5-65 温泉の女性陣
時間は少し遡り、入浴するため温泉にやってきた女性人達。脱衣所にて服を脱いでいき、準備が終わった人から次々と温泉に入っていく。
そんな中、体を洗っている最中にオーカーが隣で同じく体を洗っている最中のファイアをジト目で凝視していた。
「何? そんなにジロジロ見て」
「う~むお主……一体何をどうしたらそんなに成長するのだ?」
オーカーが指摘したのはファイアの歳の割に育っている胸囲についてだった。どうにもオーカーはそこまで豊満とは言えない自分のものに対してどうしても気になってしまうらしい。
視線の向きからこれに気づいたファイアは軽く返事をする。
「ああこれ。ほらアタシ、能力上怪獣の肉をいっぱい食べるでしょ? もともと大食いな方だったこともあって、いつの間にかこんな風に」
「食べただけではそうならんぞファイア嬢! そんなボンキュッボン!!」
「まあ、そこは食べた分鍛えたっていう感じね。とはいえ、あれほどではないんだけど」
ファイアがオーカーの視線を向ける方向には、シックスパックに割れた腹筋を晒しつつ髪にシャンプーを泡立てている南だった。
「ん? どうかした?」
「確かに、あれはそれなりの鍛え方では手に入らないものだな」
「南ちゃんは生粋の武道家だからね~」
「ウワッ!!」
「ユリ様!!?」
驚きに一瞬オーカーの口調が素に戻ってしまう。二人が振り返ると、ファイアにも負けないほどに実ったものを晒したユリがウインクをしながら声をかけてきた。
「こ……こっちはこっちででっかい!!……どうやったらこんな風に……」
「ユリ様の……ユリ様の豊満な……食べた分の栄養がいいところに行って、ここまで……」
左右からジロジロ見られてキョトンとするユリ。すると二人のそれぞれがいつの間にか手を伸ばし、目の前に迫っていた果実を掴んできた。
「ヒァンッ!!……何するの!?」
ユリの胸を触りながらそれぞれが別のベクトルで夢中になっていた。
「これが!! これがユリ様の……グヘヘヘ……」
「こんなの! こんなものどうしてこんなに差が!!」
「アッ! ちょっ……ウッ!……」
「ちょっ! 何してるの二人共!?」
シャンプーを洗い落とした南が近くで行われている事に驚いて思わず声を出してしまうが、やっている張本人は全く気付いていないようだ。
そしてそんな南も、突然腹筋を指でなぞられてゾクッとしてしまった。
「フエッ!!?」
「おお、綺麗な筋肉……」
「あ、アキさん!?」
南の腹に触ってきたのは場のノリに便乗してきたアキだ。
「ごめんなさい。なんかノリでちょっと触っていもいいかなぁ~って……」
「ノリでそんなことされても困ります!」
そんな折、別グループ三人の方でも動きを止めようとしなかったファイアとオーカーの腕が突然掴まれてユリの体から引き剝がされた。
「ちょっ!」
「誰!?」
「メリーデ~ス! 今、あなたたちの真横にイマ~ス……」
「「「ウワァ!!?」」」
一切気配も感じさせずに現れたメリーにファイアとオーカーはもちろん、真正面にいたユリも驚いて身を引いた。
三人の反応に対しメリーは気にする様子はなくニコニコ顔でコメントした。
「いけませんよファイアさん、オーカーさん。女性同士といえど節度はわきまえなくては」
至極まっとうなことを言っているメリーだったが、オーカーの視線はファイア、ユリに引き続きメリーの胸囲に向いていた。
そして数秒の観察後、オーカーはメリーの肩に手を置いて嬉しそうに口にした。
「同士!」
「何がデスか!?」
普段ほんわかしているメリーも、この時ばかりは流石に驚いた。
なんだかんだで合流し体を洗い終わった六人はそのまま広い湯船の中に入る。ここでも格差社会が丸見えというべきか、湯船に浮かんでいる者とそうでない者がハッキリ分かれてしまっていた。
「お、オーカーさん……顔が怖いデ~ス……リラ~ックスデ~スよ」
「ムムム……しかしオーカー嬢、本人に自覚はなくともあの凶器はやはり……」
その睨まれているユリとファイア。立派なものを浮かんでいることを指摘されると自分たちの立場でのものを言う。
「そういいことだらけでもないわよオーカー。こういう風に勝手に浮いてきちゃうの暖まりにくいし」
「肩も凝りやすいのよね~……常に重りを抱えているというか……」
「フンッ! 何を言われても自慢にしか聞こえん!」
「オーカー……」
「まあまあ……」
隣で湯船につかる南も微苦笑でオーカーの嫉妬を見ていた。彼女と同じくそこまで大きくない身分としては、嫉妬まではいかずともオーカーと同じく思うところがあるのだろう。
丁度中立の大きさにあるアキはコメントに困ってオーカーをなだめにかかる。
胸のあるない談義で盛り上がっている女性陣。そこにもう一人話に割って入る人物が現れた。
「なんや、可愛い子たちが集まってんな」
「入間隊長!」
「こんなところにまでお酒持って来てる……」
女性陣に追加で入ったのは一糸まとわぬ姿の入間。左腕に抱えた桶の中には酒瓶とおちょこが用意され、風呂に入りながらも飲む気満々であることを暗に示しており、ユリは少し呆れてしまう。
だがオーカーや南にとってそんなことはどうでもよかった。彼女たちは、自分達がここまで見てきたどんなものよりも圧倒的に大きな存在感を放つ山脈に目を血走らせていたのだ。
((ビッ! ビッグサンダーマウンテン!!!……))
すぐに輪に入ろうと湯船につかる入間。巨大なものの体積が加わりお湯の一部が外に溢れ出てしまう。
(なんて強烈な兵器!! 今までのものがすべて霞んで見えてしまう!!)
