日曜日
春と言うのは3月~5月の事だ。でも最近の季節の周期はおかしい。春なのに夏のような暑さだったり、秋なのに冬の寒さの時もある。
春は出会いと別れの季節と言われているが、そうでもない。夏にだって別れる人はいるし、冬にだって幸せを手に入れる人だっている。
その日あった出来事一つで、人は四季を感じる事が出来る。
少し暑いと感じたからベッドから顔を出した。今日は日曜日。隣にはもう見慣れた顔。可愛いく寝息を立てている。
心や体が満たされるのが幸せなら、これも幸せの一つなんだろう。
日曜日
疲れていたのだろうか?帰ってからの記憶が曖昧だ。
あの人に会ってから3週間経った。今日は日曜日。でも特に予定もない。
三月と言う人とは3日に一回は会っている。すごく優しくて私の事を考えてくれている。
初めて会った時でも正直に話してくれた。その時も楽しい時間をくれた。
時間を早く減らしたい時がある。それは充実している人にとっては信じられないかもしれない。
しかし充実してない人。その人にとっては時間は拷問に等しい。
周りをみれば人生を楽しんでいる人が沢山いる。
焦りはある。でも動けない。スタートの線が分からない。
スタートできれば走り続ける事は出来る。運も必要だ。
途中で躓いても笑うなと人は言う。それは躓いてない人が言える言葉だ。
そんな一言で括ってほしくない。立ち上がる時間がほしい。
立ち上がっても。。。。。。。。もう誰も見ていないから。
だから。。。。
目が覚めた。手探りで枕灯の横にある携帯を取った。
メールは来ていない。マンションに帰ってから来たメールは一件だけ。
「・・・はぁ。だよね。」
何を期待していた訳でもない。でも変化が欲しかった。どんな小さな事でもいいから変化を待ち望んだ。
そこから今の自分がズレていき、新しい可能性になっていくんじゃないか。
その考えに気付いたのは、昨日の夜ファミレスでタクシーを待っていた時。三月を見習って変化を求めた。
しかし何の事はない。同じ日曜日が来ただけだ。
それにメールが来たからと言って何が変わるわけでもない。その後の行動次第だけだ。
とりあえず彼に私が変化できる期待を込めたのは、借りを返してもらうという口実にもなるからだ。
結果はこの通りだった。今日は日曜日。上半身を起こすと隣には見慣れた顔が寝息を立てていた。
「・・・まったく、迎えにも来てくれないのにどういうつもりなんだよ。」
起こすつもりで呟いた言葉は彼には届かない。
とりあえずバスローブを来てシャワーを浴びに行った。
上から降り注ぐ熱い湯が体を綺麗に、気持ちよく覚醒させてくれる。
目を瞑って何も考えない。これが私にとっての一つの休息法だ。
シャワー室からでると彼は服を着ていた。
「おはよ。」
少し眠そうな顔であいさつをしてきたので、私も精一杯の愛想であいさつした。
「昨日あんまり寝てないから寝ててもいいよ?」
私なりに気を使って彼を思いやった。
「いや、今からツレと会わなきゃいけないから・・・。ごめん。」
申し訳なさそうな顔をして謝る彼を見て、可笑しくなり、ふと思い出話をした。
「初めて会った時もそんな顔してたよね?今はすいません!じゃなくてゴメンだけど。」
ソファーに座りながら子供に意地悪するように言った。
「女連れてさ、恰好もヤンキーみたいだったよね?今だったら絶対嫌ですからー。」
「あぁ。懐かしいねー。真理、すごい嫌そうな顔してたもんな?あれは焦ったよ。トイレにでもいいから寝させてもらおうかと思ったんだぜ?布団なしでいいから座り寝させてくださいって。笑ってるけどマジだよ?」
一緒に共感できる思い出があって、今とギャップがあって、それが楽しくなって、彼が話し終わるまでに笑いが堪えられなかった。
「そうなんだ?じゃあトイレに寝させればよかったかな?」
「なんでだよ!「じゃあ」をマイナス方向につかうなよ。」
つっこんでくる彼に笑いながら時間を教えてあげた。
「はいはい。時間ないよ?約束あるんでしょ?いってきなよ。」
「えっと、あぁ。もう行くわ!」
時計を見ると鞄を持って玄関にむかって行った。
「明日も仕事だから、今日は自分のマンションに帰るわ。真理も疲れただろうから休んでて。」
靴ひもを結びながら取ってつけた気遣いに、すかさず返した。
「誰が疲れさせたの。迎えにも来てくれないしさ~。お金もらおっかな?」
壁に持たれながら真面目な顔して言う私に、勘弁してくれよ。と一言残して出て行った。
「・・・勘弁か。私もしてほしいよ。」
いろんな不満を、この一言で纏められた事に、我ながら少し関心して鼻で笑った。
カーテンを開けると朝日が差し込んできた。一日の始まりだ。
