双子の悪女
あら、こんばんは。
見かけない子ね。
領地から出てきたばかりなのね。
そうね、慣れていないと不安よね。
私も、未だに慣れてないわ。
御手洗に行くと嘘をついて、人気のない所まで来てしまうくらい。
遅くなったら、迷子になったとか、外の空気を吸っていたとか誤魔化す予定よ。
ここで会ったのも何かの縁、今晩は、私のお話し相手になってくれない?
ああ、良かった。嬉しいわ。
どんな話をしようかしら。
社交界の話なら、大体知っているわよ。
え、今日の主役の話が聞きたい?
まあ…………良いけれど、つまらないわよ。
今日の主役は、若き国王の結婚相手。
真っ直ぐな黒髪に、パッチリとした黒目。
華奢で愛らしい、白百合のような女性だそうよ。
私は、彼女の事をよく知っているわ。
でも、白百合のようだなんて、全く思えない。
私は、彼女が大嫌いなの。
………………そういえば、彼女の姉の話を知っている?
そう、知らないの。なら、教えてあげる。
次期王妃には、双子の姉が居たの。
同じ黒髪に黒目。強いて言うのなら、姉の方がツリ目だったかしら。
二人はね、元々私生児だったの。
ある侯爵家の当主が、気まぐれな優しさで本家に迎えた私生児。
皆言ってたわ。
私生児はこの幸運に感謝し、頭を擦り付けて媚びるべきだったと。実際、妹はそうしていたわ。
でも、姉の方は、とんでも無い悪童だったの。
虐待してくる母親から救い出した侯爵家の夫婦に、悪態をついて。
出された食事をひっくり返して。
身の回りの世話をしようとしてくる使用人達を全力で拒絶した。
身の程知らずな女だった。
犬だって、もっと恩というものを知っていたわ。
妹の方は従順だったから、際立って悪辣に見えたものよ。
見た目が似ているのなら、従順な方を可愛がるのは、自然な流れでしょう?
皆、妹の方を褒めたたえたわ。
頭も悪くなかったし、空気も読めた。控えめな女だったけど、それも庇護欲をそそると言って、周りは褒めそやした。
悪辣な姉を最後まで庇うような、優しさまで見せつけた。
社交界の人間は、一気にこの妹を聖女だなんだと、担ぎ上げ、社交界の中心の引きずり込んだ。
最後はとうとう、若き国王に見初められ、王妃まで上り詰める。
悪女である姉は、侯爵家から無一文で追放された。今頃どうしているのかしら。
治安の悪い所で棄てられたから、きっと、死んでいるわよね。
笑っちゃうくらいのシンデレラ・ストーリー。
こんな脚本があったら、破り捨てているわ。現実味が無さすぎよ。
本当、くっだらない。
嘘だらけ、馬鹿だらけ。
こんな話を信じる人間の気が知れないわ。
ねえ、教えてあげる。
このシンデレラ・ストーリーの裏の話を。
特別よ。ふふ。
妹は、優しくなんてなかった。
むしろ、優しいのは、姉の方だったわ。
母親から虐待された双子。
妹は、いつも怯えて縮こまり、泣いていた。
姉は、そんな妹を守るために必要以上に強気でいた。
殴られるのは、いつだって、反抗的な姉だった。
侯爵家に行ってからもそうだった。
姉は、ただただ、妹を守りたいだけだった。
貴族の気まぐれな優しさの裏を探り。
殺されるのではと疑心暗鬼に陥り。
大人しくしてやるものか、と暴れた。
殺伐とした世の中を生きてきた姉の、防衛本能に過ぎなかった。
一方、妹は他者に依存する木偶の坊だった。
貴族の気まぐれな優しさに縋り、衣食住が守られることを、呑気に喜んだ。
だから、捨てられないように、過剰なまでに良い子を演じた。姉の分まで。
その結果、姉の立場が悪くなるなど思い付かないような、阿呆だったわ。
気づいた時には、全てが遅かった。
妹がいくら姉を擁護しようと、「なんて優しいのだろうか」と返されるだけだった。
どれだけ愛する姉の優しさを語ろうと、それが誰かに響くことは無かった。
もう、姉は、反抗などしていなかったのに。
危険な場所ではないと、悟った後だったのに。
遅ればせながら、侯爵家に馴染もうとしていたのに。
悪女の烙印を押された姉は、何をしようと認められることは無かったし。
聖女と呼ばれた妹の、悲痛な叫びは、優しさとして処理された。
ああ、妹が、馬鹿だったばっかりに。
もっと上手くやれれば、姉と幸せに暮らせただろうに。姉に守られ続けながら、大事な瞬間に姉を守れなかった、屑。
それが、今日の主役。
それが、この国の王妃となる人間よ。
この国の未来は暗いわね。
え、そんな事を言っていいのか大丈夫かって?
