5ー15 力を絞れ
ここまで何度も斬撃に切り裂かれ、鈍器に叩かれ続けながら、三度倒れた身体を起き上がらせる幸助に、フルーは驚くと共に何処か恐ろしく感じている部分があった。
(正直この男にここまで手こずるとは思っていなかった。いい加減決着を付けておかないとマズいか?)
フルーは少し下がって距離を取りつつ、もう一度Pハンマーを生成して立ち上がってすぐの幸助にトドメを刺そうとした。
しかし幸助はこれを回避するどころか、肘を曲げて後ろに引いた右腕で正面から殴りつけてきた。
相手の攻撃を受け止める刹那、幸助が頭の中で瞬間的に思い出したのは入間から受けた修行期間中に彼女から聞いた会話だ。
「幸助は、力の使い方が下手くそやねんな」
「イッテテ……下手くそ?」
組み手をして軽くあしらわれ、尻もちをついて痛めているところにかけられた言葉に片目を開けて入間を見上げながら聞き返してしまうと、入間は余裕な態度のまま具体的な説明をしてくれた。
「貴方は持っている力をただ相手にぶつけているだけ。それだと威力は下がるし消耗も無駄に大きい。だが絞れば今の倍以上の戦力になる」
入間が軽く右手を挙げると、部屋の中にそよ風が吹き出した。丁度心地良いほどの風力で幸助の肌に触れていき、後ろに抜けてゆく。
「これが、ただ単に能力を行使した状態。そして」
次に入間が挙げていた右手の指を握るように曲げると、幸助は突然勢いが強くなった風圧に身体野重量が押し負けて壁まで飛ばされてしまった。
頭を打って更に痛がる幸助に入間は近付いてしゃがみ、目線を彼に会わせて説明の続きをした。
「これが、行使した能力を絞って放った状態。一応言っとくけど、パワーは一切上げてないで」
「技出すなら先に言っておいてくださいよ。イッタタ……」
「痛がっている暇はないで。アンタには、これをまず習得してもらうんやから」
「俺が!?」
「私より簡単ではないやろうがな」
入間はしゃがんでいた膝を伸ばして立ち上がる。
「アンタの力は相当強い。これまで大抵の敵は力任せで倒せるほどにはな。
常にとは言わん。まずはここぞというときだけ。普段の力を凝縮して打ち込んだ技は、これまででは倒せなかった相手にも必ず通じるはずや」
頭によぎった刹那の思い出が過ぎ去った直後、幸助が殴ったPハンマーは殴られた箇所を中心に瞬時に日々が全体を駆け巡り、粉々に粉砕された。
「粉砕した!? やはりさっきのは気のせいではなかったのか!!」
焦るフルー。とはいえ幸助も何度も攻撃を受けたダメージは残っている。どちらかというと追い込まれている彼としては、フルー以上に早期に決着を付けなければなからなかった。
(範囲を絞ったってだけの拳で簡単に砕けた。やっぱり相当威力は上がるみたいだ。はやく倒して、歩ける余力を残しておかないと)
お互いに手早く戦闘を終らせようと考える二人。しかしフルーは先程自分が生成した鈍器が破壊されたために、下手に動く野は状況を不利にすると予想し、先程幸助がやったようにこの場から敢えて逃げ出した。
「ナッ! ここで逃げ出すかよ! それともさっきの俺みたいに逃げて誘う感じか?」
体力に余裕がないために追いかけるかを迷う幸助。だがフルーは彼の考えを見越していたのか、次の瞬間に近くから何かが弾く反響音が聞こえ、まさかと思い身構えたところに斬撃が飛んできた。
「追いかけなかったら視覚から攻撃を! どうにしろもう俺がこの戦いから逃げるのは無しって事か」
ならば選択肢は一つだと理解した幸助は、先程とは逆の立場となってフルーの入っていった道を追いかけ始めた。
「ついさっき走り出したばかりだからそこまで距離は離れていないはず。すぐに追い付いて……」
だが幸助が逃げていたときと違い、追いかける道中にフルーが飛ばしてきた斬撃の処理もしなければならなかった。
種が分かっているため何とかダメージを受けはしなかったが、集中して追いかけたい状況で意図的に異を散らされてしまい、幸助は罰の悪い顔になった。
(軽くて薄いからすぐ捌けるとはいえ、目を凝らさないと見えない攻撃が次々来るのはやっぱりキツいな。一気に対応するにはどうすれば……って、あ! そういえば……)
何顔思い出したように曇った表情が晴れた幸助だったが、丁度同じタイミングに突然目の前の何かにぶつかってしまった。
「ウグッ!! 何だ一体!?」
目に見える先にはまだまだ道や部屋が続いているように見えたが、何故か幸助はここから先には進めなかった。
一瞬混乱した幸助だったが、すぐに手で触れて原因が分かった。
「これ、まさかアイツが生成した!」
目の前にプラスチックで壁が作られている。これがつまり何か意味があると察した幸助だが、ときは既に遅かった。
振り返るといつの間にか後ろに回っていたフルーが両手を横方向に広げつつ発生させたプラスチックで次々斬撃を生成し、行き止まりに追い込まれた幸助に発射した。
「<P カッター 百切>」
「ナッ!!」
「かかったな! 終わりだ!!」
至近距離まで近付いてくる斬撃の連射。素早い攻撃を前に、幸助は最早何も打つ手がないように見えた。
(致命傷になる部位は避けた。あの頑丈さならこれを受けても生きているだろう。だがもう立つこともままならない重症になるはず。いい加減勝利をいただこうか!!)
