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5ー2 ようこそ、この世界へ

 大悟の告げた返答に、二人は衝撃で一度固まってしまうも、我に返ってすぐに質問攻めをした。


「滅んだってどういうことだよ!!」

「ラン君の世界って!」

「まあまあ落ち着けや。順を追って説明し足るから」


 湧き出る知りたい欲求を抑える二人。場が落ち着いたのを確認してから大悟は続きを説明した。


「俺も伝え聞いた話でしかないんやけど、ランの生まれ故郷の世界は、アイツがまだまだガキの頃に大勢の赤服による襲撃を受けたんや。

 結晶を手に入れるためだったのか。はたまた別の目的があったのか。何のために奴らがやって来たのかはランも知らへんけど、その攻撃によって、奴の世界は一方的に滅ぼされたらしい」


 二人が息を飲み込み、大悟も自分で言っていて腹が立ってきたのか、目を閉じ自身の拳を強く握り絞める。


「友人も嫌いな奴も、そして家族も……皆揃って殺されてしまったらしいぞ」


 大悟は次に力を緩め、顔を上に向けながら話を続ける。


「そしてアイツはたまたま見つけた襲撃犯に怒りにまかせて突撃したところを返り討ちにされ、偶然鉱石の世界に飛ばされた。ほんでユリちゃんと出会って……ってとこやな」


 簡単な概要を伝え終った大悟は、再び目線を下にしてむず痒そうに頭をかく。


「ま、これがランが異世界に来るまでの簡単な経緯(いきさつ)や。ここから先を語るんならかなり長くなるし、俺は断片的にしか知らんから、多くは言えんし」

「本人のいない場でとやかく言うのも野暮ってもんやしなぁ」

「確かに」

「本人のいない場で聞くのも……って、え?」


 その場の全員についさっきまではなかったはずの女性の声が耳に入り、揃って視点を集中させた。


 視線の先、先程大悟が蹴り飛ばされていた窓の枠に一人の女性が足を組んで座り込み、左手に持っている酒瓶をそのまま持ち上げて口に当て、中の酒をラッパ飲みしている。


「だ、誰!?」


 困惑する幸助と南に対し、大悟と零名は呆れた様子になっていた。


「また唐突に現れたな。姉ちゃん」

「「姉ちゃん!!?」」


 言われてみると、確かに女性の瞳は大悟と同じく夜空に似たような瞳を持ち、少しカールのかかったくせっ毛の長い髪をポニーテールにまとめた髪型。

 大人の女性というのか、相当にプロポーションの良い体に紫色の忍び装束を着込み、酒を飲んで軽く酔っているのか頬が赤く染まっている。


 彼女のことを姉と呼んだ大悟に二人は当然彼から聞き出そうとする。


「あの人お前の姉さん!?」

「お姉さんがいたの!?」

「おう。9つ年が離れている俺の姉、『疾風(はやて) 入間(いるま)』や」


 紹介された女性『疾風 入間』は咥えていた酒瓶を放して話し出した。


「カッカッカ! 初めまして。君達がランの言ってた旅の連れやな」


 大悟と同じく関西弁風の口調で軽い印象を持つ話し方。見た目の事も相まって彼女が大悟の姉だということに確信が持てた気がした。


 いきなり知らない人物が登場したことに幸助と南は呆気に足られてばかりの中、大悟と入間の兄弟間の話は続く。


「なんでここにいんねや? 仕事はどないした?」

「弟分が重傷負ってやって来たのに仕事もへったくれもないやろう。わざわざ隙間を縫って御見舞いに来たっていうのに、邪険にすんのはなしやで」

「いや、大方仕事さぼって酒が飲みたかっただけやろ」

「あれ? バレちゃった?」

「飲んだくれ姉が」


 話の内容からして入間は相当な酒飲みらしい。だが幸助と南としてはそんなことはどうでもいい。

 とはいえ彼女が現れたことでランの過去を聞く雰囲気でもなくなってしまったことから、まずはこの入間という人物が何者なのかを知ることにした。


「その……入間さん、でしたっけ?」

「おう。何か聞きたいことがあるんなら聞き聞き!」


 酒が入った高いテンションで質問を受け付ける入間に逆に引きつった顔になりつつ南から質問を飛ばした。


「その、入間さんは、大悟君のお姉さんだそうですけど、やっぱり次警隊に?」

「おん、入っているで。そいつらと同じく二番隊」


 ここで南に一つ思うことが出来た。ランの話になったことでついぞ忘れられていた、今自分達がいるこの世界がどこなのかについてだ。


「大悟君に、そのお姉さんがいるってことは、もしかしてなんですけど、この世界って」

「なんや。それすら聞いてなかったんか? 余程前回の世界でバタバタしたままこっちに来てしまってんなぁ」


 またしても手に持った酒瓶の中の酒を一度飲みつつ、少しこぼれた酒を右腕で脱ぐってからここが何処なのか説明した。


「南のお察しの通りってとこやな。じゃあ、せっかくやし軽く案内してよろうか」

「「エッ?」」


 入間は自身の後ろの窓を開くと、突然ベッドの上に寝転んでいた幸助と南の身体が空気に持ち上げられるかのように浮き上がり、流れるように窓の外へと放り出されてしまった。


「「アアアアアアアアアァァァァァァァァァァァ!!!!!」」


 前触れもなく空中に出て事で下手な絶叫系マシンに乗っているとき以上の大声を上げてしまう二人。

 何がどうなっているのか理解が追い付かない二人に、当然のように二人の間の位置を落下しながらケロッとしている入間のガイドが入る。


「ようこそ地球へ……って言っても変な具合か。ならようこそ、『忍者の世界』へ!!」


 二人と違って平然とした様子で身体を落下させられて焦る二人に前を見せる入間。


 窓の外に出た幸助と南が見たのは、以前の吸血にの世界にあった近世ヨーロッパの機械的で汚い町並みからは打って変わり、時代劇のセットの中にでもいるような和風の木造建造物が建ち並んでいる。


