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5-4 お使い

 ランが身体の鞭を打ってこれまで活動していたことを知り、幸助はもちろん、彼と何度か戦っていた南にも思うところがあった。


 ランは二人の表情からなんとなく心中を察してそこまで凹まないように配慮してか声をかけた。


「そう、気落ちすんな。確かに短期間に二度も使えばこの様だが、一度使ったくらいでボロボロになったりはしない」


 隣にいるユリが何か言いたげな表情で彼を見ている。当然今の一言だけでは、幸助と南も胸の中にある後ろめたいものをスッキリはしなかった。

 特に本来魔王と戦っていたはずの幸助にとっては、より重たいものがのし掛かった気分だ。


(魔王と戦うときにあのとんでもない力を使った。俺が先に到着して、倒していれば……アイツにそんなことをさせずを済んだんだよな)


 幸助は今更どうあがいても元には戻らない出来事に対する怒りで身が捻るような思いだった。


 秒数が進むほどに怒りに飲まれそうになる幸助だったが、態度として吐き出す前に突然後ろから肩を組まれて話題を変えられた。


「丁度来てくれたな! 待ってたでお二人さん」

「「入間さん!?」」

「ラン。この二人ちょっと借りてええか?」


 いつの間に回り込んでいたのかすら分からなかった入間に掴まれた二人。動揺している間に彼女は勝手に話を切り出す。


「おう、別に構わぞ」

「ありがと、じゃあ早速お二人さん。行きましょっか」

「いや、行くって何処に!?」


 質問の返答すらないままに二人は入間に連行されていき、彼女の素速い動きにあっという間に病院から離れていくと共に、入間が髪飾りに触れたことで前方に開いて扉の中に飛び込んでいった。


 訳が分からないまま引きずり回された二人が気が付くと、いつの間にか周りに様々な店が広がる場所の中にいた。


「あれ!? ここは……」

「ちょいと世界が離れた町の中。ここにしかないもので色々買いたい物があったから、手分けして貰おうかと思ってな」

((いや世界が離れたって、軽々しく言える言葉じゃないんですけど……))


 入間はこれまたいつの間にか取り出していたメモを二人に一枚手渡した。


「勝ってきてほしいものリスト。初めてだし、一緒に行って貰えればいいから」


 メモの内容を拝見する二人。ご丁寧にメモの裏には何処に何の店があるのかも細かく描かれている。ありがたいことに文字も日本語だ。


「わざわざ細かく」

「入間さんも、別の買い物を?」


 南が何気なく聞いた問いかけに入間は右手の親指をサムズアップさせて機嫌のいい顔をしながら返答した。


「ええ! 私はここの近くの店で酒でも漁ってくるから! こればっかりは大人じゃないといねないからなぁ!! ほなまた後でぇ!!」

「いや! アンタただ酒飲み対だけだろぉ!!!」


 幸助の突っ込みの叫びを聞き流して入間はすぐさま視界から消えていった。


「本当にお酒が好きなんだね、あの人」

「なんというか、残念な大人の有様を見せられて気がする……」


 嵐のように人を連れ去り、置いていった入間に対する反応に困るも、とりあえず頼まれたお使いを終らせることにしようと二人で一緒に買い物に行く運びになった。


「じゃあ、とりあえず一緒に行くか」

「そ、そうだね」


 幸助と別れた南は、歩きながら自分に頼まれたものを見直していた。


「う~ん……全部日本でも売っていたものみたいだけど……」

「まあ、それなら簡単に終らせられるって考えて行こっか」


 二人は退院早々入間に振り回されている事態に困惑しつつも、入院しているランの為にと思って買い物に動いた。


 その道中、ふと立ち寄った店の店員に話しかけられた内容に耳を傾けた。


「まあ、アンタ達カップルさん?」

「え? カップル?」

「いや、僕達は友達で……」


 どうやらここの店員は二人の様子を見てカップルだと勘違いしたらしい。当然二人は否定するが、次に店員の女性が口にしたのは、微笑ましい世間話ではなく、一つの忠告だった。


