ココラー4 ゲームイベント
鈴鹿達と別れてから元いた勇者の世界に戻れる方法がないかを模索し歩き回っていたココラ。
しかし手掛かりの一つもない状況で何をしたところで事態が好転するわけもなく、一行に何も変わらないまま翌日にまで時が進んでしまった。
長時間歩き続けて疲労が生じたココラは、事情を聴いた鈴鹿からもらったおこずかいでどうにかコンビニで購入出来たパンをゆっくり噛みしめて食べていた。
「フゥ……鈴鹿さんに出会えてよかった。でなければ今頃何も食べられず倒れていたかも」
どうにかその日の上を満たすことが出来たココラだったが、あまりお金にも気持ちにも余裕がない彼女は直後に不安がため息となって吐き出されてしまう。
「ハァ……元いた世界に変える方法に宛はないまま。そもそも迷い込んできた世界だし、そもそも世界を渡る方法なんてないのかもしれないと思うと……」
ココラが自分の暗い現実を改めて自覚したためにより落ち込んでいると、このまま落ち込んでいても仕方ないと頭を横に振って不安を振り払おうとする。
(ダメダメ! もしそうでなかったにしてもしょんぼりしていてはいけない! 何か明るい事でも考えて……)
ココラは頭の中に幸助達との冒険の光景を流して悦に浸ろうとすると、その中でふとつい昨日の鈴鹿とのやり取りを思い出した。
「そうだ。昨日のチケット」
ココラは思い出したかのように鈴鹿のマネージャーからもらっていたチケットを取り出す。もっともココラに日本語の文章は解読しきれなかったため、明確な説明は理解できなかったが、話に聞いてイベントが今夜行われることは理解していた。
「確か今日の夜って……」
せっかくもらったチケット。そしてこの世界で今のところ唯一出来た縁を無下にするのも申し訳ないと感じたココラは、今夜このイベントに参加することに決めた。
最もココラは異世界人。チケットに記載されていた場所や行き方については理解できなかったのだが、外国人に装って道行く人に尋ねることによってそこら辺の不安は解消された。(実際日本とは違う所から来ているし……)
こうしてココラがいざイベント会場に到着してみると、既に集まっていた参加者達が会場の壁がほとんど見えない程にたくさん集まっていた。
「人がこんなに……とても人気なんだなぁ……」
始めてくる現代日本の巨大な建物に緊張しつつ周りを何度も見回してしまうココラだったが、時間が来たことで動いたイベント参加者の波に押されて半強制的に移動させられてしまう。
どうにかこうにかでようやく波が止まった時には、ホール内のメインアリーナにまで移動しきっていた。中から見ても圧倒的に広いドームというものにココラは口をポカンと広げて天井付近を見入ってしまう。
(ニッポンにはこういう場所があったのですが……王都公式戦の闘技場くらいの広さを建物内に包み込んでしまっている……これを魔術なしで作っているだなんて、本当に凄い世界だな~……)
この世界に来て関心してばかりのココラ。彼女が呆然と上を見続けていると、広いドーム内にいる全員がハッキリと聞こえるほど大きな音でアナウンスが鳴り響いた。
「皆様!! 本日は『ギャラクシーラグナロク』トップランク特別イベントクエストにお越しいただき、誠にありがとうございます!!!」
ここらは姿が見えないのに人間の声が聞こえている事態に驚いた。
これもこの世界技術なのかと思いつつ何処から声が聞こえているのかと再び周辺を見回してしまう中、アナウンスが一度途切れた途端に全員が注目している奥のステージに突然煙が吹き上がった。
アナウンスをかき消しかねない煙の音にココラも他の全員と同じ方向に視線を向けると、煙が晴れたステージの上にアナウンスの声の正体である人物が姿を現した。
「アイドルプレイヤーの『イシヒメ』で~す!!」
「鈴鹿さん!?」
ココラとお茶をしていた時とは違い、モニターに映っていた時と同じ姿と明るい様子でステージ上に上がる鈴鹿。ココラの周りにいる人達は鈴鹿が姿を見せた途端にテンションが上がり、各々が興奮した声を上げた。
「ウオォーーーーー!!! イシヒメだぁーーーーー!!!」
「イシヒメちゃ~ん!! 可愛いよぉ!!!」
「本物だぁ!! モニターで見る姿よりめっちゃ可愛い!!!」
鈴鹿は次々上がってくる明るい声に笑顔を見せて左上に挙げて大きく振りながら挨拶を続けていた。
「今回、中央ステージに集まってくださったプレイヤーの皆さんは、ここまでゲームのランクを駆け上がってきた猛者達!! ここまで本当に頑張ってくださり嬉しいで~す!!!」
「ほえっ!!?」
関心していたココラの表情が崩れた。ここに来て初めて彼女は今自分がいる場所がギャラクシークロニクルのランキング上位集団の中にいることを知ったのだ。
(ここにいる人、皆ゲームを頑張ってきた人達!? よく見ると上の方を取り囲むように座って見ている人がいっぱいいるし! もしかして私、来る場所を間違えて!?)
ココラが気付いた時にはもう遅かった。出入口は塞がれ、鈴鹿はゲームのルール説明を始める。
「ルールは簡単! 制限時間二時間以内にステージ上に次々現れるたくさんのモンスターを撃退して、ゲットした合計ポイント数が多い人が勝ち!!
