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ガーゴイルの死

『ナナオさん。もうだいぶ離れましたよ』

女神の声。


「ああ、はぁ……はぁ。そうだな……はぁ、はぁ」

俺は息も絶え絶え足を止めた。地面に腰を下ろす。


後ろを振り返るも誰も追ってきてはいない。

今頃はパンドラが三体のガーゴイルと死闘を演じていることだろう。


若干の後ろめたさを感じつつ俺は周りを見回した。

周囲は木々に囲まれていて日の光があまり届いていないのか薄暗い。

必死になって走っているうちに俺は森の奥まで来ていたようだ。


「おい、女神。俺はこれからどうしたらいい?」

『どうしたらとはどういうことですか?』

「俺はレベル1で無一文、一番弱いスライムだって倒せないから経験値も金も手に入れることが出来ない。俺はこの先どうやってこの世界で生きていったらいいんだ?」

『今装備している麻の服を売ればいくらかお金になりますよ』

「そしたらまた全裸になって捕まるだろうがっ」

アホ女神が。


『でしたらとりあえずさっきのショサイの町に戻ってお金を稼ぐというのはどうでしょうか?』

「稼ぐってどうやって?」

『それはナナオさんがいた世界と変わりませんよ。労働の対価としてお金が得られます』

「え、マジで?」

俺はこの世界をRPGゲームと混同していた。

金はモンスターを倒して手に入れるものだとばかり思い込んでいた。


「そうかそうか、普通に仕事すればいいのか……」

少しだけこの世界でも生きる希望がわいてきたぞ。

だったら早速さっきの町に戻らないとな。


俺は意気揚々立ち上がり服についた砂をはたき落とした。そしてなんの気なく空を見上げた。


「グエッ!?」


するとそこにはなぜか空を飛ぶガーゴイルの姿があった。


「うおぉっ!?」

なんでこんなとこにガーゴイルがっ!?

パンドラと戦っているはずなのに……。


「グエッ!」

俺と目が合ったガーゴイルは方向転換して俺の方に向かってきた。

高速で滑空してくるガーゴイル。

気付けば目の前で剣を振り上げていた。


はやっ、逃げられない、死……っ!


俺は今日二度目の死を覚悟した。

だがその時、


ばしゅんっ。


縦に一本の線が走ったように見えた後、ガーゴイルの体が縦に真っ二つに裂けた。


血が噴き出し俺の服に飛び散る。


「大丈夫だったか? ナナオ」

少し離れた位置からパンドラが俺の名を呼んだ。

手には血みどろのムチ。


「これ……お前がやったのか?」

「このムチは鋼鉄製の特注品でな、上手く扱えばドラゴンの硬い皮膚だって破けるんだ。ガーゴイルくらいなんてことないさ」

ムチについた血を布の切れ端で拭きながら近付いてくる。


ガーゴイルの遺体の前まで来ると遺体には目もくれず地面に落ちていた剣を拾った。

「ガーゴイルの剣だ。こいつは高く売れるはずだぞ」

そう言って俺に見せてくる。

パンドラの腰には既に二本の剣が差してあった。

他の二体のガーゴイルも倒して奪ったってことか……。


「ところで……」

パンドラはその剣の切っ先を俺の鼻すじに向けた。

「どうして逃げたんだ?」

俺を冷たい目で見据える。すごい威圧感だ。

俺の足が意に反して震えているのは全力疾走したからという理由だけではないはずだ。


「……正直お前が苦戦すると思った。だから逃げるには今しかないと思った……さっきも言ったが俺はレベル1だ。スライムも倒せないような雑魚だ」

自分で言ってて嫌になるが。


「あんな戦い俺には到底手に負えない。だから逃げた」

「なるほど……そうか」

そう言うとパンドラは剣を自分の腰に巻いたベルトの間に差した。


「冒険者になったところでお前の役には立てない。だから俺のことは諦めて自由に――」

「だからどうした、そんなこと関係ない。ナナオのことはあたしが守ってやるさっ」

俺の肩に腕を回しすごい力で抱き寄せるパンドラ。


「うげっ、お、お前バカなのかっ! 話聞いてたかっ? 俺はお前を見捨てて逃げたんだぞっ。そんな奴を仲間にしたいのかお前はっ?」

「あたしは正直者は大好きだ。一生面倒見てやるよっ」

パンドラは「はっはっはっ」と豪快に笑った。


苦しいっ。ギブギブ、とりあえず放してくれっ……オチる。

お読みいただいてありがとうございました!

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