【第27話】わたくしの大切なお嬢様
久しぶりの他人視点です。
今回はアニーです。
ーsideアニーー
私は、アメリアお嬢様にお仕えしている侍女、アニエスタと申します。
お嬢様にはアニーと愛称でお呼びいただいております。
勤務時間のほぼ全てをお嬢様と共にある、いわゆる専属侍女でございます。
私は、何時如何なる時も冷静且つ迅速な対応をしてきた事を侯爵夫妻にかって頂き、このハワード家で一番守られるべき、小さなアメリアお嬢様付きの侍女に抜擢されました。
思えばお嬢様はお産まれになった時から、”何か普通とは違う“と感じさせるお方で御座いました。
その美貌が類稀なる美しさであった事から始まり、お小さいのにオムツの不快を訴える以外にほぼ泣かれる事もないお方で、その小さな瞳には、早くから理性の光を宿していらっしゃいました。
いつも周囲の者の感情を察し行動される方で、手を焼いた事など一度たりとも御座いません。
それどころか、私はお嬢様のご期待に応えられているのかの方が不安で御座いました。
特にお嬢様に応えられず申し訳なく思って居たのが、兄君であらせられるユリシス様の事で御座いました。
兄君に会いたいと切望される事は、我儘などではなく当然の事であるのに、叶えて差し上げられないこの身が、なんと役立たずである事かと、恨めしく思う日々で御座いました。
しかし普通では無いお嬢様は、そんな私どもの事を思いやってくださったのでしょう……兄君に会いたいと訴える事を、やめてしまわれました。
そんなお嬢様への気持ちは膨らむばかり。
募り募って、冷静では居られない時もしばしばで御座います……。
こんな事では専属侍女失格であるのにも関わらず、お嬢様は私めを咎める事もせず、信頼し、重用し続けて下さいます。
その頃、お嬢様は私室でお一人でお過ごしの際に、何やらお一人で声をあげている事が稀に見受けられましたが、私はお嬢様が、ご自身の感情との折り合いをつけている行動なのだと、把握しています。
いつでも私どもの前で理知的であろうと努めるお嬢様……
更に募る想いに、私の全てはお嬢様の為にあるのだと思えてならなくなって行きます。
そんなある日、お嬢様は切望した兄君との出会いを、悲しい形で迎えたのです。
私はこの時ほど神を恨んだ事は御座いません。
兄君からの叫びに凍ったように動きを止めるお嬢様……。
それなのに、兄君を思って、きっとお辛かったでしょうに、気丈に振る舞われ、優しくお声をかけて兄君の前を去られました。
あの時握ったお嬢様の小さなお手は、酷く冷たく……震えておられました。
お嬢様の代わりに私が泣き喚きたくなったものです。
ユリシス様を恨む事は致しませんでした。
あのお方はあのお方で、情け深い方なので御座いましょうから。
お嬢様のケープを取りに戻った際にも、ただの侍女である私にさえ、気遣われていた様に感じました。
それに、お嬢様がああもお慕いする方が、悪い方であるはずが御座いません。
お嬢様はあの日、震える足で歩いていらっしゃいました。
しかしそこで心を閉ざす様な事はなく、自ら解決へと、少しでも望む未来へと近付こうと、邁進され始めたので御座います。
その時私めは、決意を新たに致しました。
お嬢様の望みを叶える事こそが、私の存在理由であると!
