【第51話】私の転生の意味
お待たせしました( ˘ω˘ )
かなり重ためな話しなので、苦手な方は申し訳ありません。
無理はしないでください。
「待たせたね。マルセール家の精査を先に終わらせたかったのでね」
ベルラン大司教がハワード家の待つ客室に顔を出したのは、部屋に通されて、1時間程経った頃だった。
「いえ、此度は仲裁ありがたく……。お手間をかけて申し訳ございません。大司教様」
「よい。神殿で起きた事は、神殿に一任されておる。外部の干渉もないゆえ、安心しなさい。少し長くなるだろう。掛けなさい」
私たちは元々座っていたソファへ、大司教は最奥の一人掛けのソファへ座った。
私とお兄様が並んで座り、その対面に両親が並んで座っていた。
「まずはハワード家から見た此度の事の証言を聞こう。思い出すのは辛いであろうが、令嬢の傷の程度も証言が欲しい」
「ありがとうございます。まずは、アメリアが負傷するまでは、私と妻そして息子は、カイン様の行動を見ておりませんでしたので、アメリアからの証言になります。6歳と幼いですが、証言者として認めていただきたく思います」
「あちらも10歳の証言だ。アメリア嬢の証言を認めよう」
私から見たままに、あの時の事を細かく証言した。
カインが背後から近づいた事、お兄様とカインの距離、自分が二人の直線上に飛び込んだ事、カインの声が聞こえた事を、それはもうハキハキと事実のみを簡潔に順序立てて証言した。
信じてもらわなければ始まらないので、必死だった。
「ふむ……なんと聡明な子である事か。兄を庇った事と言い、素晴らしい娘を持ったな、ハワード侯爵は」
(25歳としては、普通なんです!なんかすみませええん!)
「……はい。そんな娘を…もしくは息子、もしかしたら両方を失ってしまう所でした。必ずや正当な罰が下る事を願っています」
「悪意をもって犯した罪を見逃す事はない。一度それを許せば次があるだろう。……よって、法に則り必ず処罰は下す」
(おぉお……!!かっけえ!良くある物語だと、教会組織は腐っているってのが相場だけど、この世界の教会は違うっぽい!!)
そしてベルラン大司教は、お兄様に嫌な目を全く向けないところも好感度が高い。
重症者の報告で、直ぐに駆けつけてくれたところをみても、この世界の教会は今のところ信じても良さそうだ。
(あと、喋り方が中二病に刺さります!重鎮感がイイっ!!)
それからお父様とお母様から、私の負傷した時の事を聞いたが、本当に見えてなくて良かったと思った。
聞くだけで血の気が引いてしまうほどの重症だったのだ。
(そりゃあお母様もお父様も、普通の治癒魔法では命を賭けても治しきれないって思うはずだわ!!こっわ!!マジで死んでたかも……)
聞くまで知らなかった恐ろしい事実に、青ざめて震え出した私の肩を、お兄様がぎゅっと抱いて囁いた。
「改めて知って怖くなったのかな?……大丈夫。もう治ったよ、アメリア。大丈夫」
「はい……。本当に…私は死んでしまうところだったのですね……。本当に有難うございます。お兄様」
治ったよと安心させようとする声の優しさに、ほっとする。
本当に奇跡の治癒を施してくれたお兄様に、改めて感謝した。
私でも、お兄様が今聞いたような姿になったとしたら、気が狂ってしまっていたかもしれない。
そんな家族を失うかもしれない恐怖の中で、初めての治癒に成功したお兄様は、国民栄誉賞ものだ。
「僕も怖かった……。本当にアメリアを失うところだったんだよ……。生きていてくれてありがとうアメリア……」
お兄様の言葉に胸が苦しくなって、今更また泣いてしまいそうになる。
お兄様はそんな私を見て、肩を抱いていない方の手で私の頬をそっと包んだ。
そして、至近距離から真剣な眼差しで私の瞳を見つめる。
「僕の魔法はアメリアの為にあるんだ。……だから、何があっても、アメリアを死なせたりしないよ。だから、僕のいない所では、絶対に危ない目に遭わないでね?約束して?」
「……ふぅうっ。…ふぁいっ、……はいっ」
結局泣いてしまった私は、お兄様の膝の上に抱っこされて背中をポンポンされるという、完全に幼児な状態になってしまった。
証言していたのを中断して、両親と大司教が心配してくれたが、お兄様が「傷が思ったよりも酷くて驚いたようです」と説明してくれたので、泣き止むまでお兄様の膝抱っこに甘えた。
(うちのお兄様がしゅてき過ぎてつらい……!お兄様の魔法が私の為なら、じゃぁ私の転生はお兄様の為って事で!!)
