5-71 また会おう!
入隊試験の合格者達がそれぞれの部隊への配備が決まったその日の夜。ランから翌日には再び旅に出ることを指示された幸助は、用意された自室にて荷物をまとめていた。
片付けの最中、ふと幸助は自室の壁や窓の外に見える景色に思いふけっていた。
(この世界とももうすぐお別れかぁ……今回は結構長期間いたから、なんだか名残惜しい気持ちがあるかも……)
自分が忍者の世界で経験した様々な事を思い出していく幸助は、名残惜しいという思考から元々自分が暮らしていた勇者の世界での仲間たちの顔が頭に浮かんできた。
(ココラ……ソコデイ、アーコ……皆、元気にしているかな)
「幸助君」
思い出に浸っていたタイミングに突然後ろから名前を呼ばれた幸助は思わず身震いをしてしまう。扉を開けて入って来たのは、昼間に正体を告げたユリだった。
「ああ、ごめんなさい。一応ノックはしたんだけど、反応なかったから開けちゃった。鍵開いてたし」
「ユリちゃん……いや! 姫様」
「かしこまらないで。今まで通りユリでいいから」
「でも……」
「姫ってものさしで計られたくないの。だから止めて」
話しつつ表情が真剣なものになっていくユリに幸助は態度を改めた。
「そ、それなら……今まで通りに。これからもよろしく、ユリちゃん」
「どうも!」
調子が戻ったユリを見て安心する幸助。すると次に幸助は何故ユリが自分の部屋に突然入って来たのかが気になった。
「ところで、どうしてここに?」
「話があってね。ちょっと来てくれない?」
幸助は首を傾げつつもわざわざ呼びつけてまで話をしたいと言い出した事に何か重要なものを感じてすぐについて行くことにした。
招かれたのは昼間ユリが正体を明かした豪華なゲストルーム。部屋の中にはすでに来ていた南の姿もあり、用意されたパイプ椅子に座っている。
「南ちゃん」
「幸助君もユリさんに呼ばれて?」
幸助が頷いて南の近くに寄るとユリが同様のパイプ椅子を二つ取り出して一つを幸助用に手渡した。
「ありがとう。それで、どうして俺達をここに?」
幸助の問いかけに、ユリは手に持ったパイプ椅子を広げて座ってから答えた。昼間の時の豪華な椅子に座らないのは、お姫様扱いされたくないが故の事なのだろう。
「二人はこの度三番隊に入ってくれて、私の正体も知った。だから、もう一つの事も話しておいた方がいいと思って」
「もう一つ?」
ユリは一度沈黙して溜めると、静かながらどこか深く刺さるように声を出した。
「ランと私の出会いの事。今の三番隊になるまでの経緯。そして、前三番隊隊長でランの育ての親であるおじ様、『レオトラ キルンテン』について」
ユリの話したことに二人の意識が変わる。どう言及すればいいのか迷った中、先に口を開いたのは幸助の方だった。
「ランの、育ての親……俺、第二試験の時に少し聞いたんだ。現大隊長の無二の親友だった人で、性格がかなり尖がった人って」
「アハハ、否定はしないわ」
「でも、強い人だったって……」
「……うん」
ユリの表情が少し暗くなり、思い出すように幸助の説明に補足を付けた。
「強くて、乱暴だけど優しくて、私の子供の頃から慕ってた。でも……亡くなった」
二人の目が丸くなる。ランが後を継いだ。その時点で正直なところ予想していた範囲内ではあったが、いざ言われてみるとやはり心に来るものを感じる。
「ラン君も……育ての親を亡くして……」
「家族を……」
幸助の頭には義理の姉が、南の頭には自身の祖父が思い浮かぶ。その上ランが生まれ故郷を失った身ということを知っている二人は、この時点であることを理解した。
吸血鬼の世界でのランの行動。すでにズタボロの身体でありながらそれでもユリを必死で守ろうとした事についてだ。
「だからランは、家族に強い執着を持っててな。下手にユリちゃんに手を出そうもんなら怪我するだけじゃ済まへんからほんま怖いもんやで」
「「「ウワオッ!!?」」」
声を聴いて三人はいつの間にか部屋に入って来た上にごく自然な流れで会話に入って来た大吾に驚いて身を引いた。
「大吾君!? いつの間に!!」
「お前、もしかして今の会話!!」
