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ココラー20 貴方に会いに行きます!

 事件が終わって数日が経過。世間からの信用を失うことを恐れたGINGAGAME(ギンガゲーム)は、徹底した情報統制を行い事件自体をなかったことにした。

 次警隊としても事を大事にしたくない思いがあったためにフジヤマとオーカーはジーアスの許可の元事件の揉み消しは黙認した。


 だがGINGAGAME(ギンガゲーム)社内では、今後の会社にとって下手をすれば今回の事件以上の事件が発生した。

 GINGAGAME(ギンガゲーム)一の宣伝頭であるアイドルプレイヤー『イシヒメ』こと鈴鹿が、辞表を提出して来たのだ。


「本日をもって、GINGAGAME(ギンガゲーム)を退職させていただきます!!」


 辞表を提出された重役は血相を変えて鈴鹿に考え直すように言い出した。


「何をもったいない事を! 君はこのGINGAGAME(ギンガゲーム)で随一のプレイヤーだ! 君はこれからもっと大きくなれる! 世界的プレイヤーになることだって夢じゃないんだぞ!! いいのか!?」

「はい、でも決めた事ですので」


 少々何かを言ったところで鈴鹿の意志が代わる様子はない。重役の男はより焦って汗を流し、往生際が悪く問いかけ続ける。


「何か不備があったのか!? そうだ! 給料が安かったからか!? ならもっとあげよう! 特別手当も出す! あれだけ会社に貢献してもらっているのだから当然のことだったな」


 こういう場面でも『休暇』に関しては一切明言しない。事件の折にも尚働かせようとした当たり、GINGAGAME(ギンガゲーム)は鈴鹿を文字通り馬車馬のごとく働かせてドル箱の恩恵を余すことなく受けたかったのだろう。


 そんな会社の汚い腹を読んでいたために、何より彼女自身の思うところから鈴鹿は次々飛んでくる好条件にも一切なびかなかった。

 ならばとまた別の代案を考えようとする重役だったが、そこに部屋の扉からノックが響いた。


「何だ! 取り込み中だぞ!!」

「失礼します」

「マネージャー!?」


 聞こえてきた声から扉の前にいるのは鈴鹿のマネージャーであることが分かった。返答がない事を見たマネージャーは勝手にノブを回してドアを開き、部屋の中に入って来た。


「許可も取らずに入って来るな!」

「聞いても許してもらえないと判断しましたので。こちらを」


 マネージャーが一方的に重役に提出したのは、紙一面に細かく文字や表が書き綴られた資料だ。


「なんだこれは?」

「今回の事件をはじめとする、これまでGINGAGAME(ギンガゲーム)が隠していた労働基準違反、揉み消したトラブルの数々、その証拠資料です!」


 マネージャーから突き詰められた資料の正体に重役は顔を青くして席から立ち上がった。


「お前! どこからこんなものを!? いや、こんな事をして許されるとでも思っているのか!!」

「当然許されるとは思っていない。だが交渉の材料としては使える。石動さんと、そして自分の退職のためのな」


 すなわち金輪際鈴鹿によこしまなコンタクトを取ろうものならこれを世間にバラスといった脅し。わざわざ目の前に持って来る当たり、最悪自分がやられたとしても保険があるとでも言いたげな自信があった。


