表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

春-2

エレベーターを待つ間メールを確認しよう。私に少しでも感謝しているなら、お礼の一言は欲しい。

真理は自分を優位に立たせるために、強く思った。

しかし何もないのは分かっている。だからこそ強く思える。思わなくてはいけない。せめて確実な時位は。


春-2


 三月は振り返らなかった。私はエレベーターのドアが閉まるまで、ずっと三月を見ていた。

戻ってくる事を少しは期待していたが、彼はこれから会う女の子の事で頭が一杯なんだ。


 最初、彼に仕事を任された時、正直嫌気が差した。私の仕事も満足に終わってない。

 それを分かっていて頼む男はどうゆう神経をしているんだろう。自己中心的。わがまま。適当。いろんな言葉が当てはまるが、どれも感じがいい単語にはならない。

 彼はこれから会う女の子の事ばかりを考えているのだろう。彼は言葉には出さないけれど、23年間「女」をしていれば、女関係だなと察しは付く。

 最終的に引き受けた理由は、腹黒い理由だった。今日は特に用事もないし、言葉は悪いが、貸しを作っておけば、本当に自分が困った時に助けてくれると思ったからだ。

 しかし貸しを作った最終的な決め手は、情に流されやすい私の性格だ。三月は同期。社内で一番話しやすく、助けあえる存在。彼はそう思っていないかもしれないが、私は支えあえる存在だと思っている。

 男女関係の助け合いは、今日が初めてだった。当初、出会い系を勧めた時は「すぐ飽きるだろう。」と鷹を括っていた。彼の全てを知ってるわけではない。しかし性格位は分かる。飽き性で、周りの目を気にする。だから一度彼を揺さぶった時もあったが、出会い系での女探しは続いてたようだ。私は本当に会うなんて思ってもいなかった。

 彼の女関係に口出しする権利はない。ただ、同期として嫌な女には引っかかって欲しくなかった。


   ----彼が苦しむ姿を見るのは嫌だ。


 とっさに心の中で感じたこの気持ちは、彼を心配する言葉に変化した。この気持ちの意味を彼に聞いた方がいいのか。混乱気味な状態で一人にされるのが怖くて、三月を求めた。しかし、彼は振り返る事なく自分の目的地に向かって行った。


 しばらくパソコンを呆然と眺めていた。

   「私何やってんだろ。」

 先ほど考えた気持ちの答えは何もなかった。出た答えはこの言葉だけだった。次に考えたのは目の前にある仕事の事だった。

   「さて、やりますか。」

 誰もいない社内の中、ひとり言を呟いてカラ元気を振りまくと、パソコンの中の仕事に取り掛かった。



 「もう十二時か」

 女の子は早く帰るべきと、誰かが言っていた気がしたが、現状はこんなものである。男だろうと女だろうと給料を貰っている以上は同じ様に働かなければいけない。

 人数が少ない私たちの様な会社は余計にだ。特にクリエイティブの仕事は迫り来る期日と、途中で要望が変化しるお客様に笑顔でOKを出さなければいけない。好きでもないこの仕事を続けているのは、次のあてがない事とやりたい事がないからだ。

 不況で正社員就職率は過去最低。大卒でもフリーターに成らざるを得ない現状。バブル期では会社が正社員を接待して、ぜひうちに!と言ってたみたいだが、今じゃ考えられない。上は景気のいい時代に生まれ満足に仕事が出来、給料や今の倍近く。賞与は桁違いで社内旅行はもちろん、小さな会社でも野球チームが持てる位だった。

 今では何十社と受けても貰えない内定、すずめの涙のような薄給、賞与もあるかないか。そんな社会の現状であてもなく辞めては食べていけない。夢を持てと言う人もいるが、見た事ない夢を持てるはずもない。今は夢より現実だ。

 こうやってパソコンに向かって残業している現状が現実。同僚の尻拭いをして、お人好しにも彼が終了予想していた30分後に、終わったと嘘メールをしている私が現実。0時を過ぎてあと少しで終わるのが現状だ。

 「ん~~~」

 椅子の背もたれに大きく持たれかけて、間抜けな声を出し伸びをすると、ラストスパートに入った。


...。

 「遅くなっちゃたなぁ。」

外に出て思わず声を出す位の時間だ。周りはスーツのサラリーマンがチラホラ。ビルのライトは消えて車通りも少ない。路地に入れば居酒屋や風俗、ホストや酔っ払いがいる時間。こんな時間では電車に間に合わない。考えるよりも先に携帯を触り始めた。


件名:ヤバイです!

本文:仕事で遅くなっちゃった>< よかったら迎えに来て^^ 色々サービスするからw


「・・・よしっと」

メールを送信すると近くのファミレスで時間を潰そうと歩き出した。鼻歌を交えながら夜道を歩く女はいかがなものだろう。酔っ払いか、お水の仕事でもしていると思われるかもしれない。でも私は気分がいい。あのメールの内容は絶対食いつく!そんな確定的な自信があったからだ。


 私にだって彼氏はいる。あの三月も知っているが彼氏位はいるんだ。時々冗談で彼女になってと言ってくるのも彼氏がいるのを分かっているから言える冗談である。もし真剣に彼女になって欲しいのに、あんな頼み方をしているのであれば頭がおかしいとしか思えない。彼なりの自虐ネタなんだろう。自分が持っていて相手が持っているモノを彼はよく分かっている。人間って言うのは自分に持ってないモノを持っている人をみると眩しく見える。同姓なら嫉妬や妬み陰口になる時もある。異性であれば魅力、興味、性の対象にもなる。

 相手を受け入れるというのは難しい。誰しもプライドは持っている。持っていない人間なんていない。


 ピリリっ!ピリリっ!

