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5-13 第二試験 脱出ゲーム

 試験開始の号令が出され、各部屋に配置された受験者達はそれぞれが別々の動きを取っていた。

 制限時間が二時間しかないことに焦りを覚え、急いで部屋から移動しようとする人。焦って移動するより先に自分の現状を確認しようとする人。誰か他の受験者にさっそく仕掛けようと試みる人。


 そんな中、幸助は一度深呼吸をして焦りかけた心を落ち着かせていたところだった。


(よし……落ち着け……いきなり南ちゃん達のバラバラになったのには驚いたけど、カラクリ屋敷からの脱出。ついこの前まで修行で受けていたことまんまじゃないか。

 ……って、そう考えると俺、この場で一番えこひいきを受けていないか?)


 自分で考えていてなんだか申し訳ない気持ちになった幸助だが、だからといって合格を譲る訳にはいかない。

 まずは今いる部屋から移動しなければ始まらないと、幸助はとりあえず目の前に見えた襖を左に開いた。


「よし!!」


 気合いを入れるかけ声を上げて前を見た瞬間、襖の奥に隠されていた大量のクナイが幸助に向かって飛んできた。


「ドワアアアァァァァァァァ!!!!!」


 幸助は突然襲いかかってきた罠を前に叫びを上げて対処に追われる事態となった。


 屋敷内の状況はいくつものカメラによって撮影され、観戦室にへと送られていく。たった今録画された幸助の醜態も、当然瞬く間にラン達の元に映し出されていた。


「ハッハッハ! さっそく罠にかかってしまう受験者が出たか」

「あの馬鹿勇者……例のごとく突撃してトラブりやがって」

「彼が西野幸助君か。良くも悪くも目立つタイプのようだな」

「ジョークとしても受けたくないな。俺達の旅路はあまり目立ってはまずいんだ」


 ジーアスが初めて見る幸助の活躍を自分なりの表現した言葉に、ランが表情が困ったようになる。

 ジーアスも彼の言い分に同意し、自分を諫めた。


「それもそうだな。確かに君らの旅路で変に目立つのは、問題だ」


 一方の南。幸助とは違い罠にはまることなくいくつか部屋を移動していたが、出口はおろか他の受験者達の姿も一向に見えない。


(この屋敷、とにかく部屋の数が多い。その上仕掛けによるはしごや滑り台。上下に行く方法も多すぎて、とても普通に歩いてゴールに進むのは難しい。となるとやはり……)


 南は近くの壁を軽く叩き、握り絞めた右手を後ろに引いて正拳突きを繰り出した。鋭く入った拳は軽々と部屋の壁を砕き、先の部屋へと空間を繋げた。


「また部屋だけ……そう中々道筋は見えないか。でもだからって壁をまとめて破壊したら他の人を巻き込めかねないし……」


 南は次に部屋に進みつつ自身の右拳をまるできかん坊を見るような目で眺めるも、すぐに腕を降ろしてとりあえずまた部屋を進むことにするも、このままでは埒が明かないと頭を悩ませた。


「う~ん、どう攻略をすれば良いのか?」


 どう動けばいいのか途方に暮れていた南だったが、突然に左方向から派手な爆発音が響き渡り、彼女が今いる部屋の壁をも流れに押されて破壊され、発生した粉塵に部屋ごと飲み込まれてしまった。


「な、何!?」

「見つけた……」


 甲高い少女の声が耳に入って直後、南は何か獣の腕のような物体が煙を突き抜けて襲いかかり、思わず腕を組んで防御の姿勢を取るも、受けたあまりの威力に軽々と身体を吹き飛ばされて別の壁にぶつけられてしまった。


