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ココラー5 異常事態

 そこからのゲームイベントも大いに盛り上がっていた。

 アイドル的存在でありながらトッププレイヤーでもある鈴鹿によって次々とモンスターは撃退されていき、他のプレイヤーもこれに負けじとそれぞれで攻略していく。


 ある者は小型モンスターを確実に撃退してポイントを加算していくプレイヤー。またある者は誰かがある程度ダメージを与えた大型モンスターにトドメを刺してポイントを横取りするプレイヤー。


 ひっそりと立ち回りつつプレイヤー達の動きを見ていたココラは、どれも高ランクなだけあって凄いと思えるものだったが、やはり鈴鹿だけは他より数倍上手に見て取れた。


(ゲーム内とはいえこの強さ。もし私のいた世界でこの人たち存在があれば、とても頼もしかっただろうなぁ……幸助ばかりに、無茶をさせることにもならずに済んだのかな……)


 またしても頭の中にコウスケの顔が思い浮かぶ。だがすぐにココラは我に返り、いけないと首を横に振って思考を戻した。


(ダメダメ! 私は彼の背中を押したんだから。一方的に後悔するなんてことあっちゃだめ!)


 今はとにかくゲームに集中しなければと意識を再度切り替えるココラ。その内にも鈴鹿は群を抜いて次々にモンスターを大量に撃退。ポイントを加算させていく。舞い踊るように戦う彼女の姿はとても美しく見えた。


「鈴鹿さん……凄い」


 思わず声に漏れてしまうココラ。一方の鈴鹿は地面に着地した瞬間に後ろ近くにまで迫っていた中型モンスターを回し切りで横一線に真っ二つに切り裂く。

 切り裂いた相手のその奥で他のプレイヤー数人が大型モンスターに苦戦しているのを目にすると、今いる位置から真っ直ぐにミストルテインを発動。またしても一撃で大型モンスターを撃退した。


