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5-69 オーカーのお礼

 幸助が発言した言葉に茶屋にいる女性陣全員が凍り付いた。だが彼のそばにいたオーカーは台詞を口にした幸助の表情に、恋焦がれる少年のものとは違う悲しそうな表情が見えた。


「幸助君……その好きな人って……」


 質問された幸助は一瞬口にするのをためらった様子だったが、自分から話してしまった手前ここで話を切るのは勝手が過ぎると思い、正直に説明した。


「もういない。亡くなったから……」

「えっ……」


 幸助が口にした内容にまたしても女性陣全員の背中が凍り付いた。そこに幸助が続けた説明は、彼女達に次々驚きを与えた。


「俺、故郷の世界で赤ん坊だった頃に両親が亡くなって、母親の友人だった人のところで養子として育てられたんだ。そこで一緒に成長した一つ上の義姉(あね)がいて、姉弟だっていうのに情けないながら惹かれちゃってさ」

「それが、幸助君の好きな人?」


 無言でうなずいて肯定する幸助。オーカーがどう反応するべきか判断に戸惑っていると、幸助はそのまま女性の話を続ける。


「穏やかで誰にでも優しくて、ここぞという時の勇気があって……俺もいつも助けられてきた。心の底からの()()()()っていうのは、彼女のことを言うんだと思う。

 俺もあんな風に優しくあれば良かったのって、今でも何度も思うよ」


 まるで自分が過去にはそうでなかったとでも言うような幸助。オーカーには理解出来なかった。


 オーカーを含め、幸助はこれまで色々な人を助けてくれた。それは彼に力があるかないか以前に、何よりも幸助が他社の危機を放っておけず、自ら首を突っ込んで助け出そうとしてう。まさしく()()()()であったからだ。


「そんな! 何を言っているの幸助君!? 私は、いや私だけじゃない!! みんなが貴方の優しさに助けられてきたんだよ!?

 幸助君は優しい! このな言い方をするのは変かもだけど……幸助君こそ、()()()()です!!」

「オーカー……ありがとう」


 オーカーの言い分に対して優しく微笑みかけてお礼を口にする幸助。だがオーカーが見た幸助の笑顔は、明らかに強引に作っているのが丸わかりの引きつったものだった。


「暗い話をしちゃったね、ごめん。そろそろ出よっか。他の買い物も済ませないと」

「あっ! 幸助君!!」


 オーカーの声を無視してか、聞こえていないのかそのまま席を立って場所の移動を急ごうとする。

 見守っていた女性陣もこの場でアシストをすることは出来なかった。唐突に出て行って自分達が付いてきていたことを知られるのがマズいと思うところもあったが、何より図らぬ形で幸助の痛い話を聞いてしまったことへの罪悪感があったからだ。


 このまま誰も幸助を止めることが出来ないでこの暗い空気のままやり取りが終わってしまうかに思われたが、ここで一人だけ幸助を追いかけ、彼の服の袖を掴んだ人物がいた。


「だめっ!!……」

「ん?」


 声の感じから、後ろにいる人物がオーカーであることを察する幸助。そのオーカーは顔こそ上げられないでいたが、どこか震えている様子で幸助に声をかけてきた。


「私、幸助君に一体何があったのかはよく知らない……でも、私を含め、幸助君は色んな人を助けてくれたのは紛れもない事実なんだよ!!」

「いいよ。俺はランと違って襲撃犯を倒すことも出来なかったし」

「それでも! 私を助けてくれた!!」

「いや、だから……」

「言葉で……伝わらないっていうのなら……」


 オーカーのお礼を拒絶するためにふと身体を反転させながら顔をした方向に下げる幸助。一方のオーカーはやけくそになった部分もあって踵を上げて少し背伸びをし、幸助の首元に軽く唇を尖らせて近付けた。