ビルが並び下を見ると仕事に行く人もいる。部屋からご苦労様ですと頭を下げ、着替えに行った。
自分の家だから、どんな格好をしても構わない。掃除をするのだから、どうでもいい服でやるのが一番だ。それに後でシャワーも浴びる。そして選んだ服はヨレヨレのTシャツに運動の為に買ったジャージ。
頭にタオルを巻いて、首からもう一つタオルを下げるとヤル気のボルテージが上がってきた。
「さてと!」
一言気合いを入れ、衣装室から出ると、酒や菓子などで散らかっているフローリングのリビングを一望して掃除を始めた。
昼までに終わらせないと、ランチに間に合わないぞ~。あと寝室とキッチンだ~。
心の中で自分を煽り一日のスケジュールを全部できるようにピッチを上げた。
「もう10時かよ。」
独り言を呟いて、だらしない顔をしながらボロい洗面台に向かった。
冬は冷たいが暑くなってきたら問題ない。
歯磨きをしながら自分が住んでいる家を精一杯褒め、風呂に水を入れ始めた。
「でもシャワー位は欲しいよなぁ・・・。」
さすがにこれは褒めれない。しかしシャワーの取り付け工事は10万ほどする。
そんな余裕はない。10万もポンっと払える余裕があるなら、こんなとこに住んではいない。
都会のマンションで朝から暑いシャワーを浴び、カーテンを開けると朝日が差し込む。
爽やかな一日。気持ちいい朝。そんなとこに住んでみたい。
しかし願望を言っていても仕方ない。自分は自分なのだ。今はどうにもならないのなら、今を頑張るしかない。
「さてと・・・」
お湯を沸かしてる間、パソコンを開く。
千春から一言履歴があった。
AM:6:00
千春:まだ寝てるかな?起きたらメールかチャットしてね^^
千春の状況を見ると、現在ログイン中です。と書いてある。
とりあえず、あいさつをした。
三月:おはよ^^朝早いね?
10秒もしない内に返事があった。
千春:おはよー^^何か目が覚めて・・・。不眠症かもw
三月:それは大変だ!><おれも昨日夜不眠症で寝れなかったよ・・。
千春:ほんとに!?(@_@;)
三月:本当だよ><寝れなさ過ぎて3時にしか寝れんかった・・。起きたのは今だけど。
千春:寝てんじゃん!?ただの夜更かしヤローだよ(-_-;)
三月:日曜日だから油断したww 夜更かしヤローは今お風呂沸かしてますww
千春:あぁ、シャワー出ないんだっけ?ご苦労様です<(_ _)>
三月:苦労してるよ・・・。でもマニーがないから><
千春:マニーは降ってこないから悲しいね><
三月:でも今日の天気は晴れ時々雨。N市では晴れ後マニーだよ。
千春:本当に!?じゃぁ私の家も降るかな!?w
三月:降るよ!?今日暇なら集中豪雨がある場所行きませんか?(+_+)
千春:それなら行くしかないじゃん!?w何時??
三月:13時位からどう??
千春:OK^^じゃぁいつもの場所で^^
三月:分かった^^でわでわ風呂いってきますー。
千春:はーい☆またね(゜・^*)
よし。会う約束取り付けた。ニヤけながら隣の部屋から服を選び始めた。
「ん~パターンが決まってるからなぁ・・・。」
少しでも自分に惹かれるように出来る限りの事をする。正直、あの子は高嶺の花だ。
ルックル、スタイルはいい。性格も優しい。料理は出来る。男関係は綺麗。
何より、中を見てくれる。時々見透かされそうな眼をする時がある。
だから俺も嘘をつかない様にしている。初めて会った時、ぶちまけた事を受け止めてくれた。
それが惹きつけられる大きな魅力の一つだ。
「でも、いるだろうなぁ。気になる人位・・。」
服を選んでる途中、思わず声に出てしまった事が頭に浮かび、うな垂れた。
あの時からメールをする様になり、チャットでも毎日のように話している。
でも、あくまで友達での話だ。夜景を見に行った時、他の人とはあんまり来ていないと言っていたが、
佐久間三月と行ったではないか。その矛盾に気づかない様にしていたが、時間が経てば経つほど気持ちが大きくなる。あくまで夜景友達として見ているのであれば、ランチ友達、買い物友達、そして考えたくもない友達もいるんではないだろうか?それに朝6時に起きてチャット記録を残している。俺が10時に起きてログインした直前に彼女もログインしたって言うのはタイミングが良すぎる。しかも今日だけではない。何度かこういう事はあった。
下手な推理小説の謎解きのように考えていると思いだした。
「ちっくしょう・・・。風呂沸かしたまんまだ・・。」
12時43分。少し早かったかな。
時計を見ながら待ち合わせ場所の駅構内広場。そこに、とてもお洒落とは言えない恰好で千春を待っていた。
