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5-44 人攫い

 何故このような事態に陥ったのか、時間は幸助が部屋には行って来た瞬間にまで遡る。


 他の受験者達同様、幸助も最終試験に真剣な思いで臨むために緊張を整え、ドアノブを握りながら目を閉じる。


(この試験をくぐれば、俺は!!)


 幸助は覚悟を決めて部屋に入って扉を閉める。そしてゆっくり目を開けて、彼は目の前の光景をハッキリと見た。


「……え?」

「あ、やばっ……見つかった。あれ? お前何処かで見たことがあるような」


 幸助は一目にして今目の前で起こっていることが異常であることを頭で理解した。

 部屋の中では、幸助の試験を担当するはずだったのだろう次警隊の隊員が、別の一人の男によって重症を負い、殺害されていた様子だった。


「これって、一体?」


 次に幸助が理解したのは、隊員を殺害した犯人だ。その男は、一度見たことがあった。

 この忍者の世界に来る前にいた吸血鬼の世界、捕らえた犯罪者達を護送する直前に自分達を襲撃し、全滅寸前にまで追い込んできた男、『コク ゴース リベリオル』だ。


 だがこの場にいるのが誰なのかは今の幸助にとってはどうでもよくなった。

 目の前で理不尽に人が殺されている。その事実を目にしたことで怒りが足下から頭の先までお湯が沸騰するように血が上り、激情に任せるままに突撃した。


 鞘から引き抜いた剣を振るう幸助。しかしコクは空いていた左手一つで受け止めてしまった。


「いきなり突撃をかけるって、考えが単純だな。それとも死体(これ)を見て頭に血が上ったか」

「うるさい!!」

「俺からすればそっちの方が数倍はうるさいんだけど」


 コクは攻撃に必死でガラ空きの幸助の腹に蹴りを入れ、彼を入って来た扉近くの壁にまで吹き飛ばした。

 だが始まったときには既に満身創痍だった前回の戦闘とは違い、第三試験での消耗こそあれどまだまだ戦える程度の元気は残っている。

 すぐに立ち上がった幸助は握ったままの剣を構えて睨み付けると、コクは死体を放って彼に身体を向け、彼の顔をまじまじと見て、そして思い出した。


「そうだ! お前風来坊の近くにいた二人の内の……あの時は確か俺にすぐ吹っ飛ばされていたはずだけど……今回はすぐ立ち上がったか」


 コクは手に付いた血を払いつつ笑いながら幸助に話しかけた。


「あの男は何処だ? せっかくなら会いたいな。この前は変に邪魔が入ったし、本調子じゃないところ急襲した。ホントはアイツ、もっと強いんだろ?」


 ランの話をすると共に、目の前にいる幸助は眼中にないこと、そして今この場で人殺しをしたことをなんとも思っていないような様子のコクに、幸助の怒りが更に高ぶった。


「殺した人にはお構いなしかよ。それにお前が! 星間帝国の王子が何で次警隊の基地にいるんだよ!!」

「仕事だ。ちょっと人を探しにね。その先でこの通り迷っちゃったわけだけど、まさかあの時の風来坊がここにいるとはね~……

 たまには方向音痴もいいことあるもんだ」

「ふざけるな!!」


 幸助は残酷なまでに軽い態度のコクに我慢の限界を迎え、再び真正面から突撃をかけてしまった。


「あ~あ~懲りずに……直情的に暴れる奴は相手するのつまらないんだけどなぁ」


 コクは再び幸助の攻撃を素手で受け止めようとやる気半分といった様子で右手を前に出す。

 だが幸助は剣で攻撃すると見せかけてそちらに意識を向けさせると、剣を振り下ろす振りをして何も持っていなかった左拳をコクの腹に激突させた。


 想定よりも強力な衝撃が伝わったコクは数歩後ろに下がるも、苦しい顔はせずに逆に笑ってみせた。


「思ってたよりいいパンチしてるなぁ……なるほど、お前もあの時本調子じゃなかったって事か」

「さっきお前に殺された隊員さんの分だ。こんなものでは、とても足りないけど」


 コクは殴られたときに口から吐いた唾を腕で拭いつつ、にやけている口角を元に戻していく。


「これなら、多少は歯ごたえあるかも。どうせ見られたからにはお前も口封じとかないとだし、ちょっとは楽しませてくれよな」

「口封じって……そもそもこの部屋の様子は監視カメラで映像が送られているはずだ! お前の存在は既に次警隊に……」


 幸助の言い分はコクに鼻で笑われて返事された。


「バレてないんだよなぁ、それが。内のチームには優秀な機械担当がいてね。俺の居場所はそいつには知れているし、リアルタイムでカメラの映像は改ざんされている。

 後はお前を消せば、最低でも向こうさんが気付くまでの時間は稼げる」


 コクの言うことが本当だとすれば、待っていてもこの場に援軍はやって来ない。

 ブレスレットを使ってラン達に連絡をするべきかと考えを浮かばせながらも、増援を呼んでいる内に逃げられてしまえば見つけ出すのがかなり難しくなる。


 ならばこの部屋にいる自分だけでコクを戦いつつ隙を見て僅かでも連絡を取るしかないと幸助は判断する。彼はすぐに武器を構え直して何処から来られても対応できるように目くじらを立てて率直に聞いてみる。


