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5-49 モニター監視室

 そして現在、オーカーは文字通り命懸けだった次警隊入隊試験を合格してみせた。


 しかしその直後に襲来した敵の対処に向かっていたランと遭遇。彼から話を聞いたオーカーは自分の力がさっそく役に立てるのではないかと思い、幸助を救助していた。


 その幸助は回復させてすぐに星間帝国からの資格二人と戦っているランの援軍に駆け付けようと急いで部屋を出て行く。


 一人幸助の試験部屋に残っていたオーカーは、怒濤の展開の流れに目が点になって動きが止まっていた。


「なんだか……二人とも凄いな」

『感心している場合ではないぞオーカー』


 肩に乗っかっているフレミコに指摘されて呆然としていたオーカーが我に返った。


「そ、そうだった! 私も何か、二人の助けに行かないと!! 偶然知って関わったことだけど、ここでお別れなんてダメだ!!」

『フン! 我の契約者なのだ、そうこなくてはな』


 フレミコも気合いの入った反応を示し、オーカーは彼のそれを見て少し猫背気味なっていた自分の姿勢を整えると、走り去っていった幸助を追いかける形で部屋を飛び出していった。


(必ず役に立ってみせる! この力の使い方を示してくれたあの人のためにも!!)


 オーカーが頭に浮かべた人物。その当の本人ジーアス・タイタンは、観戦室にも試験会場近くにもおらず、一人何処かの廊下を歩いていた。

 手元で何かを確認しつつ足を運んでいる彼だったが、とある扉を目の前に足を止めて前を見る。


「ここか」


 ジーアスは扉を開こうと手を伸ばしてノブを掴み、普段のように回した。すると次の瞬間、部屋の扉が爆発し、中にいた人物が少し身体を反応させた。


「ここにいることが割れた? 驚いたわね。まあ、トラップで処理できたでしょうしすぐに立ち去れば問題は……」

「人の基地の扉に爆弾を仕掛けるとはぶしつけなことだな」

「ッン!?」


 部屋の中にいた人物が聞こえてきた声に驚いて扉の方に身体を向けると、扉を開けたジーアスが何食わぬ顔で部屋の中に入って来た。


「無傷!? 嘘でしょ!!?」


 部屋に侵入していたユウホウの構成員、ハグラはジーアスがどうやって爆弾をかいくぐったのかが気になったが、そんなことは二の次だと思考を隅に追いやった。相手の顔を見た瞬間に誰が来たのかに気付いたからだ。


「それも隊長、ジーアス・タイタン。面倒くさいのが来たわね」


 ジーアスはハグラの話しを耳に入れるより先に彼女が侵入していた部屋を見回す。今彼が入ったのはモニター監視室。ハグラのすぐ側にあるのはその操作盤と、機器に接続されたパソコンだった。

 そして周辺にいた本来のこの部屋のスタッフ達は鋭利な刃物が刺さっていたり何かがぶつかったような傷を受けて死亡していた。


(既に手遅れだったか……すまない。せめて君達の未練は、私が少しでも晴そう)


 ジーアスは思考の中で被害に遭った隊員達に謝罪の言葉を贈ると、気持ちを切り替えて鋭い視線をハグラに送りつける。受けた相手側は一瞬反射的に身体を震わせてしまうも、すぐに抑えて負けずに睨み返す。


 ジーアスは睨みを効かせたままハグラに話しかけた。


「君だな。監視カメラの映像を差し替えたのは」

「ええ、なのになんでバレたの?」

「それを言う義理も意味もないだろう。どうにしろ、君はここで逮捕される」

「あっそ」


 次の瞬間、ハグラは立ち上がる動作の最中に右手でゴム銃を撃つような構えを取り、瞬間人差し指の先端から青い針のようなエネルギー弾を発射した。

 エネルギー弾の飛び出しは素早く部屋も狭いこともあり、ジーアスは避けるより受けるがはやいと判断し両手を胸の前で組んで攻撃を受けた。だが直撃をしても攻撃の見た目以下にダメージは全く感じなかった。


