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5-5 攫われたカップル達

 気を失ってからどれだけ時間が経過したのか。何やら騒がしい音が耳に入り込み、幸助は意識を取り戻して目を覚ました。


 目の前には鉄格子、周りには叫び声と鉄格子を力強く叩いき、騒ぎの音の原因となっていたの男達の姿があった。かと思えば、逆に床に崩れてテンションが下がりきっている男もいる。


「出せエェ!! ここから出せええぇぇ!!!」


 幸助はまず叫んでいる男達に近付いてここが何処かなのかを聞いてみた。


「あ、あの……ここは一体?」

「君、目が覚めたのか! さっき転送されたばかりなのに。」

「俺が、ここに?」


 男の話によると、幸助はつい数分前に気を失った状態で転送されてきたらしい。

 彼を始め、ここにいる人達全員が同じ感じだ。突然男女組で一緒に行動している最中、突然出現した霜に景色を阻害、次に現れたイエティによって気絶させられてここに転送されたそうだ。

 もう一つ共通点としては、一緒にいた女性達は揃ってこの場にはいないらしい。


(この人達が、お店の人が言っていた行方不明事件の被害者。いや、今となっては俺もその一人か……)


 たかだかお使いに出ていたはずが、いつの間にか怪事件に巻き込まれてしまっている現状。普通に考えてみると、南のいる場所の様子はおおよそ思い浮かんできた。


 その幸助の予想通り、南のいる檻の中には幸助と共にいる男性と引き剥がされた女性陣が同じようにある人は叫び、ある人は疲れて体勢が崩れている。

 幸助と一つ違う点としては、話しかけていた相手が叫んでいた人ではなく体勢を崩していた人の方だった。


「それで、貴方は彼氏さんと離ればなれになってしまって、もう一週間も経つと」

「うん……今彼がまだ生きているのか。それすらも分からなくて……もう、何でこんなことに」


 突然こんな閉鎖空間に閉じ込められて何日も。確かに普通に考えても精神的にかなり参るところがあるのだろう。


 南は出来るだけ刺激を与えないように接し、丁寧な口調で会話を繋げる。


「落ち込まないでください。って、ここに来てすぐの人が言ってもなんの助けにもならないでしょうけど」

「そんなことは。話をしてくれただけでもほっとします。でも、どうして貴方はそんなに落ち着いているの?」


 南は女の質問に返答するが、表情は何処が複雑なものになっている。


「まあ、何というか……悪い奴の牢屋に囚われたのは、これで三回目だからですかね」

「三回!?」

「あっぁ、いや冗談です!!」


 あまりにぶっ飛んだ端に冗談と付け加えて話を切ったが、皮肉なことに彼女の言い分は本当のことだった。苦笑いをしつつ、この危機的状況をなんとか打開しなければと考え出す。


(それにしても、ここまでの大人数。それもカップルばかりだなんて何のために?)


 目的の分からない誘拐。下手に行動していいものなのかと迷う思考で、南はふとこんな台詞が思い浮かんでいた。


(こんなとき、ラン君がいたらどうするんだろう)


 いくつもの異世界で色々な敵と戦い勝利してきたランならばどうするのか。こう思ったのは、別の牢屋にいる幸助も同じだった。


(あいつなら、ここでどうするか)


 あるときは強引に、またあるときは器用に立ち回っていくつもの聞きをかいくぐってきたラン。シカズ当然ながら今この場に彼はいない。今彼等は、自分達で考えてこの危機を脱するしかないのだ。


 そこで幸助は、何人もの人が叩きながらもないも怒っていな鉄格子に注目した。


(あれだけ叩かれているなら、罠があれば発動してもおかしくないよな?)


 かつて勇者の世界にて、ランがココラ達を助けるときにした素早い判断も、相手の状況、環境を全て見極めることによって力ずくで突入していた。


 これを思いだした幸助は、今目の前に起こっている騒ぎを見てもしやと思い、暴れている男達に声をかけて下がらせた。


「すいません、ちょっとスペースを空けてください! できれば離れて貰えばと!!」


 男達は困惑しつつとりあえず道を開けると、幸助はゴンドラと戦ったときと同じように拳に魔力を込め、鉄格子めがけ正拳突きをぶつけた。

 仕掛けも何もない鉄格子は、彼の通常ではあり得ない力を前に、周囲の鉄格子を丸ごとあっけなく破壊された。周辺の男達は幸助のあまりの怪力に全員揃って目玉を飛び出させて驚いた。


「エエエエエエエェェェェェ!!!!」


 同時刻、同じ事が女性側の檻の中でも起こっていた。南も幸助と同じく鉄格子に攻撃をしようと支障はないと判断したためだ。

 こちらでは周りの女性は全員白目を向いて口を大きく開け、呆気に取られている様子だった。


「さぁ! 皆さん逃げてください!!」


 南の声かけを受けて我に返った女性陣は、次々と檻の中から逃げ出していく。とりあえずこの場から逃げ出せるまでついて行くことにする。

 しかし幸助も南も、暗闇の中に設置されていた小型の監視カメラの存在に気が付かなかった。


 当然今この瞬間の映像がカップル達を誘拐した黒幕に見られていた。

 だが黒幕は黒幕でここまで何の損傷も与えられてこなかった鉄格子がこうも簡単に破壊された事実に男性陣と女性陣の表情を足して二で割ったような表情で言葉を失っていた。


 戦闘員の二人が先導し、それに攫われた被害者達が続く道。廊下のような構造だが相当長く、曲がり角も多いために出口が見つからないまま時間が過ぎていった。


(この場所、細かく道が分けられてる。出口は一体何処?)


