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5-26 追加ゲスト

 お祭りが終り、数日が経過した。幸助と南は再び適度な緊張感を胸に宿し、試験会場にへと向かって行った。


「第三試験。ここも内容はときによって変わるって言ってたけど」

「どういう感じで来るのかな? 入間隊長の試験のように、いっぱい失格になるとかじゃなければいいけど」


 はやくも試験に対する不安が浮かぶ二人。足取りが重くなりかけたとき、後ろから幸助は肩を掴まれ、南は軽く背中を押された。

 後ろを振り返っていたのは、フジヤマとメリーだった。


「そう、気落ちするな。あんな危機的状況から俺達を助けてくれた奴が」

「テンション上げていきまショー! その方が上手くいきマ~ス!!」


 一瞬呆気に取られた二人だったが、二人なりの激励に心が温かくなった。


「ありがとう……ございます」

「お二人も、僕らと一緒に試験を頑張りましょう!!」


 幸助と南も、二人にお返しにならないかとその場で思い付いた激励の言葉をかけ、フジヤマとメリーもこれを好意的に受け止めた。


 たまたまながら合流した四人が一緒に移動し、第二試験とは違う室内の集合場所に到着すると、先に到着した受験者達が近くにいる人達と会話をしてザワザワとしていた。

 試験に対する意気込みかと思っていた幸助達だったが、耳を傾けてみると、会話の内容は何処も似たり寄ったりだった。


「聞いた? あの噂」

「ああ、来賓の話だろ?」

「まさかあの御方が入隊試験の見物に来るだなんて!!」

「試験管にわざわざ隊長が呼ばれるわけだ」


 この場に遅れて入って来た幸助達は受験者達が何の話で盛り上がっているのかが分からなかったが、幸いなことに南が大勢の中で知り合いを見つけた。


「アッ! 黒羽君!!」


 名前を呼ばれた当の本人も彼女達に気が付いたようだ。すぐに幸助達が近くにまで駆け寄ると、縁日のときと同じくへりくだった態度になる。


「あぁ! こんな俺とまた話をしてくれるなんて! 縁日のときに将星隊長に恥をかかせ、腹を切らされるかもと思っていたのに……」

「また暗い想像が飛躍しているこの人」


 またしても四つん這いになって勝手に落ち込む黒葉だが、顔を上げた先に見つけた初対面の人物について聞いて来た。


「あれ? そちらの人は?」

「俺達と同じ受験生のヒデキ・フジヤマさん」

「こ! これはどうも! 初めまして!! 春山黒葉です!! 俺みたいなカスが、勝手に話しかけてスミマセン」

「何も言ってないのに謝罪された」


 後ろ向きな自己紹介をしながら何度も頭を下げる黒葉の対応に困るフジヤマ。それはそれとして、南は気になっていたことを彼に質問した。


「ねえ、今なんだか同じ話題で盛り上がっているみたいなんだけど、何かあったの?」


 南の質問に黒葉はこの場で流れている世間話の事について話してくれた。


「俺も少し聞いただけなんだけど……なんでも、ここに来て追加の来賓が来たって。それも、次警隊全体での超重要人物だとか」

「超重要人物?」

「一体誰のことデショウ?」


 予想がつかないながら、ここまで世間話で盛り上がるということは相当な人物なのだろうかと思い浮かべていると、広間の奥にある大きな扉が開き、この試験の試験管らしきある人物が現れた。

 一目見ただけでその姿のインパクトからもう姿を忘れないであろうその男は、これまた特徴手金美声を出しながら受験生達に挨拶をした。


「受験者諸君、おはよう! 第三試験の試験管を担当する、『ジーアス タイタン』だ」

「タイタン隊長!!」


 一行の中で一番強く反応したのは、ここ最近ジーアスにお世話になっていたフジヤマだ。とはいえ集団の中の一人が大きく反応したところで、ジーアスの語りの調子は変わらない。


「まずは第二試験、合格おめでとう。よくあの脱出ゲームをクリアした。その頑張りに、ある人物から祝電が届いている。

 皆の反応からしてもう聞いているであろう、今回の試験で急遽参加することになった、来賓の方からだ」


 ジーアスが軽い説明を終えた直後、少し間を置いて広間の中に誰かの声が響き渡った。


「受験者の皆さん、初めまして。アナウンスのみで失礼します。

 私は、『マリーナ ルド ユリアーヌ』。今回、新たな次警隊の隊員となる皆さんの活躍を、是非ともこの目に納めたいと思い、隊長さんに無理を言って見学させてもらえることとなりました」


 マリーナと名乗る丁寧な口調の女性の声を聞き、広間にいた受験者達が一斉に盛り上がり始めた。


「やっぱり来ていたんだ!!」

「嘘! 本当に本物のマリーナ姫!!?」

「出身の世界に引きこもっていたんじゃなかったの!!?」


 受験者達が盛り上がっている理由が全くもって分からない幸助達が眉に軽くしわを寄せていると、隣にいた黒葉が突然しゃがみ込み、身体を大きく震わせてパニックになっているようだった。