 弱みを握られた重役は何かを言おうとはするも口が震えて言葉が出ず、そこから二人が出ていくことにも特に何も言及しなかった。



_______________________



「ということで、無事にGINGAGAME(ギンガゲーム)を退社することが出来ました」

「無事にって、半分脅しでは?」

「半分どころかほとんどだろ」


 ココラに続いてツッコミを入れるフジヤマは、次にマネージャーに視線を向けて問いかけた。


「アンタはいいのか? 自分まで会社を辞めてしまって」


 フジヤマの問いかけに対しマネージャーはすっきりした様子だった。


「悔いはありません。これ撫で私は、鈴鹿を酷使させ続けていました。そんな会社にはもう懲り懲りです」

「マネージャー」


 自分に心配そうな顔を向ける鈴鹿にマネージャーは笑顔を向けた。


「心配しないでくれ鈴鹿。こっちはこっちで何とかするさ。鈴鹿はこれまで抑えてきた分、鈴鹿のやりたいことをしてくれ。それが私の願いだ」


 鈴鹿は自身のマネージャーの優しさに感服した鈴鹿、そして隣にある雷太はマネージャーに対して深く頭を下げてお礼を告げる。


「「……ありがとうございます!!」」


 マネージャーは早速今後の為に動きたいと一行に別れを告げて去っていった。


 続いて鈴鹿と雷太。目の前の三人に対して改めて感謝の言葉を口にした。


「本当にありがとう。この世界を救ってもらって」

「そんな、何度言われましても」

「何度でも言うわよ! 感謝してもとてもしきれない大きな事なんだから」

「その上俺達のわだかまりまで解消してもらって、本当に至れり尽くせりだ」


 雷太の言い分にフジヤマが横から告げ口を入れる。


「それに関しては俺達は関係ない。ココラ個人の手柄だ」

「え? いやそんな!」

「謙遜するなココラ譲! 先頭においても対人においても、今回一番活躍したのはココラ譲だ!」


 またしても始まって感謝の連続にココラは恥ずかしさから少し混乱して目を回してしまう。

 そんなココラに鈴鹿が彼女の両手を包み込むように掴むと、ココラは回していた眼を戻して鈴鹿の目を見た。


「鈴鹿さん?」

「ココラ……貴方とは会ってそんなに時間がたっていないけど、なんだかすっごく濃い時間を過ごしたわね」

「そ、そうですね……」

「貴方のおかげで、私は雷太兄と再会して仲直りも出来た。さっきも言ったけど、本当に感謝してもしきれないわ」

「俺も、ココラさんのおかげで暴走していたのを落ち着けた。貴方がいなかったら、一人で突っ走ってどうなっていた事か……」

「鈴鹿さん、雷太さん……」


 真っ直ぐなお礼の言葉に対して遠慮はいけないと同じく真っ直ぐ受け止めるココラ。


「私達はこれから、また二人で頑張ってみるわ」

「今度こそ一方的な優しさじゃなくて、二人一緒に納得して前に進めるように」

「いつか必ずまた会いましょうココラ! その時は、貴方に絶対恩を返すから!!」


 鈴鹿と雷太は手を振りながら手を繋いで一緒に去っていった。ココラとオーカーも同じく手を振って去り際を見届けた。

 二人の姿が目線から消えて少し下後、フジヤマはタイミングを見計らったかのように口を開いた。


「さて、後残った問題は……」


 残された三人。もや付く部分はいくつか残ったものの今回の事件が解決した今、彼が問いかける目先の問題は一つだ。


「ココラ、お前の事についてだけだな」


 突然このゲームの世界に迷い込んできてしまったココラの処遇についてだ。


「どうする? 元いた世界に帰りたいのなら尽力するが」

「は、はい。でも、私は……」


 優しく問いかけるフジヤマに対し、自分の中にあるやりたいことに気付いたために元の世界に戻るかに迷いが見える表情になるココラ。しかしフジヤマの隣にいるオーカーが彼に現実的な問題に触れた。


「フジヤマ殿、我もココラ譲を助けることには同意だ。しかし我らはココラ譲の故郷の位置を知らないのだぞ。砂漠の中で砂粒を探し出す行為だ。

 可能性があるとすれば、仕事上いくつもの異世界を巡っている将星隊長くらいだな……」

「将星隊長?」


 ココラが初めて聞く人物の名前に首を傾げていると、彼の名を出したオーカーが軽く説明した。


「我らが所属する次警隊の将星ラン。特定の世界で調査をし帰還する我らと違い、様々な異世界を旅している三番隊の隊長だ。フジヤマ殿を次警隊に推薦したのも、将星隊長なのだ」

