【第40話】私、神がいる可能性ってあると思う
お待たせいたしました40話まで来ましたね。
長めになってしまいましたが、今回もよろしくお願いします( ˘ω˘ )
テーブルに着いた私とお兄様が、二人の様子を伺って居ると、私達の存在を思い出したのか、チラリと顔をあげてこちらを見たウェイバー卿が、ビクッとしたのが分かった。
(可哀想だけど、可愛いんだよなぁ……ビクッて!)
その証拠にミーナは、そんなウェイバー卿を見て、上品にではあるが口元に手をやって、何かに耐えるような様子を見せている。
グッと来ているに違いない。
「……あ、ありがとうございます。て、手拭いを!さぁ、ユリシス様達もお待ちですし、座りましょうか」
「はいっ」
セクハラ紛いの賛辞へのお礼かと思ったが、手拭いについてだという事にするようだ。
しどろもどろになりながらも、流石騎士、ミーナが座る椅子を引いて紳士にエスコートしていた。
そんなウェイバー卿をうっとりと見上げながら座るミーナ。
可愛らしい幼女をエスコートするイケメン騎士の姿に、私のオタ心は震えた。
(……イイっ!!)
結婚は置いておいても、とても心震える光景に、ミーナとウェイバー卿はお似合いだと心の中でスタンディングオベーションする。
もし実際結婚まで辿り着けたら、もう小さなお姫様の恋物語のようではないか。
(なんて素敵なんだっ!!)
ウェイバー卿もミーナを好きになる時が来るといいなと思う私であった。
「お待たせして申し訳ありません」
「いえ、待たされてなど居ませんよ。今日はお菓子もありますので、よろしければどうぞ」
小さくなるようにして詫びるウェイバー卿に、お兄様は、“心中お察しします”という顔でお茶を勧めた。
それを受けて、“これは慣れませんね”な顔で「頂きます」とお礼をいうウェイバー卿。
(私の勝手な読みだけど、イケメンウォッチングには自信がありますっ!)
きっと今二人は、妹からの賛辞とミーナからの賛辞という、”返事に困る相手がいる“という感覚を共有しているのだろう。
ただ、ミーナも私も“イケメンを愛でることをやめられない”という共通点があるので、二人には、頑張って耐えて貰うしかない。
「ミーナ、アニーから聞いたのだけど、ウェイバー卿は王国で一番強い騎士なんですって!」
「まぁ……!先程見ていても、惚れ惚れするような剣捌きでしたのに、本当にお強いんですね!」
「ほれ……っゴホンッ、恐縮です……」
ミーナの惚れ惚れ発言にもしっかり反応してしまうウェイバー卿。
言われ慣れていない人ならではの反応を、見目麗しいイケメンが見せてくれるのは、眼福である。
ただ、私には納得もいかないし、気になっていたことがあったので、聞いてみる事にした。
「爵位的に総長は無理でも、第一騎士団長でもないのが納得いきませんわ。第一騎士団長様もお強いんですか?」
「……なんと言いますか、第一騎士団長は、表舞台に立つのが一番多いので、見目の良さも過分に配慮されるのです。他の騎士団長も皆見目はとても良いです。騎士とはやはり、誰もが信頼し、憧れを抱けるような存在でなければならないので、見目も重視されるのです」
分かると言えばわかる。
何故ならば、私も騎士に憧れを持ち合わせて居るからだ。
かと言って、実力が二の次なのは、如何なものかと思う。
ただ、差別的なまでに容姿の劣る者に対して容赦のない世界で、容姿が重視される騎士団長を任されるという事は、ウェイバー卿の強さは、それだけ他の騎士を圧倒して居るという事だ。
(最強だからこその例外とか、大好物です!)
「……そうなのですね。見目が良いという事は、ふくよかな方という事ですよね?訓練されている間に痩せてしまって、騎士団長交代という事になったりしてしまうのでしょうか?」
「「え?」」
ウェイバー卿とお兄様の「え?」が同時に聞こえた。
「え?騎士団では普段訓練されないんですか?それとも、団長のみ訓練免除とかでしょうか?」
言いながら皆を見回す。
ミーナは“そうだよね”の顔だが、男性陣二人は“何を言っているんだ”の顔をしている。
(どういうこと?)
「アメリア、まだ聞いたことが無かったかな?残念ながら、人間は豚などの家畜のように、肥えることも出来ないし、痩せることはないんだよ?」
(……は?)
「「え?」」
今度は私とミーナが同時に「え?」と声を出す。
ミーナは知ってたのかな?とミーナに顔を向けると、小さく首を横に振っているので、知らなかったのだろう。
「知らなかったみたいだね。体型の気になる人は、大体がどうにかできないものかと頑張るんだけどね。……どうにもならないんだ」
つまりお兄様も、太ろうとしても出来なかったのか、相談しても、それは出来ないと教えられたということだ。
「……そんな、信じられません……。筋肉は付けられますよね?成長はするのに、太らないし痩せる事もないなんて、訳がわかりません……」
「成長はするから、筋肉を鍛える…つまり筋肉を育てるという事は出来るんだけど、太るとか痩せるというような程の体型の変化は起きないんだよ」
「…………」
(なるほどわからん!脂肪は育たないって、まぁそういうこと……なのか?!)
この世界の人体、不思議過ぎない?
脂肪はどこから来てるんだ?!
しかも、どこにも行かないなんて訳がわからない。
元の世界では、脂肪を燃焼して運動していたと思うし、余ったカロリーが脂肪になっていたはずだ。
なんなら生きる事自体の体の活動にも必要だったはずだ。
この世界の脂肪、エネルギーと関係ない説……。
(私達、どうやって活動してるんだ?!ご飯の意味どこいった?!成長か?)
