【第24話】私、お兄様は天使だと思います!
またもや書くのに時間がかかった24話。
お待たせいたしました!
ぱすんっ!
ぎゅううぅぅぅーーー!
お兄様の背中に腕を回し抱きしめ、その胸に自分の頬を押し付ける。
お兄様は私に極力触れないようにでもしているのか、腕を浮かせて戸惑っている。
飛びつきながら見たお兄様は、はっと気がつき、止めようとはしていたかもしれないけど、その動きは緩慢で、もしかしたら飛びつく私がスローモーションにでも見えていたのかもしれない。
人間驚きすぎると、思考が停止するよね。
避ける事もできず、私にされるがままのお兄様は何とか絞り出すように、声を出した。
「ア……メリア、な…に……してるの」
「何でしょう……?お兄様が帰ってしまうかと思って引き留めている?」
「……どうして疑問系なの……」
「すみません。自分でもよくわからなくて」
お兄様ゲットな気分で突撃したなんて言えるわけもなく、今更必死に言い訳したが、失敗したので諦めて謝るしか無い。
お兄様は、自分を見られるのも怖いのに来てくれたのだと思う。
私の手紙を読んで、怖いのに「お祝いして欲しい」というお願いを叶えに来てくれた。
もしかしたら、他にも理由があるかもしれなくても、来てくれただけで、嬉しい。
「……大丈夫。逃げないよ。ちゃんとパーティーに参加するし、“話”も聞くよ」
「ありがとうございます!」
大丈夫だと言って、暗に“だから離して”と言ってるのを分かりつつも、知らんフリをして抱きしめ続ける。
抱きしめているお兄様は、まだ線が細いけど、私はもっと小さいのでイイ感じである。
トクトクと凄く早い心臓の音が、お兄様の胸に押し付けた耳から届く。
(正直お兄様より私の心臓の方が大暴れしているけど、流石に聞こえてないよね?)
身体から音が伝わらないことを祈る。
(こ、こんなイケメンに密着して平常心でいられるかっ!否っ!!……な、なんかめっちゃいい匂いがするんじゃぁ)
ただの変態だった。
お兄様を堪能していた変態は、“しかしこのままではお兄様のご尊顔を正面から見られない”と思い直し、泣く泣く腕を解いて、お兄様の顔を見上げる。
「さぁ、お兄様!お誕生会の会場はあちらです!お座りくださいませっ!夕食後でしょうから、一つが小さいデザートも用意したんです!」
「……うん。ありがとう」
抱きしめる腕は解いたけど、そのままお兄様の両手を、私も両手で握ってグイグイと引っ張る。
引っ張られる手に戸惑った目を向けていたお兄様は、おずおずと目をこちらに向ける。
「遅くなったけど、誕生日おめでとうアメリア」
(んっぐうううううっ!はえぇ、すっごい!……なんて破 壊 力!!)
「……ありがとうございます!お兄様!」
お兄様が頑張ってこちらを見て、お祝いを口にしてくれている感動で、ぴょんぴょん飛び上がりたくなる。
そんな自分を叱咤し、何とかテーブルセットへお兄様を引っ張ってきた。
そこでお兄様は、時が止まってしまったように動かなくなった。
その目は、テーブル周りに設置されたイーゼルに飾られた絵に向けられている。
(お気付きになたれましたかぁーーー?!どう?!どうですか!?少女漫画の中のイケメンになった気分は?!)
お兄様の漫画など存在しないが、元少女漫画家が描いたので、少女漫画の登場人物になったお兄様!みたいなイラストなのだ。
この世界の人には、多分肖像画にしか見えないだろうから、不思議な感じがするかもしれない。
私が見たことがあるなかでは、異世界での絵といえば、肖像画か風景画だけだったから。
そして今まで見た事のある肖像画は、キリリとした男性や、穏やかに微笑む女性が描かれたものだったので、こういった動きのある人物画の事をこの世界でなんと言うかは分からない。
私が描いたのは、お兄様が風に髪を揺らしながら微笑んでいたり、私なりにかっこよく見えるポーズでキメ顔をしているお兄様だ。
前世はよく見るタイプのイラストだろう。
この世界の人には……お兄様の目にはどう映るだろうか?
「もしかして……これは、僕……?」
「そうですっ!!私が描きました!!」
「え……?」
「私、絵を描くのが好きなのです!そんな私が、大好きなお兄様を描くのは当然の流れではありませんかっ!」
(私の中では当然の流れだ!!)