「ああ、安心しい。ユリちゃんの正体はお前らより先に知っとる。疾風家は大隊長とズブズブなんでな。そこにおるお嬢さんも同様やで」
大吾がおもむろに指を指し多方向に三人が目を向けると、同じくいつの間にか部屋に入ってきていたファイアが堂々とした態度で立っていた。
「当然! アタシは隊長格の娘なんだから!」
「何でここにいるのファイアまで」
「ラン様とユリ様のなれそめ話! このアタシがいなくて成り立つわけないでしょうが!! 当たり前のことを言わないで!!」
「ええ、なんか俺怒られた……」
幸助は困惑し、南も冷や汗を流してしまうも、大吾は本題に戻してユリに頼んできた。
「ま、俺にも語らせてくれや。ユリちゃんの知らないランの事も少しは知っとるし、助けになるで」
「まあ、そうね。ランと大吾君は同期だし……」
納得したユリは一度わざと咳き込んで場の空気を静まらせると、もう一度語りだした。
「それじゃあ話させてね。多分長丁場になるから覚悟なさい」
その夜は、ユリによるランの過去話を聞いているうちに過ぎていった。
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朝を迎え、指定された基地入り口にまでやって来た幸助達。先に到着していたランが足音で気が付き振り返ると、揃って目の下にクマが出来ている二人に挨拶より先にツッコミが口から出てしまう。
「なんだその寝不足顔!? 今日出発って言ったのに徹夜したのか!?」
「ああぁ……」
「いや、その……」
どうにも口を開くのに戸惑っている様子の二人にランがしかめっ面になっていると、ぬいぐるみの姿でランの左肩に乗っかっていたユリが飛び降りながら変身を解き、振り返って説明した。
「いや~……私が昨日の夜長話をしちゃったから。それを引きずって寝不足なのよきっと」
「寝不足? どんな内容話したんだよ」
「ワタシとアンタの馴れ初め」
「ッン! お前勝手に!!」
ユリの台詞を聞きランは途端に機嫌を悪くして叱り付けた。しかしユリの方も負けじとランが本格的に説教をするより前に反論する。
「どうせアンタからは話さないんでしょ。これからは三番隊の一員なんだし、知って貰っておいた方がいいと思って」
ユリの言い分にランは苦い顔をしながらも文句を言うのをやめた。すると幸助と南が昨日聞いた話の内容を思い出し、気合を入れようと自分の頬を叩いて目を覚ました。
「そうだ! 俺達も眠たくしている場合じゃない!!」
「これからの旅路はもっと危険かもしれないんだ! 僕達も、ハッキリしないと!!」
二人のハッキリした様子を確認したランは軽く頭を掻きながら全員に聞こえるように声を上げる。
「よしよし、眠気は冷めたか。んじゃ、さっそく旅に出るか」
準備が整った四人。ランはさっそく移動しようとブレスレットをかざそうとするが、ここで幸助は一つ指摘を入れた。
「って、おいおい。色々とお世話になった人がいるのに、挨拶もせずに出ちまうのかよ!!」
「いざ始まると長いのは確定だ。それに、鉱石の世界の結晶はまだ見つかっていないらしい」
ランの台詞に全員に緊張が走る。
「早く見つけないと、ユリの世界が侵略されかねない状況は変わってないんだ。一刻も早く探し当てないと……」
幸助も南もランの言い分に意見を言えない。昨夜聞いた話の事があるのだろう。ユリも同様だ。
四人が少し暗い空気で揃って足を踏み出しかけた。だがいざ動きかけたその時、彼らの後方からまたしてもいきなり声が聞こえてきた。
「酷い話やなぁ。散々世話をかけさせておいて挨拶もなしに去るんかいな」
四人がまさかと驚きながら振り返ると、声をかけた入間を筆頭に今回の騒動を共に奮闘した仲間たちが集まって出てきていた。
「皆!!」
「せわしないなラン。同じ隊長としてはもう少し心にゆとりを持つことを進言するぞ」
ジーアスのアドバイスに頭がかゆくなるラン。そんな彼に肩を触れられた感覚を感じて振り払おうとすると、犯人である大吾が肩に触れた右腕で受け止めた。すぐそばには零名の姿もある。
「まだパワー落ちとんとちゃうか? 同期としても心配や」