どうしよう、正直理解の範疇を超えているぞと思ったところで、”結局それかい“な答え合わせがされた。
「神様が決めた事は、僕たち人間には変えられないんだよ。魔法についてもそうだけど、神から与えられた器を、僕たち人間の思い通りにはできないんだ。選ぶ事もできないから、与えられたモノを成長させる事だけが許されてるんだよ」
「……な、なるほど」
正直この「なるほど」は、ならもう何を考えても無駄だな、どうしよもないやつだ!という諦めのなるほどだった。
(神様出てきちゃったわ!マジで神という存在がいる気がしてきたわ……)
流石に呆然としてしまったが、ウェイバー卿の反応を見るに、事実のようだ。
ミーナもこの世界の不思議に、眉根を寄せている。
騎士団長の体型の話から、まさか神の話が飛び出すとは思わなかった。
魔法がある事と、美醜感覚が違う事以外に、まさか身体が神の決めた器だという事実まであるとは……。
事実としか言いようがないのは、科学的な根拠が全くわからないので、“神がそういう設定にした”としか思えないからだ。
そして、事実でないのならば、お兄様がふくよかになる努力をしないはずがない。
いまだに美しくあるのは、本当にどうにも出来なかったからなのだ。
(なにそれ、つらい……)
「……アメリア?大丈夫?ショックだったのかな……ごめんね。もっと大きくなってから知った方が良かったかもしれないね」
「いいえ。私から聞きましたし、今知って良かったと思います。早く知ることができて、良かったです」
ただでさえこの世界の常識より、前世の常識の方がよく知っていて、馴染みがあるのだ。
体型についての事実を知らずにいたら、もう少し肉付きがいい方が健康的だし、太っても大丈夫!などという事を人様に言ったりしていたかもしれない。
それが、どれだけ人を傷付けるかも知らずに。
私からしたら、もう少し太っても問題ないよという意味でも、太れない人に不健康だと言っているようなものだ。
(絶対ダメなやつ!)
「そうなの?」
「はい。知らずにいたら、人を傷付ける可能性もある事ですから」
「……なるほど。アメリアはいい子だね」
「いえ。お兄様、本当に助かりましたわ。ありがとう存じます」
「私も知らなかったので、助かりましたわ。感謝致しますわ」
かなり大事な事実を知ることができて、お兄様に感謝した。
こんなはずじゃ無かった休憩時間を過ごしてしまい、もう稽古を再開する時間になってしまった。
また30分ほど撃ち合いをした後、アドバイスと型の確認などの指導を受けて、今日もお兄様の稽古は終わった。
「ウェイバー卿、お疲れ様でした。本日もお邪魔致しました」
「いえ、こちらこそご馳走様でした」
「あの、またミーナと観に来たいと思うのですが、よろしいでしょうか?」
「はい。勿論です。稽古に影響もありませんし、危険のない場所からご覧いただく分には、幾らでもどうぞ」
「ありがとう存じます!」
いつでもミーナと一緒に来てもいいとの事なので、ミーナが晩餐まで居られる日は絶対に観にこようと決める。
「ライオネル卿、お疲れ様でした。本日は、お目に掛かれて光栄でしたわ。また、必ず!必ず来ますので、私の事を忘れないで下さいませね」
(け、健気だなミーナ……あざといともいうけど)
目を少し潤ませて、上目遣いで「忘れないで」と懇願する幼女はずるい。
ずる過ぎてあざとい。
だけど、ウェイバー卿にはそんなミーナが非常に健気に見える様で、小さく息を呑んでミーナを見た。
そこからが本当に素敵だったので、私の脳内に動画で保存できないことが本気で悔やまれた。
片膝をついて目線を合わせると、まるでお姫様にするかのようにミーナの片手を掬い上げ、真っ直ぐに瞳を見つめて口を開いた。
「ミーナ嬢、本日はありがとうございました。覚えていますとも。……必ず。またお会いできる日をお待ちしております」
そういってから手の甲に、本当に薄っすらと唇をあてた。
そして、一度微笑んでから、すっと立ち上がると、「では失礼致します」と言って帰って行った。
(ゔぁあああああああああああああ!!!!!!)
私は倒れそうになった。
すかさずお兄様の腕が背中から腰にかけて支えてくれたので、倒れなかったが、感涙は流していた。
(この二人最高かよ!もう結婚しろっ!!いや、して下さい!式に呼んでくれ!)
そしてお気付きだろうか?ミーナが息をしていない事に。
かろうじてウェイバー卿を目で追ってはいたが、喋るどころか、息が止まっている。
「ミーナ!!息をして!」
「っはっ、え?!息止まってたかしら?!」
「うん、苦しいでしょ?」
「……胸が苦しくて、よくわからないわ」
(何それかわいい……え、萌える……)
ぐっと胸を抑えた私を見て、ミーナが笑った。
「ちょっと、リアったら何泣いてるのよ」
「あっ!……あまりの美しさに感動したのよ!」
「リアらしいわ。ふふふっ」
「うふふふっ」
笑い合っていると、お兄様が目尻の涙を指で掬ってくれた。
(……ああ、今日はなんていい日なのっ)
「素敵……」
「……アメリアったら泣いたり笑ったり忙しいね」
そう言いながら微笑んだお兄様は、最&高だった。
神々しい。
見ていたミーナが「素敵」と呟く声が聞こえた。
(……わかる)
その後、ミーナ達は一緒に晩餐をとり、「必ずまた来る」と約束して馬車で帰って行ったのだった。
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