前世から思っていたが、推しを愛でる手段を持っている事は、この上なく幸せなことだ。
言い換えれば、愛を目に見える形にすることが出来るということだと思うから。
しかも!今回に至っては、“ご本人の目に触れている”という奇跡が起きている。
これは初めての経験なので、緊張と興奮で声量が上がってしまう私。
「……アメリアには……僕がこんな風に見えているの?」
瞬きを忘れたように、絵を見つめるお兄様。
……を、こっそり鑑賞する私。
隙をみてはウォッチングしてしまうのは許して欲しい。
「そうですよ!でも、目に見えるものを全て絵に込めるには、まだまだ私の技量は足りませんし、きっと限界も有ります。……だって、私の目に映るお兄様の美しさは、こんなものでは足りないくらいなのですから!!」
「……?さっきも言っていたけれど……その、僕が美っ、美しいっていうのは、なに……?」
「……そうですね、そのお話もゆっくりしたいので、まずは座りませんか?お兄様。もし気に入って下さったのなら、お帰りの際に幾つか絵をお持ちいただいても構いませんし」
あわよくば推しにファンアートを持ち帰って貰おうとする私は、席を促しながら提案した。
(是非!是非、持って帰って欲しい!)
幾らでも描けるので、自分用なら直ぐに描けるし、欲を言えば本物をウォッチングすることの方こそが、私の最上級の喜びである。
(できれば、そちらを実現したい!)
「あ……、ごめんね。アメリアをいつまでも立たせたままだった。つい見入ってしまったよ。アメリアは絵が上手なんだね」
「あ、ありっありっありがとうごじゃいましゅっ!」
(ゔぁあああああああ!噛みすぎでしょおおっ)
お兄様は、噛んだ羞恥で真っ赤になる私を、ちょっとだけ見てからすぐに目を逸らしたけど、私のテンパりように驚いたのか、きょとんと不思議顔をしながら、椅子に座った。
(ピギャアアアアアアアアッ)
噛みまみた羞恥やら、褒められて嬉しいやら、イケメンのきょとん顔の破壊力に狂喜乱舞するやらで、脳内の25歳児がさっきから顔を覆ったり、頭を抱えたり、ペンライトを振ったりの大暴れ。
何とか顔や声に出さないように、全精力を注いだ。
そしてお兄様が座ったのを確認した後、私も席に着く。
ーーーさて、ここからが重要である。
お兄様が美しいとはどういう事か、お兄様の疑問に答え、私の事情を話す時が来た。
お兄様が、話を聞くよと言ってくれたのも、手紙にそう書いたからである。
今のところ転生の事まで話すつもりは無いが、どうしてもお兄様が私の美醜観を信じられないのなら、頭がおかしくなったと思われるのも辞さない。
前世の事を話さなければダメだと判断したならば、そのカードもきる。
この誕生会という大きなチャンスに全てを賭ける所存である!
「それではお兄様、お菓子でも摘みながら聞いてください。気になることは、訊いてくださればお答えします」
「……アメリアは、さっきから思っていたんだけど、本当に6歳なのか疑いたくなるくらいしっかりしているんだね」
(ン”ン”ン”ン”ン”ッ!!?いきなり核心を突いてくるお兄様プライスレス!!)
「そ、そうでしょうか?同年代の子と会ったのは今日が初めてだったので、よく分かりませんが、お母様にもそう言われます」
内心大混乱だったので、パーティーの始まりを察したアニーが、ケーキやグラスを速やかに並べてくれるのを横目に見ながら、心を落ち着けるよう努める。
(まだ精神年齢25歳をバラす段階ではない筈っ)
「そうだろうね。まるで大人と話しているようだよ」
(こっちこそ全知の神と話している気分なんですが、それは?!え、知らないよね?!)
「ゲフッ、ほ、褒められているのでしょうか?可愛げがないって事じゃないといいのですが……」
「あ……ごめんね!そういう意味じゃ無いよ。凄いなって褒めてるんだよ!!」
焦ったお兄様は、基本はずっとやんわり逸らしている顔を、こちらに向けて謝った。
(とってもいい子なんだよなぁ……)
「いいえ、こちらこそごめんなさい。褒めてくれてありがとうございます」
にっこりと笑顔を向けると、少し眩しそうに目を細めるお兄様。
自分が顔を見られないように隠すより、私にしっかり謝ることを優先する。
そういう人なんだとわかる。
(顔もイケメンで天使。性格も他人を優先する優しい天使。……つまり天使!!)
頭の中の語彙が天使しかなくなったところで、グラスにジュースが注がれて、準備が整った。
「それではお兄様っ」
言いながらグラスを掲げる。
「ああ、アメリアが産まれてくれたことに」
「はいっ!わたしとお兄様の誕生会に!」
二人で少しだけグラスを掲げる。
お兄様が“私が産まれてくれたことに”という言葉を選んでくれた事が嬉しくて、ニマニマしてしまいながら、私の主張を乾杯にのせる。
そして、やっと本題を切り出したのだった。
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