「そうなんですか」


 次警隊の新たな情報を学んだココラに、今度はフジヤマがオーカーに苦言する。


「あの風来坊は特例だろ。アイツは今どこの世界にいるかも分からないし、あまり宛にはならないだろ。帰ってタイタン隊長に相談するか……」


 ココラはフジヤマが会話の流れで呟いた単語に引っかかった。


「ふう……らいぼう? それって!!」


 ココラの脳裏に過去の光景が浮かび上がる。自分達が戦う直前に突然現れ魔王を撃退した人物。幸助と共に勇者の世界に進行して来た兵器獣を撃退し、幸助が自分の元いた世界に帰るために一緒について行った青年。

 彼は二度目にココラの目の前に現れたときに、彼女のそばにいた幸助の問いかけにこう告げていた。


『俺は……風来坊(ふうらいぼう)だ』

(もしかして……)


 フジヤマとオーカーがいくつもの異世界を渡れると聞いた時点で予感はしていた。そして今、二人が口にした『風来坊』という単語に確信が出来たココラはフジヤマとオーカーに顔を近づけた。


「すみません! フジヤマさん! オーカーさん!!」

「何だ?」

「どうかしたのかココラ譲」


 突然ココラの表情が変わって顔を詰めてきたことにフジヤマとオーカーが困惑していると、ココラは二人に問いかけた。


「その将星隊長って、大柄な白いローブを着込んで、小さな白いぬいぐるみを連れている男性ですか!?」


 ココラの問いかけにフジヤマとオーカーは途端に目を丸くして驚き、彼女が聞いている人物が誰の事なのかをすぐに察した。


「ココラ譲! 将星隊長の事を知っているのか!?」

「知っているも何も、あの人は私の世界で会ったことがありますから!!」

「なんだと!?」


 ランとフジヤマ、オーカーに繋がりがあることを知ったココラは一瞬目線を左右に動かすも、整理した情報からこれ以上のチャンスはないと決心し、フジヤマとオーカーに頼み込んだ。


「フジヤマさん! オーカーさん! お願いします!! 私を、その将星隊長に会わせてもらえないでしょうか!!」


 フジヤマとオーカーはココラの真っ直ぐな頼み事を聞いて少し困惑した様子になる。さっきも彼らが言った通りランの場所は神出鬼没。それこそ隊長格にでも聞かなければ分からないだろう。それはすなわち、本来そこまで広めていいものではないという事だ。

 目的が結晶探しであるはずなのになぜここまで秘匿性が高いのかフジヤマ達は知らない。そんな二人が悩み顔をしていると、ココラは押し切ろうとばかりに続けた。


「そのための努力なら私頑張ります! 今回の事、私の世界で起こった事、それに、私がこの世界に来た異変。色々気になることを解決するためにも、私は出来ることを増やしたい」


 ココラは最後に深く頭を下げた。


「お願いします!!」


 必死な様子のココラにフジヤマが問いかける。


「御託が多いが違うな。本当は何がしたい?」


 ココラの付け焼刃の言い分を見透かして問いかけるフジヤマにココラは頭を上げて答えた。


「どうしても、会いたい人がいるんです」


 フジヤマはココラの目と言葉に少しの間黙っていたが、目を閉じて口を開くとクールながら明るい返事をした。


「分かった。俺の方から組織に話を通しておこう。後はお前次第だがな」

「はい!! ありがとうございます!!」


 顔を明るくし再び感謝で頭を下げるココラ。フジヤマは微かに口角を上げるが、オーカーは胸を手で抑えてふと思うところがあるようだった。


(ココラさんの会いたい人って、もしかして……)


 ココラは胸をいっぱいにして頭を上げると、決意と喜びに籠った表情で前を向いた。


(コウスケ! 私、頑張って貴方に会いに行きます! 待っていてください!!)


 こうしてココラはフジヤマとオーカーの斡旋によって次警隊に向かうことになったのか。

 彼女の結果がどうなったのか、それが分かるのはもう少し先のお話……

・その後の補足


 マネージャーはGINGAGAME(ギンガゲーム)という巨大企業出身ということもあって経歴をしった企業複数社から内定をいただき、無事再就職をしました。

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