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神様、そんな大事なことは事前に教えてくれませんかね

 前回の探索から三日後、魔獣の対策を行った四人は、七階層の探索を始めることに決めた。

 

 六階層までは、魔獣対策の練習を兼ねて、囮のジュリアとアタッカーのヴァイの役割分担を明確に決めて潜ることになった。ヴァイとしても、黒いオウガ対策としてジュリアと連携を深めるのは好都合だった。


「出る!」


 宣告するやいなや、先頭のゴブリン脇を抜けながら斬り付け、続く二体のトロルのを牽制しつつ、正面から二体を相手にしないように一体を間に置いて対角に位置するように動くジュリア。その間にヴァイは間合いを詰めて大きく跳躍し、唐竹割りにトロルを二つにすると、着地と同時にもう一体の脚を薙ぐ。ヴァイが止めを指す間にジュリアは後衛に突っ込んでいく。弓での一撃を剣で払い、抵抗する間を作らせないように切り崩す。浅く速く、ヴァイがくるまで時間を稼ぐ。


 追いついたヴァイが陣形の乱れたゴブリンとリーダーと思われるトロルを制圧し戦闘は終わった。


「出る幕がなかったの。ヴァイは跳躍で破壊力を上げとるな? ジュリアの真似っこかや?」


「魔獣対策だよ。普段はやらん」


「ジュリアはスピード重視で役割分担してるね。いいんじゃない? 得意なことに専念した方が」


 キフィスとダズンが後衛から見た感想を言う。どうやらそこそこ上手くは戦えていたようだ。


「じゃあ、七階層前にちっと休憩するか」


 ヴァイの号令で四人はダンジョンの中でもスペースの開けた部分で腰を下ろす。各々で水分の補給、武器の整備を行う。


 「しかし、Dランク冒険者の世話をしていたわしらが勇者候補の先生とはなあ。不思議なこともあるもんじゃ」


「本当にね。腰掛けと思ってたけど、結局5年近くやってんのよね。もう少ししたらリームもきたえるからよろしくね」


 リームは8歳になるキフィスの息子だ。普段の探索の時は近所に預けて潜っている。キフィスが最精鋭のパーティーから退いた理由だ。


「そらええのう。リーム坊が一人前になるくらいまではわしも現役でおらんとな」

 ダズンが嬉しそうにキフィスに答える。


「三人は、どうしてパーティーを組むことにしたの?」


 ジュリアの問いに三人が顔を見合わせて、そのうち二人が噴き出す。


「そりゃあ、変わり者の冒険者が育成用のパーティーを組みたいから仲間になってくれないかって頭を下げてきたからだねえ」


「初対面で、こっちの事情を見透かしたようなことを言うからいけすかない坊やじゃと思ったんじゃが、内容はわしも必要かと思ってたもんだったからのう」


ヴァイは苦笑いするしかなかった。


 未来視により、冒険者を諦めた時、ヴァイはファナンの冒険者の中でも実力があり、かと言ってバリバリ探索をするタイプではない冒険者に声をかけた。

 50代も中盤に差し掛かり、Aランクではあるが一線級に止まり続けるのは体力的に厳しくなってきた青神ブラウレウムの信徒ダズン。

 子供がまだ幼く、何日も家を開けるのと命をかけるのは避けたい緑神ヴァルダルの信徒キフィス。

 育成用のパーティーを組みたいという話に、二人は訝りながらも、内容と収支が釣り合わないならそこで抜けてもらって構わないからというヴァイの言葉に乗ってくれた。


 しばらく活動して、育成用パーティーがギルドにも好意的に受け入れられたあたりで、三人は正式にパーティーを結成した。その頃にはファナン街の冒険者の死亡率は下がり、馬鹿にするものも少なくなっていた。

 ダズンとキフィスは特に事情を聞こうとはしなかったが、二人とも酒を飲みながら、上を目指して構わない。自分達だけでもやっていけるし、こういう仕事を作ってくれただけでありがたいのだから、気が変わったらいつでも言ってくれとヴァイに伝えた。

