【第43話】私とミーナの作戦B
大変お待たせいたしました( ˘ω˘ )
お母様にお願いしていた家庭教師も揃い、一週間が過ぎた。
午前は文字を習って、午後は礼儀作法の先生がやってくるのが日常になりつつあった。
夕方にはお兄様をウォッチングしては、それをイラストに描いたりと、6歳児にしてはかなり充実した毎日を過ごしている。
お兄様が私との絵を気に入ってくれていたので、ならば家族全員集合はどうかと、1枚だけいつもより大きな紙に家族が仲良く揃った絵を描いた。
これを見て大変感動したお父様は、玄関ホールの一番目立つ所に、とても立派な額に入れて飾ってくれた。
そして今日……充実した毎日に水を差す、私にとっては最悪の招待状が届いた。
普通の令嬢が貰ったら、すごく喜ぶんだろうけどね!
そう、カインのお茶会への招待状である。
主催者は公爵夫人で、誕生日パーティーの時に提案された、私とカインが仲良くなる機会を改めて作ろうのお茶会だ。
(仲良くとか無理ぃっ!)
3日後に、マルセール公爵家に招待されたのは、私とミーナの他にも、伯爵家以上の御令嬢が2人と、カインの子分その1・その2が招待されていた。
カインの嫁候補探しかと思えるような布陣に、行きたく無いでござる!と駄々をこねたくなった。
それでもこちらも腐っても侯爵令嬢、両親の為にも一度は行かねばならない。
この一度で嫌われて、二度と呼ばれなくなるにはどうすれば良いかに思考を切り替える。
(…嫌われるにしても、大失態をして傷物令嬢扱いになるのは避けたいし…)
いつかイケメンに嫁ぐ為には、自分の名前に大きな傷を付けるわけにはいかない。
ミーナと協力して、婚約者候補の対象外認定を貰いたいが、まだ幼い私達は頻繁に他家へ訪問も出来ず、事前の打ち合わせは出来ない。
出来て手紙の一往復くらいだろうか…。
とにかく何か、穏便に婚約者候補の対象外にして貰える、良い手はないかと、すぐにミーナに手紙を送った。
返事は早くも翌日に届いた。
おそらくミーナも弟が出来た時の為に、必死に逃れようとしているのだろう。
早速封を開くと、私が送ったのと同じく、日本語で書かれた手紙には、ぶっ飛んだ作戦が書かれていた。
“Dear心の友リア
うちにも来たで!カインのとこのお茶会の招待状!
正直めっちゃウザい〜!どうしよぉ?
大失態ってどっからが大失態なんかも分からへん…。
なぁ、いっそB専って言うてみよか?!
趣味わっるぅーー!くらいで済まへん?!
それか、百合なんですぅー!女の子にしか興味ありませーん!とか言うてみる?!
コレくらいしか思いつかへんねんけど、リアはなんか思いついた?
失態とか評判を傷つけずに一発退場なんて、ハードル高過ぎひん?!
P.S. うちのお勧めはどちらかと言えばB専の方やでっ!ほな当日会ったらすぐどうするかコソっと教えてな!
Fromカインをぶっ飛ばしたいミーナ”
(相変わらず懐かしっ!中学生の時以来なんだよなぁ!こういう手紙)
携帯を持つと、友達同士で手紙なんて送り合わなくなる。
中学生の時、授業中にノートを破ってこっそり回してた遊びの手紙のようで、ほっこりする。
ちなみに、私が書いた手紙には草が生え散らかしている。
“カインの婚約者候補なんて絶対嫌なんですけどwww”
みたいな感じだ。
25歳が送る手紙ではない気がするが、気分はSNS上でのやり取りだったのだ。
それに返って来るのが、懐かしい書式の手紙だった。
(やっぱミーナ女子力高ない?)
私は漫画の描き文字の癖で、若干味が出てしまっている字だが、ミーナの字は女性らしくて読みやすい。
流石、はっちゃけて見えても年上の女性である。
ミーナからの提案は、私たちから見たらイケメンでしか無いが、こちらの世界で言うところのB専宣言をしてしまうか、女の子同士の百合宣言をするの二択だった。
(確かにこの二つならB専なんだよなぁ…)
イケメンの自覚が有るカインなら、「じゃぁ自分は対象外だな」とか思ってくれそうな気もしないではない……。
事実であるところも、嘘がないので、話を合わせるのに四苦八苦するという事も無さそうなのも魅力だ。
こうして考えていると、とても良い案な気がしてくる。
(…もうコレで良いのでは?!だって、イケメン探しにも役立つ気がするじゃん?)