「でも気を付けてね。最近ここら辺で人が消えることが多くて。それもその全員がカップルだって噂になってるのよ」

「人が行方不明に?」

「何でカップルで?」


 買い物を順調に勧めていく二人だが、さっきの店員の言葉が引っかかっていたようで、暗くなっていた南の表情を見た幸助が聞いてみる。


「やっぱり、気になるの? さっきのこと」

「う、うん……でも本当なのかな、噂って」

「人攫いまではなんとなく分かるけど……でも何でカップルが被害に」


 と二人がそのまま会話を勧めながら次の店にまで行こうと地図に書かれていた細い道筋に入る。入間曰く店に行くための近道ということらしい。


 だが二人は少しの間歩いていたが、何かに気が付いて足を止めた。


「南ちゃん」

「うん。これって……」


 周りの景色が瞬きをする間に霧に包まれていき、辺りの道が見えなくなった。


「行方不明事件に……」

「早速巻き込まれちゃった感じだね……」


 触れる霧はとても冷たく、二人の足下がすぐに凍り付いた。


「脚が!」

「これ、ただの霧じゃない。このままじゃ確実に凍らされちゃう!」

「でも氷なら! 南ちゃん、ちょっと熱いけど御免」


 幸助は右手の平から自身の足下に向けて火球を撃ち出し、南の脚も含めた纏わり付いた氷を溶かして拘束を解いた。


 次に南が両親指で自身の心臓部を押し込んで変身。二人は背中合わせに拳と剣を構え、辺りに霧を発生させた人物がいないか警戒しながら見回す。

 すると幸助から見て左上の方向、霧の奥から大柄なシルエットが映り込み、すぐに姿を消すも幸助は逃さない。


「そこか!!」


 幸助は現れた相手を拘束しようと雷輪を発射する。しかしいつの間にかシルエットは彼の正面近くに出現し、気が付くも遅れた幸助は剣で拳を受けるも身が下がってしまう。


「幸助君!?」

「コイツ、結構パワーがある」


 だが攻撃をかわさず受けたおかげで、至近距離にまで近付いたシルエットの正体が目視できるも、その祖父対に幸助は思わず叫んでしまう。


「イエティ!!?」


 幸助が見たものは、かつて日本で暮らしていたときに彼がテレビや本などで見た、有名なユーマの一つである『イエティ』のそれだったのだ。


「なんで和風の世界間の中にイエティ!?」


 同様による突っ込みが止まらなかった幸助は、生じた隙を突かれてもう一撃拳を受けてしまった。


「幸助君!!」

(見た目まんまの相当なパワー。というかこんなユーマ、何がどうやったら……って、考えてる間ないか)


 幸助は反撃に出ようと足を前に出して魔力を纏わせた剣を袈裟斬りに振るうも、イエティは丸太のような太い左腕で受け止め、彼の攻撃に耐えてみせた。


「切れない!? なんで」


 更に幸助にとって罰が悪いことに、彼自身の攻撃の余波によって道の周りに立っている建造物にヒビが入り、破壊されかけていた。


「やばい! 余波で建物が」


 敵を倒すための攻撃で関係無いものが破壊されてはならないと、幸助は技の威力を緩めざるおえなくなる。

 当然ただでさえ攻撃を受け止めていたイエティはすぐに彼の剣を弾き返すと、ガラ空きになった彼の腹に拳をぶつけようとかかる。


「マズい!!」


 南は幸助を助けるために彼の身体を右に突き飛ばし、向かってくる拳に対抗する為に己の左拳を握り絞めて正面から技で受け止めた。

 イエティの攻撃を相殺しつつ、南は空いている右手を握り絞めて攻撃を仕掛けようとする。


(お腹がガラ空き! 僕の攻撃なら効いて……ッン!!)


 攻撃が当たるかに見えた直前、南の頭の中にゴンドラとの戦闘時の記憶がフラッシュバックする。

 殺しかけた感覚。宙を飛び血を撒き散らす腕。押さえ込んでいた恐怖が再び膨れ上がり、彼女は顔を引きつらせて動きを止めてしまった。


(また止まって……ここで攻撃しないと、幸助君も危ないのに……僕は……)


 頭の中では分かっていてもビクともしない身体。

 息が荒くなり、目も震える彼女に、イエティは容赦無く腹に蹴りを入れる。彼女の身体は『くの字』に曲がり、激しい吐き気を及ぼした。


「カハッ!!……」

「南ちゃん!!」


 南を助けようと再びイエティに攻撃を仕掛けようとする幸助。しかし彼はいつの間にか後ろに出現していたもう一体のシルエットに気が付かなかった。


 唸り声を発したことで幸助が初めて後ろの敵の存在に気が付くが、動きは間に合わずに左手首を掴まれた上で回し蹴りを胴に受けてしまった。


 身体に響くようなそう撃に襲われる幸助。掴んできた腕の正体は、目の前にいる者と同じ体格、大きさのイエティの姿があった。


「も、もう一体いたのか」


 幸助は声に覇気がなくなっているものの、まだ戦えるとばかりに左腕に魔力を集めて熱を発生させ、イエティが厚さから咄嗟に手を離した。


 解放されてすぐに幸助は自分を掴んできたイエティに反撃しようと剣を握る手に力を入れて身体を回転しつつ振り上げた。


 魔力を重ねて鋭くなった剣は直撃すればイエティを真っ二つに出来ただろう。

 だが大柄な身体に反して相手の動きは素速く、剣撃はかすっただけで留められた。


「浅い!」


 更に振りかぶったことで幸助に生じた隙に二体のイエティは見極め、挟み込むようにして距離を詰めながら拳を前に突き出してきた。


 狭い道中での素早いに動きを前に回避が間に合わなかった幸助は両側からの攻撃を受けてしまい、ダウンする。


「ウッグ……まだまだ!!」


 幸助は気を失いかけるショックを受けるもどうにか持ちこたえた。

 さえに彼は攻撃によって間合いにまで自分から入って来たイエティに足下から剣を振り上げ、かすり傷がついていた一体を今度こそ真っ二つに切り裂いた。


「よし! もう一体!!」


 剣を両手で持ち、より力を込める幸助。残っていた一体のイエティはこれに逃げることはせず、口を大きく開かせて氷のつぶてを吐き出した。


「マジか! でも氷なら!!」


 幸助は構えていた剣の刃に魔術を行使し、剣に炎を纏わせながら氷のつぶてを受け止めた。こ運つによって溶かされ無力化されていく攻撃にも憶することはないイエティ。

 だが幸助の炎は剣に触れるよりも前にイエティの身体に侵食していき、その体を燃やし尽くして見せた。


 灰化して倒れたイエティ。幸助は似たいとも倒したことで安心して肩の荷を降ろした。しかし敵は倒したはずなのに道を包む霧は晴れない。


「これは……」


 幸助は直後に背中を殴られ、前方に倒れてしまった。何が起こったのかが分からない彼が後ろに目をやると、倒したはずのイエティの五体満足の姿が見えた。

 だがその後ろには、真っ二つになった一体の死骸が見える。つまり、霧の中にはもう一体のイエティが隠れていたのだ。


「もう一体、いたのか……」


 数を読み間違えたことに築いたところでもう遅い。イエティは幸助をもう一度殴りつけ、幸助はこの瞬間に意識を手放した。


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