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ココラー1 貴方がいなくなった世界

 澄み渡った青空の下。輝く太陽の光を受けて成長した木々の下。汚れ一つない綺麗な泉の中で体を清めている女性が一人。


 色白の肌に金色の美しい長い髪の一部を束ね、耳の先端が横にとんがっている。創作作品に親しみのある人が見れば、これは『エルフ』のそれだと認識するだろう。


 彼女は『ココラ』。以前勇者『西野幸助』と共に人々を苦しめていた邪悪な魔王を倒し世界の平和を取り戻すために共に冒険をしてきた仲間だ。


 そして彼女がいるこの世界は、俗にいう『勇者の世界』。世界観は中世ヨーロッパのファンタジー作品に登場するような明るいながらもどこか美しい風景が広がっている。

 その中に紛れ体を洗うココラの姿は、見る人が見れば美しいの一言に尽きるだろう。


 だが晴れやかな景色や空気とは違い、ココラの心の中は曇っていた。


(幸助……今頃どんな世界を旅しているんだろう……ソコデイもアーコも、皆元気にしているかな……)


 現在、ココラは元の仲間と離れて一人で旅をしている。魔王が倒されて平和になった世界。だが戦いが終わったからといってすべてが解決するわけではない。


 魔物からの侵略行為やそれに対抗する争いにより、世界全土が疲弊しきっていた。

 この問題をいち早く解決し真の意味で世界を平和にするため、ソコデイは出身地である獣人族の集落を、アーコは元々使えていた王国の復興のために力を注ぐ流れとなった。


 三人は復興を終えた後にコウスケを含めて再会しもう一度、今度は平和的な冒険を共にする約束し一度離れる形となったのだ。


 ココラも出身地であるエルフの集落での復興に努めたが、元々以前の戦いに手彼女の出身地は幸助の活躍により他より損害が少なく、復興が早くに終わったのだ。

 そこでココラは集落の仲間達からの勧めもあり、一人先に仲間と再会する前に軽く冒険に出る運びとなった。


(いけないいけない! 私、また幸助の事を……彼が生まれた世界に帰れるように、応援するって決めたのに……)


 理性で分かってはいても心の中の思いはそうスッキリとは出来ない。身を清めて気持ちを整理しようとしたココラだったが、その行動にもあまり効果は見られなかった。

 モヤモヤしたままに泉から出たココラは畳んで置いていた服を着て、杖を恋しそうに握りながら場所を移動する。


 何処へ行っても気が晴れない。ココラにとって幸助という人物がそれだけ大きな存在だったという事なのだろう。

 足取りは少しふらつき、心ここにあらずといった様子を体現している。だがそれでもここらには今向かう場所があった。


 時間をかけて足を進めた先に彼女が到着した場所は、体を清めていた泉のある美しい風景とは真逆の、雷の音が響き渡る重い空気が流れ込む紫色の禍々しい空の下、慣れていない者が一目見るだけで恐怖を引き起こされる外観の城。

 ココラが幸助達と共に決戦の場として突入し戦った場所、魔王城だ。


 ココラがここに来たのには理由があった。彼女が集落に戻り、再び旅に出る際に村長からの頼みごとがあった。

 城に入っていくココラの脳裏に村長との会話が思い出される。


「魔王の剣、ですか?」

「あくまで儂も伝え聞いた話なのだがな。魔王は長きにわたり同じ剣を使い続けていたのだが、その繋がりか剣には魔王と同じ力を宿し、放っておけば魔物を生み出しかねないものになっているという。

 ココラ、お前は泉の力により強力な浄化能力を持っておる。どうか剣を見つけ次第、浄化してもらえないだろうか」


 村長の言うことが本当ならば幸助達との旅で終わらせたはずの戦いが再び始まりかねない。

 ココラは二つ返事で頼みを引き受け、旅の最初の目的地として城の中の一室、幸助とランが出会い、ランがここら達より先に魔王を倒した部屋に向かっていた。


(前回は幸助を見つけ次第城を離れた。何もなければあの部屋に魔王の遺体と共に剣が残っているはず)


 モヤ付いた思考はいったん置いておいて体に緊張を走らせつつ一歩一歩警戒しながら足を進める。

 だが目的地までの行く道での魔物との遭遇はないままに目的地の部屋の前にまで到着、ココラの不安はほぼ杞憂になった。後は部屋の中に魔物がいる可能性のみだ。


(円滑にここまで来れてしまった……なんだか引っかかるような気もする)


 ココラの思考に違和感がよぎるも、かといって部屋に入らなければ話は始まらない。ココラは息を呑みながら前回幸助が開いた大きな扉に手を触れ、彼の時より多少ゆっくりと扉を開いた。


 手入れをされていたいためかより鈍い耳障りな音を立てつつ扉を開くと、ココラは目を丸くして声をこぼし驚いた。


「これは!!……」


 ここらが見た部屋には、剣どころかランが撃退したはずの魔王の巨大な遺体が影も形もなく消えてなくなり、ランと魔王による戦闘の痕跡だけ残った空間だけが広がっていた。


「剣も、遺体もない!?」


 そんなことはないと自分の目を疑ったココラは何度も瞬きをし、部屋に入って首を回して端から端まで注意深く目視するも、やはり魔王の遺体も剣も影も形もなくなっていた。


(私達が城から出た後に魔王が移動した? もしかして魔王が生きて!? いや、それなら魔物が消えた理由が付かない。

 でも、それならどうして……)


