのとき遅れて合流した妙な奴らがいたのが……奴ら、何処に消えた?)
青年が姿が消えた事に気付いた当の三人の内の二人、幸助と南はラン、ユリの二人とは分かれて共に町中を徘徊し、周りの景色を見回していた。
巨大なドローンが四方向にモニターを広げて広告映像を流し、ビルの上部にもそれぞれでアニメーションやニュースを流している近未来な上部。
対して道路には幸助達の見慣れた自動車がはびこり自転車やバイクも走っている。総じて忍者の世界程ではないが現代日本よりは技術が発展した街並みといったところだろうか。だが何より人通りが多かったことに少々疲れを感じていた。
「何というか、微妙に進化した町っていうか……俺達の創造するほどはいかない近未来に来た感覚だね」
「アハハ……僕達次警隊の基地でしばらく過ごしていたから、便利な生活に慣れちゃってたのかもね」
南の言い分に幸助はこれからまた旅をするのだから気を引き締めなければならないと目じりが下がっていた顔を頬を叩いて元に戻すと、南もこれに倣って表情を整えた。
「いけないな! 旅に戻ったんだからいい加減気持ちを切り替えないとな」
「そうだよ! 隊員としてラン君達の役に立とう! そのために次警隊に入ったんだから」
南がふと呟いた単語に同じ歩道を走り隣を過ぎ去っていこうとしていた青年の耳に入って来た。
「次警隊?」
そんなことなど知るはずもなく幸助は南とともに歩きながら自分に気合を入れるために喝の籠った返事を口にした。
「ああ! まずはその将星隊長さんに良い所見せられるように頑張らないとね! それに考えてみれば俺って元々冒険者だし、こういう即興の情報集めも仕事の内だしね」
「ハハハ、そういえばそうだったね」
幸助の出した言葉に少し笑ってしまう南、その一方で近くにいた人物は幸助が告げた人物名にも聞き覚えがあるかのように反応した。
「将星……」
気を引き締めた幸助と南はどうやって情報を得ようか考えながら歩き続けていると、突然幸助が後ろから肩を掴まれて声をかけられた。
「君達、ちょっといいかな?」
人ごみの中でいきなり身体を引っ張られたことに驚きながら幸助は振り返り、南も声に反応して後ろを向いた。
声をかけてきたのは二人とそう変わらない年齢程の見た目をした青年。黄緑色の髪を整え、同じ輝きを持つ瞳を持つ容姿。
「え? ああ……何用で?」
突然の声掛けについぎこちなく問いかけてしまう幸助。青年は優しい微笑を浮かべると単刀直入に聞いて来た。
「君達、こことは違う異世界からやって来たね?」
まるで普通の事の用に問いかけられる台詞の内容に幸助と南の表情が一気に警戒のものに変化した。
「貴方は、一体!?」
南の問いかけに青年はこれまたスルーし、自分の話を進めてくる。
「この世界の情報が欲しいってとこかな? こっちの要求に応じてくれるのなら、色々教えてあげるよ」
初対面の相手からの唐突な取引。幸助と南は当然相手の事を怪しいと思うも、ここで戦闘をすれば周りにいる大勢の人達も巻き込みかねない。
うかつに動けえない二人が次の行動に悩んでいると、青年は少し口角を下げて掴んていた体制からそのまま幸助の身体を近くのそれた道に連行していった。
「あぁ! ちょっ!!」
「幸助君! うぅ……」
幸助は下手に抵抗してトラブルにするわけにもいかないと仕方なく連れていかれ、南もこれを追いかける形でついて行った。
しばらくして青年の方が手を放したことでようやく解放された幸助。南も合流し揃ったところで、青年は再び話しかけてきた。
「さてと、ここなら人通りも少なそうだしお話出来るかな。何から話すべきか……」
完全に一方的なペース運びをしていく青年に幸助と南は困惑し、警戒を強めながらなんて話をし始めるべきか悩んでしまう。
そばに寄った二人は微かに口を動かしバレない程度に会話をしていた。
「この人、何者なんだろう?」
「コクの事もある。下手にふるまって敵でしたなんてことあったら……」
幸助と南が自分に話しかける話題を悩んでいることを察した青年は、さっきまでより少々焦ったような様子で問い詰めるように聞いて来た。
「ランとぬいぐるみの少女は、今も一緒に元気にやっているのかな!?」
青年の言った台詞、特に『少女』という単語に幸助も南も思わず表情を歪ませて反応してしまった。
少女、すなわち『ユリ』の事。それもぬいぐるみと示して来たということは、彼女が普段ぬいぐるみの姿でいることを知っている可能性が高い。
「ぬいぐるみのこと知って!?」
「やっぱり一緒なんだね……そして君達も、彼女の正体を知っている」