 その飲み会で、パーティー名が「束の間の休息(ブリーフ・レスパイト)」に決まった。


 旅立ちのときが来るまでの束の間の休息。


 ヴァイにとってのこのパーティーがそれでも構わないという二人の提案だった。


 事情を話そうかと思わないではなかったが、「ランクを上げると死ぬ未来視が見える」というのは言い換えれば、ヴァイが「Aランクの依頼をこなすと死んでしまう程度の腕しかない」ということに他ならない。 

 流石に腕一本で食べていく冒険者として、これを告げるのは勇気が必要だった。自分では、そこらのAランク冒険者にひけをとらない自信があったのだ。また、何らかの原因がわかったのであれば上を目指したいと言う気持ちは残っていた。

 結局ヴァイは誰にも未来視の話はしなかった。

 そしてパーティーを組んで五年今では、勇者候補の育成に選ばれるまでになった。


 (まさか、その勇者候補が未来視の女冒険者とは思わなかったけどな)


「さあ、そろそろ行くか」


 いよいよ今回の探索の目的、七階層の魔獣退治だ。

 六階の最奥の階段を下に降りる。七階層からは洞窟を歩くような六階層までとは違い、フロア自体が広い。広間を繋いだような作りになっており、その分戦いやすくはあるが、魔物たちも自由に動く。特に飛行種は手の届かない高さから強襲してくるので要注意だ。灯りを高く掲げ、警戒しながら進む。


 戦闘もなく、三つの広間を通り抜けたところで、先頭のジュリアから合図があった。次の広間にいるようだ。


 全員で集まる。目撃情報通りコカトリスがいた。

 視線をかわす。準備はOKだ。事前の打ち合わせ通り、全員でかかる。


「森と草原と調和を司る神ヴァルダルに願う。我が敵に揺るぎない縛めを!」

 キフィスが拘束の祈りを唱える。コカトリスの足元から大地が盛り上がりコカトリスの足を絡め取っていく。

「風と奔放の神・ギャレスよ。我が身に風の護りを与えたまえ!」

 横目に見ながらヴァイも風の呪文を唱えて飛び出す。ダズンはやや後方、ジュリアは既に前方を走っていた。


 ジュリアが牽制の剣戟を入れる。深手を負わせる必要はない。頭部を攻撃して気を引き、傷を受けないように間合いを取って目の前で派手に動き回わる。コカトリスが攻撃に転じれば大きく引き、引き際に合わせて飛び込んで目や首に浅く嫌がらせのような一撃を加える。初めてのはずだが、持ち前の敏捷性でジュリアは完璧に役割をこなしていた。


 ヴァイも死角から回り込む。ジュリアの攻撃に業を煮やしたコカトリスが空気を吸い込む。石化のブレスだ。ジュリアが後方に飛び退いて、キフィスと反対方向にブレスを誘導しつつ体表に風の魔法を全開で展開する。


 コカトリスが頭部を前に押し出すように伸ばし、低い位置から周囲にブレスを撒く。突風が洞窟内に舞う。


 ヴァイはブレスに合わせて全力の跳躍を行った。通常では使わない攻撃。囮役のジュリアと後詰めのダズンがいるからこそ、敵がブレスを吐いて無防備だからこそできる攻撃だ。最高点に達したところから跳躍のエネルギーを全て剣に乗せて振り下ろす。狙いは伸ばした首だ。


 振り下ろす刹那、首がヴァイに向かって捻られた。正面から嘴の攻撃を喰らいそうになり振り下ろしの軌道をかえる。


 ブシュッ。

 嘴の先端が切り落とされて飛ぶ。首は外した。のけぞるコカトリス。着地したヴァイに横から首が叩きつけられる。吹っ飛ぶヴァイ。代わりにダズンがコカトリスに対峙する。バックラーを使って嘴の攻撃を捌く、ジュリアがその隙に尾の蛇に切りつけ切断する。雄叫びをあげるコカトリス。激しく羽ばたき。巻き起こる暴風。


