ココラー6 アナウンス
突然に出現した実態のモンスター。対処出来るのがココラだけだと本人が焦っていたところに現れた二人の珍妙な人物。
二人はそれぞれが周辺にいるプレイヤー、観客、モンスターの配置を確認すると、男の方から女の方に話しかけた。
「俺は観客席に戻って飛び道具で迎撃する。ステージ一帯は任せていいか?」
「フンッ! 我を誰と思っておるか! この程度造作もない」
「じゃあ頼んだ」
男の方がジャンプすると、人間離れした跳躍力によって軽々と観客席の位置にまで戻り、掌を前に出して何もない所から球場の物体を生成して発射し続けた。
一方の女性も丸腰の状態で走ってモンスターに接近していくと体のいい獲物が来たとばかりにモンスター達が襲い掛かろうとする。
ところが襲い掛かったモンスターは全員揃って彼女の間合いに入った途端に体の一部がブラックホールに吸い込まれるように欠損し、撃退されていった。
明らかにこの手の相手との戦闘に慣れている動き。鈴鹿はもちろん、ココラにとってもこれは驚きだった。
(なんであんなに手馴れて!? それにあの異形な姿、もしかしてあの人達も!!)
謎の戦力二人の導入によりココラ一人の時より圧倒的ハイペースで撃退されていくモンスター。撃退された亡き骸が積み上がっていく。
二人の圧巻の強さに異常事態が解決するかと思われたが、ここにきて再び目に見える異変が起こった。今の今まであれだけ人々を襲っていたモンスター達が全て同時に一時停止でもされたかのように動きが止まったのだ。
「止まった?」
「うむ? これは一体」
モンスター達の異変に同じく攻撃をの手を止める二人。ココラも次の動きに悩んでいると、機械によってくぐもらせたような声によるアナウンスがステージ中に響き渡った。
「やあイシヒメ、この『ムール』のゲームをプレイしてみてどうだい?」
声を聞くと、名前を呼ばれた鈴鹿ではなく戦っていた男がステージ上部に備え付けられたカメラの一つを睨みつけた。
「この騒動の犯人か?」
「そう怒らないでくれ。だが君達の存在は予想外だ。正直ここで何人かは死ぬものかと思っていたんだけど、対処されるだなんてね。おかげで盛り上がり損ねたじゃないか」
「何!?」
この場の全員の注目が声の主に集まる中、謎の人物こと『ムール』はまるでこの全てがお遊びであるかのように話を続ける。
「強敵との戦いによるスリル、予測できない展開。これこそまさにゲームの醍醐味だろう!!」
「御託はいい。お前は誰だ? 実体モンスターをどうやって用意した!? 目的は!!」
殺意がどんどん上がっていくような男に対しムールは笑って帰した。
「怖い反応だなぁ。それに全部言ったら楽しくないだろう? 最初に言ったはずだ、ゲームだと。これは私が楽しむためにやっているんだ」
「ふざけるな! 戦えない人を巻き込んで遊びだと!?」
「文句があるならイシヒメにいう事だ。これは全て彼女が私の要求を無視して目立つ真似をしたからだ。
もし今回のような目立つ真似を再びすれば、今の騒ぎをまた起こす」
ココラをはじめ全員が目を丸くした。この場は三人がいたからどうにか対処が出来たが、余所の場でこの騒ぎが怒れば確実に死者が出る。
「させてたまるか!」
「我らが阻止させてもらう」
激高して叫ぶ二人をムールは鼻で笑った。
「威勢のいいコメントだぁ。じゃあイシヒメをすぐにクビにでもすることだね。それが出来ないのなら、私という真の天才の力を身をもって知ることになるだろうさ。
もしあるならば、次のゲームも期待してくれ」
自己中心的なコメントを最後にアナウンスの声は終了した。同時に遠隔でロックされていた扉も開いたようで、ダムにせき止められていた水が一気に流れ出すようにプレイヤーや観客は外に出る。
「出られたぞ!」
「早く逃げろ!! あんな所いてたまるか!!」
解放されたプレイヤーや観客が散りぢりになって逃げていく中、ひとまず騒動が収まったことでココラがため息をすると、空気が抜けるかのように体制が崩れて尻餅をついてしまった。
「ハァ……とりあえず収まった……」
そこからすぐに騒動の通報を受けた警察が到着し、現場の確認、整理や残っていた人達の保護がされた。移動をする際、ココラが見かけた鈴鹿の表情はショックや恐怖が重なって暗く青ざめたようになり、体も震えているようだった。
ある程度の時間が経過し安全な建物の中にて用意された部屋にいたココラ。つい先日勇者の世界から転移し、このゲームの世界でのあらゆる事柄にようやく少し理解が出来かけたそのときに起こった明らかにこの世界以外の関与がある事件に頭を悩ませていた。
(うぅ……もう訳が分からないよ!! この世界には魔物がいないはずじゃなかったの!? いや、だからこそみんな混乱して誰も戦おうとしなかった。やっぱりあのモンスターは異世界から来た魔物の類。でもなんで?)