「ううううう嘘だろ!? こんな事あるはずがない!! そうだ! これは試験に対する罠か何かなんだ!! それしかあり得ない」

「めっちゃ動揺してる!」


 これでは話を聞けそうにないとメリーの方に聞いてみようとするが、彼女は彼女で直立したまま携帯電話のバイブのように全身を揺らしていた。


「ままままままさか!! あの方が!? あの方が来てしまったんデスか!!?」

「こっちも凄いことに!?」

「何なの、あのマリーナって人!?」

「「姫か様を付けて!!」」


 呼び捨てにした途端に身体を震えを止めて詰め寄ってきた二人の圧に押される三人。その間にも、そのマリーナによる激励の言葉は続いていく。


「このような機会を与えていただき、心の底から感謝の思いでいっぱいです。次警隊大隊長が娘として、精一杯! 皆さんを応援させていただきます!! 皆さんの良い結果を願ってます!!」


 短いアナウンスが終了し、沈黙が流れる受験者達。しかしすぐに一変し、広間内は大盛り上がりとなっていた。


「オオオオオオォォォォォ!!! 姫様からの激励だあああぁぁぁ!!!」

「こんなもん合格するしかないだろぉ!!」

「よっしゃやるぞオオオオオォォォォォ!!!!」


 叫び声が次々上がる中、約三人は目を丸くして口を閉じ、身体を石のように固めて動かなくなってしまった。

 少ししてようやく口が開いた三人は、代わりばんこに単語で話す。


「次警隊……」

「大隊長の……」

「娘……」


 幸助と南は、第二試験のときに五番隊隊長の娘であるファイアと既に出会っていたが、組織全体の長である大隊長の娘となると、話は変わる。この試験の試験管に、わざわざ隊長ばかりが呼び出されたことにも納得がいく理由だ。


「まさかそんな人がゲストでやって来るなんて」

「本当に驚きだよ。あの引きこもりのお姫様が」

「引きこもり?」


 黒葉は一度軽く頷くと、まだ身体の震えを多少残しながら説明してくれた。


「ああうん。マリーナ様は、さっきも言ったとおり大隊長の実の娘。更にいえば、先代大隊長の孫にも当たる人なんだ。

 当然その生まれもあって、生まれつき次警隊を憎む多くの異世界人に狙われていた。だから彼女の身を守るために、普段は故郷の世界にある城の中に閉じこもっている。

 多分この場にいる人全員が、存在は知っていても顔は知らないはずんだ」


 そんな重要人物が試験の見学に現れた。確かに彼女の事を知っている人物からすれば、大興奮か震えて恐ろしいといった心境になるのも必然なのだろう。

 だがここで幸助達の頭に浮かぶのは、いつも引きこもっているはずのマリーナが何故こんな入隊試験を見るためにわざわざ住処から出てきたのかという疑問だったが、考えるよりも前に広間の奥のジーアスが叫びだした。


「し~ず~か~に!!!!」


 独特なドスのきいた叫び声に、各々が世間話を止めてジーアスに注目する。ジーアスは軽く咳払いをして一度話の空気を切り替える。


「ウンッ!!……マリーナ様からの挨拶に浮き足立つ気持ちは分かるが、各々気持ちを切り替えて貰おう。それでは、第三試験の説明を始める。全員、扉の奥に入れ!!」


 ジーアスがいった言葉を切った瞬間に彼の背後にある巨大な扉が開く。彼を先頭とし受験者達が奥へ進んだ先にあったのは、部屋の奥の壁がとても見えない程に広く、そこら中大量の本棚が並ぶ図書館だった。


「図書館?」

「あれ? 二番隊の基地の中にこんなに広い図書館あったっけ?」


 入ってくすぐに別の疑問を浮かべる南。後ろを振り返って受験者全員が入って来たことを確認したジーアスが軽く手を叩くと、彼等が入って来た扉は閉じ、説明の続きが始まる。


「ここは、今回の試験のために我々が用意した、特別図書館だ」

「試験のためにわざわざ図書館を用意した!?」

「次警隊、財力と人員とんでもない……」


 自分達が入ろうとしている組織の底知れ無さに微苦笑を浮かべる幸助達。ジーアスはこの第三試験の本題を口にした。


「見ての通り、この空間の中には両目を広げても計り知れないほどの広い空間と、それを利用して並べられた大量の本がある。

 君達は、各受験番号ごとに指示された本をこの中から探し出し、私にまで見せに来て貰う。既に各員、何の本を取ってくるかについてはそれぞれの番号札に触れることで表示されるようになっているから確認してくれ」


 受験者達は言われるままにすぐに番号札を手に持ってもう片手で軽く表面に触れる。するとジーアスの言った通りに立体映像が飛び出し、各員に指定された本の題名を表示した。


「本の名前だけ!?」

「つまり、この本が何処にあるのかは、これから自分で捜せって事か」


 驚く幸助に対し、納得するフジヤマ。とはいえこの広い図書館の中から捜し出すのは骨が折れる作業になりかねないかと思っていたが、そこはちゃんとジーアスが補足説明してくれた。


「図書館内には、いくつかの箇所に検索機があり、徘徊しているスタッフが数人いる。本の場所を知るために自由に利用して貰って構わない」


 流石に捜す手段を用意してくれた事にホッとする五人。次にジーアスは、彼等が気になることを口にする。


「そして妨害、戦闘についてだが……この試験における基本的な戦闘は認める。ただし! この空間内にある備品、スタッフに対し、少しでもきづを付けたり、汚した受験者は、その時点で失格とする!!」


 幸助も南も、ジーアスのこの説明に引っかかりを感じた。


(戦闘の諸注意? ただ本を借りるだけで闘うほどの揉め事になることなんてあるの?)

「制限時間は二時間。説明はこれで終了だ」


 ジーアスは右手を挙げ、開始の合図を起こした。


「それでは次警隊入隊試験、第三試験『借り物競走』! 開始!!」

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