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5-29 分解

 観客室にて見物を続けるラン達。モニターに映る先には、お題が被ったがために一つの本を取り合って受験者同士による戦闘が図書館内の各地で発生しているのが見えていた。


「お~お~……つぶし合いが起こってるなぁ」

「わざとお題の本を被らせるなんて、確かにラン君の言う通り、タイタン隊長の試験凄くいやらしいわね」


 自身が教えを受けた人物が仕掛けたこの戦いの様子に引きつった顔になるアキ。ランとユリはモニターを見ながらジト目になっていた。


「全くいやらしいですよね……本当に、試験のルールが」

「ああ、上手いこと戦う事に意識が向くようにされている。見事受験生のほとんどがタイタン隊長の術中にはまったな。

 罠にはまらなかった一部の受験者は、本を見つけ次第すぐに合格しているみたいだがな」


 ランが別のモニターを見てみると、フジヤマやファイアを始めとした既に第三試験に合格した受験者達が休憩所の椅子に座って各々好きな飲み物をいただいていた。


「やっぱり、今回の試験で一番の優秀者はフジヤマか」

「ヒデキ君が?」

「アイツは長い間一人で戦い続けていたからな。それが皮肉なことに、戦闘センスと勘の鋭さを鍛え上げている。

 今回の試験の罠にもいち早く気付いたってところなんだろう。その上ファイアと違って、一方的に暴れるなんて事もないしな」


 アキは素直には喜べなかった。フジヤマの今の思考のはやさや強さの原因が、自分達が一度彼を見捨てたことにあると思ってしまったからだ。

 そんな彼女の方をユリが後ろから優しく触れる。同情をするわけではないが、ずっと戦っている相手の側にいながらそれをあまり助けることが出来ない身の上として、同じものを感じていたようだ。


 ランもこれには少し失言だったと反省したようで、すぐに別の話題に切り替えた。


「幸助も南も、他の受験者と揉めているな。さて、アイツらここから気付くのかどうか……」



_______________________



 ラン達が見ているモニターの先の光景では、被ったお題の本を巡った追いかけっこはしばらく続いていた。少ししてどうにか後ろから黒葉の肩を掴んだ幸助は、黒葉の逃げる足を止めようと頼む。


「待った待った待った!!」

「止めろぉ!! 俺の本を奪い取りつもりだろう!!」


 掴んできた幸助の腕を振り払おうとする黒葉の腕に幸助はすぐに腕を放して距離を取った。黒葉の能力状、触れてしまえば幸助はこの狭い空間内で服がはだけてしまうからだ。そんなことをされれば場合によっては服が本に引っかかり傷付けるきっかけになりかねない。


 黒葉は自分から攻めて来ておきながら身を引いた幸助に黒葉はまたしても勝手に落ち込んでしまう。


「お前! 今俺に脱がされるかと思って離れただろ!!」

「ま、まぁ……」


 変に誤魔化して余計話をややこしくしてはいけないと思い正直に伝えると、黒葉はやっぱりと言いたげな顔をしつつも、足を止めて少し時間が経ち息が落ち着いてきたからかこれ以上とやかくわめくことは収まり、冷静に話せる流れになった。


「……それで、本が被っているってどういうことだよ? この図書館、ここまで広くて本の数もやたらあるのに、そこで被るなんて事あるのか?」

「俺も驚きだけど、わざとそうしているんだと思う。この試験の目的はただ借り物競走をすることじゃない。敢えて被ったお題の本を巡って戦い合うことなんだ。まさかここで黒葉と当たるとは思ってなかったけど」


 二人の問答が続いていると、ここで黒葉の本が必要な当の本人が追い付いてきた。


「やっと追い付いた! 幸助君すぐに追いかけて行っちゃって……」

「ああ、ごめん南ちゃん。また俺、後先考えず突っ走っちゃってたのか」


 南から指摘された初めて自分の行動に気付いた幸助。流れるように謝罪をするもそれにより気が緩み、後ろから不意を突いた黒葉が幸助に手を伸ばしてきた。


「幸助君!!」


 南に呼ばれて聞きに気付いた幸助は咄嗟に身を捻って回避する。体勢を崩した黒葉に幸助は腰の剣を鞘ごと外して振り上げた。


(鞘ごとぶつけて気絶させる。出来るだけで力加減は弱めて、周りにも傷がつかないように!!)


 出来るだけ配慮しつつ一撃で決めようと背中に攻撃を仕掛けたそのとき、黒葉は突然一言叫んだ。


「<分解(パージ)>!!」


 すると幸助の剣が衝突した瞬間、鞘から刃を抜いたわけでもにのに身体が上下半分に真っ二つに離れてしまった。


「エッ!?……」

「嘘っ……」


 幸助も南も、驚きが一周回ってこの場だけが時間停止をしてしまったかのように固まってしまった。

 こんなたかだか本の取り合いなんてしょうもない事の為に、今目の前で人を一人死なせてしまったからだ。


 少ししてようやく我に返った二人、特に幸助は、自分のやってしまったことに震えだした。


「お、俺……今黒葉を剣で……」


 まさか鞘が壊れてはが見える箇所でもあったのだろうかと自信の武器を表裏とくまなく確認する。しかしいくら目視してみても刃が露出している部分は見当たらなかった。

 ならば何故黒葉の身体が真っ二つになったのかと原因を知ろうとする二人に、更に衝撃的な出来事が起こった。


「あぁ……驚かせちゃったかな?」

「ホエッ?」


 何処かから聞こえて来た声に反応して変な声が出てしまう南。そんな彼女が次に目に映ったのは、幸助に切断されたはずの黒葉の上半身の右腕が独りでに動き出し、床に突っ伏していた頭が動いて彼女に顔を見せてきたのだ。