モンスターは大、中、小と大きさが分かれ、大きな個体を倒すほどに大きな得点が加算されま~す!!」
鈴鹿が話を一度切って手を軽く叩くと、集まったプレイヤーの周辺や上空に大量の立体映像が映し出された。恐竜や翼竜に似たものもあれば、ゴーレムに似たものも現れている。全てこのイベントのために用意された討伐用のモンスターなのだろう。
続いて鈴鹿が上空に右腕を上げると、空中から光の粒子が集まっていき一瞬にして細身の長剣として実体化した。
「ちなみにこの戦い、私も参加させていただきま~す! 現役トップの私を抜き去ってトップに躍り出るよう、みんな頑張ってね~!!」
鈴鹿の参戦を聞いてプレイヤー達のテンションがより一層高まっていく。
「オオオオォォォォォォ!!!! イシヒメちゃんも参戦だぁ!!!」
「よっしゃぁ!! イシヒメと並び立ってやるぜぇ!!」
「優勝するのはアタシよ!! イシヒメだって追い抜かしてみせるんだから!!」
各々で気合を入れていくプレイヤー達に鈴鹿が合図を送った。
「それじゃあ皆さん!! デバイスを構えて~! レッツログイ~ン!!」
プレイヤー達は次々とデバイスに声をかけて起動、甲冑を着込んだ戦士や大きな杖を持った魔法使い、身軽な服装の武道家と様々な姿に変身していく。
一人取り残されてつい先ほどまで格好が浮いていたココラだったが、こうなると自然と人ごみの中に紛れ込んだ形になっている。
はじめどうするべきか混乱していたココラだったが、自分と同じ色物になった周辺の人物を見て頭の中で整理が付いた。
(そ、そうだ! こうなればゲーム時間の間この場に紛れて戦っている風に装っておけば穏便に事が収まる。皆さんにご迷惑が掛からないよう出来るだけ陰に潜めよう)
ココラも内心でこの場での自分の行動を決めた直後、鈴鹿が再び声を上げた。
「それでは皆さん! いよいよ開始カウントダウン! 五秒前~!!」
台詞と同時に鈴鹿の頭上に巨大な5の字の立体映像が映し出された。数字は4、3とだんだんカウントが下がっていく。
プレイヤー達がこれに武器を握る拳の力を強めたり深呼吸をして気持ちを整えていると、とうとうカウントは0となると数字が消えて<GAME START>の文字が映し出され、立体映像で出現したモンスター達が一斉に動き始めた。
対抗するプレイヤー達もモンスターとほぼ同時に動き始め、各々が様々なモンスターを撃退するため向かっていった。
「よっしゃあ! まずは一体倒して勢いを付けてやる!!」
男性プレイヤーの一人がハンドガンを構え、小型のモンスターを狙い撃ちしようとする。
ところが照準を合わせる前に小型モンスターは素早い身のこなしで動き、銃の攻撃範囲から外れていく。
「ナッ! 速すぎだろ!! だったら大型を!!」
狙いを変えて大型に銃の照準を合わせて攻撃を仕掛けた。こちらは素早く動きは出来ず的が大きい事もあって何発も命中した。だが大型のモンスターはその巨体によって分厚い身体をしており、攻撃が当たってもダメージが入っている様子が見受けられなかった。
「クソッ、こっちは硬いのか! これじゃ全然倒せそうにないぞ」
「オイ! 何だよあれ!?」
目の前のモンスターの討伐に苦戦している男性の耳に響いてきた大声に思わず顔を向けると、軽やかな足取りで宙を舞うように移動する人物が次々とモンスターを撃退していく鈴鹿の姿が見えた。
小型モンスターは逃がす前に的確に急所を突いて仕留め、中型には一瞬にして何回も剣撃を振るって腹から食い破るように撃退していく。
「な、何だあれ!? あっという間に次々と!!」
「これが、イシヒメの戦い方!」
そこで目を奪われた男性プレイヤーは戦っていた大型モンスターが攻撃してきたことに気付くのに遅れ、回避にも防御にももう間に合わない。
「しまった!!」
しかしモンスターの攻撃が当たる直前、先程モンスターを連続で撃退していたプレイヤーが彼の前に現れ、左手を伸ばして前へ、剣を持つ右手を弓を引くような構えで後ろに引いた。
すると左手に弓が生成され、発生した弦が剣の持ち手に引っかかかった大きな弓矢の形をとった。
「<ミストルテイン>」
右手を放して矢のように発射された剣は大型モンスターの胸をいとも容易く射貫き、空いた穴を中心にして全身に広がらせたダメージが大型モンスターを消滅させた。
「一撃!?」
技が終了すると、左手の弓が光を放ちながら変形し、発射された分の代わりの剣の形をとった。
一連の流れは、異世界で本当の先頭を経験しているココラですら驚くものがあった。
(凄い。幸助の豪快な戦い方とは違う機動力に優れつつも的確に攻撃を当てている。これは本当の戦闘ではないけど、相当鍛えていないとできない動き。
これがこの世界のそのゲームというものにおいて一、二を争う実力!!)
トッププレイヤーである鈴鹿を中心とし、盛り上がって来たゲームイベント。
後に怒る大きな騒動を、この時は誰も予想だにしていなかった。
ランの過去話、『FURAIBO《風来坊》STORY0』を番外編として投稿していきますので、是非ともそちらも一読していただけるととても感謝です!!
『FURAIBO《風来坊》STORY0』リンク ncode.syosetu.com/n6426it/
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