 観客も人気プレイヤーの圧倒的な活躍にを始めとして大いに盛り上がり、歓声が沸き起こる。


「イシヒメ様かっこいいーーーーーー!!!」

「あのプレイヤーやるな~」

「今回のイベントめっちゃ白熱してるじゃん!!」

「今回のチケット当たってよかったぁ!!」


 開始時間から一時間が経過し、ヒートアップする会場。プレイヤーも観客も中央での戦いに熱中する中、一人だけ静かに会場を抜け出す人物がいた事には誰も気づかなかった。


 この瞬間にも鈴鹿によって大型のモンスターが撃退され、他のプレイヤーよりも圧倒的なポイント差を作り出した。


「クソッ! このままじゃイシヒメの圧勝じゃね~か!!」

「もっとポイントを稼がないと。大型のやつで手ごろな対象はいないかな~」


 なんとか鈴鹿に追いつきたい他のプレイヤー達。その内の一人がふと目線の先にここまでとは違う大型モンスターが出現する様子を見つけた。


「ちょうどいいところに! あれが出てきた瞬間に撃退してポイントを稼いでやる!!」


 自分なりの企みを持ちながら杖を右手に持ち走り出す魔法使いの女性プレイヤー。だが次の瞬間、ここまでとは違う大きな異変が起こった。

 出現したモンスターは向かってくるプレイヤーに対して単純な裏拳を仕掛けてきたのだが、その動きが他の大型モンスターとは明らかに素早かったのである。


 この攻撃に対応しきれなかった魔女は攻撃を直撃で受けた挙句、吹き飛ばされて観客席下の壁に激突した。

 鈍く大きな音が響き渡りって会場にいた全員、特にプレイヤー内で一番このゲームに精通している鈴鹿が大きく目を見開いて驚いていた。


「何……あれ……」


 鈴鹿が動揺していた理由は、攻撃を受けたプレイヤーのダメージではなく、攻撃のショックによってひびが入って陥没したステージの壁に対してだった。

 この戦いはあくまでゲーム、いくらモンスターが攻撃をしたとしても、現実の建造物が破壊されることはないはずだったからだ。


「なんで建物に損傷が……」


 鈴鹿が困惑していると、次に彼女の耳に男性の悲鳴が聞こえてきた。


「ギャアアアアアアアアアァァァァァァァァ!!!!」」


 悲鳴に大勢が振り返ると、一人の男性プレイヤーが変身を解いた姿でモンスターに襲われ、出血する被害に遭っていた。


「ログインが解けている!? それに怪我を!?」


 この二つの異変を皮切りに、ゲームイベントの雲行きは一気に暗くなっていった。

 次々と出現する新たなモンスターがプレイヤーを襲い始め、攻撃を受けたプレイヤーは変身が解けてゆく。にもかかわらず、モンスター達は生身の人間に対してまで牙を向けようとしてきた。


「オイ! なんで怪我してんだ!? あのモンスター立体映像じゃないのかよ!!?」

「まさか実態だっていうの!?」

「こんなの聞いてないぞ! 本物の化け物なんて相手に出来るかぁ!!」


 明らかな異常事態。これに場の全員が混乱し観客、プレイヤーそれぞれがほとんど全員出入口に走り出していく。

 だがどういう訳か出入口の扉は開かず、全員閉じ込められていた。


「あれ!? 扉が開かない!!?」」

「なんで鍵かかっているの!?」

「馬鹿! 退け俺が出るんだ!!」

「うわっ! 押すな!!」


 数か所にそれぞれ多人数が密集していく中、大型モンスターの一体が大きく口を開き、喉の奥から光を放ち出した。

 密集の後ろ側にいたプレイヤーの何人かがこれに気が付き、顔を青ざめる。


「オイ! あのモンスター何か撃ち出そうとしてるぞ!!」

「嘘っ! 本当に光線撃つ気じゃ」

「早く扉開けろよ!! このままじゃ死んじまうよ!!」

「だから開かないって言ってるだろ!!?」


 問答もむなしく身動きが取れないプレイヤー達にモンスターはまるで感情がない機械のように一切の容赦なく、プレイヤー達に狙いを定めて光線を発射した。

 一瞬にして近づいてくる光に対する恐怖で目を閉じる者、姿勢を低くする者。動作はそれぞれながらどうにしろ彼等に生存の希望はない。そう思っていた。だがそこに、一人の女性の声がハッキリと聞こえてきた。


「<聖壁(せいへき)!!>


 直後、発射された光線が何かの障壁にぶつかったように弾ける音が響く。

 ここでプレイヤーの何人かが目にしたのは、自分達から少し間を開けた位置に足を広げて立ち、持っている杖を指すことで円形の輪郭に模様が描かれた魔法陣のような壁を発生させているエルフの姿だ。


「何だあれ!?」

「止めてる? あの光線を!?」

「何者なのあのエルフ!? 今回のプレイヤー!?」


 次々に騒ぎ声を出す人々を背中にするも、攻撃を防いでいるココラにはそれを聞き取る余裕があまりなかった。


(重い! この光線、確実に実態がある。聖壁を解いた最後、私は後ろの皆さんと共に吹っ飛ばされてしまう!!

 でも相手の光線の持続時間が分からない以上、このまま耐え続けているのもリスクがある。なら!)


 ココラは杖の向きを微かに操作して聖壁の傾きを調整、観客席に壁の正面が向かないように位置を変えると、一言叫んだ。


「<反射(リフレクト)>!!」


 すると聖壁から白い光が相手の光線を飲み込む勢いで発射され、大型モンスターの首から上に光線を浴びせて消し飛ばしてみせた。


「フゥ……(相手の攻撃で受けたショックをそのまま光にして押し返す魔術。効いてくれて助かった)」


 頭部を失ったモンスターは前方に倒れた。プレイヤー達は自分達を次々負傷させたモンスターを一撃で撃退したココラに注目するも、彼女は他のモンスターを対処するために急いで走り出した。


(さっきの怪我から始まった異常事態。何故かは分からないけど本物の魔物が出現している! だとしたら私しかこの場に対処が出来る人はいない!