 南が戦闘に入って直後、何とか襲いかかるクナイを捌ききることが出来た幸助は、別の襖を開いて今度こそ部屋を移動した。


「ア~……いきなり幸先悪いなぁ、これ」


 自分の運の無さに少し気分が下がっている彼だったが、このまま気を落としていてはいけないと気合いを入れ直そうと大きく息を吸った。


 だが幸助がすった分の息を吐こうとすると、口から空気が出る手前の段階の瞬間に後ろから刃物による攻撃のような痛みを受けた。


「イッ!……ゲホッ! ゴホッ!!……」


 完全に隙を突かれた幸助は攻撃の痛みと飲み込んだ息でむせてしまい、体制を整えるのに時間がかかった。もちろん攻撃を仕掛けていた相手がこれを悠長に待っているわけがなく、すかさず追撃を駆けてきた。


 背中から出血し、まずはこの場から移動しなければ一方的に攻められて負けてしまう。幸助は咄嗟に前転をして攻撃の正体である斬撃をいくつか回避し、立ち上がりながら剣を鞘から抜いて振り返った。

 ランならば回転の最中に攻撃を仕掛けるのだろうが、幸助にはまだそこまで器用な立ち回りは出来ないようだ。


 幸助は中腰から立ち上がろうとするが、相手の動きは素早く、距離を詰めて来る剣らしき連撃に防戦一方になってしまう。


(速い! 完全に相手のペースに持って行かれてる。とりあえず距離を取って体勢を!!)


 幸助は相手の攻撃に剣を持っている右腕を上に弾かれてしまうが、同時に大振りになって隙が出来た相手の胸元に空いていた左腕を近付け、魔術を発動させて吹き飛ばした。


「<風波(ふうは)>」


 相手側も幸助の能力の予備知識がなかったようで、ガラ空きになっていた腹に幸助の技を受けて彼の目論見通り距離を離された。

 幸助もすぐに立ち上がり、両手で剣を握り構えて戦闘態勢を整えた。


「不意を突けば一気に撃退できるかと思っていたが、流石にそこまで甘くは無いか」


 聞き覚えのある声。まさかと幸助が視線を前に向けると、予想通り目の前にいたのは第一試験の合格発表の場で幸助と揉め事を起こしていた『フルー ウッド』だった。


「アンタは! さっきの!!」

「流石にある程度の訓練はしてきたか……だがあの程度の不意打ちもかわせないのでは、この先が心配だな」


 出会い頭に嫌みを吐くフルーに、幸助は今度はこちらのバントばかりに攻めかかる。フルーはこれを軽く左腕で受け止めた。

 どういう理屈か、フルーは生身の左腕で幸助の剣を受け止めながら、切断はおろか傷一つついていない。


「本当に直情的だ。この程度の挑発に乗っていては切りがない。君とはどうにも反りが合わないらしい」


 フルーは何故か動作のないままで幸助の剣を弾き、また体勢が崩れた彼に拳を突き立てる。すると直接拳が触れる前に幸助は腹に衝撃を感じ、嗚咽を吐いて膝を崩してしまった。


(何だ今のインパクト!? 明らかに拳が当たる前に)


 そこからも動揺の衝撃が何度も幸助を襲い、彼をダウンさせてしまった。


「ゲホッ! ゴホッ!!……」

「この程度か。あれだけ啖呵を切ってきたのならそれ相応の実力はあるものと思っていたのだが、とんだ買い被りだったな。

 ま、あのお飾り部隊を憧れる程度なのだから、次警隊について本当に何も知らなかったのだろうが」


 幸助は息を切らしながらも、フルーが口ずさんだ台詞の内容が気になって質問をした。


「ゴホッ……お飾りって……何なんだよ? 何でそう……言い切れるんだよ!!」


 湧き上がった怒りに任せて剣を振るい上げる幸助。しかしフルーはこれも左膝を曲げて脚をそのままに上げて受け止めた。


(まただ! 刃物で生身に傷一つ付けられないなんて。この男も、何かしらの異能力が?)