「ん? どうしたオーカー、そんな血走った眼をして?」
「い、いや……負けを認めざる負えないと思っただけである」
「?」
オーカー主催の嫉妬談義は圧倒的強者の出現によって終了された。
そこからは明るい女子トークが盛り上がった。入間を酒を進めつつ、大人の対応で話を聞いてくる。そんな中、話の内容は襲撃事件についてのことになった。
「にしてもオーカー凄かったわね。今回の襲撃、あなたのサポートがなかったら危なかった」
「む? そうか?」
「そうだね。幸助君に至っては、敵の能力で本当に消耗していたみたいだし」
「フエッ!!」
「「「「「「ん?」」」」」」
ふとしたタイミングで幸助の名前が出た途端にオーカーが身震いをして反応したことに残り全員が注目する。
「何? 今の反応」
「オーカー、アンタ幸助と何かあったの?」
「もしかしてそういう?」
「え? いや! そんな特に何かあったという訳では……」
頬が赤く染まり、視線が散漫になって口調が素に近くなっている。目に見えて分かるほどの動揺だ。
「「「おやおやおや~」」」
入間、ファイア、メリー、アキの表情がいやらしくにやついた。そして胸談義で散々いじられたあファイアが今度は自分の番とばかりにオーカーをおちょくり始める。
「オーカー? さては例の騒動中に幸助に惚れちゃったのか?」
「ホエエェェ!! そ、そんなことは!! そんな大それたことは!! ただ……」
「「「ただ?」」」
オーカーがここまでとは反対に縮こまった様子で上目遣いの姿勢をとりながら小さい声で口にした。
「ちょっと……気になるだけで……」
((((可愛い!!))))
入間達四人がオーカーの態度にキュンとなった。
一方幸助とともに旅をしてきた残り二人。オーカーが彼に惚れたことに対して微妙な顔を浮かべてしまった。
(幸助君……また天然でたらしこんじゃっのね……)
(ついこの前ユレサさんに意識されたばかりなのに……罪深い人だなぁ……)
二人を除いた面々でオーカーの恋愛話に花を咲かせる。
「そうかそうかええなあ!」
「その恋路応援したいデ~ス!」
「西野君、良い人だしいいと思う!」
「オーカー可愛いんだし、積極的にアピールしていきなって!」
「あ、アピールだなんて……何をどうすればいいのか分からないし……」
オーカーから出た素朴な疑問。これに入間はふと考えた上でこう言い出した。
「そうやなぁ……男を魅了する事で言うんなら、そこに既婚者に聞いたらええんとちゃうん?」
「えっ!? 私!!?」
流れで白羽の矢を刺されたユリがギョッとしてしまう。全員から注目される中、彼女はオーカーと同様に縮こまった。
「そ、そんなこと言われても……私だって、ランとそういうこと……全然してないし……」
「全然!?」
「夫婦なのにデ~スか?」
驚く南、メリー、オーカー、アキの三人。だが入間とファイアは一瞬何かを悟ったような様子で冷静な顔を浮かべた。だがそれはそれ、これはこれとばかりに二人も参戦してユリを攻める。
「本当に何もないんかユリ?」
「そうっすよユリ様! 本当は祭囃子で二人っきりになった時にでも何かあったんじゃないんですか!!?」
「ま、祭囃子……」
ユリの頭に縁日での光景が思い出される。ランとのデート、そして、彼女が自ら彼の頬にキスをしたこと。
ユリはとっさに唇を手で抑え、顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。
「そんな、大したことは何も……」
「「「「「「おやおやおや!!?」」」」」」
ユリの珍しい乙女チックな反応に調子に乗り出す女性陣。
「よっしゃあ! そんなら作戦会議や! 二人の乙女がそれぞれ意中の相手とお近づきになれるよう作戦を考えんで!!」
「「えええええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!?」」
当の本人達の意志はないがしろに、女性陣によるアピール大作戦が計画されていった。
「幸助かぁ、あたしはよく知らないんだけど、南は何かわかる? 一緒に旅してたんでしょ?」
「アハハ……旅って言っても僕は途中参加だから分からない部分もあるんだけど、幸助君はみんなに優しいって感じで、でも恋愛的な面はかなり鈍感かな?」
「ランは基本お堅いからなぁ……ま、チビのころが荒れまくっとったからそれが落ち着いただけましなんやけど?」
「子供のころのラン君?」
入間が吐いた言葉に南がふと反応すると、入間もこれに気づいてすぐにはぐらかした。
「ああ、気にせんでええ。それよりこんなんはどうや?」
南のふとした引っ掛かりはすぐに再燃した恋愛トークによってかき消されていった。
女性陣がなんだかんだ温泉を満喫しているのと同時刻。のれんをくぐったその先にて男性陣による熾烈な戦いが繰り広げられている事など、ユリ達にはとても知るよしがなかった。
「ゼエェ……ハアァ……ゼエェ……」
苦しそうに息を吐いている大吾達覗き実行犯。
「くそっ! まさかこんな所で……楽園はもうすぐそこまで近づいているというのに!!」
大吾と、相対する黒葉達防衛線部隊の間の空間には何人もの男達がボロボロな状態となって意識を失い倒れていた。