こうして目指すところの最強の侯爵令嬢への道から、足を踏み外している事に気がつかないまま、当日を迎える事になった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
マルセール公爵家は、大豪邸通り越して、もはやお城だった。
ハワード家も貴族家の中では大きいが、比較にならない。
流石王国に4つしかない公爵家である。
そのうちの二家が誕生日パーティーに来てくれていたと言う事だ。
今日もお母様と同伴で、他の子息子女も親御さんと来ている。
運良くお茶会の会場に通される前に、エントランスでミーナと合流出来た。
挨拶の後、夫人同士が世間話を始めた横で、早速小声で作戦を伝える。
「B専宣言でいきます」
「了解!」
「そう言えばこちらはお母様も私の感覚について知っているけど、ミーナのお母様は知ってるの?」
「いつ言おうかとは思ってたから、実は手紙の返事を書く前に話したの」
それを聞いて、思わずパウエル夫人に目をやると、うっすらと目の下にクマが出来ていた。
(あちゃー!でも、今後絶対話すんだから、早いほうが良かったと思おう…)
「お互い親には苦労かけちゃうわね…」
「こればっかりは譲れないから、申し訳ないけどね…」
お互い将来が掛かっているので、美醜観について親に認めてもらう事は必須だ。
内緒のままにするなら、こちらの世界でのイケメンとの結婚が待っているのだから。
せっかく転生して、可愛らしく産んでもらったのだ。
同じ性格が良いなら、顔もいい男性との結婚を高望みさせて欲しい。
少し早めに着くように来ていたが、サロンへ通されると、既にカインの子分その1・2と、ほかの令嬢2人が席に着いていた。
他の女の子たちは相当楽しみにしていたのか、かなり早く来ていたようだ。
キャッキャとテンションが高い。
「お待ちしておりましたわ!ようこそ、ハワード侯爵夫人、アメリア嬢。パウエル伯爵夫人とフェルミーナ嬢もご一緒のようね。ようこそ公爵家へ。ではこちらへお掛けになって。令嬢たちはあちらよ」
今回は親同伴だが、席は親同士と子供同士で別れるようだ。
そんなに離れていないので、公爵夫人が目を光らせているのは間違い無いだろうが。
挨拶を返して、私達も席に着く。
円形のテーブルに設けられた席は、関係を考慮されているのか、私はミーナの隣の席だったのはありがたい。
だだし、逆隣りがカインだった…。
(色んな意味で抜かりがないな!公爵夫人!!)
さらにカインのもう一つの隣には、嬉しそうに頬を染めてカインをチラ見する令嬢が座っている。
「やぁ、アメリア嬢。誕生日パーティー以来だね。ようこそ我が公爵家へ。体調はもう良いのかい?フェルミーナ嬢もよく来てくれたね」
「ご招待ありがとう存じます。ご機嫌ようカイン様。ええ、もうすっかり」
「ご招待ありがとう存じます」
(よし!挨拶は終わったから、もう反対側向いて良いぞ!)
カインに挨拶をした後、カイン以外の子息子女にも挨拶をした。
どう見てもカインに憧れているように見える令嬢は、私と同じく侯爵家の令嬢だった、とても可愛らしい。
家格が釣り合っている上に顔も良いところを見ると、やはり婚約者探しも兼ねたお茶会のようだ。
それでも、他の令嬢も候補に挙がっている事にホッとする。
是非カインには、私とミーナ以外の候補の令嬢を選んでもらいたい。
「今、お互いの事について話していたところなんだ。アメリア嬢とフェルミーナ嬢は普段何をして過ごしているんだい?僕は最近剣術を習っているんだ」
相変わらず、嫌味な所以外はスマートなカインは、そう話題を振ってくれるが、「剣術を習っているんだ」のところで、“僕ってイケてるでしょ”感を出して来ている。
(や、やめるんだ!フフン!なドヤ顔をやめろおお!)
