【第41話】醜き私の人生の転機
大変お待たせいたしました_:(´ཀ`」 ∠):
ミーナを飛び越して、お先にsideライオネル・ウェイバーです!
ーsideライオネルー
私はライオネル・ウェイバー。
王国の第三騎士団団長を務めている。
1年ほど前からは、ハワード侯爵家のユリシス様の剣術指導も務めている。
まさか自分が個人指導を受け持つ時が来るとは思っていなかったが、彼は特別だ。
……何故なら、私と同じく嫌悪される造形の持ち主だっだからだ。
本来団長職に就いている者が、王族以外の個人に教える時間をとる事は無い。
だが、私はこの見た目から王族を受け持つ事はなかった。
第三騎士団の指導も、私は指示をだすだけで、実際に指導するのは副団長だ。
このまま、磨き続けた己の剣を誰かに教える機会は無いものだと思っていた。
だがそこへ、なんとか息子に剣術指導をしてくれる者は居ないかと探していたハワード侯爵家当主が、王族を受け持つ事なく、息子と同じく嫌悪される造形を持つ私に、国王を通して依頼して来たのだ。
見目麗しく、能力・人柄ともに優れている現ハワード侯爵は、国王からの覚えもめでたい。
私に子息の指導を頼みたいという侯爵の願いは、すぐに国王に承認され、私は夕刻の二時間だけ王城を離れることになったのだった。
王命を断る選択肢は元より無いが、誰かに自分の剣術を残せる事は、私にとっては求めるところだったので、良い機会を貰えたと思っている。
しかも、幼いながらにユリシス様は、私の剣術を余すことなく叩き込めそうな程の素質の持ち主だった。
私の剣術は、この細身を活かした素早さと、鍛え上げられた筋力で振るわれる鋭さが持ち味だ。
いくら強くとも、元々…美しくふくよかな王族の方々には向かない剣術だったのだ。
乾いた土が水を吸うように、私の教えを吸収していくユリシス様との稽古は、とても充実していた。
ユリシス様は私ですら同情したくなる容姿であったが、自分で見慣れているので、大した拒否感もわかなかった。
指導が始まって、そろそろ一年が経つなと思っていたところで、私は人生の転換期を迎えた。
人生の…とは大袈裟だと言われるかもしれないが、それほどに衝撃的だったのだ。
突然ユリシス様が、妹君を伴って稽古にやって来たのだ。
その妹君は、なんというか…凄かった。
まずユリシス様と歩いてくる様子からして不思議だった。
我々のような容姿の者と、そうでない者が一緒にいる時、普通はなんとか笑顔を浮かべて我慢をしているか、離れて歩いたりなどで対応するのがほとんどだ。
まず、必要がなければともに行動すること自体が無い……。
それなのに、この兄妹はピッタリ並んで歩き、その上、妹君の方は嬉しそうにユリシス様に笑顔を向けていたのだ。
なんだアレは……と、そう思ったのがその時の正直な感想だった。
驚きに顔を逸らすのを忘れたまま、連れて来て大丈夫なのか問うてしまったくらいには、驚いていた。
自己紹介を受けている間も、彼女の目が私から逸らされる事はなかった。
ただ、真っ赤な顔をしていたので、もしや必死に我慢しているのではないかと、ユリシス様に確認してみたが、要領を得ない。
兄妹のやりとりは、更に訳がわからないもので、アメリア嬢には「見惚れてしまって」と詫びられるし、ユリシス様はそんな妹君に手を焼いている様子だった。
結局、嬉しそうにユリシス様の上着を抱えてベンチへ向かうアメリア嬢を見送るまで、一つも状況を呑み込めなかった。
そこで、どうしていいかわからず、ユリシス様に尋ねる事にしたのだ。
「あの、ユリシス様…アメリア嬢は本当に見学されるのですか?顔を隠す物もありませんし、アメリア嬢の様子も普通では無かったようですが…」
国王からの依頼先でもある侯爵家で、問題を起こすのは避けたい。
そんな焦りもあってユリシス様に尋ねると、ユリシス様は、ちょっと面白そうに話し始めた。
「あの子は…なんというか普通とは違うのです。…アメリアの顔に嫌悪の感情が見えましたか?」
そう言われてみると……嫌悪のけの字すら彼女の顔には浮かんでいなかった…ように思う。
「いえ…言われてみると、確かにそのようには見受けられませんでした…」
「ふふふっ。そうでしょう?アメリアはちょっと変わった子なのです。端的にいうと、美醜観が変わっているのです」
美醜観が変わっているというのは、どういう事だろうかと考えるも、よくわからない。
「……えっと?」
「僕も聞いたばかりで、まだ戸惑ってはいるのですが…。アメリアは僕を…僕たちのような醜い造形の男性こそが、美しく感じるのだと言っていました」
「……は?」
聞いても脳を滑って行ってしまいそうになる話だったが、なんとか理解に努める。
……つまり、「見惚れてしまった」というのは、そのままの意味で、私を“美しいと思って見惚れた”という事だったのだろうか……?
