5-11 次警隊入隊試験
様々な異世界から集まり、大量の受験参加者が広間の中に集められ、整列した。
緊張する空気が流れる雰囲気で受験者達が少しの間待っていると、会場全体に響き渡るほどのアナウンスの声が聞こえてきた。
「お集まりの方々、本日はお忙しい中次警隊入隊試験にようこそ」
「アナウンスがかかった!」
「挨拶の担当、今回は誰なんだろう?」
アナウンスの挨拶が聞こえて来ただけで一喜一憂してしまう受験者達。幸助達も身を引き締めて説明を聞こうと構えると、受験者達が並んでいる前方の先にある台の上に上がってくる拡声器を持った人物が現れた。
「今回、試験の概要説明を担当することになった。三番隊隊長の『将星 ラン』だ」
「「ブウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!」」
いきなり知り合いが出てきたために抱えた気合いが風船が空気を吹き出すように勢い良く口から吹き出してしまった。よく見ると右肩にぬいぐるみ状態のユリが乗っかっている。
幸助達と同じくして、他の受験者達も突然の隊長の登場に湧き上がり、口々に話し出した。
「将星隊長!?」
「嘘! 本物!?」
「次警隊歴代最年少で隊長になった二人の内の一人じゃん!!?」
「鉱石の世界で何度も侵略を阻止したっていう!?」
歓声の声が大きく上がる中、幸助達はここまで自分達が一緒に旅をしていた相手がどんな人物なのかを思い知った。
しかし彼等は同時に、歓声に埋もれながらも微かに聞こえてくる言葉に気が付いた。
「出たぞ、お荷物部隊の隊長だ」
「最年少って、あんな迷惑部隊他にやる奴がいなかったんだろ」
「大して強くもないくせに出世しやがってムカつくぜ」
「鉱石の世界のだって、一番隊の手柄だろうが」
(お荷物?)
(迷惑部隊?)
幸助と南が周りの対極な言い分の意味を知りたくなっていたが、ランは口々に飛ぶ言葉の内容には一切触れずにただ静かにするように指示を出した。
「は~い、静かにしてくださ~い!! 時間がドンドン押すんで~」
「やる気のないアナウンスだな」
「多分入間隊長に勝手に参加させられたんだろうね」
普段のランを知る幸助と南は、正直今の彼が内心かなり面倒に思っているであろうことを察した。
「は~い、静かになったのでさっそく試験概要の説明をするぞ」
仕事はちゃんとする気なようで、ランは声のトーンを真面目なものに変えて試験の内容を説明した。
「受験者一同は、これから用意された四つの試験を受けてもらう。これを全てクリアした奴が、晴れて次警隊に入隊することが出来る。
まずは『筆記試験』。各自この後配られる札に地図が出るようにしてあるから、それを元に移動。各会場で試験を受けろ。以上!!」
ランの短すぎる説明が終了すると、直後に受験者達に受験番号が記載された札が渡された。後ろにピンがついており、バッチとして取り付けられるようだ。
幸助が言われたとおりに軽く札に触れると、ランのブレスレットと同じように立体映像が映し出され、試験場所を示した地図が見えた。
「ここか」
「僕も同じ会場みたいだね」
「じゃあ、さっそく行こうか」
受験者達が各部屋へと移動していき、指定された部屋に入っていく。幸助と南は受験番号が連続だったために、同じ部屋で前後の席に自分の受験番号を見つけた。
「ホントに近いね」
「まあ、どうタイミングに試験受けることが決まったし、当然といえばとうぜんか」
それぞれが席に座りまず先に気になったのは机についてだ。机は二人がよく知る学校の机のそれだったが、中央部が大きくくり抜かれ、タッチパネルが備え付けられている。
大方これを使って試験を行なうのだろうが、アナログな紙による試験を見慣れていた二人にとっては大なり小なり違和感を感じた。
(机にタッチパネルが丸々……)
(デジタルなのかアナログなのか微妙な案配……)
微妙な違和感になじむ時間もなく、すぐに部屋の担当試験管が入って来た。片手にタブレットを持つメガネをかけた中年の男は、教壇の上に立ってまずはと簡単な自己紹介を始めた。
「第一試験。この部屋の分の試験を担当することになった、二番隊の『丹後』だ。よろしく」
一同がそのままいたり、軽く頭を下げる人もいた。丹後は特に気にはしないまま淡々と試験の説明に入った。
「君達はこれから一時間の制限時間の間に、机のタブレット内に出された問題を解いていってもらう。
まあ、この試験はあくまで一般常識を測る適性試験のようなもんだから、ある程度勉強していれば落ちる心配はない。気楽に受けてくれ」
丹後はタブレットを操作して部屋の中にいる受験生に試験問題を配ると、すぐに開始の指令を出した。
「それでは、開始!!」
幸助達は配られた試験の内容を確認し、真っ先に集中して取り掛かった。
一方、概要説明の仕事を終えたランは、広間の裏に入り、複雑な道順をたどっていった。
そこからランが到着して入った部屋には、既に席に座って各会場の様子を見ていた人達の内、入間とジーアスが声をかけてきた。
「お疲れさま」
「随分やる気のない説明やったな」
「退院早々仕事押しつけられていい気になる奴なんていないだろ」
ランが部屋の扉を閉めると、肩に乗っかっていたユリが飛び降りながら元の姿に戻った。