「まぁ、そうなんですの。私は最近は絵を描いておりますわ」
「私は絵の鑑賞が好きですわね」
私とミーナがそれぞれ答えると、カインは私が絵を描いている事に興味を持ったようで、こちらにグイっと体を向けた。
「二人とも芸術に興味があるんだね!アメリア嬢は自身で描くのか。是非見てみたいな!どんな絵を描くんだい?」
「先日は家族の絵を描きましたが、普段はお兄様を描くのが好きですの」
「……え?…あの兄君を…かい?」
B専宣言の足掛かりにもなるし、事実なので自信を持って笑顔で答える。
カインは、理解できないというような顔で聞いてくる。
「ええ、お兄様も剣術を習われていて、既にかなりの上達ぶりで、とても絵に映えますのよ」
「……本当にアメリア嬢は慈悲深いようだ。そうだ、良かったら、兄君なんかより僕を描かないかい?」
(なんかとは何だ!失礼なっ!!眼福やぞっ!!)
我慢して兄を描いてないで、自分のようなイケメンを描いてはどうかと聞いてくるカインに、ここだとばかりに、作戦Bを繰り出す。
作戦Aがある訳ではなく、B専のBだ。
「私、自分の好きな物しか描きませんのよ。私、美しい殿方って、好きではありませんの」
「……??というと?」
カインは自分が美しいと言われた事はわかるようだが、それが好きではないと言われる事は分からないといった様子だ。
「私、どうしても美しい殿方の魅力がわかりませんの。今まで魅力的だと思えたのは、お兄様と…あとは第三騎士団長のウェイバー卿ですわね」
「……」
「「「「……」」」」
会話には混じらずとも、話を聞いていた子息子女の4人も一斉に鎮まりかえる。
そこへミーナも作戦Bを発動した。
「まぁ、アメリア嬢とは本当に気が合いますわ!私も同じですの!ユリシス様と第三騎士団長様は本当に魅力的ですわよね!!」
「「「「「………」」」」」
そのままフリーズする私達以外の5人。
チラリと夫人達の席を見ると、ギョッとする公爵夫人と、青ざめるパウエル夫人、あらあらな顔のお母様と、フリーズする他の夫人達とで、わりと大変な事になっていた。
「……もしかして、二人は目の病気か何かなのかな…?」
カインも導き出した答えは、お母様と一緒だった。
「いいえ、カイン様やミハイル様が美しい事はちゃんと見えて居ますのよ。ただ、趣味嗜好がそうではない、と言う事ですわ」
「ええ、同じくですわ」
ニッコリとB専宣言をする。
説明をする上では美しいと言うしかなく、そこだけは思いっきり嘘だが。
「……つまり、醜い者が好きという……?」
「そう言う事になりますわね」
美幼女スマイルで答える。
内心、違うそうじゃないと否定しながらも、ここはしっかり肯定しておく。
肯定した途端、「あの二人、おかしいですわ」だの、「理解できませんわ」だのヒソヒソ声が聞こえてくる。
カインに至っては化け物でも見るような顔で私を見た。
(失礼な!私もそんな顔で見てやろうかっ?!)
それからは、カインが席替えを希望したり、私とミーナが腫れ物扱いされたりと、騒然となったが、どう見ても婚約者候補から外れたとは思うので、目的達成として、私とミーナは大満足であった。
普通の幼女二人なら耐えられない空気だっただろうが、こちとら25歳と30歳。
親と同世代な上に、蝶よ花よと育てられた令嬢ではない。
そんな元ご令嬢な夫人たちよりも、精神耐性があると言っても良いだろう。
なんならミーナは結婚・妊娠の早いお母様達より年上である。
公爵夫人が、もう用はないとばかりに追い返さなかったのは、相当我慢したのではないかなと同情したくらいだ。
爆弾発言の後の私たちは、遠巻きに見られながらも、美味しくお菓子をいただいた。
そして、これが切っ掛けで二人とも要らない縁談がおのずと遠ざかっていってくれるかもしれない、と二人でこっそりと頷き合った。
笑顔で手を振って別れたが、パウエル夫人は本当に可哀想な感じになっていた……。
ただ、うちのお母様が味方なので、なんとか気を強く持って欲しい。
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書け次第投稿していきますので、不定期更新ですが次回もよろしくお願いします(*´꒳`*)