「これは? 何も感じないが?」

「だろうなぁ、それは攻撃を始めるための準備だ。そしてお前は受けた。これでアタシの独壇場だ」


 ジーアスがハグラの勝ち誇ったような態度を取ることに違和感を感じていると、ふと自分の身体に何かが張り付いてくる感触を受けた。


「ん?」


 ジーアスが疑問を浮かべて下を見ると、彼の足下にネックレスや指輪が引っ付いていた。


「これは……」


 何処にあったのかも分からない小物が不自然に身体に引っ付いている。これが何なのか考えている隙に

ハグラは服の中に隠し持っていたナイフを三本ほど適当に放り投げてきた。

 とても正確な狙いとは思えないような軌道を飛ぶナイフ。しかしある程度ジーアスの近くにまで迫ってきた途端、ナイフは本体の向きは変わらないままに彼の身体に吸い込まれるかのように向かってきた。


「まさか!!」


 回避行動は間に合わずナイフが三本とも身体に突き刺さるジーアス。ハグラはこれを見てあまりの呆気なさにジト目になっていた。


「これで終わり? 不意打ちだったのはあるけど、隊長がこうも手応えがないのは驚きだな」

「黙って聞いていれば酷い言われようだな」


 返事が返ってきたことにジト目になっていた瞳が丸くなるハグラ。改めて相手を見ると、ジーアスは自身の身体に突き刺さっていたナイフを手に持ち外す。すると驚くべき事にナイフが刺さっていたと思われていた箇所から出血はおろか微かな傷さえも付いていなかった。


「刺さっていない!? 何よそれ」


 ハグラの言葉は気にせずに剥がしたナイフを放り捨てようとするジーアスだったが、放り投げたナイフは彼の指や手の甲に引っ付き剥がれようとしない。


「うむ、やはり離れない。鉄製のナイフ……これは磁力だな」


 ジーアスが口にした回答に微かに反応を示すハグラ。彼女の動きを見て確信したジーアスは仮説を立てた。


「生物とは、全て生まれつき微かな磁力を持っているという。

 先のエネルギー弾、あれは受けた相手の生命磁気を何倍にも膨れ上がらせ、金属を強制的に身体に引き寄せてしまうのだろう。小物はこの場にいた隊員達のものか」


 ハグラはこれ以上表情こそ変えなかったが内心ではかなり苦い思いだった。


 彼女の能力の手っ取り早い暗殺の方法は、磁気を高めた相手がその事に気付いていない合間に刃物や鈍器を投げて致命傷を与えるというもの。

 それが上手くいかなかった上にこうも短時間に能力も看破されてしまったとなると、対策を立てられかけないと恐れていた。


 対するジーアスはハグラの能力をその身に受けたことで思う所があった。


(ここはモニター監視室。精密機械も多くもちろん金属も多い。この能力の効力が何処まであるのかは分からないが、ここ部屋で下手に戦えば機械を壊しかねないな。

 そうなると彼女を倒しても他の相手を探すのにかなりやりづらくなる。となると私がするべき事は)


 ジーアスの反撃に構えるハグラ。だが彼女が前方に意識を向けていたときにジーアスは真横にまで移動していた。


「速い!? 筋肉だるまのくせに!」

「見た目で人を判断しないこと。人と関わるに当たって基本的な鉄則だ」


 想定外の素早さに動きが遅れたハグラの右脇腹にジーアスの左拳が直撃した。瞬間、彼女の全身に骨に響くような衝撃が伝わってきた。


(パワーも凄い!? これは見た目通りなのかよ!!)


