ココラー8 お仕事脱走
ついさっきまで会社の為に動くと言いながらこの場から抜け出すなどと真反対の事を言い出した鈴鹿に、どちらかといえば素直な性格をしているココラは白目を向いてどう反応すればいいのか対応に困ってしまっていた。
「ぬ、抜け出す? 抜け出すというのは?」
「この会社から逃げ出すに決まっているでしょ」
驚きでまた叫びかけたココラの口をすかさず鈴鹿が塞ぐ。少ししてココラの息が苦しくなったタイミングに鈴鹿が手を放すと、ココラは一度深呼吸を挟んで気持ちを落ち着かせてから話の続きを始める。
「逃げるって、そういう問題ではないですよ鈴鹿さん! 確かにこのまま仕事を続けるのは危険だと思います。でもだからって外に出るのはそれはそれで危険です!!」
「ここにいてモンスターが現れない保証でもあるの?」
「ウッ! そ、それは……」
ぐうの音の出ない言い分に反論の言葉が詰まってしまうココラ。鈴鹿はここぞとばかりに攻めの姿勢を強めた。
「そう、ここにいたっていつ襲われるか分かったもじゃない。会社の方針に従っていたらまた人を巻き込んだ大事になる。それも揉み消されて続いてしまう!!」
「いや、でも……」」
「だったらここを抜け出して、人気のない所にでも行った方が貴方にとっても私を守りやすいでしょ!」
「そ、それは……」
「選択肢は三つあるの! 私は決めている!! 貴方は!!?」
前のめりな姿勢ですぐそばにまで顔を近付かせて来る鈴鹿に押されっぱなしのココラ。
結局彼女が選んだのは……
「う~っ!! フゥ!! ようやく出られたぁ!!!」
「アハハ……よかったですね……」
鈴鹿に言われるがままに一緒に会社から出てきてしまった。
サングラスをかけて帽子を深く被り、今度はマスクも付けてより正体に気付かれにくい変装をしつつ協力者を得ながら抜け出せた事にテンションが上がる鈴鹿。
一方自分の行動にさっそく後悔していることが分かりやすく顔に出てしまっているココラだが、確かに下手にあの場にいるよりはいいのではないかと判断をほぼ無理矢理切り替えて表情を戻した。
「それで、何処に行きましょう? 人気のない所と言っても、私はこの周辺の土地勘には疎いのでよく分からないのですが」
「そこは任せて。私、ここら辺の土地勘には強いから。でもまあまずは……」
「?」
そこからココラは鈴鹿に言われるがままに町中の細い道を進んでいった。自分で言うこともあって確かに道中人とすれ違うことはあまりなく服屋にまで到着。
ココラは試着室に放り込まれ、鈴鹿が次々に持って来た清楚な白いワンピースに着替えさせられた。
「あの、これは?」
「もちろん貴方の服を買うのよ。ずっとさっきの格好をされたら目立っちゃうから。う~ん地味ね。もうちょっと派手にした方が良かったかな?」
鈴鹿はココラの今の姿を見て勝手に感想を述べるとすぐさま店の中から見繕った上下の服セットを持って来た。
「はい、次これを着てみて!」
「あぁ、はい……」
ココラは困惑しつつ服を受け取ると、試着室のカーテンを閉めて着替えた。途中、ワンピースを脱いだタイミングで話しかける。
「……私の姿、そんなに変でしたか?」
「ゲームプレイ中を除けばすこぶるね。髪色や尖った耳については誤魔化せるけど、服装だけでもせめてそれっぽく変えておかないと」
「い、言い分は分かるのですが……これはこれで目立ちませんか?」
ココラは少々恥ずかしそうに頬を赤く染めながら渡された服を着てカーテンを開けた。サイズが小さくへそ周りが露出した黄色いトップスに膝から下が丸見えの水色のスカート。正直今どきのギャルでも少し躊躇してしまいそうな格好だ。
「あぁ、ごめん。今度は攻め過ぎたわね。待ってて、もうちょっと抑えめのやつ取って来るから」
再び服を選ぶために戻っていった鈴鹿。一人になったココラはふと自分の姿を鏡に映した。
「これが、この世界のお洒落……何ですかね?」
ココラにまたしても共に旅をした勇者の姿が思い浮かんだ。
「これが、幸助のいたという、日本の世界の文化なんだ……懐かしい……っん!?」
ココラは何の気なしにこぼした言葉に自分自身で驚いた。
「私、なんで……」
「お待たせ! 今度こそいいもの持って来たわよぉ!!」
「ハッ!!」
ココラが目を泳がせて困惑していると、外から鈴鹿の声が聞こえてきたことで我に返った。
「あれ? どうかした?」
「あ! いや……なんでもありません」
ココラは自分に感じた違和感に蓋をして服と受け取り着替えてみた。
三度目の正直。着替え終わったココラは鏡に映った自分の姿を見た途端に少し笑みを浮かべていた。
「これ……いいかもです」
黒いベルトでウエストを合わせた濃い暗めの緑色をしたロングのタイトスカート。上には同じくタイト目な黄色のタートルネックニットを着ることでダボッした印象を持たせずココラのスタイルを露出させる。
そこに仕上げにニットの上着として茶色い大き目のコートを羽織ることで目立ってしまったスタイルのセクシー下限を抑える。お洒落加減を適度にした完璧な余所行きだ。
「どう? なかなか出てこないけど大丈夫?」
「ああ、すみません!!」
再び自分の思考に浸っていたところを鈴鹿の声によって我に返ったココラは慌てて試着室音カーテンを開けた。
「おお! 似合ってるじゃない!!」
「はい! 私も、これを気に入っちゃいました」
まじまじと観察する鈴鹿。ココラと同様に彼女も好意的に見たようで口角を上げて満足したように見える。
