ココラー15 兵器獣大パニック
一斉に出現した大小サイズもバラバラな兵器獣達が何の支持も受けないままに暴れ始める。
一体何が起こったのか状況に整理が付き切らないココラ達に対し、フジヤマに拘束されていたムールが狂ったように笑いだしていた。
「アッハハ……ハハハッ! ハ~ッハハハハハハハハ!!!!!」
「何がおかしい!?」
さっきまであれほど怒りに満ちていたはずのムールが高笑いした様子に君の悪さを感じるフジヤマ。ムールは首を回してフジヤマの顔を見ると、口角をにやつかせて口を開いた。
「今のショックでリモコンが壊れた! それで僕が貰っていた数百の兵器獣が一気に解放されたんだよ!!」
「数百だと!?」
「そして僕の指示なくして動き出した。各々が各々の勝手にな!! いいぞ暴れろ! この街を! 国を!! 世界を!!! 僕の才能を理解しなかった狂った世界を全部ぶっ壊せぇ!! ア~ハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」
笑いながら体を震わせて脱出しようとするムールだったが、フジヤマは隙を見せず脱出を許そうとはしなかった。
「二人共先に行け! こいつは俺が転送しておく」
「了解した。雷太殿、ムールはフジヤマ殿に任せて我々はこいつらの対処を!」
「う、うん」
雷太も数の圧力に一瞬恐怖を浮かべて足が一歩引いてしまうも、こいつらを放って起きてはいけないと気合で足を引き戻して前に飛び出した。
廃屋の外では、ココラが鈴鹿を守りながらも突然現れた兵器獣達の対処に追われていた。
「<聖壁 衝撃>!!」
目の前に襲い掛かって来た小型の兵器獣を一体撃破すると、背後から鈴鹿を喰らおうとする兵器獣の攻撃を新たに生成した聖壁で受け止める。
大型の兵器獣の重量に体がきしむ感覚に襲われるも、受けたダメージ分をどうにか技を行使して反射させた。
「<聖壁 反射>」
踏み込んでいた足に直接ダメージが入り込んだ兵器獣は片足が砕けて倒れ、近くにいた何体かの兵器獣を下敷きにした。
「フゥ……ラッキーですね」
元気であることを取り繕うように笑顔を見せるココラに鈴鹿は心配で仕方なかった。
「ココラ、貴方私を守って無理を!!」
「無理なんてしてません!」
問いかけた途端に返事をされた鈴鹿が口を止めると、ココラは汗を流しながらも苦しい顔は見せずに鈴鹿に話す。
「誰かを守り戦う……こんなことは結構してきましたから。最も私は、自分よりさらに前にいる人に守られてしまっていましたが」
「だったらやっぱり無茶じゃ!?」
「それでも!!」
叫び声に指摘の声はかき消される。ココラは眼前の敵に視線を向けると、自分の気持ちを高ぶらせる意味合いも込めてか杖を地面に弾かせながら口にした。
「私の大切な人は……疲れているから、無茶だからって理由で、人を助けるのを止めたりなんてしないから」
ココラはこれを最後に杖を鈴鹿に向けて一度振るった。
「<聖域球>」
すると鈴鹿の周りにだけ黄色い膜のようなものが球状に囲い、彼女が叩くもびくともしなかった。
「何よこれ!?」
「しばらくは守ってくれると思います。最悪割れたのでしたら逃げてください」
ココラはこの言葉を最後町中を堂々と踏みつぶして進んでいく兵器獣達に向かっていった。
「ココラ!!」
鈴鹿は声を挙げるもココラは足を止める気は毛頭ない。鈴鹿は殻の中で一人だけ戦えず守られてばかりの自分が情けなくて仕方がなかった。
「私のせいでこんな事になったのに……振り回してばかりだったのに……ホント良い人過ぎるよ……」
ココラは近くにいた小型の兵器獣を何体か撃退しつつも、大型の兵器獣がばらけて建造物を破壊しようとする様子が目に映った。
「マズい! すぐに止めないと怪我人だけじゃ済まない!!」
兵器獣達が人的被害を起こす前に止めなければとココラは杖を上方向に突き付けて魔術を発動させた。
「<聖壁 輪剣>」
ココラは発生させた円状の聖壁をそのまま高速回転させてフリスビーのように大型兵器獣に向かって飛ばした。建造物を破壊しかけた兵器獣の右腕に直撃した性癖は、ケーキでも切るかのようにあっさりと腕を切断し、破壊を防いだ。
「そのまま暴れる前に倒します! <衝撃>!」
ココラは聖壁を操作して兵器獣がこちら側に倒れるように向きを考えながら攻撃をぶつけると、重量に負けて兵器獣は転倒そこに首を聖壁で切り裂くことによってようやく撃退した。
「フゥ……」
一息つくココラだが、周りは一切彼女に休息など与えようとはしない。だがココラはそもそも回復師。戦闘を主だってする立場ではない。
にもかかわらずサイズもバラバラに数え切れない数。誰がどう見ても彼女一人で対処しきれるものではなかった。
(一体一体を倒していても切りがない。方法があるとすれば、やはりあれしか……)
何処か判断に戸惑っているココラに兵器獣の魔の手が迫った。だが彼女に攻撃が当たるより先に兵器獣の頭が突然消滅。その場で撃退された。
「危なかったぞ! ココラ譲!!」
「オーカーさん!」
屋内に加勢に行ったオーカーがココラの元に戻って来たのだ。
「屋内で見るよりよっぽど数が多いのだ。倒すには時間がかかるぞ」
「一つ、思い当たる方法があります」
「何!?」
「でも、そのためにはある程度兵器獣達を密集させないと」
オーカーは次警隊の隊員ではないココラを頼りにするのはいかがなものかと一瞬顔色を曇らせて悩んだ。
しかし多くの兵器獣が暴れ出す中、一刻も早く事態を止めなければならない彼女達にとって悠長に手段を選んでいる時間はない。
「フム了解した。つまりは周辺の兵器獣どもをここいらに集めればいいのだな? それなら我とフレミコの出番だ!