 怒りはそのままながらフルーの謎の能力を解明しようとする幸助だが、彼が顔をフルーの視線に合わせようとする前にフルーは左腕をおもむろに振り上げた。

 次の瞬間、幸助は斬撃に切り裂かれたような痛みを感じ、目に見えて出血をしていた。


 追い込まれていく幸助に、フルーは自身の立場の余裕からか上から目線な態度で口を開いた。


「本当に何も知らないようだ。確かにこのままで失格になっても納得できないだろう。攻めて教えておこう。三番隊という部隊が、どういうものなのかを」


 フルーは抵抗しようとする幸助を追撃で足蹴にし、完全に尻餅をつかせると、自分が知っている限りの三番隊に関する説明をし始めた。


「『次警隊 三番隊』。組織の発足時に、現大隊長の無二の親友だった男が立ち上げた部隊。

 といっても部隊というのは名ばかりで、その実態は、性格に大きな難のあるその男に誰もついて行くことが出来ず、どの仕事も任せられないがために一応で用意された、鉱石の世界の第二防衛隊だった」


 幸助は目を丸くして反応した。『鉱石の世界』、以前聞いていた、ユリの故郷の世界だったからだ。


「次警隊の要であるその世界を守る仕事。だがそれも、主力部隊である一番隊が奮闘していただけで、そもそも隊員数が隊長一人しかいなかった三番隊など、何の宛にもされていなかったんだよ」


 三番隊の概要説明の次にフルーが触れたのは、問題となっていた三番隊の前隊長の事についてだった。


「まあ、無理もない。当時一番隊を率いていた現大隊長は、勇猛果敢かつ思慮が深い。誰に対しても暖かい、まさに太陽のような人物。

 対して三番隊の隊長は、短気で素行が悪くマイペース。とても人を率いるには値しない、力だけの男だった。当然、人などよりつかず、いつまで経っても三番隊は一人のまま、奴と共に消えると思われていた、だが!!」


 フルーは眉間にしわを寄せ、勝手に自分で自分の腹を立たせながら、発する声を徐々に怒声に変えていった。


「そこにどういう訳か一人だけ、三番隊に入った物好きの子供が現れた。結果、実力も才覚もなかったその少年は、男の後を継いで三番隊隊長となっている。ということだ」


 つまり、その物好きの子供こそが、幸助がここまで共に旅をしてきた青年『将星 ラン』の事なのだろう。

 幸助は自分が全然知らなかった次警隊の事情。そしてこの複雑な経緯に関わっているランの立場に、視線を下に向けて顔を落としてしまった。


 フルーは相手の様子にもはや戦意を喪失したのだろうと判断したのか、見下したように開いていた顎を引き、怒声を落ち着かせて逆に優しい声をかけてきた。


「戦意が切れたか……ならば番号札だけ渡せ。これ以上の戦闘はしない」


 幸助は言われるがままに幸助は自身の胸元に手を動かし、フルーも速く貰おうと右手を伸ばした。

 そうして幸助が自信の番号札を外すかに見えた直後、彼は素早く腕を払って伸ばしてきたフルーの腕を祓い、剣を握ったままにしていた右手で流れるように切り上げた。


 不意打ちの対処に遅れたフルーは後ろに下がるも剣はかすり、もう少し脚が遅ければ確実に番号札の部分を切り外されたいただろう事に焦った。


 動揺するフルーに、幸助は頭を下げたまま立ち上がりつつ、自分なりの言い分を語り出した。


「確かに……アンタの言うとおり、俺は次警隊について全然知らない。それどころか、一緒に旅をしてきた仲間の経緯すら初めて聞いたほどだ。でもな!!」


 幸助は床に左手をつき、剣を握る手に力を入れながら立ち上がると、顔を上げて先程までより何処か凜々しくなった視線をフルーに見せた。


「でも俺には、ここまで旅をしてきて! 直にアイツの背中を見て来た!! だから! アイツが凄い奴だって事は知っている!!

 世間から見て聞いた意見だけで、将星ランを語るな!!」


 幸助の体勢に、さっきまではなかった気合いが入った瞬間だった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 幸助の覚悟、お見事です!果たしてどうなるのか楽しみにしています!
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