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5-45 アブソバ

 コクに続き、今度は幸助にとって未知の赤服が現れた。彼からすればコクの対処だけでもただでさえ手一杯なところにダメ押しをされた思いであり、その内心は当然気分が良くなかった。

 だが連絡手段もなくした以上、とやかく言っても仕方がない。二人纏めて一人で倒す。幸助は二人に交互にピントを合わせながら拳を構える。


 一方のコクとアブソバは、幸助とは反対に余裕があるのか気軽な会話を始めていた。


「ようやく見つけたと思っていたら、トラブルのまっただ中だなんて」

「ごめん、例のごとく迷った」

「全く貴方って人は……どうして何度言われても道を迷うの? 馬鹿だから? おつむが小さくて容量が足りなかった?」

「単純な説教を段々悪口に変えないでくれる、普通に傷付く」


 何処か悲しそうな笑みを浮かべるコクを鼻で笑うアブソバ。次に彼女は幸助の方に顔を向けると、彼のことについて話の内容を変える。


「それで、あの人は何? 貴方が突っかかった不運な人? これからその不運で死ぬって事でいいのかな?」

「不運か……まあある意味不運っちゃぁ不運かな? 特にお前とは相性最悪だろうし」


 コクが吐いた台詞により警戒が強くなる幸助。さっき炎をかき消されたのと関係があるのだろうか。

 だがどうであれ動かなければ事態は進まない。炎を出すのはマズいと考えた幸助は相手側の体制が整う前に倒してしまおうと走り出した。


 幸助が動いたことに気付いた二人は返り討ちにしようと遅れながら動き出し、格闘戦に秀でたコクが前に出る。

 そのまま幸助に殴りかかろうとするも、当の幸助はこれを見て急カーブをかけ九十度曲がって全速力で走った。


「何故急に曲がって? ッン! やられた!」


 コクが気付いたときにはもう遅い。幸助は彼に放られていた剣を拾い、より足を速めて二人を裏を取った。


(よし! 倒すことは出来なくても、せめてダメージは与えてみせる!!)


 強い意気込みで駆け込む幸助だったが、ここに来ても道の人物の動きに翻弄される結果となった。

 振り返って幸助の顔を見たアブソバは、突然クチから息を吐く動作で火炎放射を発射してきたのだ。


「ナニッ!!?」


 幸助は素早く放たれる火炎放射に回避行動が遅れてしまい、足が止まりきる前にいくらかダメージを受けてしまった。


「熱っ!! クッ……」


 なんとか後ろに下がり全身大火傷は免れた幸助。今の攻撃を肌で感じて思い浮かんだのは、つい先程に彼自身が放った炎のことだ。


(発射箇所こそ違うけど、他は全く同じ攻撃。もしかして、そのまま俺の技を返されたっていうのか!?)


 幸助の頭にコクの台詞が思い出される。


『特にお前とは相性最悪だろうし』

(もしかして、あの女の能力はカウンター? 撃った技を急襲しそのまま返してくるのか!?

 だとすると下手に攻撃が出来ない。どう攻めるべきか……)


 幸助が二人に対しての攻め方を考えている最中、アブソバが突然音もなく彼の間合いにまで入り込み、流れるような手さばきで彼の首に触れた。


「しまっ!!」

「終わりね」


 そこから首を絞められるのかと思い彼女の手をほどこうとする幸助。だが上げようとした両腕は彼女に触れるよりも前に唐突に自然と下がっていく。というより、身体全体から突然力が抜けていくような感覚に襲われた。


「な、なんだ?……急に……力が……抜けて……」


 自分の身に起こっている事態に理解が追い付かない幸助だが、後ろからいる二人の様子を見ていたコク、そして彼を掴んでいるアブソバの方も眉を動かし微かながら驚く反応を見せていた。


「へ~……この前と違って本当にタフだなぁ」

「驚いた。ウチに触れられて即死しないなんて初めて」

「そ……即死!?」


 アブソバが呟いた単語に恐怖を感じた幸助。このまま掴まれているのは本当にマズいと考えた彼はより彼女の手を放すことに必死になる。

 脱力感で腕を上げることは出来ないのならば別の手段に切り替えた幸助。身体を左右に大きく振り、遠心力で振り回した腕でアブソバの体勢を崩しつつ腕を当てることで引き剥がすことに成功した。


「チッ……なんて無理矢理な……脳みそまで筋肉で出来ていそうなやり方ね」


 またしても話しの流れで相手を罵倒するアブソバ。自慢の能力ですぐに仕留められなかったのが苛立ったのかさっきよりも眉にしわを寄せている。


 一方の幸助も拘束を振り払ったとはいえ失った力は大きく、頭はふらついて重心も定まらないほどに消耗してしまっていた。


(やばい……何をされたのか知らないけど、立っているのがやっとって感じだ)


 ふらついてカなり弱っている幸助にコクが近付こうとするも、アブソバが彼の前に出て足を止めた。


「どうした?」

「あれで耐えられたのが釈然としない。スッキリさせたいからウチにやらせて」

「はいはい。ご自由にどうぞ」


 コクはアブソバの意思を尊重してわざとらしく掌を向けて手を振りながら後ろに下がった。


 幸助はさっきのように身体を掴まれて何か能力を使用されると今度こそ彼女の言った即死の事態になりかねないと予想し、どうにか回避し攻撃を叩き込もうと誘い出しに身体を揺らす。