疑問が別の疑問を呼ぶ事態に頭を回しても切りがなく処理に手間取って湯気が出てしまいそうな状態になっていたが、そんなココラを我に返すように部屋の扉がノックされた。
「は、はい!! どうぞ」
思わず声を高くしていしまいつつココラが部屋に入るのを許可すると、扉を開いたのはゲーム会場にてココラを助けてくれた男女だった。
男の方は右半身から生えていた鱗が消えて普通の人間と同じ姿になり、女の方は特殊な瞳に眼帯を付けて隠している。
「貴方達、さっきの」
目を広げつつ反応するココラにまずは男の方が話しかけてくれた。
「『ヒデキ フジヤマ』です。こっちは……」
「待て! 我の自己紹介は我がるのが責務だろう!! 我こそは」
「『オーカー トダマ』。俺の仲間です。以上」
「なっ! 何故我の素晴らしい名乗りを邪魔するのだフジヤマ殿!!」
オーカーの厨二キャラを知っているフジヤマは、ここで彼女に自己紹介をやらせたら絶対変な空気が流れると思い強引に阻止した。
文句を言いたげに頬を膨れさせているオーカーを放置しつつ、フジヤマはココラに近付いてさっそく本題に入った。
「先程は助かりました。そのお礼と言いたいところなのですが」
含みがあるように一度台詞を止めるフジヤマ。ココラは彼の言いたい文章がなんとなく頭に浮かんできた。
「私が何故戦えたのか……ですね」
「貴方は一体何者だ? まずは名前から」
「はい、私はコンフォート・ヒリング・レクト・フルムン・エイトセブ……」
「待て待て待て!! 貴方もオーカーと同じくいちいちネタな自己紹介するのか!?」
「ネタ? いたって普通の自己紹介ですが」
ココラの自己紹介によって緊張感のあった空気がいくらか緩和されつつ、彼女は鈴鹿の時と同様に二人に自分の身の上話をした。
「なるほど、それで偶然にこの世界へと転移して戻れなくなってしまったと」
「かわいそうだな。フジヤマ殿、我らで帰してやる事は出来ないものなのか?」
独特な服装に接し方に迷っていたオーカーがフジヤマに問いかける。ココラがこれを見て彼女の印象を改めていると、フジヤマはあまりいい表情を浮かべなかった。
「難しいな。ココラさんが……」
「ココラで構いませんよ。敬語も別にいいです」
フジヤマがココラ自身の言い分を受けて一度間を置き言葉遣いを気を使わないものに改める。
「……ココラが元々いた世界の座標が分からない。宇宙中にある文字通り星の数だけある世界の中で、たった一つを情報なしに探し出すのは至難だ。
組織内に彼女の世界へ行ったことのある隊員がいればいいのだが」
「組織? そういえば貴方達が何者なのか聞いてなかったですね」
ここに来てココラから飛んできた質問に、フジヤマとオーカーはココラに経緯を話させながら自分たちの立場を説明していないことに気が付いた。
今度こそ自分が説明してやろうと口を開いたオーカーだったが、ここでもまたフジヤマが彼女のまどろっこしい説明をさせないように先に台詞を吐く。
「俺達は、『多次元救護警察連合団体』、通称次警隊に所属している。いくつもの異世界を巡り、世界観での侵略行為や犯罪を阻止し、被害者を救助するのが仕事だ。
といっても、ついこの前試験に受かって入ったばかりで、これが初仕事だったりするんだがな」
「え! それじゃあ貴方達は、あの事件が起こることを知っていたんですか?」
「情報が入って調査していたってだけだ。確証はなかったが、まさかああも大事になるとは思わなかったよ」
「そうなんですか」
フジヤマの説明を聞いてココラの眉が動いた。異世界を巡る人、かつて勇者の世界にて幸助が出会い、ともについて行った白いローブを着た青年の背中を思い出したのだ。
「異世界を巡る……それってもしかして!!」
ココラがすぐにそのことを二人に問いかけようとするのと丁度同じタイミングに大き目のノックオンが響き、二人の意識がそっちに向いたことでココラの問いかけは流されてしまった。
「誰だ?」
フジヤマの問いかけに対し一切返事もせずに強引に扉は開かれた。だがフジヤマもオーカーも入って来た相手を見て文句を言う前に目を丸くしてしまう。
現れたのは今回の事件の渦中におり、犯人に名指しされていたイシヒメこと石動涼香だった。
「驚いた! 今回の騒動の中心にいたプレイヤーがやって来るだなんて」
「でもいい傾向だぞフジヤマ殿。我は彼女と話がしたかったのだ」
フジヤマとオーカーの話のベクトルが部屋に入って来た鈴鹿の方に向いたことで、ココラが問いかけようとした話は完全に流されてしまった。
オーカーはとりかけた決めポーズをフジヤマに妨害されつつもさっそく鈴鹿に問いかける。
「それで、突然部屋に入ってきて何用だ?
「頼み事があっただけよ。」
「頼み事?」
鈴鹿は胸を張った姿勢で部屋の中を歩きつつ答える。
「今回の事件の犯人、多分だけど私を狙っているの。あのイベントの最中に私のいた場所で事件を起こしたし、わざわざ私を名指しして来たから」
鈴鹿の言い分は的を得ている。アナウンスの相手は何度もイシヒメの名を呼び、彼女に仕事をさせないように脅しをかけてきているようだった。
言い分では鈴鹿が仕事をしなければさっきのようだ騒動はしないとのことだが、彼女個人だけの時にいつ狙われてもおかしくはない。
「つまり、貴方を護衛しろと」
「納得だな。我らがこれから貴方をお守りしようイシヒメ殿!」
「いや、貴方達二人は別にいいわ」
「「はいっ?」」
フジヤマとオーカーが揃って鈴鹿の言葉に首を傾げると、鈴鹿は二人の間を突っ切って奥にいたココラの手を握った。
「ココラ、貴方に私を守ってほしいの!!」
「私!? ですか!!?」
鈴鹿の言い分に一番驚いたのは、頼まれたココラだった。
・ヒデキ フジヤマ
第三章より登場
・オーカー トダマ
第五章、中盤より登場
ランの過去話、『FURAIBO《風来坊》STORY0』を番外編として投稿していきますので、是非ともそちらも一読していただけるととても感謝です!!
『FURAIBO《風来坊》STORY0』リンク ncode.syosetu.com/n6426it/
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