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俺は死亡フラグを回避するためになんでもやる

 ヴァイが未来視で見たジュリアは少し大人びて見えた。だから、まだ少し先の話だと思っていた。運が良ければジュリアの研修が終わり、学ぶ事を学んだ彼女を見送ることにならないかと思っていた。


 違う、連続した未来視はそう遠くない未来の出来事を告げていると直感的に教えていた。ヴァイは自分の見込みの甘さを思い知らされた。

 この死亡フラグは濃い。なんとかして早めにジュリアを送り出すか、パーティーを解散するか、抜けるかをしないと死んでしまう。


(冷静に考えろ、俺ができる事はなんだ?)



 国家要請のパーティーの解散は流石に難しい。教会に未来視の話をしたとしても実績のない一冒険者の話と、総主教の「託宣」どちらを信じるかは明らかだ。

 ジュリアを送り出すにしても、すぐは難しい、いくら優秀とはいえヴァイ達の技術を習得するとなると半年は欲しい。

 パーティーを抜けられるとすれば怪我をした時だが、不自然でなくヴァイが怪我をする相手が出てくるとなると結局十階層以下に進んだ時になってしまう。

 今のペース、二、三日に一度ダンジョンに潜るのなら三月もすれば十階層に到達する。未来視ではいつもジュリアと2人だ。パーティーが分断されるレベルだとすると少なくとも十階層。

 黒いオウガが出るとするとそのあたりだろう。

 三ヶ月でジュリアに技術の習得を急がせ、他に推薦できるパーティーを探し、万が一黒いオウガと遭遇しても逃げられるように対策を練る。パーティー以外でダンジョンに潜るのは避ける。低階層だとしてもジュリアと二人で潜るのはやめておく。

 考えられる対処はそんなものだった。


(闇魔法で視界を奪うのは有効。戦いながら継続時間を長くとれるか試す。攻撃系魔法は試していないが斬った感じ初級の魔法は通じない。あんまり得意じゃないが拘束系を試すか? キフィスにコツを聴かないと。ジュリアの魔法はどうだ? 紫神の魔法なんて知らないからな。たしか、初級は灯火、拘束、魅了、鼓舞、洗浄、鎮静、軽度の治癒は使えるはず、明日の訓練の時に確認しよう)


 


 次の日、訓練所でジュリアとあったヴァイは、身体の使い方を尋ねられた。向上心が高い。妙なプライドもない。やはりジュリアは優秀だった。


「私の剣撃と何か違う。ヴァイの方が綺麗。キフィスは女の非力を魔法の多彩さと武器のレンジの広さで補ってる。ダズンは安定した体幹で、崩れずに相手をバックラーで捌いて隙をつく戦い方。ヴァイの、スピードと最小限の動きで攻撃を交わして剣尖に無駄なく力を乗せる戦い方が一番私にあってる。教えてほしい」


 ヴァイは驚いた。戦い方は見ればある程度わかるだろう。向き不向きも。しかし、剣尖に無駄なく力を乗せるというのはみただけではなかなかわからない部分だ。ジュリアはそこまで理解していた。


「まず、君に何ができるか把握させてくれ、比較的戦闘法が近いと言ってもジュリアはスピードで敵を撹乱するタイプだし、最小限の動きにはこだわらなくていいだろう。威力が欲しいなら跳躍を上手く使うのは昨日も試してた通りだ」


「ヴァイも、昨日やってた。でもジュリアのと何か違う」


 感覚も鋭い。目の前で跳躍からの剣撃を見せてもらうと、剣速を早くしようとするあまり、力が乗り切っていないようだった。ヴァイは見本を見せながらアドバイスする。


 スピードを意識するあまり剣が手撃ちになっている事、跳躍の最高点から高さと体重を剣尖に乗せるように振り下ろす事、跳躍の制動、横や前後の移動のずれで力を無駄に使わないように目標に力が集中するよう考えて跳躍を行う事、踏み込みの脚、跳躍、振り下ろしが直線で結ばれるように最短距離を動かす事。