 数は十体以上、間に合うかな? いや、間に合わせるしかない!!)


 ココラは次に一人のプレイヤーを爪で引き裂き重傷を与えた上に追い詰めて殺そうとしている小型モンスターを発見した。

 プレイヤーの方はすでに戦意を喪失しているもモンスターは動きを止めようとしていない。


「マズい!! <聖壁 衝撃(ショック)>!!」


 モンスターがプレイヤーを爪で貫通しようとした直前にココラは再び聖壁を発生させて攻撃を防ぐと、今度は生成した防御壁をそのままモンスターに勢いよくぶつけて弾き飛ばし、近くの壁に激突させて撃退した。

 モンスターを倒してすぐに負傷したプレイヤーに近付いたココラは、即座に杖を近づけて聖快をかけた。ついさっきまで重症状態だったのが数瞬の間に五体満足になったプレイヤーは自分の身体の回復に困惑していたところにココラが声をかけた。


「逃げてください! って言ってもこの場が閉じ込められているので何ともですが、とにかくこの場から離れて!!」

「ハッ! ハイィ!!」


 そこからもココラはステージ中を駆け回ってプレイヤーを救助しつつモンスターを撃退してまわる。

 このイベントを主催する側である鈴鹿は何が何だか分からずに呆然と立っている事しかできない中で、テキパキと動きながら人を助けモンスターを撃退していくココラの姿に注目していた。


(こんな状況で、率先して動けるなんて……あのエルフ、どんな生活を送って来たの!?)


 恐怖で身震いが止まらない鈴鹿が評価を改めているココラだったが、当の本人には汗が滴り明らかに疲労が蓄積していた。

 勇者の世界内でもチート性能を有していたココラだが、彼女のは幸助とは違いあくまで回復や防御を主体とするサポート方面のもの。応用で多少の攻撃は出来るが、その場合はどうしても幸助より消耗が激しくなってしまうのだ。


 だからといってココラに休んでいる暇などない。人間視点には広いとはいえ、実体を持つ巨大な生物にとってこのドーム内は都市以上に窮屈な空間だ。

 一刻も早く討伐しなければ会場を丸ごと破壊されかねない。魔物になじみなどない世界だ。このまま突然奇怪な生物が外に飛び出せばより一層大事になる。


 だが気持ちはあっても体がついて行くわけではない。消耗の多い技に数多い敵。徐々に疲労が溜まり汗が増えていく。


 挙句先行きの見えない救助に限界が近づいてきたココラはまたモンスターに襲われているプレイヤーを発見した。しかも今度は二か所、別々の場所でだ

 だが今から走り出してもとても間に合いそうにない距離。ココラは焦る表情を浮かべながら考える。


(間に合わない! こうなれば、あの技で)


 だがココラが何かを仕掛けたその時、突然モンスターに異変が起こった。一方は何かに貫かれたように体に巨大な穴が開き、もう一方は頭や腕が一瞬で消滅してどちらも撃退された。


 自分は何もやっていないのにモンスターが撃退された事態に動きが止まってしまうココラ。撃退された遺体が倒れると、モンスターの身体に隠れていた人物の姿が目に見えた。


 穴を開けた人物は右半身を魚のような鱗に包まれた奇怪な姿の青年。もう一方は左目に白目が存在せず、全体的に黒い独特な瞳を持ったゴスロリ姿の少女だった。

ランの過去話、『FURAIBO《風来坊》STORY0』を番外編として投稿していきますので、是非ともそちらも一読していただけるととても感謝です!!


『FURAIBO《風来坊》STORY0』リンク ncode.syosetu.com/n6426it/


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