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5-68 厨二少女の初デート

 温泉でのくだらない騒動二連発が終了し、翌日を超えたさらに一日後。退院したランはいきなり憂鬱な顔を浮かべていた。

 ユリに引き連れられる形で同じ部屋にいた幸助と南は、彼の分かりやすく面倒臭そうな様子についついユリに問いかけた。


「何あの様子?」

「今日何かあるの?」

「次警隊の隊長達による会議。もともとこういうの苦手だもん」

「その上あいつが会議に出るのは久々やからな。周りにどう言われんのか分かってるんやろ」


 後ろから突然聞こえてきた声に三人が驚きながら左右に散ると、声の正体である入間、そしてその後ろにジーアスと、今この基地内にいる隊長格が揃ってやって来ていた。


「入間隊長!」

「タイタン隊長まで。迎えに来た感じですか」

「どうせごねていると思っていたのでな」


 二人はよけた三人をそのままに部屋に入っていき、ベッドの上に座って動こうとしないランを片腕筒引きずる形で連行し始めた。


「オイ! 何すんだ!? もうちょっとで立ち上がるってところだったんだよ!! 余計なことしやがって!!」

「それ口で言ってて結局長時間動かんやつやから」

「開始時間は決まっているんだ。いい加減仕事をやれ」

「襲撃時の一番の功労者にこの扱いはないだろ!!」

「はいはい。なら会議で褒めてもらおうな~」


 幸助達三人が苦笑いを浮かべた目線で見つめる中でランは隊長達に会議に連れていかれた。


 拍子抜けで時間が空いてしまった三人。ユリと南は予定があるとその場を離れていき、この日も幸助は一人暇になってしまった。


「う~ん、ランを交渉するために呼ばれたのに、結局俺何もしてなかったなぁ……今日は何しようかな~」


 とりあえず自室に戻ってから考えようと廊下を歩いている幸助。すると自室の扉の前で、ゴスロリとは違う清楚なワンピースを着こんだオーカーが扉の前立っていた。


「あれ? オーカー?」

「こ、幸助!! 殿!! き、奇遇であるな! どうかしたのかこんな所で?」

「いや、ここ俺の部屋の前なんだけど」

「ああ! そ、そうであったな!!」


 会話が途切れてしまう二人。沈黙が流れて彼等、特にオーカーが目が回るほどに耐えかねていると、幸助の方から再び問いかけてきた。


「あの、それでなんでここに?」

「ほえっ!? あ、いやその……」


 話し方が素に戻ってしまいながら返答に戸惑っているオーカー。現実では静かだが、内心ではかなりやかましいことになっていた。


(どうしようどうしよう!!? 正式入隊までもう時間がないからそれまでに一度一緒に出掛けたいなんて思って来ちゃったけど、そんなこと正直に言って引かれたりでもしたら……

 そ、それにこれ、もしかしてデートのそれじゃあ……ああダメ! 考えちゃうほどに誘える自信がなくなっていくよぉ……)

『何をしているのだ全く。誘うくらい簡単にできんのか?』

(わ、私みたいなのにはめっちゃ緊張してしまうんです!!)


 フレミコが頭の中に流してくる台詞を反対するオーカー。戸惑ったまま何も言い出せずに終わってしまうかと思った彼女だった。

 だがそんなとき、ついこの前ユリに修理をしてもらってばかりの幸助のブレスレットに着信が入って来た。彼がオーカーに声をかけてから連絡を取ると、発信者はファイアだった。しかもメール文で送られてきている。


『やっほー! 今日オーカーと買い物に行く予定だったんだけど、休養が入って行けなくなっちゃった。というわけで代わりに行ってきてほしい感じです!!』

「という訳でとはならないでしょ、何で俺にピンポイント?」


 幸助がメールを見ている最中、オーカーが持っていたスマホ型のデバイスの画面にもファイアのメールが届いた。


『アタシが行けなくなった買い物に行ってもらう流れになったんで! よろしく!!』

(ファイアさん!!)


 オーカーが思わぬ助太刀に歓喜すると、幸助の方も少々戸惑いながらも話しかけた。


「その……よく分からないけど、俺が一緒に買い物を付き合えばいいのかな?」

「お、おう!……いや! うん! 一緒に行こう!!」


 オーカーは自分から勇気を持って素を出して答えた。幸助は豹変した彼女の態度に一瞬驚くも、やっぱり素の彼女の態度の方がいいと思いつつ、オーカーについて行く形で二人宿泊施設を出た。

 そのすぐ後ろ、曲がり角に立て並びに頭を出現させて並べていく女性陣。二人の背中を見守りながら一番上のファイア、メリー、アキ、ユリ、南と下がりつつにコメントを述べていた。


「いや~……我ながらグッジョブなアシスト! メールを入れたのはよかったわね!」

「アキさんが用意したワンピース。可愛いデ~ス!!」

「似合ってくれてよかったぁ、可愛い!」

「いいな~……私、入間姉から貰ったの際どい水着だったのに……」

「際どい水着?」

「こっちの話よ。出来れば聞かないで」


 この前のランとの温泉での出来事について頭に思い返してしまいまた顔が赤くなりかけるユリ。だが今はそんな場合ではないと表情を戻し、五人そろってコソコソと幸助とオーカーについて行った。