 その二人の行動だが重なり、偶然ながら首元に触れるはずだったオーカーの唇は、下を向いて位置が変わった幸助の唇に接触してしまったのだ。


「ッン!!」

「ッン!!?」

「「「「「ちょぉ!!!!」」」」」


 当の二人が黙り込んでしまう中、外野で見ていた女性陣の方が驚きのあまり声を出してしまう。


 触れた唇がすぐに離れ、表情が固まったまま少しの間時間が過ぎるも、状況の整理がついた途端にふとあり揃って全身が足元から噴火寸前の火山のように高熱を持って真っ赤になっていき、先にオーカーの方が物凄い量の湯気を飛び出させた。


「こ! こここここっ!! これは!!! これはその! これはお礼!! 助けてもらったお礼だから!! お礼だから!!! 深い意味はないので!! ごめん!!! 買い物行ってくるぅ!!!!」

「あああぁ!!! ちょぉっ!!!」


 手を伸ばして足を止めようとするも、普段の彼女とは比べ物にならない速力によって茶屋を離れていき、取り残された幸助はオーカーを見失い、どう動けばいいのか分からなくなり体が丸ごと油が切れたように動きが鈍くなりなった。


 オーカーに追いつかないと判断が付いた幸助。すると次に頭に浮かんだのは、明らかに自分たちに向けて飛んできた声についてだった。


「あの……そこに誰かいる?」


 外野組が揃って動じてしまうと、変に誤魔化そうとするよりも前に幸助の方から指摘された。


「もしかして、ユリちゃんに南ちゃんに……というか、今回の件で一緒になっていた皆じゃ……」


 指摘された全員が次々と変装を外して正体を晒す。上辺だけの申し訳なさそうな仕草をして幸助に近付くと、彼は彼女たちの様子から怒ることはしなかった。


「もしかして……見ていたの?」


 全員が無言で頷き、代表してファイアが口を開く。


「昨日の入浴中に話になって……お世話になった幸助にオーカーがどうお礼したらいいのかって。まさかこう来るとは思ってなかったけど」


 オーカーの紀伊餅の事については説明で触れないファイア。彼女なりのオーカーに対する気遣いなのだろう。

 幸助はファイアに言われたことで先ほどのことをまた意識してしまい、ふと右手の指で唇を抑えてしまった。


(お礼……オーカーの世界ではあれはお礼……なのかな?)


 一方のオーカー。自分がどこへ向かっているのかもわからないまま全力ダッシュをし続けた彼女は息を切らしてようやく立ち止まると、左手で膝を抱えつつ右手では幸助同様に唇を抑えていた。


(やってしまった! やってしまった!! 私、なんてことを!!!)

