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5-8 カラクリ基地

 一仕事を終えてようやく決心がつき、次警隊三番隊に入ろうとしていた矢先、その隊長であるランから断られてしまった現状に幸助、南揃って身体を固まらせて唖然としていた。


「な、なんで……」


 かろうじて幸助が出した声にランは病人のベッドの上で寝返りをしながら理由を話す。


「三番隊はこれだけで十分だ。次警隊に入る事は止めないが、俺の部隊に隊員は必要ない」

「なんでだよ! お前のとこの隊、そもそもユリちゃんとお前の二人しかいないんだろ!? 俺も南ちゃんも、二人と一緒にここまで旅をしてきた」

「ユリちゃんの事情も僕らは知っている。僕らも君達の力になりたいんだ!!」

「ついこの前コテンパンにやられたばっかだろ! 俺が輝身を使わなかったら、あの女に全員喰われてた」


 ランの言い分に言葉が詰まる二人。いつもなら彼に反論しそうなユリも、ベッドの隣の椅子に座ったまま何も言い出さない。すると代わりに第三者である大悟が口を出してきた。


「そしてドーピングが時間切れになった。俺がやってこんかったらお前も詰んでたしな」


 大悟に蛇足を言われてコクにやられた記憶が蘇り舌を噛み切りたくなるような気分になるラン。

 大悟は続けてランに二人を隊に入れることを勧める言葉をかける。


「まあ、意地をはらんでええやろ。お前だって人手が増えた方がありがたいんとちゃうか?」

「余計な手を回すな。三番隊は俺とユリだけで十分。それ以上はいらん」

「なんで!!」


 頑なに二人が三番隊に入ることを拒むランに苛立ちを覚える幸助だったが、間に立っていた入間がからの肩を掴んでそれ以上言い争いをすることを止めた。


「分かったわ。三番隊に入れる気はないことは。でも本人達は次警隊に入る気なんや。それならしばらくこっちの方で世話させて貰うで」

「入るどうこうは勝手にしてくれ。俺は関係無い」

「ラン君!!」

「ほら、行くで」


 少々ランと二人の間に距離が出来てしまいながらも、入間は引きずる形で二人を病室から連れ出すと、静かになった病室では、入り口付近に残った大悟が部屋の中に入って来て再びランに話しかけてきた。


「全部の事情は言っとらんみたいやな」

「そこら辺の世界で拾ってきた連中に負わせるには、でかすぎる任務だからな」


 壁の方に顔を向けたままに大悟の質問に素直に答えるラン。ユリは膝の上に置いていた拳をふと強く握り締めて顔を暗くする。

 大悟はベッドの端に腰掛け、幸助達の知らない事情を口にした。


「三番隊の主な仕事は、失敗すればそれこそ次警隊が滅びかねない最重要機密。確かにそこらで拾った奴らには付き合わせられんか」


 ランは大悟の言い分を否定することなく、身体の向きを変えないまま簡単に返事をした。


「アイツらとは、これっきりだ」


 各々が思うところがあるのか、これ以上の会話はないままに病室の空気は静まり返っていた。



______________________



 一方の幸助達。入間を先頭にまたしても空中を移動している最中、入間が口が開いて話を始めた。


「さて、二人が次警隊に入る気になってくれたのは私個人としては嬉しいけど、残念ながら私だけの一存では組織に入れることは出来ない。

 二人が次警隊に入る為には、入隊試験を合格する必要がある」

「入隊試験?」

「あぁ、就職試験みたいな?」


 二人がそれぞれ頭に浮かんだイメージを言葉にするが、入間はなんとなくその内容を察して笑い出した。


「カッカッカ! 確かに普通の就職試験のような部分もあるがな。試験のメインはそうやない。各試験の試験管がそれぞれで用意した内容の試練を与え、それを突破した者だけが入隊できる。

