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ココラー2 ログイン

 ココラは自分の今の状況が理解できずに混乱し、ただ茫然と立ち尽くしていた。


 見た事のない建物、見た事のない地面、見た事のない服装。目に映るすべてが自分の知るそれ方逸脱し、いきなり理解する方が難しいものだ。


(な、ななな! 何なのここ!!? 変な建物ばかりだし! 変な恰好ばっかりだし!! よく見るとみんな変なものを耳に当ててたりしてるし!!!

 ここは!? ここは一体何処!!? 魔王城の周りでも! いやいや、いままで旅をしてきてこんな所一度も見た事がない!!)


 混乱する思考に押されて焦ったココラが考えなしに道に飛び出してしまう。周りの人達は突然現れたヘンテコな恰好の人物に驚く者もいたが、ココラに比べてあまり動揺がなかった。

 黒い道の端に用意された策の付いた段のある道に左右に何度も首を振りながら緊張して歩き続けるココラ。ふと見かけたものに彼女は足を止め、近づいた。


「これは……文字?」


 ココラが見たのは、建物のそばに置かれた立て掛け板。位置や用途からして看板のように見えるそれに書かれた模様だった。

 しかしここでココラは過去の記憶が脳裏に浮かぶ。幸助と旅をしている中彼に聞いた、彼の住んでいた異世界についてだ。

 その中には、幸助がもともとの世界で使っていた文字についても教えてもらっていた。この模様はそれにそっくりなように見えた。


「これは! コウスケが言っていた……確かカンジ……だったかな?」


 改めてココラが周りを見ると、看板に書かれている者とは違うが似たような模様が至る所に見受けられる。漢字、ひらがな、カタカナ、アルファベット……すべて幸助から聞いていたものと同じだ。


「コウスケが元いた世界で使われていた文字!? それにここの人達の姿、もしかしてこれも幸助が言っていた! スーツ? それにTシャツ? 全部コウスケが教えてくれたものばっかり!! それじゃあここって……」


 ココラが動揺を収めつつ今自分がいる場所に見当が付き始めたそのとき、この付近で一番高い建造物の上部に取り付けられている長方形型の窓に似た何かが光り輝き、大きな音楽が響くと共にとてもリアルな女性の絵が映り動き始めた。

 ようはモニターが起動したのだが、中世時代出身のココラにはまず分からないのも当然だろう。


 映し出されたのはパット見てわかるほどの美少女。だが姿はココラと同じく明るい髪色に瞳とどうもこの世界で見かける黒髪の人のものとは違って見えた。


「お集まりいただいたみなさん! こんにちわ~!! 『イシヒメ』です!!」

「絵が動いた!? それに声まで!? そうか、あれが()()()? ()()()()ってやつ?」


 取り戻しかけた理性がまた吹っ飛びそうになるココラだが、この場にいる人たちが彼女以上に盛り上がりだしたことで声が簡単にかき消された。


「よっしゃ来たーーー!!!」

「今回こそ俺が勝つ!!」

「イシヒメちゃ~ん!! やっば写メ撮っとかないと!!」


 何にどうして盛り上がっているのか見当がつかないココラがキョトンとしていると、絵の女性イシヒメが明るい声で話を続ける。


「さっそく始まる今回のイベントクエスト! 巨大モンスター撃退勝負!! フィールド内にて出現するモンスターを一番早くに撃退した人に大量のポイント加算! 他様々なミッションをクリアすることで、それぞれにボーナスポイントが加算されま~す!!

 いよいよ近付いた総合ランキング戦出場のため! 皆さん! 頑張ってくださいねぇ!!」


「「「「ウオオオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーー!!!!!」


 歓声に驚いたココラが瞬きをしてびっくりすると、その一瞬の間に突然人々の集まる前方に巨大な魔物が現れた。


「魔物!? いきなりどこから!? いやそんなことを言っている場合じゃない!! 助けないと!!」


 目の前の人達を助けようと駆け出そうとするココラだが、ここで彼女の目に集まった人々たちがポケットやカバンから同じものを取り出して構えている様子が見えた。

 そしてそれぞれが銃の引き金部飲み残したような奇妙な道具を掲げ、同じセリフを口にする。


「「「「ログイン!!」」」」


 すると次の瞬間にココラの目の前で人々の身体が突然眩い光に包まれた。あまりの眩しさに腕で目を隠すココラ。光が収まって再び彼女が前を見ると、先程まで奇妙な恰好をしていたはずの人々が、ココラにとって見慣れた騎士の甲冑や狩人の服、自分と同じ僧侶の服装に変化していた。


「ええっ!? ええええぇ!!? 何がどうなって……」


 慌てるココラを余所に人々は自分からそれぞれの武器、拳を構えて出現した魔物に立ち向かっていった。


「しゃあ! まずは俺がファーストアタックだ!!」


 声を上げた若い騎士風の男が高く飛び上がり、魔物に対して剣を振るう。だが魔物はこれに対応して口を大きく開き、火炎放射を吐いて攻撃を仕掛けてきた。

 攻めることばかりに意識していた男は空中で回避が出来ずに直撃した。


(火炎! マズい、回復しないと!!)


