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――さて、目指すは城の最上部。ラスボス戦に相応しい決戦のバトルフィールド。


否応無しに上がる士気。……なのに、僕の中では何かが燻っていた。

この城に入った時も、先代を見た時も。思うのは『デジャヴ』。僕の長年の悩みが、今日解決しそうな、そんな予感があった。


【五】


最上部に出ると、そこは開けた外で……まず目についたのは、月の綺麗な夜空だ。

僕らが魔王城に攻め込んだのは昼前。いくらなんでも半日近く先代と話はしてない。

それから、はじめは白い絨毯かと思っていた地面は、よく見れば全て白い花。その甘い香りは、夜に数時間だけ咲くという月下美人の花、に見える。

この世界の似た品種なのか、それとも……。


「おい! 呼ばれて来てやったのに、挨拶もなしか!」

苛立ちを隠さないライコに対し、相手は奥の方で呑気に花を愛でていて、

「――あら、……ああ、約束期限、今日だったわね」


平坦な声色で、こちらに顔を向けた。顔色は伺えない。顔を黒い布で覆っていたから。

第一印象は、黒。はみ出た白銀色の長髪以外は全てが黒。ドレスも、靴も。

……にしても、はて、またこの感覚。あの白銀色の髪……あの声……どこかで?


「ようこそ。待っていたわ、リリスにライコ。私が驚いたのはね、予想以上に貴方がたの到着が早かったからよ。頑張ったわね」

「っ……!」 ライコは少しだけ身を引く。それも仕方無い。相手は、こちらの瞬き一つの間に目前へ現れたのだから。『能力の種』を知らねば、瞬間移動かと思う演出。

「は、早い、だと? お前が期限を四日と指定したのだろうっ。何だその言い草は!」

「ちょ、相変わらず声がデカイのよ貴方は。こっちは常に寝不足なのだから、余り頭に響く声量は控えて」


ギリリ、という歯軋りが僕にまで聞こえる程に、ライコは目の前の相手――魔王に怒り心頭な御様子。確かに、煽ってるようにしか聞こえないけれど……でも、僕はこの魔王に対し、負の感情は湧かなかった。

だって、この魔王さんは、本当に憔悴している様子だから。全てに、疲れている。


「ええそう、確かに期限は指定したわ。リリスには四神竜の魔法を覚えて貰いたかった。けれど、ほら、それは本当に高望みな期限でね。貴方達、スペックは高いのに実戦経験皆無なおバカじゃない? だからもう少し待つつもりでは居たけれど……二人を見誤っていたわ」

「貴様……いい加減にしろ! どれだけ私達を愚弄し、周りに迷惑を掛け、四神竜や魔王様を侮辱するつもりだ! その腐りきった心、矯正してやる!」


腰の刀に手を掛けるライコ。先代を倒した今のこの剣士ならば、迷いも無く相手に刀を振るえるだろう。それ程の気迫が満ちている。

なのに。魔王さんは「何を熱くなって」と肩を竦めるのみ。焦りなど微塵も。


「ここにある花でも見て落ち着きなさい。綺麗でしょう? 『あの人は』、『月下美人って花に似てる』って言っててね。『君の名前と似た花』だって。この花もね、本来ならその月下美人って花と同じく数時間で萎んじゃうんだけど――『私が』そうさせないの」

「お前……何を言って……」

 長々と壊れたラジオのように独りごちる魔王さんにライコは困惑している。

不気味な魔王さん。だが、何故だろう。僕は今、無性に抱きしめたくなった。理由も分からず、ただ、母性本能が擽られた。

「魔王さん……いえ、『姉さんっ!』。リリスはもっと姉さんとの時間が欲しいです!」

姉。ん? 姉? へぇ、リリスの姉だったのかこの魔王さん。母親は別だから腹違いかな? 流れ的に、父親はどちらも【伝説の勇者さん】なのだろう。

「リリス達はすれ違って来ました! 姉さんがずうっと悩んでるって知ってたのに、何も出来ませんでした! もし姉さんと繋がっていられたなら、ここまでの大事にはならなかったかもしれません!」

「……リリス、貴方は本当に……」 魔王さんが何かを言い掛けて、

「だから。姉妹喧嘩しましょう! その後は仲直りで絆アップです!