何度も自分の攻撃が捌かれ耐えられた事態に相当な焦りを感じていたのか、息が荒くなり汗を流すなど態度に表れるほどになっていた。
そのために考えもしなかったのだろう。雷矢を発生させた幸助が、あるものを生み出せることが出来る可能性について。
幸助は後ろに身体を向けつつ、両手からそのあるもの発生させていた。熱さを感じるその正体に、フルーは嫌にもすぐに気が付いた。
「まさか……それは!!」
「少し考えれば単純な話だった! プラスチック。それなら、『炎』で溶けてしまうよな!!」
幸助は発生させた炎で自身に襲いかかる斬撃、及び行き止まりになっていた障壁を軽々と溶かした。
「何というか、自分でも何でここまで気付かなかったんだか……またアイツに馬鹿にされそうだな」
手から出していた炎を引っ込める幸助。フルーは自分の攻撃が通じない事態に完全にペースが崩れ、思わず突っ込みを入れてしまった。
「お前!! ほ、炎が出せたのか!?」
「まあね」
幸助は剣を強く握り、自身の魔力を流し込んだ。
(ただ流し込むんじゃなくて、範囲を絞って制御する)
頭の中のイメージを具現化するように、剣の刃が熱を帯び、赤い色に変色した。
「<赤刀>」
制御に集中する幸助の鋭い目付きを見たフルーは、さっきと似たような物を感じ取って恐怖が浮かび上がり、途端に必死に逃げ出した。
「ウゥ……ウワアアアアァァァァァァ!!!!」
「逃がすか!!」
幸助は当然追いかけ、フルーが抵抗で繰り出してくる攻撃を炎を纏った剣で全て焼き切って突破していく。
フルーはさっきまでより軽々と自分の攻撃を無効化してくる幸助からどうにかして逃れようと逃げ出していたが、まるで早馬に乗った武士に攻められているかのように鬼気迫っていた幸助にすぐに追い付かれてしまう。
こうなれば力を振り絞って返り討ちにしてしまおうと、フルーは身体を反転させながら右手を上に両掌を重ね、高圧の水鉄砲を撃ち出すようにプラスチックの刃を出現させつつ幸助の胸回りを切り裂きにかかった。
「<P ギロチン>」
カッターの時頼の鋭い刃がより高速で迫ってくる。幸助はあわや切断されるかに思われたが、彼はこれをも剣で受け止め、そのまま焼き切って突破した。
完全に打つ手をなくしたフルーに、幸助が至近距離まで詰め寄る。
「ヒイイイイィィィィィ!!!」
余裕な態度が打って変わって涙と鼻水を流した汚い顔になるフルーに、幸助は頭から叩き割る勢いで剣を振り下ろした。
「ギアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァ!!!!!」
しかし幸助はフルーの眉間に当たるほんの数センチメートル前で剣を寸止めさせた。フルーは恐怖のあまり気絶してしまい、その場に倒れた。
幸助はフルーのこの状態を見て目を細めながらものを言った。
「能力がどうとか実力がどうとは知らないけど、将星 ラン箱の程度で怖がったりなんてしない。……って、気絶しているところに言っても意味無いか」
幸助は剣に纏わせていた炎を解除し、鞘に戻してしゃがみ込むと、フルーが胸に付けていた番号札を回収した。
「より、これで番号札は二枚手に入った。後は出口を見つければ……」
幸助が番号札をポケットに直してとりあえず移動しようとすると、ふと足を進めた踏んだ箇所がスイッチを押すかのように凹んだ。
「……はえ?」
嫌な予感がした幸助に、途端に左隣の壁がびっくり箱のように飛び出し、軽々と彼の身体をその場から吹っ飛ばしてしまった。
「アガアァ!!!」
更に畳み掛けるように彼が激突した壁は、そのまま上部分がロックが外れるように倒れ、そのまま滑り台を滑る感覚で建物何回分もの高さを移動させられてしまった。
「ハァ!? 滑り台!? こんな和風の屋敷の中に何でぇ!!」
文字通りはまったトラップに流される形で動かされている幸助は、自分で現在何が起こっているのか理解が出来ていなかった。
「チョォ!! 何が起こって!? 俺何処に向かってんのこれぇ!!」
幸助は何処まで落ちていくのか分からない恐怖にパニックになる中、一方の南も冷や汗いっぱいの顔で屋敷内を右へ左へと移動していた。
(やばい! あの人本当にやばい!!)
焦る彼女に追い打ちをかけるかのように、突然南の真後ろの空間が爆発した。咄嗟に受け身を取って衝撃を和らげるも、起き上がった彼女の目の前には、直前の爆発の犯人が姿を見せていた。
明るいピンク色のショートカットの髪に、豊満な肉付きの良い体を余すことなく堂々と見せるようにサイズの小さめなヘソ出しの黄色いシャツに藍色の短パンを履き、咥えたばこのようにキャンディを咥えていた。
そんな少女は、追い詰めた南に対して咥えていたキャンディを右手に持ち、見下す姿勢を取りながら話しかけてきた。
「逃げんじゃないわよ。アタシはアンタに聞きたいことがあって、はるばるここまで破壊してきたんだから」
この状況から逃げる術はない。状況を立て直す時間を稼ぐためにも話を繋ぐことにした南は、すぐに質問を飛ばした。
「聞きたい事って、何?」
質問を受けた少女は途端に鬼のような形相にへと変わり、怒れるままに話の本題に入った。
「アンタ! ラン様とどういう関係なのよ!!」
「ら、ラン様!?」
南は想定していなかった話の内容に少々緊張感が抜けてしまった。
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