ずっと膝の上にいるのもやぶさかでは無かったが、大事な話の場なので、泣き止んで直ぐに降りた。
一通りハワード家の証言を取り終えると、大司教はカインの証言についても話してくれた。
「カイン・マルセールの証言からは、故意に魔法を放った事は確認できた。だが、その威力については殺害を意図したわけではないと主張した。済まないが、これには証明する手立てがない。実際の威力が高かった事については、魔力操作ミスだったと言い張ってな」
「………」
お父様は大司教の報告に、唇を引き結び、悔しさを滲ませた。
私達としては、もし実際に魔力操作ミスでも、「だったら仕方がないね」なんて許せるわけがないのだ。
そして、殺意の有無が、この国での刑罰の決定にどれだけ影響するのかは分からないが、お父様の様子を見るに、多少なりとも関係してくるのだろう。
ただ、言われてみると確かに、一人で完結する魔法というものにおいて、その意図を証明する手立ては無いのかもしれない。
どんな意図があってそのイメージをしたのかは、本人の証言次第になってしまう。
頭の中のイメージに証拠画像なんて無いのだから。
だからカインのように、魔力操作ミスだと言い張れてしまう。
(魔法って便利かと思いきや、不便な面もあるんだな……犯罪に使われると、かなり厄介だなぁ……)
証明できなければ、厳罰を下すことは難しいのだろうか?
証明の難しさは、初めからわかっている事なのだから、それを抜け穴とさせない法整備がされていてもおかしくない。
(さっき大司教は罰を下すって言ってたしね)
私はまだ、この国の法律をほとんど知らない。
カインの主張に対して、この国が下す決定がどんなものなのか、全く想像がつかなかった。
(日本だと、さらに少年法なんかが絡んできて、軽い処分になってしまうし…。お咎めなしは流石に嫌なんだけど!?)
カインは魔法を放った時、杖を持っていなかった。
授かったばかりの炎魔法を、杖無しで放ったので、確かにミスの可能性を否定できない。
カインが驚いた声をあげていたのが、私が飛び出したことに対してなのか、魔法の威力が思ったより強かったからなのかも、闇の中だ。
私を害すつもりは無かったと言っていたので、前者だとは思うけど……。
ただ、それを主張しても、魔力操作ミスの主張を退ける事は出来そうにない……。
「…確かに、イメージする事と魔力操作は別ですが……。人に危害を加える目的で魔法を放った事自体が許されることではありません!魔力操作が未熟ならなおのことです!そんなつもりでは無かったでは済まされません!」
「人に魔法を向けた事について、カイン・マルセールは、”直撃を狙ってはいなかった“との主張だったが、私はそれは嘘だと踏んでおる」
(そうだよ!嘘に決まってる!!カインは確かにお兄様を見ていたし、私はお兄様とカインの直線上に飛び込んだ!!)
「……なんですと…?そんな…、まるでアメリアが自分から当たりに行ったかような主張をするなど、許せませぬ!!よくもそんな嘘を!!」
こんな言い逃れをされては、事件が事故にすり替えられてしまう。
「うむ。私も今回の事は、公爵家といえど言い逃れなど許さぬ。既に第三者、複数人から証言を得ている。アメリア嬢の証言と合致しておるし、複数人からの証言を覆すことは叶わぬだろう。”近距離からの直撃を狙った攻撃だった”というのが事実であろう。殺意は証明出来なくとも、実際の被害を考慮するよう計らう」
「証言者に感謝を……。その事実だけでも法律上、重い罰が下せます。そして大司教様のご配慮にも、感謝致します」
(大司教、強い……!いっそ大司教を信仰したいわ!!)
それにしても、法律自体がわからないので、その重い罰とやらが分からない。
「あの……お邪魔して申し訳ありません。まだ法律を知らないのですが、人に害意をもって魔法を放った時の刑罰がどういったものなのか、お聞きしてもよろしいでしょうか?」
「うむ、良かろう」といって、大司教が教えてくれたのは、なるほどな法律だった。
「貴族たる証明である神より授かった魔法で、人に悪意を持って害をなす事は重罪だ。魔法という証明の難しいものを、人は簡単に犯罪に利用してしまうのだ。ゆえに、重罪で無ければならず、殺意の有無関係なく厳罰が下される。戦時を除くが、殺意があれば、本人の処刑と、その一族の財産剥奪と爵位降格。殺意のない故意の傷害の場合は、本人の爵位剥奪と強制労働に、その一族の財産の剥奪と爵位降格だ。つまり、いずれも本人は貴族では無くなるという事だ。そして、この刑罰に年齢は関係ない」
「……連帯責任なのですね」
年齢不問と連帯責任なのが、重罪な感じだ。
本人についてはまだ妥当なところかなと思うが、道連れにされる一族については理不尽ですらある。
爵位を完全に剥奪しないだけマシなのかもしれないが……。
「神から授かる魔法を完全に途絶えさせるわけにはゆかぬのでな、一族郎党処刑という事はまずない。そして一族という重石で互いを縛り合うように出来ているのだ」
「なるほど……。詳しくありがとう存じます」
という事は、カインは爵位の継承権を剥奪され、強制労働をするということだ。
カインは10歳にして強制労働という事になるが、私が6歳で死んでいたかもしれなかったし、もしかしたら10歳のお兄様を亡くしていたかもしれないのだ……。
冷たいと思われようが、減刑を望むほど優しくなれそうにはない。
重たい気持ちでぐったりしそうだったが、まだ話は終わっていなかった。
「カイン・マルセールの処罰については一旦ここまでだ。国王との合意の後、追って正式に知らせる。……さて、それではユリシス・ハワードの今後について話そう」
(ーーー!!そうだった!!お兄様は、罰を受けてでもって……待って?!厳罰なんて無いよね?!!無いって言って!!!!)
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