 消えた可能性もあるが、移動した可能性もある。ココラは部屋を出て城中を駆け回った。しかしランが座ってもびくともしない程に巨大な魔王の身体が一部たりとも見つからない。


 走り続けて疲労が身体に回って来たココラは息を切らしながら城の廊下の壁に手を付けて寄りかかっていた。


「何処にも見つからない……何がどうして」


 目的の剣が見つからないと諦めかけたココラだったが、そんなタイミングにふと上げた目線に違和感のあるものが映り込んだ。

 一瞬だったが死角に入っていく人影。顔はフードを深く被っているようで口元しか見えなかったが、小柄な体が胸に抱えるように見えたそれにココラは注目する。

 抱えられていたものは、シルエットからして剣のそれに見えたからだ。


「まさか! あれって!!」


 ココラはすぐに追いかける。これを見失えば次はないとばかりの焦りから彼女の足は素早く動き、一瞬見ただけの相手に対して徐々に追いついてきていた。

 物陰に隠れつつ念のため様子をうかがうココラ。相手は足を止めた場所で何やら悪態をついていた。


「まさか部外者が乱入するだなんて……おかげで魔王様の計画にズレが生じてしまった」

(魔王の計画!?)


 ココラの目が丸くなる。今の含みのある台詞。部外者をランの事だとすると、まるで幸助が魔王と会うことに何か計画があったように思える。

 そしてその要があの剣だというのなら、放っておくのは危険だ。何とか近づいて剣を奪い取り、持っている人物からは話を聞きたい。


 しかしここでココラは焦って動いてしまい、近くに遭った砂利の音を立ててしまった。相手は音から誰かがいることに気付き、走り出して逃げ出していく。

 こうなれば実力行使とばかりにココラも追いかけるが、ここで相手の人物は剣を右手に持ち左手を広げて前に伸ばした。

 するとその人物の目の前に赤黒い渦が出現、彼女はその中に自ら飛び込んでいった。


「何! あの渦!?」


 未知の能力に警戒心が出てくるココラだが、それで足を止めて見逃してしまえば幸助にも危険が及びかねないと迷いを振り切り、相手が飛び込んだ時よりかなり小さくなっていた渦の中にギリギリで飛び込んだ。


 入った先の空間には地面はなく、ココラは宙に浮くような感覚に襲われて激流に飲まれるがごとく身体が流されていった。

 だがココラはそれでもめげずに目に見える相手を追いかけようと滝登りをする思いで泳いでいく。


 相手側はココラと違いこの空間を自由に動けるようで、追いかけてきた彼女に対して振り返ってフードの奥に隠されている瞳が殺気立った強気の視線を向けてきていた。


「貴様! ここまで追いかけてくるとは!!」

「あ!……あなたは一体!?……魔王の計画って!!」

「フンッ、まあいい。どうにしろここでお別れだ」


 何とか必死の思いで空間内を泳ぎ続けるココラだったが、そんな彼女に相手は左手を掲げると、ココラの後方に空間に入る時と同様の渦を発生させると、直後に紫色の雷撃を飛ばしてきた。


 追いかけることだけで限界だったココラに回避などできる訳もなく、何とか魔術を行使して前方に防壁を出現させるも協力場攻撃の衝撃に耐えきれず、ダメージこそ受けずも体を丸ごと弾かれて剣を持つ人物とは反対方向に弾かれてしまった。


「コウ……スケ……」


 相手はココラに背を向けて距離を離していき、その姿を小さくさせて消えていった。


 衝撃が悪い部分に当たったココラは意識をもうろうとさせてしまい、流れに抗う力もなくしてしまったために激流に流されるままに渦の中に入っていった。


「ごめん……なさい……」


 激流と攻撃のショックを受けたことによって意識を失いかけたココラ。そんなとき、彼女の脳裏におぼろげな光景が出現した。

 顔の見えない誰かに必死に呼びかけられる。だがなんと言っているのかここらにはわからなかった。なにより、彼女自身この記憶に覚えがなかった。


(何……これ……)


 浮かぶ光景に疑問を浮かべるココラだったが、すぐにそれどころではなくなった。

 渦から飛び出した彼女は、さっきまでの流れる感覚とは違う重力を受けて落下するような感覚に襲われ、後頭部から地面に激突したのだ。


「ガッ!!……」


 皮肉にも頭を打ったことでぼんやりしていた意識がハッキリとしたものに戻った。打撲した頭を左手で抑えつつ立ち上がったココラは、少しだけ目元に涙を浮かばせながら自分に何が起こったのかを確認する。


「イテテ……あれ? ここは」


 今いる場所が丁度影に包まれていたココラが身体を反転させた先に見える光に向かってトボトボと歩き出す。すると光の先に見えた光景にココラはどう反応すればいいのかすら分からなくなり、ポカンと口を開けて景色を眺めてしまった。


 今まで彼女が見てきたものと同じ青い空。だがその下には森もなければレンガ造りの家や森の木々は一切見当たらず、それらを優に超える高さの直方体状の建造物が密集して立ち並んでいた。 

 地面の色は黒く、一部に白い模様が描かれて大勢の人達が見た事もない服装で広い空間の中に集まっていた。


 ココラは気付けなかった。自分が勇者の世界とは違う()()()に来てしまった事実に。

ランの過去話、『FURAIBO《風来坊》STORY0』を番外編として投稿していきますので、是非ともそちらも一読していただけるととても感謝です!!


『FURAIBO《風来坊》STORY0』リンク ncode.syosetu.com/n6426it/


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