 受け身も取れずに殴り飛ばされたハグラ。身体を飛ばされ出入り口付近にまで来たタイミングに再びジーアスが動き、反撃される前に今度は右脚で蹴りを入れることでモニター監視室の外にまで吹き飛ばすことに成功した。


 壁に激突してようやく勢いが止まったハグラは、このまま近接戦に持ち込まれては勝ち目がないと思ったようで足早に逃げ出した。


「私を撒くつもりか? 逃がさん!!」


 少し遅れて部屋から出たジーアスは見失わないようにすぐにハグラを追いかける。彼女は時折振り返らないながらも何度かナイフを飛ばして追跡を妨害してくる。だが投げたナイフはやはりジーアスの身体には突き刺さらず、磁力でくっついたところを回収されるのが終いだ。


(本当にどうなってんのあの男!? アタシのナイフは固さ鋭さ共に一級品のオーダーメイドよ! それを次々弾いて! 何かの能力!?

 まあいいわ。どのみちこっちの思惑通りには動いてくれているし)


 悪だくみを考えて逃げ続けるハグラ。しかし彼女を追いかけているジーアスは彼女の目論見を少し勘付いている部分があった。


(さっきからずっとつかず離れずの距離で逃げ続けている。こちらを誘い出したい訳か。

 こっちとしては見失って向こうに自由に動かれるのは厄介だ。こうなると罠に飛び込むしかないな)


 そのまま二人は走り続けていると、いつの間にか揃って広めの空間にまで移動していた。入って丁度真ん中辺りに来たとき、ハグラはもう十分だろうとでも言いたげに足を止めた。

 ジーアスも合わせて足を止め、彼女に話しかける。


「誘導はここまでといったところか?」

「あら、バレてたの? 別に……いいけどさ!」


 ハグラが少し声が大きくなりつつ振り返ると、この僅かな合間、彼女の脇差しには二台の巨大なガトリングガンが出現していた。


「ガトリングガン!?」

「特注よ! 技と罠になんてかからず逃げるべきだったと後悔する事ね!!」


 ハグラは両手でそれぞれのハンドルを握って回し、ジーアスの周辺に荒々しくガトリングガンを撃ち始めた。

 普通ならば四方八方に拡散されて辺り一帯を破壊していこうとするはずの攻撃。だが今ジーアスはハグラの能力によって金属製品を引き寄せてしまっている身体になっている。当然これは弾丸にも作用される。

 散らばっていた弾丸は一定の距離にまで近付いて来た途端に向きはそのままに元々あった四方八方から一斉に攻めてきた。


「これならばどう!? さっきまでのナイフとは比べものにならない威力。蜂の巣になって死ぬがいい!!」


 逃げるも防御も間に合わない攻撃。普通の人間ならば絶望しかない状況だが、ジーアスの表情は眉一つ動いていないようだった。

 彼はそのまま仁王立ちで迫り来る銃弾をその身に受け続ける。次々と命中する銃弾。だがこの直後、ハグラにとって信じられない光景が目の前に見えた。


「ふ~む……こんなものか」

「は?……え?……」


 当たるとすぐに勢いを失いボロボロとこぼれ落ちていく銃弾。打ち切った全てが床に落ちきったとき、ジーアスの身体には、傷はおろか痣の一つすら見受けられなかったのだ。


「う、嘘でしょ!? あの数の銃弾よ!! どれだけの威力があるのか……防御に秀でた能力なの?」


 思わず冷や汗を流して質問をしてしまうハグラにジーアスは素直に答えた。


「そんな特殊なことではない、誰にだって出来ることだ。君は能力ばかりに気を取られ、大事なことを忘れている」

「だ、大事なこと?」


 オウム返しをするハグラに、ジーアスは胸を張った姿勢を取ってハッキリ口にした。


「鍛え上げた筋肉は! 何よりも固い盾になるということを!! 盾も防御も必要ない。その身こそ完全無欠! 何にも勝る武器であり防具なのだ!!」


 ハグラはいわれている内容を頭で理解するのに時間を要した。そして理解した上で発した台詞は


「ハアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァ!!!?」


 心のそこからの叫び。即ち今までの防御は、ジーアスの筋肉が固すぎて攻撃が弾き返されたという、碌な能力よりも圧倒的に異常なものだったのだ。

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