ユリシス様との距離を縮めるべく、天才的な絵の才能を発揮されたり、奥様から礼儀作法を習われたりと、努力する事を躊躇わないお嬢様に感服するばかり。
アトリエのご用意ができた際のお嬢様の喜び様には、信じられない程の達成感と幸福感が御座いました。
一生忘れる事はないでしょう。
そんなある日、お嬢様の悲痛な叫び声が聞こえました。
私めに出来る事はないかと、直ぐに声をおかけします。
聞けばドレスについての懸念があるとの事。
この不肖アニーは、何としてでもお嬢様のお心に沿うため、何でもする所存です。
直ぐに「何とか致します」とお返事申し上げました。
結局のところ、奥様の神の如き采配により既に解決されていた事が分かり胸を撫で下ろしましたが、次こそはお役に立ちたいと、心の中でお誓い申し上げました。
それなのに……せっかくお嬢様に申し付けて頂いた代筆で、大きな失敗をしてしまいました。
絶望が私を襲いました。
しかしお嬢様はそんな私にも、救いの手を差し伸べて下さいました。
お嬢様の為なら死ねる。
そんな想いも湧きましたが、お嬢様のお望みに沿っているとは思えなかったので、直ぐにそれは打ち捨てました。
お嬢様からのユリシスさまへのお気持ちがこもった、大切な大切なお手紙をお預かりし、ユリシス様へ直接お渡しする大役を仰せつかりました。
今度こそ失敗は許されません。
お顔を見せない様に振る舞われるユリシス様は、執務机に置いてくれと仰ったので、万一があってはならぬと、必ずお読みいただくよう、切に進言致しました。
そして、お嬢様の”待っています“というご伝言もお伝えして、お嬢様の元に戻ったので御座います。
そして、遂にやって来たお嬢様とユリシス様の誕生会。
あれだけ心を込めてご準備されていたのです。
幸せな時間になるであろう事は、当然の未来で御座いましょう。
招待状の時間通りにお越しになったユリシス様に、心の中で感謝致しました。
これでお嬢様は幸せな時間をお過ごしになれる……と。
少々緊張されているらしきお嬢様の、健気な振る舞いに、ふわふわと心と頭が蕩けてしまいそうでした。
気を引き締めて、給仕のお役目を果たし、アトリエの外へ下がりました。
そして終了予定時刻を数分過ぎた頃、ユリシス様からお声が掛かりました。
何故お嬢様からでは無いのか?!
何かあったのかと、心配になりながらアトリエへと踏み入ると、真っ赤な顔で幸せそうに相貌を崩しているお嬢様がいらっしゃいました。
そんなお嬢様を慈しむ様に見つめるユリシス様。
あぁ、お嬢様は幸せな時間をお過ごしになられたのだと、再びユリシス様に感謝致しました。
しかしお嬢様は恍惚とするばかりで、足元もおぼつかない。
それなのに、心配する私とユリシス様に、「大丈夫、大丈夫」と、うわごとの様に仰るだけ。
ユリシス様に思わず疑念のこもった視線を向けてしまうと、「誕生日プレゼントを喜んでくれたようだが、それからこの調子なのだ」と教えて下さいました。
主人の家族に向けていい目では無かったが、ユリシス様は申し訳なさそうな顔で、「寝かせてあげてくれ」と仰せになっただけでした。
ご兄妹揃って慈悲深い方々……
お嬢様をお連れしようとすると、ユリシス様が「お願いがある」と言って呼び止め、懐から出した手紙をこちらに差し出しました。
お嬢様にお渡しする様にとの事だったので、これはお嬢様がお喜びになると思い、有り難くお預かり致しました。
「出せないままで、申し訳なかったと伝えてくれ」と言伝も賜り、「必ずやお伝え致します」と深く頷いて了承致しました。
アトリエから離れていくお嬢様を、ユリシス様はずっと見送っておいででした。
(よろしゅう御座いましたね、お嬢様)
心が天国で舞い踊っているかのようなお顔のお嬢様をベッドに寝かしつけ、お嬢様のお部屋から下がりましたが、今日は念の為不寝番をしようと決めました。
夢見心地のお嬢様に何かあってはいけないのです。
(お嬢様、良い夢を……明日は兄君からのお手紙が有りますよ……)
私はアメリアお嬢様の専属侍女アニー。
一生お嬢様をお守りし、そのお心に添い続ける所存で御座います。
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