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5-70 入隊

 広間中のどこを探しても幸助と南の名前だけ見つからない。この事態に本人はもちろん、ここまで苦楽を共にした仲間達が困惑していた。


「マジで何処にも見当たらない!!」

「デ~モ合格はしているんデスよね?」

「フム……謎が深い。まさか! 何者かの陰謀!?」

「それはないと思うぞ」


 冷静なツッコミを入れつつ最後に合流して来たフジヤマ。だが彼は他と違い焦る様子はない。集まってすぐ、フジヤマは全員にこんなことを言い出した。


「なあ……広間全体を探して思ったんだが、お前たち二人の名前だけじゃなく、三番隊の表だけ見つからなかったんだが」

「三番隊だけ!?」

「でも確かに言われてみれば、三番隊だけ見つからなかったような……」

「それって何よ……アンタ達二人はラン様と同じ部隊に入るって事!!? そういう事なの!!!?」

「「ウワオッ!!!」」


 突然現れて亡霊のごとく叫んできたファイアに驚いてしまう幸助と南。

 怒りのままにする襲い掛かろうとファイアをメリーとオーカーが押さえつけていると、若干後ろに下がった二人が急に肩を掴まれた。


 これまたびっくりしながら振り返ると、そこに魔全く気配を気付かせずに出現した入間が立っていた。


「入間隊長!!」

「また心臓に悪い」

「カッカッカ! 困った様子やなお二人さん。大方自分達だけどこにも名前がないことにビビっとんねんやろう」


 完全に都合の良すぎるタイミングに現れた入間にこれは何かあると真っ先に頭に浮かぶ幸助達。


「安心しい。二人だけちょっと先に済ませておくことがあるだけや。ま、場合によっては合格取り消しかもやけど」

「「ええっ!!?」」


 不穏なことを言い出す入間に引き連れられていった幸助と南。しばらく廊下を歩き続けると、それなりに距離が離れた場所で扉の前に立っているランを見つけた。


「よう、来たか」

「ラン! 呼び出したのはお前か?」


 質問に答えないランだったが、入間の方は彼の態度から彼の後ろにある扉の奥の状況を察する。


「準備は完了ってとこかいな。よしよし」

「わざわざすまねえな」

「かまへん。それよりや」


 入間の台詞が途中で途切れるも、ランは彼女の言おうとした言葉を察して小さく頷いた。


「こういう事に時間をかけるのもマズいか」


 ランは一歩前に出ると、扉を右親指で指しながら幸助と南に対して話しかけた。

 

「お前らをここに連れてきたのは、この扉の向こうにある事について教えるためだ。先に言っておくと、次警隊にとってかなりの重大情報だ」

「重大情報!?」

「次警隊に入ったばかりの俺達になんでそんな」

「質問は聞かん。だが今なら知らないまま帰ることを許してやる」

「呼び出しといてなんだそれ!!」


 幸助がいつものノリでツッコミを入れるも、ランの表情は真剣だ。幸助もこれに眉が下がると、ランが改まって口を開いた。


「この先の事を知ればもう引き返せない。これまで以上に危ない橋を渡ることも増えるだろう。

 正直俺はお前らにこの扉をくぐって欲しくはない。だがここで腹をくくるっていうんなら……」

「「大丈夫!!」」


 語りの最中に割って入られた返事に真剣に取り繕っていたランの表情が少ししかめたものになるが、二人はそれぞれ続けた。


「俺達だって、生半可な思いでお前について行ったわけじゃない! 俺はそもそも即効参戦拒否されたのをほぼ強引に仲間になった身なんだぞ!

 そうまでしてはいって、色んな危機に直面しながらもなんとかしてきた! 今更一つ問題ごとが増えたからってどうってことない!!」

「僕は幸助君とは違って、異世界に良く経験自体が初めてだったし、その旅路でぶっ飛んだ事ばかり経験してたから。もう早々の事じゃ驚かないよ」


 問いかけられた二人からの真剣なまなざし。後ろに控えた入間が私の思った通りだろうとでも言いたげな顔をランに見せてくる。

 ランは二人の返事を受けて一呼吸置くと、後ろを向いて返した。


「そうか、じゃあついてこい」


 ランからの普段と同じような淡白な台詞に気合を入れた二人がガクッと崩れかけるも体制を戻す。ランは他の誰にも見えない角度にて少しだけ口角を上げつつ、ドアノブに触れて扉を開いた。


「外の見張りは私がやっとくんで、あとはよろしゅうな~」


 入間の親切にランが軽く手を振って礼を意志を伝えつつ、三人は部屋の中にへと入った。


 幸助と南が扉を通った中で見たのは、宝石のようにきらびやかな装飾が散りばめられ、金色の家具が用意されている小さいながらも豪華な部屋だ。


「ここは……」

「綺麗な部屋」


 呆気に取られている二人をよそにランは扉を閉じてすぐにカギを施錠し、二人の前に出て自分から立膝を付き頭を下げて跪いた。

 幸助と南もランが急にかしこまった態度をとることに驚きつつも、そんな彼が跪いたからこそ二人はすぐに動じ、見よう見真似で同じポーズをとった。


 二人がポーズをとったことを音で確認したランは、頭を下げたまま部屋中央に置かれている椅子に向かって敬語口調で話し出した。


「西野幸助、夕空南以下二名。 連れて参りました、姫様」

「ひめさま……姫様!!?」

「ええっ!!?」


 二人は間髪入れずに来た驚きに頭を上げてしまう。今三人の目の前にある椅子に座っているのが、今回の襲撃事件でユウホウが攫おうとした標的、『マリーナ姫』だというのだ。


「マリーナ姫!? 姫って!!」

「今回の計画の事は内通者を暴くための仕掛けで本人はいないんじゃ!!」

「私語は慎め」


 衝動的にしゃべり続けてしまう二人を諫めるラン。一方でランは二人に対し説明してくれた。


「姫は本当にこの基地に来ていたってことだ。内通者を炙り出す策にも率先して協力してくださったんだ。流石に囮にするわけにはいかないが、肉声を出したのは向こうを釣るのにとても効果的だった」