思わず声を漏らしてしまった幸助に青年の反応は更に勢いづき、二人より近づき壁際に追い込んで詰め寄って来た。
「貴方は、一体……」
動揺からか抽象的な問いかけをしてしまう南。青年は訴えかけるように強く頼んできた。
「あの二人とは以前から知り合いなんだ。この世界にいるのなら是非ともまた会いたい!! 頼む! 君たちの隊長の元へ連れて行ってくれないか!!?」
青年の押しの強い頼み事に幸助と南はどう対処するべきか頭を悩ませていた。
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場所は変わり幸助、南とは別行動をとっていたラン。隣には変身を解きハットを深く被ったユリの姿もあった。
幸助と南のああは言ったものの、ランとユリも右も左も分からない世界の中での情報収集にはかなり難航していた。
表情も動かすことなく無言で歩き続けているランだが、隣を歩くユリが口を開いた。
「二人にああいった手前収穫がない事に苛立ってる?」
ユリの告げ口にランの身体がほんの少しだけ反応した。おそらく本人も気づいていない反射によるものだろうが、ユリは思わずクスリと笑ってしまい、ランもこれには誤魔化しきれないと嫌な顔を向けた。
「笑うなよ」
「ごめん。でもなんだかいいなと思って」
「あ?」
ランは何故今の事がいい事なのかが理解できなかったが、ユリは笑い顔で閉じていた眼を開けて理由を話した。
「前のアンタならこんなプライド張るような事しなかったから。これも幸助君や南ちゃんを仲間にした効果かなって」
「それ、悪い変化だろ……」
「そんなことないわよ」
ユリの脳裏に思い浮かぶのは幸助や南と出会う前、自分と二人だけで旅をしていた時のランの風貌だ。
ユリを守ることに関しては今も昔も変わらず強いが、他の人には触るもの皆傷付けかねない冷たい雰囲気を醸し出し、プライドも正々堂々もなくとにかく勝つことだけを意識していた。
そんなランが子供じみたプライドを持って動いている。ずっと見てきたユリから見ればちょっと可愛らしい変化だった。
「二人に感謝ね。アンタ出会った時から全然子供っぽくなかったから、普通っぽくなって嬉しいっていうか……」
「聞きようによっては失礼だろ、それ」
ランのツッコミについてはさておき、ユリは改めて自分達に幸助と南がもたらした事を思い返した。
「幸助君や南ちゃんに出会って良かった。あんなに他人のために必死に動く人なんてそうそういないのに、連続して出会っちゃうんだから。いい刺激になったんじゃない」
「危なっかしくて仕方ないがな。そうお前に言われると、今もどっかでトラブルに巻き込まれているんじゃないかと悪い予感がよぎるな」
「なんだろう。凄く想像できる……」
自分で蒔いた話の種に自分が不安になってしまうユリ。そんな折に歩き続けていた二人は、いつしか開けた場所にある噴水の近くにまで来ていた。
噴水の周りには待ち合わせで早く到着らしき男女がそれぞれ待っている。もしくは合流した人は男女が寄り添い戯れている様子が見える。どうやらデートスポットなのだろう。
「うぅ……なんだか変な空間に入っちゃったわね?」
「そうか? まあ、別に俺達には関係ないだろ」
どうにも色のある雰囲気が流れるこの空間に気恥しさを感じて帽子をより深く被ってしまうユリ。かけられた返事に彼女が少し目を細めて微かに向けると、照れ隠しなどでもなくランの表情はいつも通りの冷たいもののままだった。
「ハァ……まあそうね」
しかし今はこの世界の調査中。当然ユリの個人的感情などより仕事を優先しなければならない。割り切らなければと赤くなりかけた頬を戻す。
楽しんでいるカップルに割って入って質問をするわけにもいかないと判断したランがそのまま噴水付近を通り過ぎようと歩いて行く。
ところがランについて行こうとしていたユリがふと何かを見つけ、目を広げて反応した。
(あれは……)
「ラン、ちょっとごめん!!」
「アァ!?」
ユリは直後にランと同じ方向に向けかけていた足の向きを変更して彼とは別方向に走り出した。
「オイッ!」
ランが制止する声を出してもユリは足を止めない。手を掴んで強制的に停止させようとするには既に離れており、もう走らなければ追いつけない程だった。
「ったく、アイツも幸助や南と同類だな。人がいいんだか迷惑なんだか」
仕方がないとランも顔をしかめて彼女を追いかけていった。
ユリが急いで向かった先にいたのは噴水から少し離れた場所で白いワンピースを着た若い女性が大柄な男二人に絡まれている様子だった。
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