周りを見るとOLからサラリーマン。待ち合わせしている男女。沢山の人がいる。皆時計をチラチラ見て時間を気にしている。
待ち合わせスポットでもあるこの場所はエーゲ広場を呼ばれている。壁一面に水色の下地が塗られていて、魚の絵が書かれている。夜になると壁はブラックライトで幻想的に輝き、初めて来る人は見惚れはしないが、目を向ける事はあるだろう。当初エーゲ広場を企画した会社は、待ち合わせスポットとして作ったのではなく、広告を貼る宣伝場所として作ったらしい。しかし、駅構内のどの入口から入っても同じくらいの距離で目立つ場所。これだけで待ち合わせスポットになってしまった。その後、広告を貼ってもあまり効果がなく人ばかりが増え、更には広告を貼っていると魚の絵が見えないというクレームまであった。その後、会社のイメージダウンだ。という理由を基に、待ち合わせスポットとして公式に変化を遂げた。
「おまたせ!」
隣を見ると今は見慣れた顔があった。この顔を毎日見る事ができたら死んでも頑張れる。
「天気予報変更でマニーは降らないって?」
「信用できないね。その予報。前はイケメンが降ってくるって言ってたしw」
「今度クレーム言っとくよ。じゃぁランチでもいきますか?」
笑いながら頷く眼鏡のない彼女と店に向かった。歩いて15分位の場所に美味いエビを出してくれる店がある。そこでランチを二つ頼み、一日の予定を話合った。
欲しい本を探し、見たい映画を見て、雑貨屋に行き、お茶をして夜になるのを待った。ディナーという格好いい言葉が当てはまらない食事をすると、もう日が落ち、探し当てた夜景スポットに向かった。
そこは夜景と言っても空じゃなくてネオンの夜景が見れる場所。あまり人がいない展望台だ。
「たまにはこっちもいいでしょ?」
「・・・うん。綺麗。」
俺の方を向かずに大きい窓から見れるネオンの夜景に心を奪われている。
そんなに感動するものか?確かに綺麗だが、見ようと思えばいつでも見れる。
しかし、そんな考えは一瞬にしてなくなった。
人には心を打たれるポイントがある。人によって違い、その人にだけ感じるポイントがある。
人は同じじゃない。価値観も、生まれる感情も違う。自分が一度だけ聴いた音楽を好きになったように。
そして俺と千春。お互いの相手に関する感情が違うように。
この空間は壊してはいけない。なんとなくそんな考えが浮かんだ。幸せになっている時間というのは自分だけで入り込み、自分で切り上げるものだ。
千春のうっとりした、優しいこの目は「自分の世界に入ってる」という考えを決定づけた。
何分か静かな時間が経ち千春が声をかけてきた。
「・・・ありがと。なんか意外だったから。てっきり星が見えるポイント見つけたんだと・・。」
「さっきも言ったけど、たまにはね。今日はコンタクトだし、風がない分ドライアイにはならないし。」
千春は照れたように目を少し下に落とし、こちらを見た。
この目だ。見透かされそうな目。なんだろう。嘘を判断する目。
「・・・どうした?」
たまらず声を掛けると千春は眼を逸らさずに言った。
「家で夜景スポット探さない?」
「・・・・え?」
唐突な問いかけに驚いた。色んな事が頭を巡っている。なぜ急に。そんなに感動したのか?夜景が?
いや、昼の時は帰る時間まで話していた。どうして・・・。
なぜ?どうして?そんな問いかける言葉しか出てこない。
「軽い女って思わないでね。誘ったのは三月君が初めてだし、部屋に男の人入れるのも初めて。」
「軽いなんて思ってないよ。ありがと。一緒に探そうか?」
戸惑ってる俺を見て、助け舟を出すかのように話してくれたんだろう。
そして安堵してる自分が情けないと感じた。女の子が頑張って言ってくれたのに俺は何をしてるんだ・・・。
暑い・・・。少し暑いからベッドから顔を出した。自分のベットなのに違和感があるのは、今日は一人ではないからだ。隣を見ると、今はもう見慣れた可愛い顔が寝息を立てている。男の人にキュンと来る瞬間はこういう無防備な顔なんだろう。自然に笑顔が綻んでしまう。今日は幸せだった。懐かしい景色が見れた。楽しい話をした。私を愛情で包んでくれた。ブランケットを着てアパートから外を見た。街灯だけが光り、外に居る人はあまりいない。今日は日曜日。彼が隣にいる時間までは。そして目が覚めたら月曜日になり、彼は仕事に行くんだろう。
第五部に続く。
三部の細かい所の追加も随時していってます。第四部は真理と千春の女としてのそれぞれの行動を書きました。きっかけは三月です。この一日のきっかけが、どう変わっていくのか。楽しみにしてください。続きは今週中です。
話数毎に量が違いますが、御勘弁を。追加は随時活動報告でいたします。