 ――〈ジュエル・メテオ〉!」

「え、ちょ」という魔王さんの静止も聞かずリリスが片手を挙げると、何もなかった宙空に数え切れない程の宝石が顕現し、隕石が如く振り注ぐ。


宝石竜戦で見た魔法をリリスがレベルアップさせた、美しくも無慈悲な雨霰。魔力を帯びた宝石は槍の雨より優しくない。まともに受ければミンチ肉なのだが、


「ふぅ、ネジの飛んだ妹ね。私の大切なお花畑を無茶苦茶にする気かしら」

魔王さんは場に立ったままで、宝石は全て彼女の直前で『止まり』、ポトトと落ちる。

「二人とも。暴れるのは結構だけれど私の居る花畑だけには入らないでね。荒らしたら、   ――消すわよ」

初めて、布で顔を覆った魔王さんが見せた感情は、怒り。

「自分だけ勝手な都合を吐くな!」 雷を纏い地面を蹴るライコ。

 その速さはまさに雷光が如しで、当然僕の視界からは消えたように見えて――

 ドンッ! 「キャッ!」「あ! ひ、姫!? すいません!」

急に尻もちをつくリリス。ライコが魔王さんとは逆方向のリリスへ突っ込んだのだ。

「だからさぁ。こっち来ないでって」


あの四神竜や先代相手に快勝した二人が、魔王さん一人相手にいいように弄ばれてる。

その後も、リリスやライコがあらゆる手立て――竜巻、地割れ、食人植物に毒霧、ブラックホールなど――で魔王さんの感情を動かそうとするも、一向にその場すら動かせないでいた。 攻撃や魔法が当たらなかったり、出した本人達に返って来たりと魔王さんの対応は様々。

まぁ、これも僕らにとっては『想定内』。

魔王さんは最強で最狂。なんぴとも、まともに相手にすらならない。

だけれど、勝つのは僕らだ。

……肩で息をする二人に対し、魔王さんは「はぁ」と息を吐き、


「ほら、沢山暴れられて満足したでしょ。力の差は歴然。貴方達は十分成長した、そこは褒めてあげる。……でも、私自身、どうすれば自分が負けるのか想像できないの。そも貴方達、いまだに私の能力、分かってないでしょ?」


「はぁ、はぁ……いや。もう種は割れているぞ。お前は――『時を操る』」


「……へぇ」 魔王さんは感心したように肩を竦める。

「フラガリアの皆を幼い姿にしたのがまさにその時魔法の象徴的結果だろう。そして四神竜や魔王様を暴走させたのは、我を『忘れさせた』結果だ。忘却も、時魔法の範疇なのだろう。私が斬った魔王様の傷を治したのも、ただ、斬られる前に『巻き戻した』。となると、この月が輝く空も、お前の力か?」

「……本当に驚いた。誰もその答えにまでは行きつかなかったのよ。脳筋だとばかり思っていた貴方が、まさかそこまでなんて、ね。これは四神竜も母さんも敵わない筈だわ」


いや、僕の考えなんすけどもね。しかし、疑問がないわけでもない。僕が思うのは、魔王さん、『少し応用力高過ぎじゃないか?』という点。

漫画、ゲーム、小説――多くの作品に時を操る登場人物が強者として出て来るが、大抵出来る事は一つや二つだ。『数秒止めるだけ』とか『少し過去に戻るだけ』とか……なのに、この人は治癒から何からまで恐らく何でもこなせる。

その部分がリリスの姉らしいチートっぷりと納得すればそれまでだが……果たして、どこまで『自分で考えた』のだろう? まるで、『漫画やゲームに詳しい誰かがアドバイスしたのでは』と思う程に、応用力が高過ぎるのだ。


「で。その頭のよろしいライコさんは、どのように私を『止める』のかしら? 私の魔力切れでも狙う?」

「バカをぬかせ。その切れた自らの魔力すら『巻き戻せる』のだろう。ある意味では姫と同じく、無尽蔵な魔力を持つようなもの」

「なら」


「それでも。『私達』の勝利は絶対だ」


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