表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

141/210

5-40 騙くらかす

 お互いに騙し討ちをし合った為に、睨みを効かしながら一定の距離を取るフジヤマと大悟。


 二人が沈黙したまま少しの間様子をうかがっていたが、藤山の足がふと落ちていたクナイに当たって音が鳴った瞬間、大悟は隙が出来ると思い手裏剣を投げ、フジヤマも同じタイミングに水球を放つ。


 二人の攻撃は丁度真ん中でぶつかり合って相殺された。水蒸気が発生し完全に破壊されたかと思ったフジヤマだったが、すぐに蒸気を突き抜けて手裏剣が向かってきた。


「何!? 破壊したはず」


 間近まで飛んできた手裏剣をギリギリの所で回避したフジヤマ。ランほど器用にとはいかないが、この動きの流れに乗せて足下にあったクナイを蹴り飛ばし、水蒸気が晴れきっていない向こう側にいる大悟に仕掛けた。

 大悟の方もこれには驚いたようで、顔にかすりかけるもギョッとして回避する。


 二人は次にお互いが飛ばしてきた武器を拾い投げつける。またしても水蒸気が晴れた同じ箇所にて武器同士が激突する。

 ここでフジヤマはついさっき破壊したように見えたはずの手裏剣が何故突き抜けるように突破してきたのかが分かった。


 激突し破壊される直前、プラナリアやミカヅキモも分裂のようにクナイが独りでにもう一つ生成され、勢いはそのままにフジヤマに向かって飛んできたのだ。


「武器が空中で増えた!?」


 フジヤマはまたしても身を捻って回避し、大悟に問い詰める。


「今の……あれもお前の忍術か!」

「正解。<武装分身(ぶそうわけみ)>、自身の装備品に予め術をかけておくことで空中で分身させる。数攻めをしたいときや、さっきみたいに騙し討ちをするのにめっちゃ使える。

 ……といっても単純に騙そうとしたところでかわされんのがオチか!!」


 説明を終えてすぐに大悟は複数個の手裏剣を投げてきた。

 フジヤマは水球を連射して破壊しようと試みるも、投げられた手裏剣のいくつかが武装分身の効果によって空中に飛びながら数を増やしていった。


「また分身か!」


 フジヤマはこれに対し発生させた水球を上下から手で叩くことで潰して細かくしつつ飛ばし、数が増えていった手裏剣に次々と衝突させて破壊していった。

 またしてもどう際されて終るかに思われたこの攻撃だったが、大悟はおもむろに浮幽を使い空中に蹴り上がりつつフジヤマに話しかける。


「おいおい、ホッとしとる場合とちゃうで。言い忘れ取ったけど、武装分身が出来る分身の数は二つとは限らんで。何個増えるのかは、俺の気分次第や」


 大悟の台詞の直後、水蒸気から一つだけ飛び出した手裏剣が一瞬停止仕掛けたようにフジヤマの目に止まると、ポップコーンがはじけるように大量に分身し、大悟のいる上部を除いた部屋全体に手裏剣の猛威が広がった。


「<武装分身(ぶそうわけみ) 手裏剣術 乱れ花片(みだれはなびら)>」


 いきなり大量に分身した手裏剣にフジヤマは対処がとても間に合わず、鱗で硬化して受けきろうとするも絶え間なく来る攻撃に耐えきれず全身に切り裂かれるダメージを受けてしまった。