 ココラは杖を男の方に指して聖快をかけようとするが直後、炎の中から火傷の一つもしていない状態で落下し、体を動かして地面に着地した。


「クッソ、焦って体力無駄にした!!」

「無傷! 火傷もしていない!? さっき炎を受けたのに!!?」


 次々発生せる事態に理解が追い付かないココラ。一方の集団の内一人は男の事をあざ笑いながら魔物から距離をとった。


「バカな奴。真正面に突撃したって損しかないのに」


 その女性が両手で不自然な構えをとると、何もなかった場所にライフルが出現した。女性はスコープで魔物の身体を捉えると、弾丸を発射して見事命中させた。

 攻撃が当たった瞬間、女性の武将にアルファベットによる言葉が出現した。


<FASTATTACK>

「よっしゃ! ファーストアタックボーナス獲得! ポイントは貰ったわ」

「チッ! 狡い奴に取られた」


 ココラが何もわからないままで立っている中で、そこからもこの場にいる人たちが次々と魔物に対して攻撃を仕掛け、時に周りを助け、時に周りを邪魔しながら戦っている。

 攻撃を当てて喜ぶ人、嫉妬し文句を口にする人。まるでこの戦い自体が一つの遊びであるかのような光景。彼らが戦う直前に聞こえてきた女性の声の言う通りのようだ。


 大勢の攻撃によって相当なダメージを受けたのか動きが鈍くなってきた魔物。これを確認した彼等はそれぞれがそれぞれで何か技を発生させるためか独特な構えを始める。


(よ~し追い込んだ。あとはこれを当ててフィニッシュ! 撃退ポイントは俺のものだ!!)

(な~んて頭でっかちがいるんでしょうね~……残念、アタシの技の方がはやいから無駄。ポイントはアタシのものよ!!)

(ふふふふふ……ここまで大規模なイベントだぞ。ここで大技を当てても倒せるとは限らない。他の連中が攻撃してへばったところを私がかっさらう! これぞベストだ!!)


 各々企みを考えている人々達。もはやココラが何も行動をとれなくなっていると、彼等の内の先頭勢が魔物に対してトドメの大技を放とうとした。


 ところがそのとき、突然彼等はおろかココラから見ても後方から一瞬にして飛び込んできた何者かが巨大な剣を振るって魔物の首を切り落とした。

 切り落とされた魔物の頭部はガラスが割れるように粉砕し細かい破片は消滅し、途端に残されたほとんどの身体も同様に消滅。畳みかけるように魔物のいた位置に大きな文字が出現した。


<GAMECLEAR>


「ナッ!!」

「今の攻撃何!? ずっと後ろから狙ってたの!?」

「おいしいところだけ持っていかれたぁ!!」


 最後の一太刀だけで全てを搔っ攫っていった人物。イケメンとまではいかないものの平凡並みかその少し上くらいに容姿は整っており、他の人物とは違うかなり軽装な格好をして大剣を構えている。

 周りが男に対しての文句や悔しさをに出しているも、彼はそれらの声を聞くことなく小さく独り言を呟いた。


「違ったか……何とかしないと……俺が」


 男は右手に持った大剣のサイズを縮小させて背中に携えると、野次を言う人たちを無視してその場を去っていった。

 集まった人達もこれに不平不満を畏怖抱きつつそれぞれで台詞を吐いた。


「ログアウト」


 言葉を口にした彼等は次々瞬時にスーツやTシャツといった元々の服装に戻っていき、解散して散りぢりになっていった。


 ここまでの一連の流れに何もすることも、何も理解することも出来なかったココラ。現在彼女は博物館に展示されている像のように固まって動かなくなっていた。

 だがこの膠着状態も次に崩された。先程男が飛び出して来たのとは別方向から走り出して来た何者かが、必死に走るあまり目の前のココラに気が付かなかったのかぶつかってしまった。


「アッ!」

「痛っ!!」


 お互いに転倒し尻餅をついてしまう二人。相手の方ははめていたサングラスが外れて落ちてしまう。


 短時間で二度目の転倒ということもあってかココラはすぐに周りに配慮が出来る余裕が出来たため、ぶつかってしまった相手に声をかける。


「あの、大丈夫ですか!?」


 ところがココラの優しい態度に対して相手側は焦った様子で彼女の差し伸べた手を無視して立ち上がり、前方を見る。


「邪魔よ! すぐに追いかけないと私……あ……」


 何かを探しているかのような態度でココラを突き放す彼女だったが、途端にその何かを見失ったのか走り出しかけた足を止めた。


「もういない……ようやく見つけたのに……」

「え? ああ、すみません……あれ?」


 落胆した様子で顔を下に向けるその人物。ココラは下から見上げた相手の顔に首をかしげてしまう。今目の前みた女性の顔にどこかで見覚えがあったからだ。


 だがどこで見たのか思い出せないココラだったが、ちょうどいいタイミングに聞き覚えのある音楽な耳に入ってくる。

 音につられてモニターを見ると、先程と同じ女性が姿を見せてテンション高めに声を出している。内容からして何かの宣伝らしい。


「世界各地に出現する凶悪なモンスター! 勇気を持ちプレイヤーよ! 今こそ立ち上がれ!!

 GINGAGAME(ギンガゲーム)、『ギャラクシーラグナロク』! 大好評発売中!!!」

「ええっ!!?」


 ココラは大きく声に出して驚いた。今さっき目の前で行われていたことがゲームであった事……


 ではない。それに関してはココラがゲームという物自体をよく知らないためありえないのだが、とにかく彼女が驚いた理由は別にある。

 それは目の前で顔を見た人物。彼女の顔とモニターに映っている女性『イシヒメ』の顔が瓜二つだったのだ。


「あ、あなた……もしかして……」

「え?」


 ココラに困惑した様子で問いかけられた女性は自分の顔に手を触れてサングラスがない事に気が付く。


「あれ? もしかして……あ!!」


 女性は地面に落ちたサングラスを確認した。


「しまった! やば!!」

「貴方! やっぱり!!!」


 ココラにぶつかった女性、彼女がモニターに映っていた人物『イシヒメ』だった。

ランの過去話、『FURAIBO《風来坊》STORY0』を番外編として投稿していきますので、是非ともそちらも一読していただけるととても感謝です!!


『FURAIBO《風来坊》STORY0』リンク ncode.syosetu.com/n6426it/


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