「人を探しに来たって言ったな。それは誰だ?」

「わざわざ言うと思う? 敵陣にでわざわざ潜入してまで攫うように命令されるなんて、一人くらいしか思い付かないでしょ」


 幸助の頭に忍者の世界に来て以降の思い出が素早く流れていく。その中でこの場所に来なければ攫えない相手は一人しかいない。


「大隊長の娘、マリーナ姫!!」


 大隊長の娘が今この場にいる。確かに彼女を攫い人質に取れば次警隊にとって大事件だ。

 だが普段故郷の世界にておこもり生活をしているはずの姫がこの世界にいるという情報を、どうして赤服であるコク達が知っているのか。当然次にこの疑問が浮かんできた。


 幸助が警戒しつつこの疑問を聞きかけるも、コクが長時間も優しくおしゃべりをすることなどなく、相手の隙を見つけた瞬間に突撃をかけてきた。

 幸助は迎え撃とうと構えるよりも前に目の前にいたはずのコクの姿は消えてなくなり、ほぼ同時に右腕や腹に攻撃を受けたような痛みを感じた。


「今のは!?」

「遅い」


 目にも見えない動き。コクの謎の高速移動によって幸助は背中を切りつけられ、血を飛び出させた。


(今度は刃物!? ッン!!)


 幸助は目線に入った腕から自分の剣が消え、付けていたブレスレットが破壊されている事に気が付いた。


(しまった! これじゃ連絡が取れない。アイツ、これを狙って真っ先に攻撃を)


 してやられたと苦い顔を浮かべつつ幸助が振り返った後ろには、消えた剣を握っているコクが立っている。

 数撃受けてようやく見えたコクの姿は、両目の瞳が紫に変わり体格は少々細身に、髪が少し延びては左側に跳ねている。


「姿が、変わってる?(そういえば、前に戦ったときも、急にゴツくなってたような……)」


 幸助がコクの能力にある程度の仮説を立てていると、コクは奪った剣をペン回しのように振り回しつつ口を開く。


「その感じだとなんとなく気付いたかな? まあ戦うのは二度目だし仮説は立てられてても仕方ないか」


 剣を握り直し刃先を幸助に向けつつコクは答えを自分から説明した。


「人間は様々な運動方法で体格、力、スピード、様々なものが個人個人離れていくようになっている。

 だが俺は、ビルダー並みのマッチョから世界陸上を越えるスレンダーボディまで瞬き一つで変化させることが出来る。

 名前を付けるなら、<体格変化(タイプチェンジ)>って所かな」


 コクは握っていた剣を捨てて再び瞬きをする。今度は両目の瞳が赤く染まり、細かった体付きがわずか数秒足らずで筋骨隆々な大柄な体格に変身し、髪型もより伸びてセミロングになった。


 風貌が変わると共についさっきまでとは比べものにならないプレッシャーを感じる幸助。剣も手を放れた上、足がすくみそうな恐怖に襲われる。

 それでも幸助は負けじと両手を前に出して水波を発射する。


「物量でゴリ押しする感じかな? でも残念」


 コクは一歩も動くことなく、自身に押し寄せる大量の水を広げた右掌で触れた。すると彼を襲おうとした水は手が当たった箇所はもちろん、その周囲すら一滴も残さず時が止まったかのように制止させてしまった。


「水が……丸ごと止まった!?」

「生憎この程度、軽く弾けるんだよな」


 コクが捨て台詞を吐いて右手を軽く押すと、水の塊そのものが幸助の方に丸ごと押し返されてしまい、予想気の行動をされた幸助は防御が間に合わずに喰らってしまい、さっきとは別の箇所の壁に深くめり込むほどに吹き飛ばされてしまった。


「くっそ……物量でダメなら、丸焼きにしてやる!!」


 幸助は持ち前の頑丈さで尚もすぐに戦線復帰し今度は触れたところで火傷によるダメージが入ると火炎放射を発射した。


「お~わ……コイツいくつも属性技使えるクチか。()()()と同じタイプ、どうしよ?」


 範囲広めの高熱の炎を接近させながら今だ余裕そうに首を傾げて対処を考えているコク。ところが彼は炎が至近距離にまで近付いたタイミングで首を傾げるのすらも止めて無防備に炎を向かえた。

 直後にコクの身体を炎が包み込む。高熱をまともに受けたコクは最早灰すら残さず燃え尽きる。


 幸助はコクの行動に気付かないままに単純に攻撃が当たったものと判断し、そろそろ頃合いかと魔術を解いた。

 だが炎が晴れた先に幸助が見えたのは、大技を使った後とは思えない壁にも床にも全く損傷のないあり得ない状態。その中心には五体満足で傷一つ付いていないコクと、その前に一人の女性が右手を前に出し立っていた。

 暗めの緑色のくせっ毛を左肩にカールにして下ろし、血の色の瞳に肌色の肌をした体。

 赤いシャツに髪色と同じ色のスカートをはいたラフな格好をしつつ、細くしなやかな印象の体つきをした女。


「一人増えている!? あの子も、赤服か?」

「ありがとう、来てくれて色々と助かったよアブソバ」


 幸助とは初対面のこの女性。コクと同じく赤服の特殊部隊、ユウホウに所属する『アブソバ』だ。

 幸助は彼女の突然の登場はもちろんながら、自分が加減なしに放った炎をどうやって消滅させたのかが気になった。


(今の……まさかこの子もフジヤマさんや、ブルーメって奴と同じ人間ベースの兵器獣!?)


 予期せぬ相手が二人。幸助は一人段々と追い詰められていった。

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