携帯が鳴った。早く出てよ!と急かすように鳴り続けていた。

ファミレスでポテトを注文してフリードリンクで時間を潰すのも飽きた。人も数組のカップルが居るだけ。

窓際の禁煙席で迎えが来るのを待つ姿はどう見えるのだろう。

時計を見ると店に入ってから30分経っている。

「はい、はい。」

独り言を言いながら、子供をあやす様にメールを開いた。


件名:Re:ヤバイです!

本文:マジで?迎えには行けないけど、サービスはして欲しいなぁ。


 最悪だ。と言うより何て男だ。誰が見ても分かるような嫌な顔をしているのが自分でも分かる。髪を掻き揚げてしばらく悩み、相手が不機嫌にならない様にメールを打った。


「・・・はぁ。」

天井をしばらく見た後、タクシーに電話をした。

こんな事なら最初からタクシーを使えばよかった。反省してない後悔をしながらあいつとの出会いを思い出した。


----------寒い冬の日シンシンと雪が降っていた。

「・・・積もってるなぁ。」

 この地域では雪が降るのは大して珍しい事ではない。ただ積もる事は滅多にない。

今年の雪は僅か一日で交通機関が麻痺する位の大雪となった。電車はもちろん、バス、車も大渋滞。歩いてる人はほとんどいない。暗い部屋で頭から毛布を被りボーっと外を見ていると漆黒の空から注いでくる雪が大量の虫に見える。街頭で照らされている部分だけは、降ってくる虫の正体を雪だと教えてくれている。

 車から降りてチェーンを履かせている人、携帯で助けを求めてる人、ただ待っている人。信号から貰える整理券も待ってるように綺麗に車がならんでいる。


ピリリっ!ピリリっ!

鳴り這いずりながら携帯を見てみると、助けを求めてる人からメールがあった。


件名:動けない><

本文:帰りだけど動けない!今日泊めてくれない?><友達もいるんだ・・。


いいよ。一言メールを返すとまた外の観賞に浸った。


・・・・何分経っただろう。

ピンポーン!マンションのベルが鳴って覗き穴から見ると、見慣れた顔があった。

ドアを開けると急いで飛び込んできた。

「あったかーい!もう死ぬかと思ったー!ってか何で真っ暗なの?」

こたつの上に頭を乗せ、心臓の音を聞くような格好で問いかける理沙に笑顔で答えた。

「お邪魔しまーす」

そう言って知らない男女が入ってきた。・・・聞いてない。まさか男がいるなんて。

理沙に目を向けるとバツの悪そうに目をそらした。

冗談じゃない。私の部屋だ。女の子ならまだしも男が来るなら断っていた。

こういう事をしっかりしておかないと、ダラダラになり、また泊まりに来る。

落ち着ける空間がめちゃくちゃだ。

「・・・あの、すいません本当に。」

急に話しかけられ、びっくりして振り向くと知らない男女の男の方が立っていた。

おそらく理沙を睨んでる私からNGの空気を悟ったのだろう。

「いえ、男の人がいるなんて聞いてなかったもので・・。」

そう言うと同時に部屋に明かりが付いた。

「まぁ堅い事言わないで!」

軽口を叩きながら部屋の明かりを付けた理沙にムっとした声で答えた。

「軽い事言ってたらキリがないでしょ!」

一瞬部屋の中の空気が、キンとする張り詰めた空気になった。

「すいません!なんとか落ち着くまで置いてもらえませんか?」

見た目と違い最低限の礼儀が出来ている男が頭を下げた。

「お願いします!」

その男の彼女と思わしき派手な女が続けて頭を下げる。

「・・・。」

 こうなると弱い。私も鬼じゃない。それに男がいるかいないか聞かなかった私にも非がある。

 こういう考え方になってしまう。自分をマイナスに置く癖がある。そんな自分に嫌気が差してるのは分かっているが、性格なのでしょうがないと諦めている。

「はぁ。今日だけですよ」

ため息をつきながら、話しかけると派手な男女は喜んで頭を下げた。

その後、その日以来、その派手な女は私の言った通り一度も来る事はなかった。


----------4200円です。

・・・・。

---4200円です。お客さん。

・・え?


 気づくとマンションの前だった。

ハザードランプのチカチカする音と、こっちを見ている運転手の顔がある。

「あ!えっと・・すいません!」

寝てたのかな?寝ぼけているのか頭が良く回っていない。

「4500円でお釣りはいいです!」

慌ててタクシーを降りると、急いでマンションに入った。

「はぁ・・。」

エレベーターを待つ間メールの確認をした。


新着メッセージ確認中。


・・・

・・・・・。



小説好きな人に教えてください。アクセスの量や感想や意見がヤル気になります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