「だからってもうちょっとは愛想よくしなさいよ! 隣にいるこっちが恥ずかしいわよ」
「おっと、それはすまなかったな」
ユリに文句を言われるとすぐに謝罪するラン。次に彼はこの部屋にいる中で異質な人物に声をかけた。
「で、なんでこの部屋にアキがいるんだ? ここは幹部専用の観戦室だろ」
「ジーアス隊長にお呼ばれされました。私は回復隊員の試験を受けるので、今回はヒデキ君の応援をと」
「ジーアス隊長」
「いいじゃないか。減るものじゃないだろう。ほら、そろそろ試験開始だぞ」
ジーアスに言いくるめられたランはユリと共に空いていた席に座った。
とは言っても第一試験は筆記試験。特に監視する必要もないのだが、何故かアキ以外の四人は真剣な顔になって各部屋を移しているモニターを見ていた。
そして一時間後、特に問題もなく第一試験は終了し、円滑に数時間後の合格発表に出席した。
「え~っと……あ、あった!」
「僕も! とりあえず第一試験クリアだね」
自分達の番号を確認出来て安心する二人は、次に頭の中にここまでの三週間の間に勉強した日々を思い浮かんだ。
「三週間の勉強の日々は無駄じゃなかったね」
「思い出すだけで痛くなるよ」
自分で言っていて気が重くなる二人。そのせいか人混みで幸助はふと歩いているときに誰かの方とぶつかってしまった。
「ああ、すみません!」
気付いて咄嗟に謝罪する幸助に、相手側も怒ることはなく返事をしてきた。
「いや、こっちこそすまなかったね」
ぶつかった青年は綺麗に整えられた青い髪に、クリーニング仕立てのしわの一つも無い服を着こなした率直に見て綺麗好きな印象だ。
今も彼は謝罪の言葉は柔らかいながらも、ぶつかられた箇所はわざわざハンカチで払っていた。
青年はしわを戻しつつ一度合否発表の票を確認してから話を繋げてきた。
「表から離れながらあまり落ち込んでいないところを見るに、君達も合格者かな?」
「ああ、はい。『西野 幸助』です」
「『夕空 南』です」
軽く頭を下げて挨拶をする二人に、青年も自己紹介をしつつ会話をはずませる。
「『フルー ウッド』だ。お互い精一杯頑張って行こう。この試験が大変なのは、ここからだからな」
「これからが大変? というと?」
「何だ、君達知らないのか?」
あまり次警隊の試験に対して予備知識のない二人。見かねたフルーはそんな彼等に説明してくれた。
「次警隊の試験は、第二、第三第四試験と実技が続く。その内、真ん中の二つは毎回担当になった試験管が好きに内容を決められるんだ。
ときにすぐ終るやつもあれば、場合によっては合格者がその時点で出なくなるときもある」
「途中で全員落ちることがあるって事!!?」
「厳しすぎでは!?」
驚愕する二人に、フルーは乾いた笑いをしながら気休めの言葉を贈った。
「アハハハ……まあ、どうにしろやってみないことには分からないさ。どうだろうと、僕は合格するしね」
「ずいぶんな自信で」
「当然さ。この程度軽く乗り越えなければ、一番隊になどとても入れないからな」
「一番隊?」
「一番隊のことも知らないのか!? 組織内で一番に有名なエリート部隊だぞ!!
組織の長『大隊長』が最初に組織し、二代目隊長に代わって以降もめざましい活躍を残しているんだぞ!!」
次々出てくる自分達の知らない情報に幸助と南はタジタジになってしまう。次警隊のことを言ってまだ日が浅いのも有っただろうが、正直なところランや入間が肝心な説明を適当にしたことが原因だろう。
ここまで来るとフルーからすれば幸助と南が何を求めてこの試験を受けに来たのかが気になった。
「君達、一番隊のことも知らずに、何を求めてこの試験を受けようと思ったんだ?」
「求めてって、まあ、志望は三番隊ってとこかな?」
「三番隊!!?」
フルーを始め、幸助の台詞が耳に入った全員が二人に顔を向けた。
「え? 何々?」
突然注目を浴びた事に二人が困惑していると、目の前のフルーはかけていたメガネの位置を整えてから口を開いた。
「すまない……もう一度聞くが、志望は三番隊と言ったのか?」
「あ、うん……」
「何か問題でも?」
「大ありだ!!」
叫びだしたフルーに驚いて肩が上がってしまう二人。フルーはこのまま攻めかかるように持論を語り続けた。
「三番隊は、次警隊の中で一番のお荷物部隊だぞ! 隊員数も二名だけ! 隊長は碌な異能力もなし、最弱だ。ハッキリ言って存在する意味のない部隊。それが三番隊なんだぞ!!」
フルーが早口になる語りにふと二人の目元に影が入る。
「悪いことは言わない!! 君達がどういう事情でそう思ったのかは知らないが、今すぐにでも志望を変えるべきだ!!」
「「あの!!……」」
フルーの次々と延べる自論と意見に対して幸助と南が同時に声を出して止めた。
「その……俺、つい最近まで次警隊の存在すら知らなかった世間知らずなんだけど……それでも、三番隊がどんな部隊か、少しは知っているつもりだ!」
「他の人にはどう思われているのは知らない。けど僕らに取っては、大事な仲間だから!!」
自分の言い分を真っ向から反対され、フルーの目付きが怒りの籠もった鋭いものに変化した。
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