 しかしアブソバはこれに乗るつもりは毛頭なく、疲労している彼の姿を顎を上げて見下すような構えで見ながら声をかけてきた。


「虫の息ね……せめて苦しまないようにトドメを刺すわね」


 睨みを効かせ構えを解かない幸助の姿勢をアブソバは何処か哀れに思いつつ、彼に軽く右手を差し出した。

 直後、伸ばした右手の五本指の先端から電撃が放たれ、幸助に襲いかかった。


「電撃!?」


 幸助は炎よりも素早い攻撃に対処が追い付かず、アブソバの電撃を直撃して感電してしまった。


「ガアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァ!!!!!」


 幸助はこの戦闘に置いて彼女に一切雷系統の魔術は使っていない。にもかかわらずアブソバは高圧電流を撃ち出してきた。

 つまりこれは、アブソバの能力が相手の技を吸収して撃ち返してくるカウンターではないという証明だった。


(カウンターじゃ……ない!?……能力を、読み間違え……た……)


 幸助は電撃のショックに耐えきれなくなり、重症を受けた身体がその場に膝から崩れていく。

 ギリギリで意識こそ保っていたが、最早幸助に戦える体力は残っていなかった。気力では立ち上がろうとするも、身体は彼の言うことを聞かない。


 微かに震えている幸助の両腕を見たアブソバは上から目線の態度はそのままながら、追撃をかけても仕留められていない彼に対しての印象が苛立ちから驚きに変わっていた。


「これでも死なない……貴方本当に人間? それとも畜生? ドM? ウチが戦ってここまで耐えた奴は初めて」

「確かに……ブルーメがコテンパンにやられたことといい、どうにも近頃驚く事態が多いよね」


 足が止まっていたアブソバに代わり前に出るコク。ボロボロになっている幸助の背丈に合わせるためにしゃがみつつ彼の顔を見ると、一方的に話しかけた。


「あ~あ~……ボロボロだな……俺一人にやられてた奴が、二人相手に勝てるわけないだろ」


 反応のない幸助。呆然としている彼を見つつコクは立ち上がると、後ろを振り返ってアブソバとの会話に戻った。


「ま、これならもうリタイアだろうし、ハグラの負担を増やすのもマズいし、そろそろ行こっか。

 お姫様の場所は分かってるんでしょ?」

「ええ、今度は迷子にならないでくださいな。今の所ウチ達にとって傍迷惑にしかなっていないわ」

「あぁ、はいはい……」


 やはりコクの方向音痴にはユウホウの面々が揃って迷惑しているようだ。コクはこの説教を受け荒れてしまっているのか、相手がノバァではないからなのかアブソバの言い分を苦笑いを浮かべながら軽く流す。


 そのまま二人は部屋を出て行こうとする。だが扉を編める直前、不意に二人の動きが止まった。


「待て……」


 その一言が、ハッキリ耳の中に入ってきたからだった。か細い声。だがどういう訳なのか身体に響くような不思議な感覚。引きつけられるように二人が後ろを振り返ると、電撃を直撃し、体力も著しく低下してもう身体を動かせるはずがない幸助が、震えながらも再び立ち上がっていた。


「お~っと……立ち上がったよ……」


 コクはもちろん、自分が仕掛けた攻撃をここまで冒涜されたアングラの心境に衝撃が走った。


「なんでまだ……ウチの攻撃を受けておいて……ここまで腹が立ったのは久しぶりだわ!!」


 アブソバはコクより前に出て右掌を上に向けて肘を曲げた構えを取ると、彼女の掌の上に炎が発生した。


「嫌にしつこい男ってだけでも虫唾が走るのに……いいわ、そんなに抵抗するなら、跡形もなく燃やし尽くして上げる」

「派手にはやらないでくれよ。バレたらそれこそ大変だし」


 コクからの忠告にアブソバは一瞬だけ彼を見て理解した旨をアイコンタクトで伝える。そして前に顔を向き直すと、掌の上の炎を大きくしていく。


「灰すら残さず燃やして上げる」


 アブソバは炎を発生させた右腕を一度後ろに引き、勢い良く前に野球ボールを投げつけるような構えで炎を飛ばそうとした僅か直前、二人の後方から声とは違う音が響いてきた。


 振り返る二人。すると部屋の出入り口の役目をしていたはずがちょうつがいを破壊されて飛び出し、彼等に迫ってきている瞬間が映っていた。


「ナッ!!」


 複数回目の驚きに意識が緩んだアブソバは炎を解いてしまい動きが遅くなってしまうも、コクが彼女に被る形を取って扉を右手一本で受け止た。


「なんで扉が!?」

「へえ、誰か来ちゃった感じかな?」


 興奮するアブソバに対し冷静さを保っているコク。扉が被って見えはしないものの確実に自身の目線の

先には誰かがいる。


「誰だ!?」


 コクは目には見えない相手に対してシンプルな問いかけをしながら被っていた扉を自身の右方向にある壁にぶつけるように投げた。


 そしてコクとアブソバ、そして幸助の目の前に姿を見せたその相手は、コクからの質問にこう答えてきた。


「見過ごせない用事が出来て立ち寄った……





 ……()()()だ」



 目の前で今怒っている事実に一番に衝撃を受けたのは幸助であった。現れたのは、彼が真っ先に連絡をしようとしても出来なかった男


 次警隊三番隊隊長、風来坊、『将星 ラン』だったのだから

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