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5-31 ちょっと待ったアァ!!

 そして現在。自分を初めて認めてくれた水希の役に立つため、手に入れた本を抱えてひたむきに逃げ出し、今度こそ試験に合格するためにゴールに急ぐ黒葉。


 しかしメリーのような明確に道案内が出来る人物も無しに目的の本の位置にまでどうにか辿り着いていた黒葉は、ゴールの場所が見当たらずに迷ってしまっていた。

 かといって能力で本棚のパーツを分解しても、それ自体を欠損と見られれば即試験失格になりかねない。


 色々と重なった結果下手に動くことがしにくくなっていた黒葉は、隙を突かれて追って来ていた幸助がすぐ近くにまで来ていた。


「やばっ! 追い付かれた!!」

「何というか……本棚だらけのややこしい図書館だったのが、功を奏した感じかな」


 後ろに下がって撹乱させるか。黒葉は真っ先に浮かんだ作戦はこれだったが、実行すればすぐに自分もよりゴールまでの道に迷いかねないと頭の中で却下した。


 ならばどうすべきか。こういうときの黒葉の思考は、ある意味幸助の思考パターンと似たところがあったようだ。

 幸助も黒葉もお互いに向かって真正面から走り出し、幸助は剣を構え、黒葉は右手を伸ばす。二人とも先手必勝の真っ向勝負を仕掛けるつもりだ。


(やっぱりこっちに向かってきた。狙い通りにいけ!!)


 幸助の算段はランのように二の手三の手とは考えられず、一発限定の直球の賭けを仕掛けてしまうところがある。

 今回のここでもそれは同じのように見えた。幸助は間合いに入ってすぐに剣を鞘ごと振るい気絶させにかかった。


 だがこの程度の単純な攻撃が通じる訳がない。黒葉は幸助の剣の間合いギリギリで回避、振り上げて命中箇所ギリギリに過ぎたタイミングで幸助の右腕に触れることでまたしても分解、その場の床に落として隙だらけにした。


「ッン!!」

「先手必勝が仇に出たな。今度こそ反撃が出来ないように両足を外しておいてやる!!」


 武器を失い、試験の内容上魔術も使えない幸助に一気に畳み掛けようと宣言通りに彼の脚を狙う黒葉。だが攻撃を潰したと高をくくっていた黒葉に、次の瞬間予想外の展開が起こった。


 突如黒葉は左脚に何かが激突したかのような痛みを感じ、前方に転倒して狙いが外れ幸助の脚を掴むことが出来なかった。

 何故突然不自然に身体が転倒してしまったのかがすぐに気になった黒葉が自身の足下に視線を向けると、つい先程彼が取り外した幸助の右腕が黒葉の左足首を掴んでいる様子が見えた。


「これは!?」

「上手くいったみたいで、良かった」


 今の台詞。この事態は、幸助が意図的に起こした事らしい。黒葉はそうなればここまでの経緯に一つの仮説を立てることが出来た。


(そうか! これは俺の能力の弱点を知って出来た行動!)


 幸助は、一度自身の腕を外され、これを取り付けるときに一つ気が付いたことがあった。彼は腕を元に戻す直前、反射的に右手の指が動いていた。

 この事から、幸助は外された身体の一部も、普段のくっついているときと同じく自分の意思で動かすことが出来ると知り、さっそくこの特性を利用することにした。


 本棚一画でかち合い、二人は面と向かっての突撃を仕掛けたとき。この瞬間、幸助は敢えて先手に大振りな攻撃をはやめに繰り出して自身の右腕に注目させるように誘導。

 自身の攻撃をかわさせて黒葉に右腕を分離させる。そこから意識が逸れた右腕に黒葉の脚を掴ませる事で転倒させたのだ。


 幸助は右手に黒葉の片足を掴ませたまま至近距離にまで近付くと、左手を広げて掌に出来るだけ小さく魔力を込めた。


「周りには一切被害が出ない程度に麻痺して貰う。悪いけど、南ちゃんの為だ」


 普段は誰に対しても優しいが、仲間のためにと非情になろうとする幸助。だが相手はついこの前の祭りにてたまたま出会い、出店で一緒に仲良く遊んでいた黒葉。

 そんな彼に対しても情を感じていた幸助は、仲間と共に合格したい思いはありつつも同時に黒葉にも試験に失格して欲しくない気持ちが湧き上がり、あと一歩のところで身体が動かせなくなっていた。


 黒葉は目線を上げて目にした幸助の思いを表わした表情に彼も思わず口を開いた。


「幸助、優しい奴だな。でも俺みたいなクソ野郎にそんなことをしても、悲しい程意味がないよ」


 黒葉は幸助が至近距離まで近付いたまま止まったことをいいことに、今度こそ彼の脚を分離しようと倒れたままに右手を伸ばしてきた。

 幸助も黒葉の行動に気が付き、これ以上悩んではいられないと黒葉を麻痺させようとした。しかし二人のどちらかの攻撃が当たる寸前のタイミングに、突然大きな声が聞こえてきた。


「ストオオオオオオオオオオォォォォォォォォッッッップ!!!!!」


 声に反応した二人は同時に動きが止まってしまい、結局どちらも仕掛けられにままに空気が崩された。

 誰が話しかけていたのかが気になった二人に、声の張本人である南が汗をかき、生きも大きく乱れるほどに大急ぎで走ってやって来た。どうやら外された片足は自分で元に戻したらしい。


