誰もいない遊園地〜1分で読める短編小説〜
寂れた遊園地は誰もいないのに動いていた。何十年も動き続けていたからだろうか。長年のルーティンになってしまい電気代をいたづらに消費していた。当時から考えると、繁栄は永遠に続くものと誰もが信じて疑わなかったが、驕れる物は久しからずである。半世紀経った現状は夢の如し。
規則的な上下運動を繰り返すメリーゴーランドに、一定間隔で怒号をあげるジェットコースター。3時になると小人たちがいるはずもない来客をもてなす。彼らは本来の目的を忘れて、ただ自らの延命治療のために動いているかのようだ。
従業員は1人、また1人と辞めていった。最後は社長ただ1人だけになった。彼は代表取締役という肩書からはそぐわない猫背姿で遊園地の明かりを消しては点け、点けては消していた。園内に長い髪の毛が落ちていたら、それは社長のものである。例え社長の髪が寂しくなっていたとしてもだ。
私には懐かしむ場所がある。女は遥か遠くから煙のようにゆらゆらと、浮浪者のようにふらふらとやってきた。1つ1つの古めかしい機械的な動きを見るたびに、記憶のページが風に乗ってパラパラとめくれ、半世紀前の輝かしい瞬間が蘇る。そこには頭が痛くなるような喧騒と栞をつけておきたい鮮やかな思い出があった。
女の顔も若返る。
「あの子ったらまた背中を丸めて。」
女はすっかり薄くなった頭を何かのご利益があるかのように撫で愛しんだ。まるで50年前を再現するかのように、肩を軽く押して背中を伸ばさせた。
「ただいま。」
耳元でそっと呟いたがあの子は鈍感だから。