「アメリアは不思議な事に、男性のみに対して、真逆と言ってもいいほどに美醜観が狂っているようなのです。妹に対して狂っているなんて酷い言い方ですが…我々の美醜観は根深い感覚ですから。神の悪戯としか思えません…」
「……なるほど…。」
そこで思わずといったように二人でアメリア嬢の方をみると、気がついたアメリア嬢がとてもいい笑顔でこちらに手を振った。
「アメリアったら…」
「……」
ユリシス様は顔を覆って項垂れていたが、私はユリシス様の言っていたことが、本当かも知れないという事に驚きしか無かった。
「そういうわけで、アメリアは僕たちに、美しい男性に取るような態度で接して来ますので、そのつもりでお願いします。……僕も全く慣れる気がしませんが、慣れるしかありません」
「……はぁ…」
頭では理解したが、感情が追いつかないままに、稽古を始めた。
遠くから「きゃぁ」と黄色い声が聞こえたが、よく他の騎士達が女性に騒がれているのを聞き流していたので、気にしないようにする事は、そう難しいことでは無かった。
ここに居るのが、ユリシス様と私しかいないのに聞こえる事には違和感しか無かったが……。
その後の休憩以降の自分の事は、無かったことにしたいくらいに酷かった。
まずは、ユリシス様とアメリア嬢の恋人同士のようなやり取りに驚き茫然自失。
それを心配したアメリア嬢を驚かせる失態を犯した。
ユリシス様とアメリア嬢の、我々のような者達が生涯経験することのないようなやり取りに、思わず不躾な事を呟いてしまう。
そこから始まったアメリア嬢の話に大混乱に陥る。
“暫定世界二位”との評価に言葉を失う。
顔に熱が集まるのを自覚して居た堪れなくなっていると、それをアメリア嬢に見られた。
例えようもない羞恥を覚えたが、嫌な感覚では無かった。
だが、如実に反応を表してしまう自分が恥ずかしい。
それから稽古を再開したが、散々だった。
ユリシス様は理解を示して下さったが、第三騎士団長として…いい歳した大人が羞恥に動揺して剣を落とすなど、大失態だろう。
それに動揺して…の負の連鎖に、頭を抱えたくなった。
そんな自分を無かった事にしたいと考えても、当然の事ではないだろうか……。
そして数日後、更なる試練が私を襲った。
その日は、既に恒例になりつつあるアメリア嬢の見学を申し出られたが、知らない令嬢がアメリア嬢と一緒に来ていた。
ユリシス様曰く、“アメリア嬢と同じ感覚の持ち主”らしい。
アメリア嬢の態度にすらまだ慣れないのに、新たな令嬢の登場に、正直不安しか無かった。
その不安は現実となるのだが。
パウエル伯爵家のフェルミーナ嬢は、簡単に私の防波堤を飛び越えて来たのだ。
必死に取り繕おうとした私の努力など、無意味だったのだ。
自分に向けられるはずも無かった、憧れる人を見るような瞳になんとか耐えていると、「名前まで素敵」だという言葉に衝撃を受ける。
名前負けしているというのが、私の感想だったからだ。
まさかのファーストネーム呼びに、混乱し始めた私は、兎に角聞かれた事に答えるという事に徹した。
実家の爵位から、何番目の息子か。
結婚の有無から、その予定まで……。
流石に自分は結婚なんてできると思っていないので、少し暗くなってしまった。
途中アメリア嬢が名前の呼び方を確認してくれたが、可愛らしい少女が私をファーストネームで呼びたいと思うなら、私は特にこだわりがないので、好きなように呼んでくれと伝えた。
……たったそれだけの事だったのだが、フェルミーナ嬢は劇的な反応を見せる。
私をファーストネームで呼ぶ事の何がそんなに嬉しいのだと思わず突っ込みたくなる程に、嬉しそうに瞳を潤ませながら、自分を愛称で呼んでくれとせがむフェルミーナ嬢。
こんな可愛らしい願いを断れる男など居るだろうか?