「いいわね! 服はこれで決定ね。あとは……」
ココラの服が決まると続いて二人は別の店へと移動し、他の身なりを整えた。
長めの黒いタイツ。ハートのアクセントを付けたブーツ。そして淡いピンク色をしたダイヤ型の装飾のネックレス。
一式揃えたココラの姿は初めの姿からは見違えるものになった。元は平常時に見ればコスプレとして捉えられかねない装いだったが、今の彼女はこの世界になじみつつ、適度にお洒落な丁度良い風貌だ。
「こんなにいいものを揃えていただけるだなんて……本当にありがとうございます! 鈴鹿さん」
「宣伝等としてモデルの仕事も請け負っているから。ファッション知識は人並み以上よ。最もあなたのいた世界から見れば、これこそヘンテコなんだろうけどね」
ココラが自分の服装に目を輝かせていると、鈴鹿は軽く手を叩いて気持ちを切り替えさせてきた。
「さて、着替えも済ませた事だし、目的地に向かうわよ!」
「目的地? どこかに向かっていたんですか、私達?」
またしても肝心なことを遅れてかつ唐突に言い出した鈴鹿について行けないココラ。
「私が会社から抜け出したのがやみくもに逃げるためとでも思ったの? 違うわ! 行きたいところが!! いや、会いたい人がいるの!!」
「会いたい人? アッ!!」
ココラは先日鈴鹿と初めて出会った時の事を思い出した。イベントクエストが終わった直後に慌てていたように駆け出してココラとぶつかっての出会い。
その直前、会場に現れたモンスターを様々なプレイヤーが切磋琢磨して戦っていた中一人、突然に現れて全てを持って行った男の事を。
「もしかして、この前のイベントに突然一撃で魔物を倒したあの……」
ココラの返事を聞いてここまでずっと明るかった鈴鹿の表情が少し曇り、俯いた。
ココラは自分が失言したのではないかと思って謝罪の言葉を口にする。
「あ、ごめんなさい。私もしかして失礼なことを」
「いいの……そういえばあの場にいたんだものね、貴方」
「誰なのか、話してくださいませんか?」
鈴鹿は自分の個人的事情を説明することに若干迷ったように見えた。
しかし出会うきっかけにも関わっている上、ここまで突き合わせてしまっているのココラに対して事情を言わない訳にはいかない。
鈴鹿は顔は俯かせたままながら、静かに語り始めた。
「会いたいのは、幼馴染なの。『宇高 雷太』、私を救ってくれた人で一番に大切な人………」
「大切な人……」
「なのに……」
ココラがオウム返しのように台詞を返してしまうと、鈴鹿は自分の表情を見られたくないのかそっぽを向いて話を続けた。
「ずっと当然のように二人で仲良くゲームをしていた時が……壊れてしまったの」
「鈴鹿さん……」
ココラは胸が締め付けられる思いを感じた。彼女が元いた世界での旅路。魔王を倒すという目的のために集まり、それが終われば旅が終わってしまう。
分かってはいた。だがそれでも心の何処かで旅を終わらせたくない。仲間と一緒にいたいという思いがあったのだ。
だが魔王は予想外の形でとはいえ撃退され、仲間は悪化した環境を改善するためや、ずっと遠慮して胸にしまっていた自分の目的に分かれていった。
上っ面では快く送り出したココラ。だが旅が終わっていこう、彼女に思う部分は残りつ続けている。
ココラも俯きかけてしまったタイミングに鈴鹿が両頬を手で挟んで暗くなることを阻止された。
「フグッ!!」
「落ち込んでいる場合じゃないわ! とにかく彼の家に行くの!! 今度こそ会って……謝らないとなんだから」
二人は何処かもや付いたものがあるままに再び足を進めていき、宇高雷太が住んでいるというアパートの一室の前にまでたどり着いた。
鈴鹿が久しぶりに会う相手に緊張を感じているのか少し震えながらインターホンを押そうとしたとき、二人の耳に聞き覚えのある声が入って来た。
「その家には今誰もいないぞ」
驚いたココラと鈴鹿が一瞬震えると、アパートの階段を上がってフジヤマとオーカーが現れた。
「フジヤマさん! オーカーさん!」
「どうして二人がここに!?」
「それはこっちの台詞だ。護衛とその対象が何故外に出ているんだ?」
公式の場ではないからか口調が雑になっているフジヤマ。ココラはこれに冷や汗を流しつつも鈴鹿と揃って事情を説明した。
「なるほどな……確かにそれだと下手に会社にいる方が危険か」
「あの会社、深淵の闇が渦巻いておるのだなフジヤマ殿」
「単にブラックでいいだろ、紛らわしい」
次に質問されることは決まっていた。フジヤマとオーカーが何故ここにいるかについてだ。
「俺達は事件の調査をして、ここに行きついた。話を聞きたい相手は留守だったがな」
「彼に何の話があるの?」
鈴鹿が途端に警戒の混ざった目つきと言葉でフジヤマに問い詰める。するとフジヤマは二人、特に鈴鹿にとって深く響く理由を話した。
「この部屋に住む人物、『宇高雷太』が今回の事件の犯人である可能性がある」
「……え?」
鈴鹿が驚きと共にフラッシュバックする記憶。自分がその人物、雷太と出会い現在に至るまでの過程のことだった。
ランの過去話、『FURAIBO《風来坊》STORY0』を番外編として投稿していきますので、是非ともそちらも一読していただけるととても感謝です!!
『FURAIBO《風来坊》STORY0』リンク ncode.syosetu.com/n6426it/
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