「南ちゃん!」

「もう追い付いてきたのか!? はやいな」


 南の足取りの素早さに驚く黒葉。しかし幸助からすればあと一歩で彼女の課題の本が手に入る中でその彼女自身に止められたことに、正直なところ遺憾に意を示したい気持ちになっていた。


「なんで止めるの南ちゃん!? もう少しで本が手に入るってところなのに」

「そんなことする必要がないよ!」

「ハイッ!?」


 幸助は南の言っていることが理解できなかった。本がなければ南はジーアスの元にゴールをしたところで試験には合格できない。

 にもかかわらず、当の彼女自身が本を取る必要がないと言う。彼女のこの台詞には幸助はもちろん、黒葉も顔をしかめていたが、次に南が口にした台詞から表情は段々緩んでいった。


「一人になって改めて考えてみたとき、ふと一つ浮かんできたんだ。この試験、最初から本を取り合って戦う必要なんてないんだよ!」


 こうなればまずは話を聞かなければ納得できない。黒葉は警戒は緩めていないようで取り外した幸助の剣と右腕を持ちつつも、二人は戦闘態勢を解き南の話しに耳を傾けることにした。


 ここでの戦闘はひとまず落ち着いたところだったが、まだ図書館内の様々な場所では受験者同士による本の取り合いの戦闘が横行していた。

 その内の一つ。幸助達からどういうカラクリか強制的に引き剥がされたメリーは、同じ場にいた厨二病少女、オーカー・トダマのしゃべり口調に首を傾げているところだった。


「ご機嫌よう、メリー嬢。深い闇が渦巻くこの魔道書の森の中。ここに奇妙な偶然を見つけてしまったぞ」

「き、奇妙な偶然?」


 頭にクエスチョンマークが浮かんでしまうメリーに、オーカーは自身のお題を見せつけてきた。その本の題名『あらゆる人にでも理解できる異世界語学講座』を見て、メリーは驚いた。


「その本さん! ワタシと同じお題じゃないデスか!!」


 そう、南と黒葉がお題の本が被っていたのと同じように、メリーとオーカーもお題の本が敢えて被らされていたのだ。

 こうなれば当然オーカーはメリーが今持っている本を奪い取る必要があると考え、戦いを仕掛ける気で満々なようだ。


「もう分かっているであろうメリー嬢。我とお主は今、戦う運命(さだめ)にあるのだ!

 お主とは宴の際、共に遊戯のときを過ごした仲だが、この試験を合格するため、致し方ない犠牲なのだ、分かってくれ」


 いちいちポーズを取りながら格好付けて台詞を吐き続けるオーカーに反応に困って冷や汗を流しつつも、頭の中では今自分がどうやってここにいるのかについてを考えていた。


(ワタシはついさっきまで幸助さん達と共に走っていたはずデ~ス……それが瞬きをしている一瞬の内にここまで移動していた。

 オーカーさんの能力なのでしょうか? どっちにしても、このままやられるわけにはイキマセン!)


 相手を伺うような目をしながら今いる場を動かないメリーにオーカーはフッと笑い、右手の人差し指で彼女を指しつつ左手で自身の顔を覆い隠して話を続ける。


「フンッ! お主、何故自分が突然我の前に移動させられたのかを知りたがっているな? 宴の場で共に遊戯を楽しんだ例だ。教えてやろう!」


 オーカーは顔に当てていた左手で左目に付けていた眼帯を取り払った。メリーは彼女が露出させた左目に驚きの顔を浮かべた。

 オーカーの左目には白目が存在せず、全体的に黒い。黒目に当たる部分は多少紫がかった箇所があり、明るくはないものの美しく見える。


「眼帯、雰囲気じゃなかったんデスね」

「フフン。当然だ! これは我が邪悪なる契約の証!!」

「契約?」


 するとオーカーの後ろから周辺一帯の本棚や床、天井までをも包み込んでしまう勢いで黒い闇が発生した。

 たまたまにオーカーの後方近くにいた受験者達は突然発生したこれに驚き、次々に闇の中へと飲み込まれていく。

 当然恐れてしまう受験者もおり、メリーも戦慄して足を後ろに引いてしまう。


「これは!?」

「安心せい。この闇はその気になれ場周辺一帯を平らにすることも出来るが、今回の試験でそれが御法度、行使せん」


 オーカーが言うように発生した闇は徐々に収縮していき、彼女の背中に隠れるまでに小さくなると、彼女の身体が被る形ながら何かの生物の脚のようなものが見えた。


(脚? 獣……いや、妖怪の類いでしょうか?)


 オーカーの背後から判じる独特の威圧。メリーがこれに圧倒され、どんなおぞましい存在が出てくるのかと身構える。


「見せてやろう! 我が契約せし最強の魔物! 『フレミコ』だ!!」


 解放した左目をありありと示すためか、右目の方を片手で押さえてもう片腕を広げたポーズを取る。

 重々しい空気、何が起こるのかが分からない。メリーが警戒しつつ構えていると、とうとうオーカーが隠していた魔物『フレミコ』が姿を現した。オーカーの股下をくぐって……


「あ、あああ……あれ?」


 メリーはその実物を見た途端に恐怖心が引っ込み、代わりにキョトンとした顔になった。


 さっきまでの威圧は何処へやら、実際に現れたそれはぬいぐるみ状態のユリと同じ位の大きさをした、オレンジ色の鶏冠(とさか)が生えたドラゴンのような頭に長い首、対する胴体はティラノサウルスのような小さな前足と大きな後ろ足を持つと、全体的に奇っ怪な風貌の珍生物の姿が見えた。

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