 こんな自由落下の最中で、入間は二人にこの世界の説明を始めた。


「ここは雰囲気こそお江戸長だけど、その実態はテクノロジー塗れ。様々な世界との協力によって得た技術を使ってかなり発展している」


 説明もまだ序盤ながら何処かの建物の屋根に激突しそうになり、療養中で身動きの取れない二人がより大きく叫び出す。


「待って待って待って待って!!」

「激突する!! 屋根に激突して!!」

「大丈夫」


 入間は軽口を言って落下していく身体をそのままにしている。

 二人が激突してもうダメかと思ったそのとき、突然身体がクッションに包まれたかのような感触を受け、気が付いた時には、屋根の少し上で全員の身体の位置が止まっていた。


「エッ? エエッ!!?」

「激突する前に止まって……何が起こってるんだ!?」


 興奮の困惑に表情が定まらない二人。入間は彼等の新鮮な反応を見て笑い声を上げた。


「カッカッカ! だから言ったやろ大丈夫って」

「これ、入間さんが!?」


 入間は南の質問に頷いて肯定する。


「私ら疾風家は、代々自然エネルギーを手足のように操る忍術を訓練してる。これはその基本。風を操って身体を浮かせてる。弟にも出来るで」

「大胡君も!?」

「アイツ、キャラと違って結構凄いのか?」

「ま、私ほどじゃないけどな」


 入間は風を操作し、再び全員の身体を宙に浮かせて空中移動を再開した。道中、入間は二人にふと質問する。


「さて、君達は次警隊について何処まで知っているのかな?」

「ランと大悟から、軽くだけ説明を受けたくらいです。星間帝国と戦って発足したとか。なんとか」

「異世界を回っては、事件を越えた犯罪者達を取り締まっているって事を。細かい所までは、何も……そうだ!!」

「ランが、三番隊の隊長だって事は」


 幸助の最後の台詞に入間は眉をピクリと動かした。


「きっかけと大まかな概要までか。なら、現状の組織図を私から教えよう」


 二人は運ばれて、入間は空中を歩きながら移動しつつ次警隊の細かい内容を説明した。


「『多次元救護警察連合団体』。十一の隊で構成されている。ランを含め、部隊はそれぞれを隊長がまとめていて、その上を一番トップとして大隊長が君臨している」


 次に入間は、自分が所属し、この世界についての説明に移る。


「次警隊の各団体は、それぞれに役割がある。忍者という職業からも察しがつくように、二番隊の主な仕事は諜報活動。

 あらゆる世界に隊員を潜ませ、その世界で起こった異変を逐一報告して貰い、対処する。この広い宇宙じゃ、情報戦で後れを取るわけにはいかんからなぁ」

「ああ、それであの二人が吸血鬼の世界に」


 この説明を受けて、二人は吸血鬼の世界に大悟と零名がいたことに納得がついた。


「お前達が会った二人を送りつける係にしたから二人はこっちに帰ってきたけど、驚いたで。そっちを手伝わせようと二人を再び向かわせたら、揃って重傷負ってやって来たんだから」


 二人にとって耳の痛い話だ。


「まあ、その件について何があったのはお嬢……いや、ユリに聞いたで。厄介な奴らとバッティングしたらしいな」

「ああ、それでランがドーピングを使って、それで……」

「僕達、何の役にも……」


 揃って頭を下に向け、ブルーメやコクとの戦闘に煮も役に立てなかった自分達を責める二人。そこに入間の口から出た台詞は、今の二人を更に落ち込ませかねないものだった。


「まあ、結果ランが短期間の内に()()()輝身を使うことになったみたいやしな」

「二度も?」

「その事も重なってランの入院生活は一番長引きそうや。一人で背負い込もうとするからこうなるってのに、悪い癖が抜けてへんな、アイツ」


 入間は独り言を呟きながら空中を歩いて前に出て振り返る。


「ということで、三番隊がかなりやばい事態になってるんや。ただでさえ人員少ないからな、あの部隊」

「隊長が重傷って事が大きいのか」

「ああ、いやそういうことじゃなくて……見た方がはやいな」


 入間は髪をまとめている髪飾りについた紫色のクナイ型の装飾を外した。彼女が何やら操作すると、ランのブレスレットと同じように装飾から立体映像が映し出される。映っている内容は何かの名簿のようだ。


「三番隊の名簿や。見てみ」


 言われた二人は映像を目を凝らして確認してみる。


「えーっと、三番隊 隊長 将星ラン」

「副隊長 ユリ……」

「「……」」


 二人は名簿を名前一覧を確認する。


「隊長 将星ラン……」

「副隊長 ユリ……」

「「……」」

「他に名前が」

「見当たらない」


 二人は反応に困った。渡された名簿の中に書かれていた名前は、ランとユリのたった二人だけだったのだ。


「これは一体」

「見ての通り」


 予想はつきながらそんなことはあり得ないと思う二人だが、入間はすぐに口にした。


「三番隊の隊員はこの二人だけしかいないんよ」

「二人だけ!? これ本当なの!!?」


 こういうものは何十人、何百人といるのが普通の中、たった二人。これはあり得ないだろうと思っているが、事実として受け止めるしかないようだ。


「見ての通りの過度な人員不足。そもそも三番隊に入りたがる奴が早々いないからな。そこで二人に頼みがある」


 入間は立体映像を閉じると、早速頼みを入れた。


「君達二人、次警隊に入ってくれ」


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