「油断……大敵……」
「うるせえ、嫌味を言うな」
一方の幸助と南。今回の試験を共にした受験者達が次々押しかけてくる。最初に黒葉、次にメリーと挨拶をかけてきた。
「今回でお別れなんてないよな。俺、自分の力を見て認めてくれたお前たちの役に立ちたい! 何かあったら助けさせてくれ!」
「ワタシもデ~ス! 皆さんとお友達になれて嬉しい! 場所は違えど、頑張っていきましょう!!」
「うん! 僕も負けないように頑張る!!」
南が返事をする中、幸助はもじもじとしながら向かってくるオーカーと話をしていた。だがお互いお出かけ中のアクシデントを思い出したのか顔が少々赤くなっている。
「その……幸助君……」
「う、うん……」
オーカーはゆっくり顔を上げて幸助の顔を見ながら小さい声を段々と勇気を振り絞って大きくしていきながら話す。
「また……会えるよね!!」
「う……うん! 必ず!! また会えるよ!!」
「うん! うんうん!! その時は!! また一緒にお出かけをしよ!! ね!!」
思わず腕を掴むオーカー。幸助はこれに反応して顔をより赤くすると、オーカーもこれに気付いてそっと腕を放し縮こまってしまった。
「あ~あ、惜しいな」
「あれはまだまだかかっちゃうかもね」
オーカーの様子に後方に見ていたフジヤマとアキがコメントを出す。
「フジヤマさん! アキさん!」
二人の事に反応したユリが近くによると、アキが握手をしてお礼を伝えた。
「こんな場所を教えてくれて、お前達には本当に感謝しかないな」
「私は救護隊員としての試験を受けるから隊員になるのはもうちょっと後だけど、絶対合格してみせるから! そのときは、絶対に恩返しするから!!」
「はい! その時を待ってます!!」
ユリが笑顔で握手をし続けていると、そんな彼女の懐に飛び込む勢いでファイアが抱き着いてきた。
「ユリ様~!!」
「ウゴッ!!」
強烈なショックに手を放してしまうユリにファイアは自身の頬をユリの肌に擦りつけながら泣いている。
「ごめんなさい。アタシも三番隊に入れなくて!! でも大丈夫!! 貴方達夫婦の活躍は広めるし、何かあれば絶対力を貸しますので!!」
「あ~はは……ありがとうファイア……(腕の力強い。ちょっと苦しい……)」
されるがままのユリにフジヤマもアキも微妙な顔を浮かべていた。
そして全員の挨拶が済み、再び集合した三番隊。最後に代表して隊長のランが声をかけた。
「んじゃ! 色々今回は世話になった! 勝手に去ろうとした身分で言うのもおこがましいが……また何処かで会おう!!」
ぬいぐるみに変身したユリを右肩に乗せたランがこの言葉を最後に後ろを振り返ると、ブレスレットをかざして空間に扉を開いた。
四人はそれぞれで歩いて扉の中に入っていき扉が閉じる直前、ふと幸助がニタニタとしている様子にランが目を細めて指摘する。
「何ニタニタしてんだ。気持ち悪い」
「酷いな。いや、次はどんな世界へ行って、何があるんだろうなぁって思って」
「知らねえよ」
ランのそっけない返しに幸助が調子を崩されて顔をしかめてしまうも、ランは背中を見せながら続けた。
「何処へ行こうが、俺達のスタンスは変わらない。異世界から異世界へ渡る……『風来坊』だ」
「フッ! そうだな」
調子を取り戻して口角が上がる幸助。ランも表情は変わらないながら少し楽しそうな様子で足を進めていく……
また見ぬ新しい異世界に向かって……
今回のお話にて、本編の一端の区切りとなります。ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました!
とはいえまだまだ『FURAIBO《風来坊》』は終わりません! 次回以降もまだまだ色んな世界を描き、様々な苦難を乗り越えていきます! ぜひ楽しんでいただけると嬉しいです!
そして今回のお話にて出てきた、ユリによる『ランの過去話』も同じく番外編として投稿していきますので、是非ともそちらも一読していただけるととても感謝です!!
これからも『FURAIBO《風来坊》』をよろしくお願いします!!