「ウッグッ!!……」


 思わず悶える声を出し、膝を曲げて息が荒くなるフジヤマ。大悟は今度こそダメージを与えたことを確信するも、念を入れて空中から落ちてこようとはしない。


「さすがに効いたようやな。ようやく一歩前進か。とはいえ俺は忍者、出来るだけ戦いは短時間で終らせる主義や。例え一方的でもな」


 大悟はそこから再び脚刃雨を撃ち出し、負傷によって機動力が落ちたフジヤマに降り注ぐ。

 彼はすぐに分子操作によって自身に直撃しかけた斬撃を変換し水球を生成、反撃をかけて相殺する。


「やっぱ普通に斬撃撃つだけじゃこの有様か。……だから、攻撃の合間に仕込んどいたんやけど」


 大悟は斬撃の雨の中に紛れ込ませたクナイを分身させ、斬撃の攻略に手間取っていたフジヤマの身体に突き刺さった。


「グッ!……次々と小細工を……」

「手品の種を仕込むのは得意やねん」


 連続で攻撃を受けてかなりの出血をするフジヤマを見て大悟はバッチを破壊しようかとクナイを片手に持ちながら狙いを定める。


「そろそろ終わりにさせて貰おうか。くどいようやけど、戦いを長引かせるのは主義じゃないんでな」


 大悟は目付きを鋭くさせ、致命傷にはならないように気を付けながらもある程度の勢いは付けて投げかけた。

 しかし直後、大悟はクナイを投げようとした動きが止まった。いや、止められてしまった。突然身体の各部に突き刺さってきた見知らぬ何かによって


「こいつは!?」


 ここまでの戦闘では見た憶えの無かった赤黒い鋭い突起物。どうにか動かせた目線でフジヤマを見る。

 するとその正体は、なんと彼は大悟の攻撃にやられて負傷した箇所から出ていた血液に分子操作を行ない、鋭い槍に固形化させてものだった。


「マジかコイツ!! 飛び出た血を武器にするなんて無茶な真似!!……ああ、そういやおったな、そんなアホなことする奴」


 大悟の頭の中にランの姿がよぎる。彼のことを思えば、()()()()()()にも少しは納得がいくというものだ。


「止めてくれ。ぶっ飛んだ無茶をする奴は一人で手に余るねん。ホンマに!!」


 大悟は自信に風を纏わせつつ身を捻って突き刺さった血の槍を破壊した。

 すかさず攻撃に移ろうと動きかけるが、崩された血の固形物は空中で大悟がここまで散々投げ飛ばしていたクナイに似た形になり、今度は体中に突き刺さって出血させてきた。


「ウグッ!!……こいつ、バラバラにしたのを逆に利用して……」


 ダメージに集中力が切れかけた大悟は浮幽の効果が解けてしまい、床に落下してしまった。


「チッ……イッテテ……やってくれるなお前……」


 全身から出血し追い詰められた大悟。しかしもう一方のフジヤマもただでさえ出血していたところにその血液をより飛び出させて武器にしたこともあり、相当な疲労を与えていた。


 こうなればお互いに大技は使いにくい。今度の今度こそ、正面切っての打ち合いになりそうだ。


「ったく、ここまで嫌なことを思い出させるとはな。ホンマ癪に障るで……」


 大悟は頭を軽くかきむしると、右脚を少し後ろに下げて顎を引きながら構える。


「こうなったらせこい手なしでやってやるわ。こいよ。真正面から潰してやるわ」


 フジヤマは大悟の構えからして浮幽脚刃を使うつもりなのだろうと予想し、右手を握って水圧の剣を発生させる。

 息を深く吸い、目線を真っ直ぐ睨み付けながら前に走り出した。大悟もほぼ同時に走り出し、すれ違い様にフジヤマは剣で斬り掛かり、大悟は右脚を上げて応戦する。


「<浮幽 脚刃 居合い>!! (と、見せかけといて……)」


 大悟はここに来てもいつの間にか隠してあったクナイを取り出し、間合いに入りピンポイントでフジヤマのバッチで闇討ちを仕掛けた。


(悪いな。最後までこんなせこい手段で。ま、こういう汚いことをするのが俺のやり方なんでな。堪忍やで)


 大悟の裏の企みが上手くいく。そう確信していた彼だったのだが、直後に彼は何か感じ取ったのか目元を動かし、その場での攻撃を突然止めて脚を降ろした。

 フジヤマもこれに合わせて剣の動きを止めて技を解除する。


 二人は数歩後ろに下がると、大悟が罰の悪そうな顔をして話しかける。


「本当にやってくれたな……俺を騙くらかすなんて、ランに匹敵する手癖の悪さやで」


 大悟は自分の胸に視線を下げると、彼が取り付けていたバッチにフジヤマの鱗の破片が突き刺さり、損傷させられている様子が見えた。

 そう、フジヤマも大悟と同様、始めから正々堂々と決着を付ける気などなかったのだ。


 フジヤマは水圧の剣を生成することによって、ここまでも高確率で使っていたことから大悟に剣を使うだろうと思い込ませていた。

 その隙に彼は身体に生えている鱗を一枚千切ってもう一方の片手の中に隠し、至近距離にまで近付いたタイミングに隠していた鱗を親指で弾き、大悟のクナイが自分のバッチを攻撃するよりも前に彼のバッチを損傷させた。


 勝利条件は大悟のバッチを損傷させること。即ちこの試験の決着は、やられた大悟本人が嫌な顔を浮かべつつも正直に伝えた。


「最終試験……文句無しに合格や。おめでとうさん」

「せめてもう少し嬉しい気分になる顔で言ってくれよ。なんか引っかかるだろう」


 せっかく次警隊入隊試験の合格を伝えられたというのに、大悟のやる気の無い言い方のせいであまり喜べず微妙な顔を浮かべて汗を流してしまうフジヤマ。

 対して大悟は戦いは終って仕事は終ったとでも言わんばかりにその場にあぐらで座り込んでガス抜きをするように息を吐いてしまった。


「フゥ~……疲れた」

「オイさっそくスイッチ切るなボケ忍者」


 思わず罵倒を飛ばしてしまうフジヤマ。大悟はそんな彼に座るように勧めた。


「まあ、お前も座れや。ここの勝負が終ったことはもう伝わっとるやろうし、もうじき医療器具もやって来る。お前も疲れたやろ、まあ休めや」


 勝ったというのに拍子抜け感が拭えないフジヤマだが、事実疲労はかなりあったのでその場の床に座り込んだ。

 沈黙をしているのもなんだかむず痒かったフジヤマは、相手が大悟ならばとあることを聞いてみた。


「そういえばお前の連れの子供、『零名』だったか? アイツもこの試験に出ているのか?」

「おう、アイツも正隊員やからな。当たった奴はほんまに不幸やで」

「不幸? どういうことだ?」


 疑問が深まるフジヤマに、大悟は目を見て少し口角を上げたにやつきかけな顔付きで答えた。


「零名は、俺や姉貴が認めるほどには強いからな」



_______________________



  話題に上がっていた少女、零名が試験管をしている別室。彼女に相手をして貰っている南は、既に全身が汗まみれになりながら相当疲労しており、膝が曲がって体勢が崩れかけていた。


「ガァ……ハァ……」


 そんな彼女を背丈は小さいながらも大人顔負けな冷たく鋭い視線が刺さる。零名には一切疲労の様子はなく、一方的に追い詰めている状況が出来上がっているようだった。


(まさか、あんな能力を持っていただなんて……このままじゃ僕は……負ける)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
南は苦戦を強いられている。ここからどう逆転するのか気になります!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