そして未来視は現実となる
七階層のダズンとキフィスと連絡をとり、階を繋ぐ階段で待ち合わせることにする。七階の二人はともかく、八階のジュリアとヴァイはなかなかハードな状況だ。回復役抜きでさっきまでよりも強い魔獣の出るフロアを二人でぬけないといけない。ヴァイは経験が少ないBランクで、ジュリアは更に戦闘経験が足りないなりたてのAランクだ。
(その上、この状況。未来視通りなら変異種の黒いオウガが出る可能性が高い。チクショウ。なんとかワンフロアだけ持ち堪えてくれよ)
未来視を知るヴァイは気が気ではなかった。
幸い二人とも怪我はなかったので、コカトリス討伐の証拠に首と脚を落とし、二人で七階層に戻るよう打ち合わせをする。今度は直感を重視して前衛をヴァイ、後衛をジュリアで行くことにした。
照明魔法を二人でかけ、未知の八階層に挑む。
七階層とは違い広間はあまりない、大人四人くらいならば並んで倒れそうな通路が緩やかに曲がりながら続いている。ツルツルとした岩肌に時節ピチャピチャと水音がする。狭い通路から不意打ちを喰らう心配はなさそうだ。照明魔法で見えるのは通路の曲がりばなまでだが、幸い、比較的戦いやすい環境である。警戒しながら通路を進む二人だが、崩落の轟音を警戒しているのかモンスター一匹出てこない。
階段まで三分の一ほどを歩いて、ヴァイは少し気が楽になってきた。
(しばらく進んできたが、この通路の狭さなら未来視のオウガと戦った場所じゃあない。ジュリアと二人ということにビビったけど、まだその時ではなかったということかな。まあ、油断は禁物だが)
半分ほど進んだところで、状況に変化があった。最初はヘルハウンドだった。三匹程度なら問題にはならない。二人で斬り伏せてすすんでいく。すぐ次の角にはゴブリンの群れがいた。一匹づつならものの数ではないが、二人で多人数相手は分が悪かった。背中合わせになって死角消して戦う。キリがない。息が上がってくる。ようやくゴブリンを倒したと思ったら次々とオークが襲ってくる。階段に進むにつれてモンスターが増えていく。次第に体力を削られていく二人。脚を止めると次のモンスターが襲ってくるため休むこともできない。少しづつ歩を進めるが、二人は次第に焦りを覚え始めた。
「いくらなんでもこの数は異常じゃないか?」
「崩落で逃げたモンスターが戻ってきてる?」
「わからん。クソッ。次が来た」
ジュリアに声をかけ、足を止めて備える。ヘルハウンドが数匹こちらに気づいたのか走り出した。のろのろと身構えたヴァイを無視してヘルハウンドが脇を駆け抜けていく。
「戦闘を避けられるなら、ありがたいが。嫌な予感がするな」
ヘルハウンドが冒険者を無視したという事は、自分達を上回る脅威がこの先にあるという事だ。そして今日、冒険者で八層に踏み込んでいる冒険者はヴァイの知る限りいなかった。
戻るか──? 無理だ。既に二人とも相応に体力を消耗している。道を戻るということは更にモンスターとの戦闘回数を増やすことだ。進むしかない。
そうしてモンスターのやってきた方向に進む。気配はない。慎重に歩を進めるが何も出てこない。
(このまま階段まで進めれば)
祈るように、少しづつ進む。通路はグネグネと曲がり、先は見えない。残り1/3ほどか、二人のはあはあという息遣いだけが静かな洞窟に響く。息苦しさを感じる。
予感があった。少し先の開けた場所。
パズルのピースがはまるように、見慣れた場所にたどり着くという予感が。ヴァイは腹に力を入れて、歩をすすめた。
そこにいた。もはや、旧知と言っても構わないほどに見た姿。ヴァイより頭一つ大きい、戦斧を持つ熱い胸板の戦士。その全身は黒い肌で覆われて、鋼のような光沢をはなち、盛り上がった筋肉は縄をよりあわせたようだ。
まだ、こちらには気づいていない。ヴァイは手短にジュリアに状況を伝えた。
「ジュリア、前方に変種の黒いオウガ。詳細は省くが、皮膚が硬くて生なかなか攻撃は通らない。タフでパワーもある。魔法で視界を塞ぐから全力の攻撃を入れて、できれば戦闘を避けて奥の通路に走れ」
「……うん。わかった」
通路の壁に張り付き、気配を殺してゆっくりと進む。これ以上進めば見つかるという場所で、二人で目を見交わす。戦闘開始だ!