うふふ。
あはは。
あは。あは。
アハハハハッ。
―――私が、双子の片割れ、ベル。明日、王妃になる人間よ。
だから、いいの。
不敬罪にはならないわ。
ありがとう、話を聞いてくれて。
鬱憤が溜まっていたの。
ああ、馬鹿な私。
ごめんね、お姉ちゃん。
私、お姉ちゃん以外、皆嫌いなんだ。
だって、私を褒めそやしながら、誰も私を見ていない。可愛らしい女の子を、私に重ねているだけ。
結局、社交界の中心にいても、私は皆の玩具。
愛でられ、大切にされ、見た目だけ整えられる。
でも、誰も心を大切にしようとしてくれない。
分かる?
話の通じない人達に囲まれる苦痛が。
私の味方という顔をしながら、私の心を土足で踏みにじられる苦痛が。
あんな人達が、愛を語らないで欲しい。
でも、可哀想な人達よね。
真実の愛を知らないの。
私は知ってる。
お姉ちゃんが注いでくれた無償の愛こそが、何より尊いものだったのだと。
話せば、いつか、分かって貰えると信じていた、間抜けな私。
絵画鑑賞に連れ出され、家に帰ったら、お姉ちゃんは、もう居ないと言われたの。
―――ベルは優しいから、止めると思ったんだ。
そう告げられた時、侯爵家の人間はもう見限った。
私の望みは単純明快。
みんな死んでしまえばいい。
しーね。しーね。しーね。しーね。しーね。しーね。しーね。しーね。しーね。しーね。しーね。しーね。しーね。しーね。しーね。しーね。しーね。しーね。しねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
侯爵家の人間も。
明日結婚する、国王様も。
あ、ごめん、ごめん。
ビックリさせちゃったね。
はしたなかったよね。やっぱり平民育ちの私には、上品な振る舞いなんて難しいよ。
さっきから、言葉遣いも崩れちゃってるし。
まあ、いっか。
それにしても、殺したい程憎い相手と結婚するぐらいなら、いっそ……殺しちゃおっかな。
ああ、それがいいかも。
そうしよう。すっごく良い考え。
毒を飲ませようかな。
ナイフで指して、内蔵をぶちかけようかな。
それとも、明日のパレードで、馬車から突き落とす?
うん、とっても楽しみ。
きっと、明日、誰もが分かるはずだよ。
本当の、正しい悪女が、誰なのかを。
だって、あんなに優しいお姉ちゃんが、悪女なはずないもん。
ごめんね、こんな話をしちゃって。
忘れていいよ。
後、誰にも話さない方がいいかも。
話したら、貴女が嘘つきと言われて。
私が王様を殺す前に、処刑されてしまうかも。
社交界って、話を聞いてくれない人ばかりだから。
経験者からの助言だよ。
…………聞き入れてくれるような人がいれば、こんな気持ちにならなかったのかな。お姉ちゃんも死ななかったのかな。
まあ、今更だよねっ!
だから、ここでのお話は、内緒だよ。
二人の約束。じゃあね。