 幸助と南もランの説明に納得していると、椅子に座ったまま姿を見せていないマリーナ姫が突然高い音を立てた。音からして手を叩いたっぽい。

 姫の唐突な行動にポカンとしてしまう二人。すると椅子の向こうから声が聞こえてきた。


「芝居はここまでで十分よ。アンタに敬語を使われるのは気持ち悪いわ」

「え?」

「その声……」


 二人が椅子の向こう側から聞いた声は、聞き覚えのあるものだった。それも慣れている。ほぼ毎日聞いてきたような声。


 まさかと思う二人に対し、ランは首を動かして息を吐きながら立ち上がった。そして声を出したマリーナ姫は軽やかに豪華な椅子から立ち上がると、三人に向かってその姿を見せた。


「貴方は!!」

「ユリちゃん!!?」


 姿を見せたのは、これまでランと同じく二人が共に旅をしてきた少女、ユリだったのだ。

 それはすなわちそういう事のなのかと混乱する頭を整理する二人に、すぐにユリの隣にまで移動したランから説明が入った。


「つまりそういう事だ。ここで改めて紹介しよう。

 この御方こそが、次警隊の大隊長が実の娘であり、鉱石の世界こと惑星国家ヒカリの第一王女、『マリーナ ルド ユリアーヌ』様であらせられる」


 幸助と南が一周回って声を失うほどに衝撃を受けた。逆にユリはランによる今の説明に対して何処か文句を言いたげな表情になる。


「だから止めてって。ラン、アンタは私に敬語を使わないの!!」

「ああ、悪かったよ。少しこいつらをビビらせようとキャラを作っただけだ」


 ランとユリがいつも通りの会話をしている中、どうにか頭に飛び込んできた情報をある程度整理が付いた南が口に出してしまう。


「え? ええっと……つまりユリさんが次警隊のお姫様で、ラン君がその旦那さんで……」

「ッン! てことは、ランは鉱石の世界の王族ってことか!!?」

「ああ、それについてなんだが……俺とユリは実のところ夫婦じゃない」

「「ハアァ!!?」」


 ようやく整理が付きかけた情報に新たな衝撃情報に声を上げてしまう二人。もはや頭が痛くなっていく中、ランの説明は一人でに続く。


「本来ならば姫は結晶を飲み込んだこともあって」

「アンタのせいでね」


 告げ口を入れられたことに一瞬黙りながらも話を再開するラン。


「……自分の世界にこもっておくべきだったんだが、その鉱石の世界の結晶が行方不明になる事態になったからな。

 そのままいてもしもの事があってはいけないって大隊長の判断により、俺と夫婦って体を装い異世界に旅に出ることになったんだ」

「ユリちゃんを、守るために……」

「じゃあ、二人は仮面夫婦だったって事?」

「まあ、そういう事になるな……」


 ランの肯定にユリが少し悲しそうにしながら視線を下に向けてかすかな声で呟いた。


「私は……本物の夫婦でもいいのに……」


 耳の言いランにはこれが聞こえていてもおかしくないが、彼はユリの言葉には触れずに幸助達への話の流れとして丁度いいと思い、おもむろに右人差し指を軽く上げて改まった態度をとり話を進めた。


「さて、ここからが本題だ」

「本題?」

「二番隊や四番隊がそれぞれで特別な業務を扱っているように、三番隊にもメインの業務がある。表向きは結晶探しってことになっているが……」


 ランは仁王立ちに足を広げ、真っ直ぐ二人を見てハッキリ告げた。


「俺達三番隊の業務は、次警隊最重要人物『マリーナ ルド ユリアーヌ』の護衛にある!! もちろん、命を懸けてな」


 話を聞いた二人がつばを飲み込んで緩みかけた緊張が走った。


「ユリちゃんの……護衛……」

「ん? 今、()()って……」


 ランが吐いた言葉の中に遭った違和感に気付いて指摘した南。幸助も確かにといったような表情になると、ランは真剣な顔を崩さず少し顎を引いて返事をした。


「だから言ったろ。知れば引き返せない。腹をくくれって……まあ他でもないユリからの頼みでもあるからな……」


 ランは右掌を上に向けて差し出すと、口角を上げたユリを後ろに告げた。


「ようこそ、次警隊三番隊へ。お前らは今この瞬間より、この部隊の隊員となる。今更却下は受け付けない。返事は!!」


 威圧を込めて聞くラン。だが今の彼の台詞に幸助も南も臆することはなく、一度お互いを見て息を合わせるように頷くと、ランに向かって気をつけをして敬礼の構えをとった。


「西野幸助!」

「夕空南!」

「「三番隊への配備! ありがとうございます!! ご期待に応えられるよう、精一杯頑張ります!!!」


 後ろで少し微笑むユリと真剣な表情を崩さずに二人の言葉を受け止めるラン。


 画して、幸助と南は晴れて次警隊三番隊へ所属することになった。


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