「闇と恐怖を司る神アズワルドよ。我が敵に払うことのできない闇の帳を!」
祈祷して黒い靄がオウガの頭上に展開したのを見届けて飛び出す。ジュリアは既に先行している。最短距離を走り、両手を振り回すオウガに接近。左後方に回り込み渾身の斬撃を脇腹に加える。
キィン!
金属音がして剣が弾かれる。やはり硬い。
ジュリアは一瞬あっけに取られたが、攻撃を受けて更に暴れるオウガから距離をとり、様子を伺っている。オウガがもう少し前に出れば背後の通路に逃げ込めそうだ。通路の反対側に合わせて攻撃位置を修正して、今出せる最大の攻撃を繰り出す。受けを考えない高い跳躍、その勢いを剣に乗せ、最高点から首を薙ぐように斜めに剣を振り下ろす。まともに食らえば変種のオウガとて無事ではすまないだろう一撃。しかし、気配を感じたのか、オウガは剣を振り下ろした瞬間両手を上げて頭部をガードした。
ガギン!
重い音と共にオウガの腕の半ばまで食い込む鋼糸細剣。血が噴き出す。未来視で見た中でも最大のダメージ。それでもオウガは止まらない。食い込ませた剣を引き抜けないように筋肉を収縮させ、左手で剣を絡めとったまま右手で水平に拳を薙ぐ。剣を手放してかろうじてかわすとそのまま、大きく後ろに下がった。まずい、武器がない。
左手に食い込んだ剣を投げ捨て、気配を追ってこちらに向かおうとするオウガを後ろからジュリアが攻撃する。先ほどの反省からか、ロングソードを腰だめに構え、刺突するようにつっこんでいく。
あと二歩の距離まで接近したところでオウガは反転して蹴りを放った。なんという勘なのか、まだ、闇の帳は頭を覆っているというのに。
剣先は掠った程度でダメージは皆無。ジュリアは吹っ飛ばされて壁際まで転がる。その隙に細剣を拾い上げたヴァイは、オウガの気を引きつつジュリアに声をかけた。
「おい、動けるか? こいつを引きつけているうちに通路から逃げてダズンとキフィスと合流しろ! こいつは硬い。お前の攻撃力だと相手にならん」
頭を振って起き上がるジュリア。髪を纏めている紫の布が解けて青い長髪がばらりと広がっている。ひどい有様だ。
「聞こえているか? そろそろ魔法が解ける。全速で逃げろ」
「いやだ。囮ならやれる。私は恩を返すためにここにきたんだ。ここであなたを見捨てたらなんのために今まで頑張ってきたのかわからない」
「おま、ふざけんなよ! 俺がどんな思いで踏ん張ってると思ってるんだ! 足手まといって言ってるんだ! とっとと逃げやがれ!」
「嫌だと言っている。仮にも勇者候補なんだ。世話になった仲間を見捨てて生き延びても紫神様は認めてくれないと思う」
「強情者め。口論してる暇はない。最低限避ける事に集中しろ、ダメージを負わせようなんて色気は出すな。隙ができたら2人で逃げるぞ」
「了解」
二体一、先制して手傷を負わせたとはいえ相手の攻撃力はほとんど下がっていない。魔法も手の内を明かしてしまった。ジュリアを囮に攻撃を仕掛けるにも、隙の大きい最大威力の攻撃でないと殆ど効果がない。未来視で幾度も見た手詰まりの状態だ。
いつも通りなら時間経過とともに体力を奪われて、焦って勝負に出たところでどちらかが致命傷を負って敗北する。いつも通りをなぞるわけにはいかない。余力のあるうちに勝負だ。ヴァイは覚悟を決めて前に出る。
さあ、第二ラウンドだ。