「にしても、なんで僕達こんなことしているのかな?」

「カプが誕生するかもしれない瞬間よ! 見守らなくてどうするのよ!!」

「陰からオーカーさんを助けるんデ~ス!」

「でここれ見守るというよりストーカー行為じゃ……」

「細かいことは気にしてはダメよアキさん。こういうことは楽しまなきゃ」


 ということで背後に楽しみ半分な応援団を引き連れつつ買い物という名の実質デートに出掛けた幸助とオーカー。

 だがどうにか素を出そうとするもやはりそう簡単には勇気が出ないオーカー。出かけている道中のほとんどを視線を下に向けて沈黙し、幸助から話しかけられた時も厨二病言葉で返してしまう。


「あ~もう何してるのよじれったい!! いっそもう抱き着いちゃいなさいよ!!」

「ファイア、実際にその身になるととてもそんな事出来ないから」


 前に飛び出して茶々を入れようとするファイアを思い当たる節があるユリが止める。


 それからも買い物では特に二人の仲の間に進展は見られず、そのまま幸助とオーカーは休憩として茶屋の中に入っていき、五人もわざわざ変装用にウィッグや帽子、サングラスなどを付けて入店した。


 運ばれてきた緑茶を飲みながら、五人は揃って一つの席を見続ける。


「もう、ここまでついてきたのに全然進展ないじゃない!」

「こういうのは焦っちゃだめ。私とヒデキ君だって、知り合ってから婚約者になるまでそれはもう色々と……」

「アキさん、話の最中に自分の世界に入るのはやめて」

「ワタシはその話興味ありマ~ス」

「アハハ……」


 五人がもはや別で盛り上がっていると、一方のオーカーは緊張で飲んだお茶の味をほとんど感じられなかった。


(ううぅ……せっかく二人で出かけられたのに、全然お話出来てない。これじゃ誘った意味もないよ)


 だからと言って口を開く話題を思いつかないオーカーがモジモジとしたまま黙っていると、幸助が口に付けたお茶の湯飲みを放すと、ふと彼の方から話し出した。


「色々あったね。この試験」

「え?」

「あ、いや突然ごめん。単なる振り返りなんだけど」


 幸助が思い浮かべたのは、この忍者の世界に来てからここまでの思い出だった。


「時間にするとほんの数日のことなんだけど、濃かったなぁって……今までいろんな世界を旅して来たけど、ここまで長期間いた世界もなかったからかな? たくさんの出会いもあったし」

「たくさんの……出会い?」


 オウム返しのようにキョトンとしながらそのまま返すオーカーに、幸助は流した思い出を振り出しから細かく思い返していた。


「入間隊長に出会ってこの世界や、ランの事情を知った。あの人に鍛えられて受けた入隊試験でファイアやメリー、黒葉に君と出会った。

 みんなそれぞれでハチャメチャで、動かったよね」

「や、あっぱり私変だったかな!!?」


 白目を向けて震えてしまうオーカー。自分が悪い方に認識されてしまったのではないかと思った彼女に幸助はすぐに訂正した。


「いや! 悪い意味じゃなくて!! その……色んな視点があって、みんなそれぞれでやりたいことがあって、ぶつかって……なんだか、楽しかった。出会いは偶然ばかりだったけど、仲間になれてよかったなぁって思って」

「幸助君……」


 幸助が天然にこぼした台詞にオーカーがふと彼の笑顔に見とれてしまい、脇から見ていたユリ達も各々感心していた。


「へえ、ふとした時に良いこと言うじゃん」

「幸助君……こういうところがあるから……」

「天然でまたたぶらかす台詞を……」


 ユリと南が幸助の言葉選びに微妙な顔を浮かべている。逆に心動かされたオーカーは、話の流れに乗って返す。


「偶然出会った仲間……幸助君は、元々の世界でも仲間が?」

「え? ああうん。ココラってエルフや、ソコデイっていう獣人、アーコって騎士がいてね」

「エルフに獣人に騎士!! もしかしてファンタジーな世界観ですか!!」


 オーカーの目が輝いた。どうやら厨二病のキャラを作る以前からそういう創作物が大好きだったらしい。だが珍しく熱をもって話に乗り出すオーカー。

 だがここで何故か幸助の方が何処か恥ずかしそうに視線を逸らし、ふと彼女に口にした。


「その、オーカー……近い」

「ほえっ? はえっ!!」


 オーカーはいつの間にか自分が顔を幸助の至近距離にまで近づいたことに気が付き、一気に顔を赤くしながら身を引いた。


「ご、ごめんなさい……私、好きなものの事になると周りが見えなくなって……」

「アハハ、良いんじゃない。夢中になれることがあるって、とてもいいことだと思う」


 どこか少し影が差した幸助。目線を逸らしてしまっていたオーカーはこれに気付かず、更に恥ずかしさでと興奮で思考が回りきらなかった為に、自分の中での思いを少し漏らしてしまった。


「その……いろいろな人と出会ってきて……幸助君は……好きな人はいますか?」

「ッン……」


 一瞬幸助の目つきが変わったことをオーカーの瞳に映った。オーカーは自分の発言が何か気に障ってしまったのではないかとすぐに謝罪の言葉を口にした。


「あっ! すみません!! 嫌なことを言ってしまったのなら」

「いるよ」

「えっ?」


 幸助の発言は目の前にいるオーカーはもちろん、勝手についてきた観客達も揃って黙り込んでしまった。沈黙した空気の中、幸助はもう一度少し寂しそうに口にした。


「俺……好きな人……いるんだ」

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