流石に敬称はつけたが、願いの通り“ミーナ”と愛称で呼ぶ事になった。
それからの稽古は順調で、このままこれ以上の事は起こらないだろうと、少し気を抜いてしまったのがいけなかったのかも知れない。
休憩に入ると、いつものようにアメリア嬢に拭かれるユリシス様。
それを見ても、衝撃を受けなくなった自分を褒めたい。
だが、自分の前に手拭いをもって来たフェルミーナ嬢を見て、結局衝撃を受けた。
その時フェルミーナ嬢に言われた事は、もう穴があったら入りたくなるような事だった。
剣の扱いの為に管理しているだけの手を見つめながら、男性的な色気だとか、血管が素敵だとか、もう限界を超えていた。
……色気ってのは、ふくよかな肉に覆われた小さな目や、指輪の食い込むむっちりとした手指から感じる物なんじゃないのか……?!
色気という言葉が自分に向けられた事に耐えられない。
顔が今まで感じた事がない程に熱いし、手を背中に回して隠してしまいたい衝動を堪えるのに精一杯だった。
ユリシス様達もいた事を思い出し、そちらを見ると、完全に見守られていた事に気がついて、身体が勝手に跳ねてしまった。
情けなさすぎて冷静になれた事だけが救いだった。
それからもフェルミーナ嬢は、私への好意の眼差しを隠す事は無かった。
アメリア嬢はユリシス様に注意を受けるので、この頃少し落ち着いて来ていたのだ。
そこへまた強烈な好意の眼差しを貰っては、胸がドキドキと落ち着かない。
エスコートすると、とても嬉しそうにするフェルミーナ嬢が眩しい。
ユリシス様にお待たせした詫びを伝えたとき、なんだか目で通じ合ってしまったのが、少し可笑しかった。
どうなる事かと思った休憩は、思わぬ話題で過ぎ、かなり自分を取り戻せたので、休憩後の稽古はいつも通りできたと思う。
ただ、黄色い声が2つに増えていた事には、なんだかムズムズした。
問題は帰りの挨拶で起きた。
……というか、私が起こしたのかも知れない。
私に「必ずまた来ますので、私の事を忘れないで」と、もはや哀願とも思える表情で必死に言い募るフェルミーナ嬢に、私の中で何かが弾けた。
自分でもよく分からないが、そうとしか言えない感覚だった。
ぶわりと、胸を締め付けるような、震えるような感覚が私の中に広がる。
その感覚に従って、膝を折った。
そして王女にするかのように、フェルミーナ嬢の手を取り、覚えていると誓いを立てた。
この見た目なので、王女には実際にした事がないが、やり方は見て来たので知っている。
そのまま軽く唇を落とすと、フェルミーナ嬢は今までの口数の多さが嘘だったかのように、息を呑んで固まっていた。
その顔には嫌悪などない。
ただ喜びと驚き……それから感動だろうか?
そんなものだけが浮かんでいた。
今まで感じた事のない感覚だったが、もしかしたら自分が誰かの特別で、その誰かを特別に思うという事はこういうものなのかも知れない。
その感覚に、つい顔が緩む。
このままでは、自分がフェルミーナ嬢に、勢いで騎士の忠誠を捧げてしまいそうな気がして、そそくさとハワード家を後にした。
初めてアメリア嬢と会った時とは違う、自分だけを見つめる瞳に、どこか浮かれているのかも知れない。
私のなかで、彼女が特別な姫のような位置付けになりつつある事に、それも悪くないかなと思った。
アメリア嬢もそうだが、見た目と違って大人のような言動をするので混乱するが、フェルミーナ嬢達はまだ6歳だ。
絶対に不埒な目で見ないよう、お守りする姫君だと思う事は間違っていないと思う。
そんな衝撃的な出会いをした私は、剣術以外に意味の無かった23年間の人生を、ここでガラリと変えられる事になるのだった。
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