「だめ、拘束が外れそう!」



キフィスの叫び声が響く。

コカトリスの身体が浮いていく。倒れていたヴァイも戻ってきた。


「どうする? 拘束が解ける。一時撤退かの?」


ダズンの問いかけにヴァイが答える。


「ダメージは与えてるんだ。この広間から逃さないように出口を塞いで勝負をかけよう。キフィス、出口を頼む!」


 即座に広間の出口を大地の魔法で塞ぐキフィス。

入口に追い込めれば天井の低い通路で動きを止められる。広間で戦うなら持久戦だ。


 翼をバタバタと動かして少しづつ中空に浮かんでいくコカトリス。空中はやつのテリトリーだ。牽制しつつ攻撃の機会を待つ。


「芸術と魅力の神パルクーン! 御身の一撃を我が敵に!」

「自由と水と知識を司る神ブラウレウムよ! 岩をも穿つ水の槍を!」


 ジュリアとダズンが同時に中級の長距離攻撃の祈祷を行う。合わせてヴァイも己の神に祈る。


「恐怖と闇を司る神アズワルドよ、払えぬ闇の帷をかの者に与えたまえ」


 浮きかけたところに、翼を目掛けて水の槍と、見えない弾丸が着弾する。舞う羽毛。バランスを崩したコカトリスの頭部が暗闇の靄に覆われる。低空を弧を描いて飛びながら床に激突するコカトリスをキフィスが拘束魔法で再び捕らえようとするが、身を捩りながら跳ね回り避けられる。

 

 中空に浮いたコカトリスが怒りの咆哮と共に体当たりを仕掛けてくるが、動きが鈍い。ヴァイは再び跳躍を行いコカトリスの翼に切り付けた。

深い。今度は成功した。片翼の半ばまで細剣が食い込み、血が噴き出す。

 うまく飛べないのか天井に激突して床に跳ね返り、そばに寄れないほど暴れるコカトリス。このまま弱るのを待てば倒せる。


 三人で包囲を作る。正面にジュリア、等距離にヴァイとダズン。少しづつ包囲を縮めていく。コカトリスも状況を悟ったのか、片翼で不恰好に飛び、最後の賭けに出た。ジュリアに突っ込む。かわした。 轟音と共に土煙が上がる。


「なんじゃ?」


 度重なる激突で脆くなった床が割れた。コカトリスの足元からひびが床に広がり、足元から吸い込まれていく。


「床が抜けた! 下がれ!」


 声をかけ、下がろうとするヴァイの目に、バランスを崩したジュリアの姿がうつる。まずい。1番近いジュリアが巻き込まれて落ちそうだ。走る。


「ジュリア、手を伸ばせ!」


 滑り込んでジュリアの手を掴む。剣を支えに立ちあがろうとするが、床の崩壊の方が早い。このままでは落ちる。

 

「風の魔法を全身に展開してコカトリスの体めがけて落ちろ!」


 判断は早かった。風の魔法の祈りを行うと、落下するコカトリス目掛けてジュリアが飛んだ。


 ヴァイも後に続く。

「風と奔放の神ギャレスよ!我が身に風の護りを!」


 剣を構えて飛ぶ。


 浮遊感。近づくコカトリスの身体。剣を刺す。羽毛の感触。備える。衝撃。


「……痛え」


立ち上がる。体に痛みはない。うまくコカトリスがクッションになってくれた。当のコカトリスは首の骨が折れたようでピクリとも動かない。


「ジュリア! 無事か?」


「ん、大丈夫」


 声をかけると、ゆっくり起き上がってきた。どうやら怪我はないようだ。

 問題はここが八階層で二人しかいないということだ。七階層の穴までは登れそうにない。自力で戻るしかない。


(なんてこった。これ、オウガが出てもおかしくない状況だろう。こんな危険があるなら未来視で教えてくださいよ、神さん)





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