「……ファーストキス、こんな形になるとは」


 うずくまって高鳴る鼓動とパニックを抑えようとするオーカー。そこに聞こえてくる野太い声。フレミコのものだ。


『思わぬ偶然であったな。見ていて中々に面白かったぞ』

「か、からかわないでください! あれはお礼!! お礼なんです!!」

『よいではないか。何か抱えているようだが悪い男ではない。恋仲となるのも一興だと思うが」

「……駄目ですよ。私と一緒になったら、幸助君に迷惑をかけてしまう」

『我の存在の事か』

「……」


 否定することは出来ないオーカー。それだけ自分のいた世界ではフレミコの存在は危険であり、その契約者であるオーカーも同じく危険視されている。

 今回の事で次警隊に入れたものの、自分に対する世間の目は変わらない。オーカーは胸の内に引っかかりに胸が苦しくなる。

 フレミコも、オーカーに対してこれ以上問い詰めることは出来なかった。



_______________________



「へえ、幸助にそんなことがねえ……随分美女に言い寄られながらなびかなかった訳だ。だが俺に教えていいのか? これは個人のプライバシーの侵害だぞ」

「幸助君についてアンタは以前から気になってたじゃない。どこか危ないって……それの手掛かりになるんじゃないかと思って」

「それはどうも……」


 ベッドに寝転び下手な戦いのときよりも疲労した様子のラン。日中の会議が原因だろう事は分かりながら椅子に座って話をするユリ。

 ついこの前温泉にて二人になって以来意外とすぐに来た二人っきりの時間。もっとも今回は前回よりも何処か暗い空気が流れている。


「会議はどうだった?」


 ランの様子からあまりよくないことは察していたが、一応の形式として問いかけるユリ。ランはそっぽを向きつつ少し苛立った声で答えた。


「今回の襲撃で碌な功績を残せなかったことを咎められた。入間姉と口八丁で押し切ったが、大方俺を追い落とすための粗に使えないかとでも思ったんだろう」

「そう……三番隊の業務については?」

「一番隊の阿呆を中心にまた業務を別部隊に移行しろってよ。毎度やるたびに愚痴が多くてまいる。疲れた」


 ランは寝返りを打ちつつ左腕を目元に被せてため息をつく。言い分からして断固拒否したことが伝わって来たユリはランの頭を優しく撫でつつ耳元で声をかけた。


「お仕事お疲れ様、あ・な・た」


 ユリの突然の甘い言葉にランはピクリと反応して腕を退けながら目を向けた。


「お前……」

「フフッ、ちょっとは意識した? 一回言ってみたかったから」

「ここのところ随分と積極的だな」

「お疲れの旦那様を癒すのは妻の役目ですから」


 いじわるっぽいながら可愛い笑顔を向けるユリ。ランはそんな彼女を素直な感謝を思いながら右腕を伸ばして彼女の頬を触ってきた。


「ありがとな」


 ふとしたランの優しさにユリも頬を赤くしてしまった。


「ナッ! 何よ急に!! そんなこと言って……お、お礼なんて別に求めていないわ!!」

「いい。俺がただやりたいだけだ」

「……」


 ランの言葉に気持ちが落ち着いたユリは触れてきた手の甲にそっと自身の手を重ねて目を閉じた。


 静かな夜が過ぎ去った翌日、いよいよ幸助達の配置が決定する日が訪れた。緊張が走る中で基地内の広間に集められた幸助達。


「俺達、三番隊に入れるかな?」

「そこは会議の結果次第だけど、入れますように祈る、だね」


 不安になる幸助を励ます南。そして時間が着た途端、広間の中央に立体映像による名簿表が浮かび上がり、それぞれの表の一番上に各隊の番号が表記され、その下に合格者たちの名前が並ばれていく。


 合格者たちが各々自分の名前を見つけ出して一喜一憂する中で二人が人込みをかき分けながら自分の名前を探すもなかなか見つからない。


「お! 西野、夕空。お前達はどこの配置になった?」

「フジヤマさん! それに皆も」


 突然声をかけられた先にいたのは、フジヤマをはじめとしたこの試験で出会った仲間達だ。


「皆はどこに配置になったの?」


 早速問いかける南。まず最初にフジヤマが答えた。


「俺は四番隊だ。聞いた話だとオーカーもらしい」

「フンッ! これからは同士としてよろしく頼むぞ」


 オーカーの口調に微妙な顔を浮かべるフジヤマはさておき、続いて黒葉、メリーが答えた。


「俺は六番隊」

「ワタシは八番隊デ~ス!」

「五番隊……」


 続いて聞こえたか細い声に一瞬聞きそびれかけた幸助と南が声に顔を向けると、昇進しきって体育座りをしているファイアがいた。


「いじけてる」

「三番隊に入れたなったからだな。こればっかりはどうにもならない。仕方ないな。それで、お前達はどこに所属になったんだ?」


 ドライに切り捨てつつ二人に問いかけるフジヤマ。だが彼等はまだ自分の名前を見つけられていない旨を伝えると、落ち込んだファイアを除く一行で手分けして探すことになった。


 そして気が付いた。この配置表のどこにも、幸助と南の名前がなかったことに

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