ココラ譲はその手段とやらの準備を!!」
オーカーは上に向けた右掌の上から闇の煙を発生させてフレミコを飛び出させると、共に距離が離れている兵器獣の方へと向かっていった。
ココラも頷くと、杖の後部を地面について真っ直ぐ縦方向に両手で握り目を閉じる。
(かといったってオーカーさんに無理をさせる訳にはいかない。出来るだけ範囲を広く、かつ素早くしないと)
女性人二人が外で準備を始めている中、廃屋の中ではオーカーのおかげである程度数が減った兵器獣の最後の一体を雷太が切り裂き撃退したところだった。
「あの人凄いな。ほとんど倒していった……」
雷太が視線を向けると、奥にいるフジヤマもムールを拘束した姿勢はそのままに間合いに入って来た兵器獣達を撃退していた。
実戦経験の多さ故か自分より明らかに凄い人達の戦いを目にした雷太は剣の握る力を強めて気を引き締める。
(異世界から来た人達にと寄ってばかりじゃだめだ! 俺もしっかり動かないと)
雷太は同じく戦闘が収まったフジヤマに顔を向けて声をかけた。
「フジヤマさん、俺も外に行きます」
「ああ、兵器獣の対処で少々遅れたがこっちも手続きはもうすぐ完了だ。終わったらすぐに俺も」
短い会話をしていた雷太とフジヤマだったが、突然耳に入って来た鈍い音に意識が向く。
「今の音は」
嫌な予感を感じた男達だったが、直後にその予感は現実となった。外側近くにいた大型兵器獣の一体が廃屋を攻撃して破壊し、男達の頭上に巨大な瓦礫を落として来たのだ。
「建物が! フジヤマさん!」
「お前はすぐ逃げろ! 俺は大丈夫だ!」
フジヤマが自分の方へ足を向きかけた雷太に外に出るように叫ぶと、雷太の頭上に瓦礫が降って来たのを見て咄嗟に水球弾を発射し破壊した。
だがこの行動によってフジヤマの力が緩んだをの見逃さず、ムールは大きくもがいてフジヤマの態勢を崩させて拘束から脱出した。
「しまった」
「ハハハッ! ここぞという時に恵まれている! これも僕の才能が故だ!!」
高笑いで自画自賛しながら逃げるムールを追いかけようとするフジヤマ。だが運は本当にムールを味方しているのか二人の間に次々と瓦礫が落ちて道を塞ぎ、フジヤマは自分を潰そうとする瓦礫の処分で手いっぱいになっていた。
「クソッ……こんな所で大技は使いたくなかったが仕方ない!」
フジヤマは左手で発生させた小型の水球弾を連射して頭上に振る瓦礫を破壊しつつ右腕に発生させた水を右ひじまでを包み込む形で圧縮させていく。
数分後、フジヤマは最後に落ちてきた瓦礫を右腕で殴って破壊すると、頭の上に構えた右腕を右下方向に振り払いながら体を回転させ、圧縮していた分の水圧を一気に解放した。
解放された水圧はフジヤマの周辺一帯を囲んでいた瓦礫を跡形もなく一掃し、破壊された廃屋を平らに整えてしまった。
フジヤマは次に逃げていったムールを見つけようとするも、死角に入られたようで今いる場から見つけることは出来なかった。
「チッ……だがリモコンがない以上奴は二の次、まずは兵器獣の対処だな」
フジヤマもココラ達の加勢するため足を急がせた。
一方廃屋から逃げ出して一人渦中から去ろうとしていたムール。必死に走りながらも出てくる言葉は自分への保身や他社への責任転嫁の台詞ばかりだった。
「ハハハハッ!! アイツ等もこれでおしまいだ!! 僕を舐めてかかるから! 僕の才能を甘く見るからこうなるんだ!!
これでもうこの街は! いや世界だって混乱する!! 僕の才能が一番だと世界が受け入れざる負えなくなる!!
僕の才能が一番だぁ!! 一番なんだぁ!!!」
ほとんど子供のような言い分を叫び走り続けるムール。ここで彼の目の前に人間サイズの小型兵器獣が二体姿を現した。ムールはこれはいいと足を止めて指示を出す。
「ちょうどいい。お前ら、廃屋にいる奴を殺してこい」
ところが兵器獣達はゆらゆらと歩くだけで廃屋に向かおうとはしない。
「おいどうした? さっさと行け! 何をしている!! お前たちは僕の駒だろう!!」
癇癪を起こして怒鳴りつけるムール。すると次の瞬間、二体の兵器獣は大きく口を広げて飛び掛かり、ムールの身体を喰らいかかったのだ。
突然の激痛を理解できない現状にムールはパニックになる。
「ギャァァァァァァァァァァァァァ!!!! 何を!!? 何をするぅ!!?」
ムールは気付いていなかった。リモコンが壊れた事により兵器獣達が全てムールの命令を受け付けなくなっていた事を。
当のムール本人は自分の落ち度を理解する余裕もなく身体が食われていき、そこに影が差した。
そして追い打ちをかけるように下がって来た大型兵器獣の足によって小型兵器獣二体ごと断末魔も上げられずに踏みつぶされてしまった。