 先に言っとくけど、毎度毎度相当きっつい試験が起こってるで。大怪我して失格も普通にあり得るしな。そこでや!」


 入間は歩いた先に到着した部屋の扉を開き、後ろの二人を連れて中に入っていった。中は日本の剣道や柔道に使われる道場のそれと酷似した空間が広がっている。


「道場?」

「何故、俺達をここに?」


 戸惑いを見せる二人を余所に入間は前に出ると、腕を組みながら振り返ってふと話し始めた。


「ハッキリ言って、このままじゃ二人は異世界の旅路での危機に対処し切れん。だから、この次警隊二番隊隊長直々の手で、みっちり鍛えて上げようと思おてな」


 組んでいた腕を解いて自身の右拳お左手の平にぶつける入間。道場中に響き渡る拳の音に何処か緩くなっていた二人の気合いが引き締められた。


「鍛え上げるって、入間さ……隊長が?」

「一部隊の隊長が、わざわざ俺達個人を特訓なんて、大変なんじゃ」


 幸助達は次警隊としてとの仕事があるはずの入間にわざわざ自分達の特訓を付けて貰える余裕があるのかが気になっていたが、彼女はそれを軽く笑って流した。


「カッカッ! なあに別に忙しくなんてないから大丈夫や。書類仕事は入院して暇なランに押しつけてきたし」

「思いっ切り仕事さぼってるじゃん!! それも病人に押しつけて!!」

「ラン君、完全にとばっちり」


 上機嫌にグーサインを向ける入間に突っ込みを入れる二人。彼女はこれを右耳から左耳に受け流して話を切り替えた。


「まずは二人の戦い方について、事件の件で見させて貰ったわ」

「当然のように話流したぞ、この人」

「そして僕達がイエティと戦っているのも最初から見ていたんだ、この人」


 入間の無茶苦茶なやり方に動揺どころか一筋汗を流して固まってしまった。二人がこんな状態の中で、彼女は彼等の戦い方を見て気が付いたことを語り出した。


「二人とも、ポテンシャルだけで言えばランより遙かに強いで」

「俺達がランより強い!?」

「そんなこと……僕達は、これまで何度も彼に助けられてきて」


 二人は目を丸くし途端に反論を口にするが、入間の次の台詞に文句を止められた。


「だけど君ら、大方一度ランに勝ったんじゃないか?」

「「ッン!!」」


 これを言われて二人は思い出した。元いた世界で初めてランと戦ったとき、様々な事情が重なったとはいえ、結果としては勝利を納めていた時のことを。

 何故指摘されるまで浮かばなかったのかと思う二人に入間が補足を入れた。


「まあランの事や。アイツは立ち回りが旨い。一度負けたことすらも経験として生かし、最終的には主導権を持っていったってとこやろう。

 アイツは次警隊の中で純粋な戦闘力はかなり低い。それでも悪知恵と器用な動きでそれをカバーし、全てを丸く収めてみせる。恐ろしい奴やで」


 入間からの説明に納得すると同時に、自分達が今までどれだけランに助けられていたのかを自覚させられた二人。

 そしてこれからも彼と共に旅をしていくためには、自分達だけでも異世界に現れるのであろう強敵達と戦い、勝利する力が必要だということも、改めて実感した。


 ボケとツッコミで緩んでいた顔が引き締まった二人に、入間は横道に逸れていた話を戻した。


「ランのことはさておき、今は君達の戦い方についてだ。もう一度言うがポテンシャルは相当高い。だが二人共、悪い癖が染みついている」

「「悪い癖?」」


 幸助も南も入間の自分勝手な流れには逆らうことが出来ないのだと、彼女の語り口調に合わせた。

 話が円滑に進んだのをいいことに、入間はまず幸助の弱点から説明し始めた。


「幸助はパワーは凄まじい。けどまともな訓練も受けないままに戦ってきたためにその力を制御し切れていないんや。文字通り、力技のゴリ押しになっている。

 南は逆。幼少期から鍛え抜かれた事で技が洗練されているけど、そのために型に縛られすぎて応用が利かず、完全な力が出し切れていない」


 入間は息を吐きながら力を緩めて腕を降ろすと、この問題の解決方法に繋げる。


「この二つの弱点。残念ながら頭に叩き込んでどうにかなるもんでもない。てことでこれから二人、今日から三週間、このカラクリ屋敷で暮らしてもらう」

「「カラクリ屋敷?」」


 頭の上にクエスチョンマークが浮かぶ二人に、入間は唐突に手を一度叩く。すると突然に二人の真下の床に穴が空き、反応する前に身体が落下してしまった。


 落ちてから数瞬してようやく自分の状況に気が付いた二人が次に真下を見ると、落ちた先にある大量の剣山が見えた。


「「アアアアアアアアアァァァァァァァァァァァ!!!!!」」


 二人は必死な叫び声を上げながら剣山の串刺しにならない方法を必死に考え抜いた末、両掌を重ねる形で繋ぎ、伸びをする姿勢で長さを生み出すことで落とし穴の壁に引っ付き、なんとか難を逃れた。


「あ、危ない……」

「来ていきなり死ぬかと思った」


 やって来て早々にサンズの渡りかけたショックで涙目になる二人に、穴の上から覗き込む姿勢で入間が顔を出しながら説明した。


「ここは次警隊二番隊の基地。対侵入者用や普段から隊員を引き締めるようにいくつものトラップが用意されている。索敵が苦手な二人さんには丁度エエやろ。

 発動はセンサー式やスイッチ式と様々やけど、隊長である私の合図があればいつでも作動させられる。」

「気合いが引き締まるついでに命が消えるような」


 入間の言い分に愚痴をこぼしていると、今度は身体全身が何かに引っ張られるように穴の外まで持ち上げられる。おそらく空中散歩と同じく、入間の技なのだろう。

 引っ張られて身動き取れないついでに、入間は二人にもう一つ修行内容を話した。


「そしてここでの生活で注意感覚を養い、定期的に私と組み手をする。上手くいきゃ、飛躍的に伸びるはずや」

「組み手!? 隊長と?」

「何というか、修業を終えて生きていられる気が……」


 二人の頭に続いて浮かんできたのは、自分達が数に押され苦戦していたイエティ達を軽々と撃退してみせた入間の姿。

 正直なところ、二人揃って立ち向かっても相手になる気がしない。


「そして最後」


 入間がまたしても手を叩いた。また落とし穴が来るのかと身構える二人だったが、今度は真上から大量の分厚い本が落下し、二人は本の山に下敷きにされてしまった。


「重い……」

「く、苦しい……」


 本の山からどうにか顔を出した二人に、入間は目線を合わせるためにしゃがんで説明を続けた。


「筆記試験のため、異世界知識のお勉強や」

「べ、勉強あるんですか!?」

「あたりまえやろ。知識は多く持って不足はない。組織でよく見かける世界環境だけでも勉強していれば、今度行く旅先で他方なりとも立ち振る舞いが分かるはずやからな」

「な、なるほど」


 三週間の間にこれ全てをやる。考えただけで相当厳しそうな修行内容に二人が既に疲れ切った顔をしていると、入間はその場で立ち上がって笑いかけてきた。


「さあ、楽しい楽しい修行期間。ビシバシ行こうやないかお二人さん」


 先が思いやられる中、二人の地獄の三週間が始まった。


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