「ウワァッ!!」


 驚きと共に突然死体が動き出した不気味が事態に、南は恐怖から数歩分後ろに下がってしまう。幸助も切断されて死亡したかに思われていた黒葉が突然身体を動かしたことにあんぐり状態になっていた。


「ハアァ!!? 何これ!? 何がどうなっているんだこれ!!?」


 動揺し行動に迷う幸助に、後ろから突然背中に蹴りを入れられた。

 またしても何が起こったのかと幸助が後ろを振り返ると、黒葉の切り離された下半身が独りでに立ち上がり、幸助に蹴りを入れていたのだ。


「切り離された身体が、それぞれ自分で動いてる!!?」

「それぞれじゃないさ。ただ意識が繋がっているってだけ」


 黒葉は上半身を腕で持ち上げ、下半身の腰を曲げて切断部をくっつける。間髪入れない間に黒葉の身体は着ている服も含めてまるで全く刃物に当たっていなかったのように元の五体満足の状態に戻ってしまった。


「身体が戻った!?」


 目の前で起こっている黒葉の行動に目を丸くする幸助と南に、元に戻って立ち上がった黒葉が再び口を開いた。


「俺の能力は服をはだけさせる……俺自身、最初はそれだけだと思っていた……」


 不気味さから本能的に退所しなければならないと感じ取ったのか、幸助は再び後ろから黒葉の背中に剣を振るった。しかし今度は黒葉に剣を持っている右手を受け止められた。

 次に黒葉はさっきと同じ台詞を口にし、幸助に何か攻撃を仕掛けた。


「<分解(パージ)>」


 彼がわざ名らしき単語を呟いてすぐに異変は起こった。黒葉は大した力を入れていないにもかかわらず、掴んだ幸助の右腕をまるでプラモデルのパーツを外すかのように付け根から引き千切ってみせたのだ。


「何だ!!? 俺の! 腕が!!」

「幸助君!!」


 幸助は自分の右腕を千切られてしまったというとんでもない光景が目の前に映っていながら、奇妙な思いを感じていた。


(どういうことだ!? 俺の身体はどうなっている!? 右腕を千切られたっていうのに、全く痛みがない! 握られている感覚も感じる!? まるで、腕だけ別の場所にワープでもしているかのような感覚だ)


 幸助が僅か数秒もの間に考えていた疑問に、千切った腕を床に置いた黒葉が説明してくれた。


「ある人が、気付かせてくれたんだ。俺の能力! 俺自身も気付いていなかった、能力の正体を!!」


 次に黒葉は左手に手に入れた本を持ち、右手で自分の左腕の二の腕を掴むと、幸助の右腕と同じように千切ってみせた。

 自傷にも見えかねない彼の行動に絶句してしまう南だったが、次の黒葉自身の説明を聞いて恐怖は和らいだ。


「俺の能力は、自分や他人、あらゆる物体の各部をパーツとみなして分離、合体が出来る能力! それもダメージ無しに!

 服をはだけさせてしまっていたのは、目に見えてすぐに分かる外付けパーツだったからだ」

「身体の一部を外す!? その能力で君自身や、幸助君の腕を千切ったってこと?」


 丸くなった目を戻して問いかける南を安心させるために、黒葉は取り外した自身の左腕を元の位置にくっつけ、元の状態に戻して見せつつ説明を続けた。


「ああ安心して、取り外した手足は誰かか自分がひっつければ元に戻るから。気付いたときには、ホント俺にとっては、過ぎた能力だと思った。

 でもこの場は合格しないと始まらない。だから、君達の脚を! この場で取り外させて貰う!!」

「ッン!!」


 説明に聞き入って油断してしまった南は、黒葉の自然な足取りに接近を許してしまった。


「しまっ!!……」

「<分解(パージ)>!!」


 回避が遅れた南は右足を黒羽に触れられてしまい、幸助の片腕と同様に右脚を付け根から取り外されてしまう、後ろに下がった事が災いしてバランスを崩してしまい、そのまま後ろに尻餅をついてしまった。


「脚が……」


 黒葉は外した南の右脚を彼女の元に届かないように少し離れた場所に丁寧に置いた。


「ごめん、俺だってここで負けるわけにはいかないんだ。

 ……って、これ! 普通に考えてセクハラじゃないか!? 試験としては良くても男として! いや人間としてどうなんだよ!!」

「それ、今の今で自分で言っちゃうか?」


 思わず呆れて突っ込みを入れてしまう幸助を余所に、黒葉は試験に合格したい気持ちと世間からの冷ややかな目に対しての妄想で急激な不安に駆られ、彼等を放置し再び猛ダッシュで走り出した。


「クッ!!」

「待てっ!!」


 南と違い移動手段を奪われたわけではない幸助は、取り外された右腕を拾いつつ黒葉を追いかける。走りながら持ち上げた右腕を付け根に運ぶと、黒葉が言っていたとおりに傷跡もなく元の状態に戻った。


「ん?」


 幸助は自分の腕が元に戻る直前、何かを見かけた。


「今の……そっか! そういうことなら!!」


 走っている最中、黒葉の能力の何かを気付いた幸助。

 一方の黒葉は、一目散にゴールめがけて走る。縁日のときはあれだけネガティブ思考でいたとは思えない程に険しい目付きをしていた。


(絶対に試験を合格する! 俺のこの力を初めて認めてくれた! あの人のために!!)


 黒葉が頭に浮かべたのは、自身が今この試験を受けるまでの経緯についてだった。

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