「基本は刃筋を立てるのと同じだ、剣がぶれれば斬撃に使われる力は減少する。要は斬撃に繋がる行動全てを最適化する事だ。俺はこれを身体を剣にすると教わった」


 ヴァイのお手本を見る事で一振り毎にジュリアは上達した。刃筋を立て、跳躍の頂点から振り下ろす。


「そう。感覚が掴みにくければ跳躍を最大にして大きく力を乗せてみろ。それができたら細かい跳躍で調整すれば良い」


 最大限の跳躍を行うジュリア。高い。助走をつければ、爪先が、冒険者としても身長が高めのヴァイの顔あたりまで届く。そのまま真っ直ぐ剣を振りかぶり、剣尖に落下のエネルギーを乗せるように振り下ろす。


「そうだ、今のは良かった。これを繰り返して跳躍の飛び方、距離の調整をやってみるがいい」


「ありがと。ヴァイ凄い。こんなことやってるの、初めて見た」


 目を輝かせてお礼をいうジュリア。


「俺は魔法は苦手な方だからな、近接は出来るだけ磨いておきたいと思ってたんだ。ジュリアは魔法はどうなんだ? 初級が大体使えるのは聞いたが紫神の中級魔法は使えるのか?」


 ジュリアによると、紫神の中級魔法は適性が限られるため、信徒全員が使えるわけではないが、ジュリアは「気弾」という目に見えない衝撃波のようなものを打ち出す魔法は使えるということだった。殺傷力は低いが不意をつくには役に立つ魔法。黒いオウガ相手には有効打にはなりそうになかった。そして加護はまだ。得ていないという事だった。


 その後もヴァイは暫く訓練に付き合い、後から訓練場にきたキフィスに拘束魔法のコツを教わった。キフィスは拘束や鼓舞など初級魔法の使い方が滑らかで上手く、相手の足元を乱す地形変化や灯火魔法の照度を最大にした閃光魔法、闇の帷を動いている相手に併せて展開するなど応用の効いた使い方も臨機応変に行える魔法使いよりの戦士だ。緑神の加護により再生までおこなえる治癒力もあり、子どもを自分で育てる為にダンジョンに専念できないという事情がなければパーティーに参加はしてくれなかっただろう逸材だった。


 念の為、紫神の神官に会ってパーティー参加の日数を確認したヴァイだったが、「託宣」が出ている以上パーティー自体が死者が出たなどで稼働しなくなった場合を除いて、少なくても半年は共に活動するという事だった。ジュリアに素質があり、技術を覚えたとしても、それが身につくことを考えると半年は必要だろうという神官の意見は正論で、参加パーティーの変更というのは難しそうだった。一つ二つ思いついた技術の高いパーティーへの参加は役に立つと思うので紹介しようかと打診してみたが、総主教の「託宣」に従わなければ意味がないとけんもほろろな対応だった。


 一日で打てる手は打ったが、正直なところ未来視を変えるほどにはなり得ないだろうという感触だった。後は十階層にたどり着くまでに逃げられるように効果的な魔法を身につけておくことと、絶対にジュリアと二人にならないようにすることくらいか。


 ヴァイは宿の自室で嘆息して酒を煽った。明後日には2回目の探索で七階層に突入する。七階層からはダンジョン内が広くなり、モンスターも大型化する。コカトリスやグリフォン、マンティコアが出現することもあるため、パーティー戦闘も今までの、集団を分断して戦う戦い方よりも、強い個体の気を引く囮役とメインアタッカーに分かれて戦う連携の取り方が必要になってくる。おそらくしばらくは七階層攻略となるだろう。


 ヴァイにとっては時間がかかった方がありがたいが、ジュリアの才能はそうはならない可能性の方を示していた。


 「どうなることやら」


 つぶやいて眠りにつくヴァイ。

 未来視が再開してから3日目の夜、いつもの黒いオウガの夢を見る。

 いつもと違うのは、拘束魔法を駆使してオウガの動きを封じて戦っていたことだった。最終的にジュリアもヴァイも死亡はしたが、初回とは戦闘内容が変化していた。


 むくりと起きる。ヴァイは興奮していた。

(未来視は選択するか避けるかしかないと思っていた。しかし、今の未来視ならば、倒す方法を模索して()()()()()()()()()()を未来視で知る事ができるということじゃないか)


 それならば、闇魔法の中級や、実戦で使うのは躊躇っていたが、ジュリアに教えた跳躍により破壊力を増した斬撃なども試す事ができるかもしれない、ジュリアと連携を磨くという手もある。


 ヴァイは道が開けた気がした。寝台で両の手を握りしめる。


(生きられるかもしれない)


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