 走っている最中、南はランのような優れた聴覚を持たなくとも聞こえる程の大きな物音が耳に入ってきた。

 彼女達の側よりも多少思い足音。向かってやって来たのは、同じく檻から脱出してきた幸助達男性陣だった。


「幸助君!!」

「南ちゃん! 後ろに居る人達って!!」


 幸助は南の後ろにいる人達の正体に勘付いたが、それを口にするよりも先に周りの人達の方が走る速度を上げ、丁度二人の間にあった開いた空間で勝手に抱き合って出した。


「ダーリン!!」

「ハニー!!」


 テンプレのような惚気た態度を取って抱き合い出すカップル達。場所もわきまえないような甘々な空気が流れ出す中、取り残されてしまった幸助と南は額に汗を流しながら話をする。


「よかった、南ちゃん無事だったんだね」

「幸助君こそ……って、君の場合はこの程度でやられはしないか」

「アハハ……南ちゃんもランと同じ事言うようになったね」


 幸助がまるで自分はどうやっても生きているみたいな台詞を受けて微妙な顔を浮かべていると、彼等が出て来た方向とは別の出入り口から一人の影が入り込んできた。


 身体の向きを変え、途端に警戒し始める二人。

 広間に現れたのは、雪山に登るようなパーカーを着込んだ初老の男性一人。驚くことに、幸助と南が買い物で会っていた店の店員その人だった。


「貴方は! あの時の店員さん!!」

「何でこんなところに……まさか!!」


 現れた店員は両掌で顔を隠すと、手を離した途端に狐のお面の輪郭をかたどったような白い頭に瞼のない眼球がつき、口に当たる部分が見当たらない怪物の姿に変身した。


「姿が変わった!」

「いや、ゴンドラのときと同じく、あれが本来の姿なんだろう」

「その通り」


 店員は二人の会話に割って入る形で口を開き、自身の正体について語り出した。


「私の名は『フラク』。我々の世界では、世界規模に急激な高齢化が進んでいる。我々は、これから先の世界を支える若い労働力が不足しているのだ」


 フラクの言い分からなんとなく企みが分かった幸助は、語っている最中のキヤマに水を差した。


「それで異世界から調達するために攫ったのか!」

「でも、なんでカップルばかりを?」


 話の流れで南が指摘を入れた。確かに幸助にとっても、ただ人攫いをしたいだけならばもっと適当に若い人を狙えば良いのであって、わざわざカップルばかりを執拗に付け狙う必要はないはずと思っていた。


「簡単な話だ。その場でただ若者を攫ったところですぐに消耗してしまう。ならばアベックを丸ごと攫ってその子孫ごと利用する方が効率がよいだろう」

「アベック?」

「確か、カップルのことのような」


 異世界間での言い方の違いに一瞬疑問を浮かべた二人。フラクはこの隙を見逃さずに軽く手を叩き、いつの間にか彼等の周囲に大量のイエティを出現させていた。


「いつの間に!!」

「こんなに数が!!」


 更にフラクが軽く右腕を振って合図をすると、イエティ達は再びカップル達を取り押さえるために襲いかかってきた。


「マズい!!」


 幸助と南はそれぞれカップル達を助け出すために素早く動くも、相手の数が多いがために全てを防ぎきることが出来ず、何人かの男性が殴られ気絶させられてしまった。


「しまった!」

「数が多い! 捌くのが間に合わない!!」


 かといって目の前で戦っているイエティを放っていくわけにもいかない。まずは目先からケリを付けなければと、幸助が拳受け止めた剣から電撃を流した。

 電撃を受けたイエティは身体を痺れさせその場に倒れた。効果を確認した幸助は効率が良いと判断して次々電撃を流し始めた。


「よし効いてる。これならいける!!」


 優位に動く幸助に対し、南の方は次々来るイエティからの攻撃を受けるのが精一杯になっていた。

 ゴンドラの時と同じく、またしても相手に拳を振るうことを恐れている。


 一方的に攻められ、ガラ空きになった背後に入って来たイエティが襲いかかる。


「しまった!」


 攻撃が当たるかに見えたが、何体ものイエティを撃退した幸助が手助けに入った事で助けられた。


「幸助君!!」

「南ちゃん! 大丈夫!?」


 幸助は攻撃を防いだ個体にも電撃を流して麻痺させた。南は彼の応用の利かせた戦い方に関心をしつつも、足を引っ張っている自分を責めた。


「ごめん。また僕が迷ったせいで。僕が、相手を殺すことに戸惑っているから……」


 しょげ込んでいる内にも相手の手は緩まない。本調子の出ない南は攻撃は捌いても相手に危害を加えることが出来なくなっていた。


 二人の動きが制限さえていく中で、囲まれている男性陣が次々と意識を失っていく。


「また人が!」


 自分が躊躇しているがためにまた一般人がやられていく。南はまたしても自分を責めて気分を落ち込ませていく。


「僕が……また僕のせいで……」


 視線が震え、力が落ちていく南。抑えていたイエティが力を押して攻撃しにかかるが、これも幸助が間に入って電撃を流した。


「幸助君……」


 無言のままにイエティを撃破した幸助に注目する南だったが、次の瞬間


 パンッ!!……


 と、高い音が響きく。気が付いた時には、あろうことか幸助によって南の左頬ははたかれていた。


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